ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~番外編(横浜アリーナ編) 作:マーケン
本当に汗を掻いた。本当に笑った。本当に楽しかった。
ボキャブラリーの少ない私が今日という日を証するならそう言うしかない。そんな一日だった。
沢山跳びはねたし、沢山歌ったし、沢山手を振った。ただそれを全力でやりきった。
「お疲れ様、曜ちゃん」
「お疲れ様です、シュカさん」
人一倍汗を掻いた私達は、みんなよりも一足先にシャワーを浴びさせて貰うことにした。それだけ汗だらだらで、下着も体に張り付いてしょうがなかった。
「熱かったね」
「熱かった。ミラチケ衣装の通気性はホントヤバいわ」
「その後のTシャツは楽で良かったよ」
少なくとも、青ジャン、ユニット曲、夢で夜空、未熟、ミラチケ、ライブTシャツと6種類もの衣装を着たわけだけれども、ミラチケ衣装と青ジャンはその中でもトップレベルで通気性が悪い。
青ジャンもミラチケも見た目は凄く素敵な衣装であるけれど、その点だけは欠点だ。まあ、見た目と機能性は一致しないという例そのものだ。
「ミラチケ衣装はお尻まで背広が延びてるから馬跳びで飛び越す時に引っ掛からないか心配だったけど、何とか飛べたね」
「いつも成功するとついドヤっちゃうんだけど、今日は余計にドヤっちゃったよ」
「あれは良いんだよ。ドヤるんじゃなくてあれは笑顔」
えへへ、と二人してまた笑う。
ミラチケ衣装を着ている時に限って激しい楽曲が当たるのは構成上致し方ないのだ。けれど、どんな衣装を着ていても、どの楽曲のパフォーマンスも体に染み付いているため、何とかこなせてしまうのだ。
「一日でこんなに沢山衣装が着られて言うことないよ」
「曜ちゃんは本当に衣装が好きだもんね」
「素敵なお仕事って沢山あるでしよ。でも自分がなれるのは一つだけだから、だから制服を着たら気分だけでも味わえるのかなって。今思い返すと衣装好きの原点ってそこだったのかも」
私は将来は船長になるのが夢だ。だから他のお仕事は残念ながらすることはないと思う。でも、少しだけでも、と思うのはやっぱり私は欲張りでやりたがりだからなんだと思う。
そんな欲張りな私にとってスクールアイドルはある意味天国だった。
作る楽曲のコンセプトによって衣装も千差万別に変化する。例えば電車の車掌さん風の衣装だったり、ウェディングドレス風だったり、正しく何にでもなれるのだ。
アイドルの海は私では抱えきれないほど広いのだ。その中で出会えた衣装を身に纏える時は本当に幸せなのだ。
「あー、洗われる」
頭から豪快にシャワーを被り、シュカさんはだらしない声をあげるが、私も声こそ出していないけれど気持ちは良く分かる。
燻ったように残る体の熱を頭から浴びる水で流す。ちょっと勿体ない気もするけれど、水が全然冷たいと感じないこの感覚が気持ちいい。
「シュカさん」
「ん、なーに?」
シャワーを浴びながら目を閉じてシュカさんと話していると、シャワールームでシュカさんと隣り合って一緒にシャワーを浴びているような、そんな感覚になる。
「なんか部活上がりの時間みたいだね」
「うん。くたくたで、でも今日もやりきったぞって満足感があって」
「この後何しようかなってね」
「そりゃ打ち上げするしかないでしょ。だってファーストライブだよ!初めてのライブだよ。いや、厳密には初めてではないんだけどさ。とにかく特別な日なんだから」
「シュカさんまだまだ行けそうですね」
「んーなんでだろうね。全部出し切ったのにどんどん力が湧いてくるのって」
それは私にも覚えがある。幾ら動いても、幾らでも動ける時。
「それは次がまだまだ沢山あるからだよ」
自分が前を向く限り体はそれに従ってくれるのだ。では何故前を向けるかと言えば、目的地が、目標が明確にあるからだ。
この世界のAqoursにとっては2ndライブツアーだろう。他にも、“あにゅぱ”、“アニサマ”など、単独以外にも楽しいが待ち受けているのだから元気なんて幾らあっても足りないくらいだ。
「曜ちゃんもね。ラブライブ、頑張ってね」
「ヨーソロー!」
「そう言えば敬礼って、本当はそんなに掌は見えないんだって」
「なにそれ。良いのこれで。曜ソローだから」
何てこと無い返事をしたけれど、今後のことはまだ分からない。ラブライブの予選を突破しているのか、はたまた冬大会へと持ち越しとなるのか。けど、どうなってもいいようにみんなとスクールアイドルでいる時間を楽しもうと、そう決めている。千歌ちゃんとだけでなく、みんなとだ。
「ところで曜ちゃんはいつまでこっちに居るの?」
「分からないけど、なんかそんなに長くは居ない気がする」
「そっか。私もなんかそんな気がしてた。なら、今日の打ち上げは壮行会も兼ねよう。パーッと飲もう!」
「私未成年だよ」
「知ってた?私もう二十歳過ぎてるからお酒飲めるんだ。だからダイジョウブ」
「お酒かー。シャンパンファイトとかするの?」
「したいね。F1の表彰式みたいに盛大に。でも、流石にそれは容易してないと思う」
私は17歳。二十歳となると高校を卒業し、その後の話となる。その頃の私はどんな風になっているのだろうと、ふと思った。それこそシュカさん達のようにみんなと一緒に居られているのだろうかと。そう思うと少し不安に駆られる。みんなバラバラだった時、私はどのように過ごしているのだろうと。
「心配いらないよ。明日とか明後日とか、一年後、三年後がどうなるかなんて誰にも分からないんだから。だから良いものにしようって、今を楽しもうよ」
「シュカさんって自分のことバカだって言うけど、核心つきますよね」
「曜ちゃんのことならね」
本当に天真爛漫を絵に描いたような天然なこの人は、何てこと無いようにそういうと、赤ちゃんみたいに笑うのだ。
私もこんな風に二十歳を迎えられたら、と思い、すぐにその考えを改めた。迎えられたらではなく、迎えられるようにするのだと。
そのためにも私は今という時間を全力で楽しもうと、そう思った。