ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~番外編(横浜アリーナ編) 作:マーケン
今までの私達のライブは大掛かりな舞台装置の必要となるステージは無かった。だから今回のライブはある意味で度肝を抜かされた。
リフトやトロッコなんかはこう言った規模の会場ならではと言えるだろう。一スクールアイドルが体験するような装置ではない。
「舞台裏って改めて見ると凄いね」
「千歌ちゃん、語彙力」
「うん。語彙力ってなに?」
なんて、アンジュさんと舞台裏や舞台装置を見学させて貰っている。
アンジュさんも実際にこの舞台装置に自分が乗ることとなるなんてこのライブのリハまで無かったとか。
「私、舞台役者やったりもしてたから見たことは勿論あったけど、まさか自分が使うことになるとはね」
「え?嬉しくないの」
「嬉しいよ。けど、結構怖いんだこれが」
リフトは上がるときと止まるときに見た目以上に衝撃が走る。それにトロッコなんかは結構捕まる所も足場もぐらぐらなのだという。その上トロッコは人力だから無茶な動きをしようものなら足場が何処かへと吹き飛ぶ。
「シュカなんか結構ぴょんぴょんと跳びはねるけど、無理無理」
「例えるならボートで立つ、みたいな感じですか?」
私は知る限りではそれが一番的確だろう。それならば私も海育ちだけあり経験がある。ボートはただでさえ波に揺られているため、重心が要となるけれど、時々羽目を外すのがいるのだ。
以前果南ちゃんと曜ちゃんとボートに乗って遊んでいた時なんか曜ちゃんが・・・
「あ、同じ人じゃん」
「だからシュカは曜ちゃんなんだろうね」
「あの、配役ってどう決まったんですか?」
この世界で私達の声を当てている声優さん達は一体どの様にして今に至っているのか、その始まりが気になり、つい聴いてしまった。
私達の世界とこの世界。どちらが主でどちらが影なのか考えるだけ無駄であると分かっているつもりではあるけれど、それでも配役が決まるにあたり劇的なことがあったのなら、それはとても素敵だと、そう思ったのだ。
「千歌ちゃんには悪いけど、オーディションを受けるに当たって私は千歌ちゃん役を狙ってた訳じゃ無いんだ。あまりその時点では情報も無かったしね」
「そうなんだ」
「うん。だからオーディション受かって、千歌ちゃん役になるよって言われた時、実は少し戸惑ったんだ」
アンジュさんは元々リーダーシップを張るようなことはしてこなかったという。だから、Aqoursの一応リーダーである私を担当するというのは相当なプレッシャーだったらしい。
「ラブライブは大好きなアニメだった。だからその世界の一員になれるって決まって嬉しかった。でも、リーダーだよ?このコンテンツを流行らせたμ'sの後に始動するグループのリーダーだよ?穂乃果ちゃんの、エミさんのポジションだよ?」
チームの支柱、カリスマ、など穂乃果さんを例える言葉は多くあれども、それはアンジュさんには当てはまらなかった。
「だけどね、それでいいんだって分かったんだ。千歌ちゃんは穗乃果ちゃんとは違うからそれでいいんだって」
キャラクターの声を当てる声優の言葉に嘘を言わせない。それがこのコンテンツの方針であり、私と心を通わせられるのはオーディションに受かった9人の中でもアンジュさんだけだったのだという。
「だから配役については私がって訳じゃ無いんだけど、なるべくしてなったって言うのかな」
「そっか、この世界ではスクールアイドルとして活動しているのはμ'sとAqoursだけだったんだ」
それは私には想像も付かないプレッシャーだ。それを思うと今日のライブの意味合いがまた違って捉えられる。
人から期待されるってことを東京のスクールアイドルイベントに行くときに感じたけれど、その不思議な感覚がまた蘇ってくる。
「怖い、千歌ちゃん?」
「うん」
「私も。だって、私にはかりは無いし、人を引っ張ろうとしても空回るだけだし」
「だから私は“一応”リーダーなんだよね」
「そう、私は“一応”リーダーの高海千歌、高校二年生」
「・・・アンジュさんが高校二年生って言うのもシュールですね」
「言わないでよ!」
ふ、とアンジュさんに釣られて肩の力が抜ける。
そう、私はリーダーはリーダーだけれども“一応”なのだ。
私は穗乃果さんとは違う。私には私の、AqoursにはAqoursのらしさがある。だから、違うことを重く感じる必要は無い。それは東京のスクールアイドルイベントから帰ってきてから出した答えだ。
きっとアンジュさんもまたそれに何時しか至ったのだろう。それが私にもなんとなく分かったから、プレッシャーを良い緊張に昇華させることができる。
「あ、今居るのって奈落って所なんだよ」
「奈落?」
「ほら、上見て。結構高さあるでしょ」
「ホントだ」
「名前は怖い感じだけど、私は凄く希望に溢れた場所だと思うんだ」
だってここは人を落とすための場所じゃなくて人をあの輝きに向けて押し上げる場所なんだよ、とアンジュさんは頭上の光を指さして言った。
私は早くステージに立ってみたいと、本心から思った。