ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~番外編(横浜アリーナ編)   作:マーケン

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第三十二話

 オープニングを飾り、どうにかMCをこなすと二年生曲の二曲、そして一、二年生曲へと移っていった。

 この構成を見てもこのライブそのものがこの世界と私達の世界のAqoursの軌跡を辿っているのがよく分かる。私自身、今年の春から夏のことを追体験しているような、そんな感覚を覚える。

 

「そう言えばあの時も私はただ下から光を見上げていましたね」

 

 舞台袖からそっと覗き込んだ先に、まだ六人だった頃のAqoursの姿があり、私は思わずそう呟いた。

 それはルビィがスクールアイドルをやると表明した後のことだ。

 学校の良いところ、町の良いところ、それを沢山詰め込んでPVを作ろうと、町のみんなで協力して作った“夢で夜空を照らしたい”の撮影の日、私は砂浜から丘の上の学校を見上げ、空に昇るランタンをただただ眺めていた。

 今思うと、それはその当時の私とルビィの心の距離だったのかもしれない。自分の本心を言えたルビィに対し、本心も過去も、何も打ち明けられない私。本当はスクールアイドルをやりたいけれどそうはできないことで、ただ遠いだけでなく、ルビィが私の手の届かない高みに居るような、そんな錯覚すらあった。

 空に舞い上がったランタンにはあの時何と書いただろう?星さんの発案でみんなの作ったランタンにみんなの願いを書くこととなり、私は何と書いたか?

 忘れられる筈がない。同級生の目を盗み、ランタンの隅っこにひっそりと書いたそれは見事に叶ったのだから。ただ一緒にいられますように、という願いが。

 それはルビィとであり、鞠莉さんや果南さん、スクールアイドルとして自覚の芽生え始めたあの子達、そしていつでもどこか遠巻きにいようとするあの子。そんなみんなと一緒にあれたらどんなに素敵な事だろうと綴った願いだった。

 

「よろしいですか、アリサさん?」

 

「どうしたのダイヤ」

 

 ふと私はこの世界ではランタンに願いを綴った部分がカットされていることを思い出した。

 

「アリサさんは空に昇っていくランタンにどんな願いを込めます?」

 

「んー、そうね。私は結構欲張りで、どんどん業界でものし上がって行くぞって、そんな意気込みでやってきてるんだけど、願いか・・・願いって言われると不思議と一人じゃできないことを思うかな」

 

「どんなことです?」

 

「みんなで一緒に進みたい、かな」

 

「ーーーーーーー」

 

「これまで個人での活動が殆どで、本格的にみんなで何かをするってAqoursが初めてで」

 

 それは沢山の初めてとの出逢いだった。畑違いの声優業、歌、ダンス、そしてチームワーク。

 リーダーシップを取ってみたり、狂言回しをしてみたり、おちゃらけてみたり、色々とみんなで試してはああでもない、こうでとないと、試行錯誤の繰り返しだった。そのことに苛ついたりもあったけど、その分、自分が成長したと実感した時は凄く気分が良かったし、メンバーの誰かがそうだった時も嬉しく思った。一緒にそうやって過ごしていくと何だって成し遂げられると不思議とそう思えたのだという。

 

「だからどこまで行けるのか、どんな場所が待ってるのかみんなと確かめたい。それが私の願いかな」

 

 一人でできることは努力すれば叶う。けれど、自分だけではどうしようもないからこそそれは願いになる。アリサさんにとって願いとはそういう立ち位置のようだ。

 

「さあ、花丸を迎えに行こう。次はユニット曲だよ」

 

 一、二年生が舞台下に降りてくると、それぞれ散開してユニット毎に再集合する。

 次は千歌さん、曜さん、ルビィのユニット“CYaRon”の出番で、直ぐに準備に取り掛からなければ間に合わないため、三人とも降りてきた瞬間に衣装をパージして着替えながら移動用トロッコに乗っていった。労いの言葉を掛ける暇もない。この一瞬の出来事を切り取ってみても単独ライブの大変さが分かる。

 CYaRonとは打って変わり、私の所属する“AZALEA”の出番はその次であり、メンバーも今の時間に準備の出来た私と果南さん、そして花丸さんであるため、他のユニットに比べ余裕があるのだ。

 

「お疲れ様です、花丸さん」

 

「ずらぁー」

 

「へばっている時間はないよ、ほら、起きて」

 

「果南さんは元気過ぎずら」

 

 ヘロヘロの花丸さんを迎え入れると、私と果南さんとで衣装を引っ剥がす。“夢で夜空を照らしたい”の衣装はゆったりとした余裕を持たせた衣装であるから脱がせるのも結構簡単なのだ。また、次に着る衣装も既にその一部を衣装の下に着込んでいるため多少整えるだけで完成となる。

 

「ほら、水飲んで」

 

「Aqoursウォーターですわ」

 

 されるがままに水を飲む花丸さんもなんだかんだでご満悦の様子だった。本人は否定するかもしれないが、花丸さんはこれで構って貰うのが嫌いではないのだ。

 

「ルビィちゃんはどうだった?」

 

「ルビィもあなたもとても素敵でしたわ」

 

 出てきた言葉一つ取っても、自分よりも人のことを気にする子だと思う。どことなく花丸さんはルビィと似ていると思う所以だ。

 花丸さんのことはルビィが中学に入って、付き合いが始まってからずっと知っている。直接顔を合わせて話したこともあったし、それ以上にルビィから話しを聴かされていた。

 

「嬉しそうね、ダイヤ」

 

「アリサさんには筒抜けですか」

 

 だから、花丸さんのことはある意味で特別な存在なのだ。まさか一緒にスクールアイドルをやれる日が来るとは思っても見なかったけど、だからこそ特別な存在と特別なことをできるということを嬉しく思ってる。

 

「まあね。ホントダイヤってみんなのお姉ちゃんだよね」

 

「そんなことありませんわ」

 

「こっちのAqoursの中では年齢は高い方だけど私ってあまりお姉ちゃんって、感じじゃないからさ。ダイヤのそういう所見ると流石だって思うのよ」

 

「アリサさんは確かに、どちらかというと自由人って方が似合いますしね」

 

 同じ黒澤ダイヤという共通項がありながら私とアリサさんは結構違うところが多い様にも思える。

 

「でもダイヤも結構自由人でしょ」

 

 言われてみるとある意味ではそうかもしれない。今の自分らしさを信頼しているし、そのままで良いと思ってる。その自分の価値観を信じていることを自由と呼ばずしてなんと言うのか。

 

「アリサさんとはもっとお話をしたいのですが」

 

「先ずはこのステージを成功させてから」

 

 アリサさんとの会話から沢山の気付きが得られると思う。けれど、それには圧倒的に時間が足りなくて、私もアリサさんもお互いに苦笑いしながらルビィ達が暖めたステージへと昇っていった。

 

 

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