ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~番外編(横浜アリーナ編) 作:マーケン
大変なことになった、と私は戦々恐々とした。東京で参加したスクールアイドルイベントやラブライブ予選大会の時ですらこんなにプレッシャーを感じたことは無かったのに。
それもちょっと考えれば直ぐに理由は分かった。私のすることの責任が、私ではないこの人に掛かるからだ。そして思い出すのはスクールアイドルになってから感じるようになったプレッシャーだ。
もともと私がやっていた高飛び込みは個人競技で、だから自分の失敗は自分だけの責任だし、逆に言えば練習して出した結果は自分だけのものでしかなかった。だからスクールアイドルは酸いも甘いもみんなと共有するから、上手くいった時は嬉しいけれど、反面、私は一時期プレッシャーを感じていた。
練習しても練習しても上手く千歌ちゃんと合わなくて、でも本来の担当だった梨子ちゃんはそれができていたことを考えると悔しくて、みんなの足を引っ張ってると思うと凄く苦しかった。
「曜ちゃん、気楽に考えよ?」
「でも、シュカさん達のライブなのに」
「そうだね。二日間とも駆け抜けたかったけど、でも、曜ちゃんにも楽しんで欲しいって思ってるのも本当だよ。あの景色をね、曜ちゃんも見て欲しいな」
一瞬脳裏に浮かんだのは見たことの無い会場が一面サイリウムの光に包まれている光景だった。ほんの一瞬だったけれどその光景は私の心を揺さぶるには十分だった。
「そうだ。みんなはどうなんだろう?」
「どうって?」
「私達だけがこうなってるなんて変でしょ?一人こうなったら最低三人くらいはこうなってるよ」
「それってゴキブリじゃん」
シュカさんはけらけらと笑った。きっとこの人が体を動かせたら大きく口を開いてチャーミングな笑窪を作って笑うのだろうと思った。それこそ顎が外れそうなくらいに。
「じゃ、取り合えずリコちゃん起こしに行こうよ」
「梨子ちゃんって、梨子ちゃん?」
「ああ、ごめん。普段の呼び方じゃ分かんないよね。リカコさんだよ」
ほら立った立った、と尻を叩かれたような感覚に突き動かされて私は洗面所から移動する。
洗面所を出る直前にもう一度ちらりと鏡に映るシュカさんの顔を見た。
どことなく雰囲気が私に似ているのはきっとシュカさんが私に寄せてくれているのだろう。役作りをするに当たっての心構えなんかも聞いたからそれがよく分かる。真剣に私のことを想ってくれていると分かってしまう愛情のようなものを感じ、私は耳まで赤くして、ベッドルームまで戻った。
どうやら私達はライブのために会場に程近いホテルに三人一部屋で泊まっているらしい。私の同室はリカコさんとアンジュさんとのことだ。ちなみにアンジュさんは千歌ちゃんの役を担当しているとのことだ。
「あ、曜ちゃ、シュカさん?」
「ほらやっぱり。アンジュのとこにも千歌ちゃんが来てるみたいだよ」
化粧台の鏡と睨めっこしていたすらっとした細身の女性がアンジュさんなのだろう。けど、私の名を呼ぶその姿にどことなく千歌ちゃんかダブる。
アンジュさんの反応にシュカさんが私の中で聞こえないだろうにおはよーと言っている。シュカさんが嬉しそうに笑顔で手を振る姿が容易に想像できる。私は苦笑いし、感情表現が一々素敵だなと私は感心した。私は素直になれないところがあるから、そんなところが羨ましい。
「千歌ちゃん、なの?」
「曜ちゃん?良かった。私一人だったらどうしようかと思った」
アンジュさんの体の千歌ちゃんは心底ホッとしたように表情を崩した。やっぱりどんな人の体になっても千歌ちゃんは千歌ちゃんなんだと少し私もホッとした。仕草がそうだし、声も千歌ちゃんだ。
「大変なの。ライブやるって、ライブ!」
「うん。しかも私達にやって欲しいって」
「どーしよっ!?いきなりライブって言われても曲も振付も分からないよ」
それなら大丈夫。みんなも知ってるよ、とシュカさんが言うや否や、彼女のアカペラが頭の中に木霊した。
青ジャン、恋アク、他にもよく知ったタイトルが私の声で、私の中に響いた。
千歌ちゃんもアンジュさんから同じようにレクチャーされているのか突然黙りこくった。
「これなら確かに」
できるかもしれない。けれど、私だけで決めて言い事では無い。これはグループ全体の問題だ。
「やろうっ、やろうよ、曜ちゃん」
「千歌ちゃん!?まずはみんなに聞こうよ」
「そっか、そうだね。じゃあ梨子ちゃんを起こそうか。梨子ちゃーん、起きて」
そう言って千歌ちゃんは未だベッドで眠るリカコさんのほっぺたをぷにぷにと触って起こそうとした。
「あああ、そんな起こしかたしたらっーーーー」
「ちょ、千歌ちゃん」
その迂闊な起こし方は危険だと私の中のシュカさんが警鐘を鳴らす。どうやらリカコさんは寝起きはそれ程良くないらしい。
「ぅうん、千歌ちゃ・・・千歌ちゃん?」
少し身動ぎしたと思うとリカコさんはがばりと体を起こした。
千歌ちゃんの鼻先をリカコさんの頭が勢いよく通り抜け、千歌ちゃんが涙目になったのはご愛嬌だ。