ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~番外編(横浜アリーナ編)   作:マーケン

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第三十話

 何とか誰にも、いや、星ちゃん以外の誰にも“もぎり”をしているのをバレずに済み、私達は大慌てで着替え、髪の毛をセットし直した。これについては私達本人が乗り移っていなければセットし直すのは無理だっただろう。特に鞠莉の髪の毛の“6”はスタイリストの方も苦労しているそうだけれど、鞠莉本人がやったら直ぐに終わった。

 

「ねえ、ヨハネ」

 

「何よアイカ?今忙しいんだけど」

 

「何やってるの?」

 

「見れば分かるでしょ」

 

 私はと言えば頭にお馴染みのお団子をとっとと作ると、タロットカードをシャッフルしていた。

 こういう慣れた単純作業が緊張感を良い状態に持って行く秘訣だ。

 

「やっぱり緊張する?」

 

「当たり前でしょ。いつも緊張してるわよ」

 

 人前で自分を出すということに何時からか羞恥を覚えるようになった私は、Aqoursにそれでいいんだと気付かされてから少しずつだけど自分を出せるようになった。けれど、羞恥がなくなった訳では無い。今でも理解されなかったら嫌だなとか、拒否されたら悲しいなとか、そんなことばっかり思ってしまう。

 

「大丈夫。ステージでも安心する方法があるから。今日の最初の曲、覚えてるよね?」

 

「青ジャン」

 

 だからこそ、この白と青を基調とした衣装に身を包んでいるのだ。だが、だからなんだというのだろう?

 

「そっか、お客様が沢山居るステージで青ジャンを披露したことないんだね。一番最初に振り向く時、覚悟しておいて」

 

「ちょっとどういう意味!?」

 

 一人うんうんと納得し、よく分からない言葉を残すアイカに思わず手元が狂いシャッフルしていたタロットカードを床面にぶちまけてしまった。

 全く、相変わらす私の不運ぶりはぶれない。

 

「こ、これは」

 

 そのぶちまけてしまったカードの中に一枚だけ、捲れたカードがあり、私もアイカも思わず息を呑んだ。

 捲れたのは“THE FOOL”、愚者のカードだ。

 

「愚者ってどういう意味があるの?」

 

「向きによって変わる。でもこれはーーーー」

 

 そう、正位置でもなく、逆位置でもない、横向き。流石に大アルカナでもそこまで解釈の面倒をみてくれていない。

 愚者のカードは大アルカナの0番目のカード。正位置ならば自由、未確定、純粋無垢などを意味し、逆位置ならば無計画、不安定、愚かなどを意味する。いずれにせよ始まりを連想させるカードだ。

 

「こんなの初めてよ」

 

 私が引けば間違いなくカードは逆位置だっただろう。その意味の全く見出せない理不尽な不運に見舞われるのが私であり、それに意味を与えるのが堕天使ヨハネなのだ。

 けれど、これはいつもとは風向きが違うらしい。

 

「これを良いと取るか悪いと取るかは自分次第ってことなんじゃない?」

 

 アイカの言葉はストンと私の中に落ち着いた。思えばそれはいつだって私自身がやっていたことなのだ。

 

「よく分かってるじゃないアイカ。流石はリトルデーモン0号」

 

「0号じゃなくてもはや免許皆伝よ。でもきっと私だけじゃ無くてみんな同じ様に思うんじゃないかな。だって、さっき言ってたカードの意味、どっち向きでも全部私達らしいんだもん」

 

 言われてみれば確かにそうだ。私達はそれこそどちらも経験した。そして今、きっとこの素晴らしいステージにはこのカードが意味することを全て内包しているだろう。その中でどれを選ぶのかは私達次第だ。

 

「そういえばタロットカードなんてどこから持ってきたの?」

 

「アイカのじゃないの?何か使用感のあったタロットカードが楽屋にあったんだけど」

 

 スタッフの誰かが置いたのかな、とその出所が少し気になった所で催促があり私は逸れかけた意識を戻した。

 

「善子ちゃん、そろそろリフトに」

 

「はーい・・・って、ヨハネよ」

 

 横浜アリーナ内は既に満員御礼。お客様が今か今かと開演の時を待っている。そして、もう間もなく開演の時となる。

 スタッフに促され、私は奈落の底にあるリフトへとみんなと共に乗り込んだ。乗り込む順番は私が一番最後。私が乗り込み、みんなで横一列にお客様に背を向ける様に並んだ。青ジャンは背面から振り向きが入りとなるのだ。

 

「どれくらい人が居ると思う?」

 

「今更何言ってんの?」

 

「うん。今更なんだけど、けど、見てみるまでやっばり実感してなかったんだ、昨日の私は」

 

 その時はもう間もなく来る。だからその光景を心に焼き付けて欲しいと言う。

 ああ、そういえばこの楽曲は私達一年生が一番最初に振り向くんだなと、ふと今更ながら思い出した。つまりはこのステージからお客様を見るのは私達が一番最初になるのだ。そう思うと感慨深いものがある。

 リフトが微振動を起てると少しずつ上昇を開始した。けれど、リハの時は意外と揺れると思ったその振動も今は大したことは無いと感じた。リフトの振動よりも遙かに会場からの歓声の方が肌を震わせるからだ。

 リフトがステージまで私達を押し上げると、メインモニターに青ジャンのPV映像が映しだされ、間もなく曲が始まった。

 最初の一声と共に振り向いた先には、九色に彩られた光の銀河があった。その光景は私の中にあった緊張とか余計なものを全て吹き飛ばした。

 ただ良いものを届けようと、私が歌とパフォーマンスと一体化していくのを感じた。今はただこの空気に、音楽にこの身を捧げよう。そう思ったのだ。

 

 

 

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