ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~番外編(横浜アリーナ編)   作:マーケン

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第二十三話

 リハーサルを重ねる毎に私は自分の体が軽くなっていくのを感じていた。ある意味では自分の体ではないような、そんな不思議な感覚だ。もっとも、事実として自分の体ではないことは確かなのだが。

 

「千歌ちゃん、千歌ちゃん」

 

「ん?どうしたの曜ちゃんって、ちょっと声が違くない?」

 

「あ、やっぱり分かるんだ!私シュカだよ」

 

 いや、曜ちゃんがこの世界の人であるシュカさんに乗り移っているのはもう分かっているのだけれど、一体何が言いたいのか一瞬私には分からなかった。

 

「だ、か、ら、私が今喋ってるの」

 

 へへへ、と笑うその姿は確かにいつもの曜ちゃんよりも元気“過ぎる”。表情もどこか似ていてどこか違う。感覚的なものだけど、そんな印象だ。

 

「凄いっしょ」

 

「凄いっしょって言われても・・・どういうこと?」

 

「分かんない」

 

 聴くところによると曜ちゃんもまたリハーサルを重ねる毎に体が軽くなり、気付けばシュカさんが体をある程度動かせるようになっていたのだという。今は喋るだけだけれど、パフォーマンスをしているときは最早どちらが体を動かしているのかよく分からないとのこと。

 他のメンバーもリハ中に動きがいつもと違うと何となくは感じていたけれど、この事態は想定していなかったため、改めて確認する必要がある。そう思った矢先のことだ。

 

「大変、大変、千歌ちゃん!」

 

「どうしたの梨子ちゃん?」

 

「今日お弁当がないって」

 

「・・・・・・そういうのは花丸ちゃんだけで十分だよ」

 

「違うの。いや、違わないんだけど、食いしん坊キャラとかそう言うんじゃ無くて!」

 

 水分補給に行っていた梨子ちゃんが慌てて駆け込んで来た。とにかく来て、と急かされ、引っ張られるように私達は食堂として使用しているスペースに移動すると、そこには深刻そうな顔をしたスタッフ面々の姿があった。

 

「どうしたんですか?」

 

「いや、何処でどう間違えたのか分からないけど、お弁当じゃなくて食材が来ちゃって。どうしたものかと。でも、安心して。何とかみんなの分は確保するから」

 

 スタッフの皆は食事するのもちょっとした隙を見て各員で行うこととなっている。それだけ多忙なのだ。だから食材があっても作る時間までは捻出できないのだ。だからこそ困り果てた顔をしていた。

 ここに居るスタッフの方々は皆一様にお腹を空かしている様子で、どことなく覇気がない。

 

「なら、私達が作ればいいんだ!」

 

「千歌ちゃん!?」

 

「セットリストの構成的に本番中にも打ち合わせる時間はあるし。それにこんな素敵なステージを作ってくれた皆にお礼がしたかったんだ」

 

 幸いにして食材は沢山ある。調理設備もスペースもある。そして私達は9人居る。ちょっと隙を見て摘まむ程度のものであれば十分作れる。

 こんな珍騒動が起きてスタッフの方々からすれば溜まったものでは無いだろう。けれど、私は不謹慎にも少しだけこの珍騒動に感謝した。

 この世界に来て、ライブをすることとになってて戸惑う余裕すらもなかった。けど、ライブのために色んな人が関わっていて、沢山の人が力を注いでいて、それに勇気を貰って、頑張ろうって気になって。いつまでこの世界に居られるか分からないけれど、居る間に何かしらお礼がしたいと考えていた。だから、その機会が巡って来た今こそ、私達が皆のために何か出来る最後のチャンスなんだと思う。

 

「何ができるずら?」

 

「シャイ煮は無理そうね」

 

「じゃあカレーにしようよ」

 

「それが現実的ですわね」

 

「1人一品ずつトッピング作るとかどうかな?」

 

「じゃあ、私はハンバーグを作ろうかな」

 

 そう梨子ちゃんが言った時のことだ。何故分からないけれどスタッフ達がざわめいた。

 

「リ、リカコさん。ハンバーグ作れるんですね」

 

「作れます!空気抜かなくてボロボロになったりしませんから」

 

 後で聴いたところによるとリカコさんは色々と雑な性格で、それが災いして“ハンバーグ事件”と呼ばれるネタを提供してしまったり、生放送でパンチラしたり、画伯という称号を獲得したりと話題に事欠かない人だそうだ。

 

「でも梨子ちゃん、ああ、リキャコさんね。に、私タコさんウィンナー貰ったんだ」

 

 だから料理が出来ない訳では無いし、作らないって訳でも無い。ただ、そう、ズボラなの、とアンジュさんはリカコさんをそう称した。

 

「でも、それって自分だけのことに対してなの。仕事のこととか、人のことになると凄く真剣で、だからみんな信頼してる」

 

 ふと語るアンジュさんに私は驚いた。その語り口調が本当に10年来の友人について語るような、相手のことを本当に理解しているようなそんな雰囲気があって、そこに上っ面のものではない、確かな説得力を感じたからだ。

 この世界でAqoursが結成されてからそれほどの時間は経っていない筈なのに、この人達はきっとお互いのことをよく分かっているのだろう。それを素直に凄いと私は思った。

 

「あ、そうだ。料理作るならお願いがあるんだけどいいかな?」

 

「どうしたの?」

 

「少しだけ、メンバー全員分残してて貰いたいんだ。みんなの手料理を私達も味わいたいなって」

 

 それはささやかな願いだけど、私にはその願いが嬉しかった。

 突然やって来た私達を嫌な顔せず受け入れてくれて、借りることしかできなかった。けれど、少しは返せるものがあるのなら、それは嬉しいことだ。

 

「最っ高ーに美味しいのを作るね」

 

 楽しみにしてる、とアンジュさんは心底嬉しそうに言った。その気持ちがダイレクトに心に感じるから、私も嬉しかった。

 

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