ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~番外編(横浜アリーナ編) 作:マーケン
“想いよひとつになれ”の予想だにしない展開があったものの、ライブは続いた。
梨子は、いやリカコさんなのか?最早私達はどちらが体の主導権を握っているのか分からないほど気持ちがシンクロし、文字通り18人でライブをやっているという高揚感で持ち直した。
“想いよひとつになれ“、”待ってて愛のうた”を経て私達は一度舞台裏に戻り、衣装替えをしていたけれど、呼吸は整っても体温は下がらないし、心臓はバクバクと跳ねていた。
「似合ってる?」
「もっちろん」
私は紅白色の目出度いタキシード風の衣装に袖を通し、鏡に向かって、いや、相方であるアイナに向かって改めて問う。私はこの衣装を身に纏うに値しているかと。細かい事は言わずともアイナにもそれは伝わっている。私達の関係は今となってはそんな距離感になった。
けれど、アイナはその問いの意味合いを理解しながら即答で是と答えた。
「私は一度沼津を離れた」
それは父の、教員の期待があったこと、そして果南やダイヤが後押ししたことがあったから、新しい場所で新しい事を頑張ろうと思えたからだ。事実、新しい環境は私に多くの事をもたらした。それはとても充実していたし楽しかった。だけど心の中にシコリのように残っていたのは沼津の、浦女のことだった。
新しい場所で出来た友達に私の育った環境のことを話したら、とても褒めてくれたことがあってそれで尚更燻っていた気持ちが強くなった。
「外に出ることでどれだけ大切かってこと、凄く分かったんだ」
その旅はきっと私にとって必要な事だったのだと思う。だからこの“MIRAI TICKET”という楽曲は個人的にかなり感情移入してしまうのだ。
旅の途中で港に立ち寄り、また明日の航海への希望を歌うようなこの曲は私の、いや、Aqoursの足跡がよく詰まっていた。この一曲でこれまでのAqours、今のAqoursがよく分かる渾身の一曲だからこそ私は大好きなのだ。
「どう、鞠莉?私似合ってる?」
「Off course!」
私を肯定してくれたアイナは私に、私がしたものと同じ問いかけをした。私はアイナと同じく即答した。
「私は声優としてはその始まりは純粋では無かった」
もともとアニソンシンガーを志していて、その夢があと一歩で手が届くところまで行ったけれど、すり抜けてしまった。
昨今の声優はアニソンシンガーを兼業することも多々あり、場合によってはメインの活動をアニソンシンガーにしている人もいる。だから、それこそがアニソンシンガーへの近道であると飛びついたのがアイナだ。であるからこそ、職業として声優を生業とする人からすれば心持ちが邪道なのかもしれない。そんな自分がAqoursであることが果たして正しいのか?その問いかけはアイナの中に常にあった。
「それでも私は、今まで声を当てたキャラクターが他の声優にこそ相応しいとは思ってない」
もし私の声を当てているのがアイナでなかったならと考え、それが例えこの世界のAqoursメンバーの誰かであっても違うと思った。
邪道でも、回り道でも、取り組む気持ちに偽りがないのであれば、それは肯定するに値する。そう私は思っているからこそ、私自身を肯定できるし、アイナのことを肯定できる。
「世界で一番似合ってるよ、アイナ」
「一番が九人、いや、十八人いるけどね」
それは私からの最大の讃美であり、アイナの揺るがないAqoursへの信頼の言葉だった。
「他の誰でも無い、私達だからこそこのステージは輝いてる」
今日のライブはこれまで行ったどのライブとも違うライブだった。それは単純に規模の話しではない。
ラブライブは多数のスクールアイドルの鬩ぎあいでもあるため、予選などに観覧に来るお客様は必ずしも自分達を応援している訳では無い。けれど、今日のライブのお客様は私達を応援する気持ちでこの会場に足を運んでいる。
フェスと単独の違いがこれほどとはこの経験が無ければ知ることが出来なかった。そして、ラブライブを優勝するということは、アキバドームに詰めかけるお客様の心をAqoursを応援する気持ちに輝かせる必要があるのだと体感した。
元の世界に戻った時、今の気持ちを、記憶を持って帰れるかは分からない。それでもきっとこの経験は無駄にはならない。覚えていなくても結んだ縁が繫がっているのなら。
「ライブはまだまだ終わらない」
「けど、一端の区切りだから、全部を出し切って」
「会場の皆で一緒に輝こう」
「Aqoursーーーー」
sunshine!、と私達は二人だけでライブ前のおまじないを唱えた。
「この掛け声、いつも千歌っちがやってるから私から発信してみたかったのよね」
「でも、やっぱり千歌っちのが不思議と気持ちが入る」
「それはステージの上までお預け」
見れば私達と同じように他のメンバーも同居人と対話をしていた。きっとみんな今に至る思いが多かれ少なかれあって、それを再確認しているのだろう。
私は煌びやかなステージに上がる残り数分を、そんな余韻でアイナと共に過ごした。