ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~番外編(横浜アリーナ編) 作:マーケン
楽しいはあっという間に終わるってことをこれ程実感したのはもしかしたら初めてかもしれない。それくらいこの単独ライブは鮮烈で、苛烈だった。
「ルビィ、泣くのはもう止めようよ」
「だってーーーー」
アイさんが困ったように私を慰めるけれど、私の心は雨模様だった。いや、天気雨というほうがしっくりくるかもしれない。
「ライブが楽しすぎて、だから寂しいんだよ」
嬉しいことがあった。それは、ライブを楽しいと心の底から思えたこと。
自分達で作った歌が好きで、頑張って考えたダンスも少なからず自信がある。曲のイメージを落としこんだ衣装はどれも可愛い。それを目一杯ステージでさらけ出す事が出来たのだ。楽しくない筈がない。
そして、人目がどうしても気になってしまう私ですら感じたのは温かな歓迎の気持ち、肯定的な視線で、だから会場の皆が仲間に思えた。そう、MIRAITICKETの時に私達に続いて“10”と答えてくれたように。
だから、ライブが終わって一息をついた途端にどうしても会場に来てくれた皆の顔を思い出してしまうのだ。
そしてもう私が、私達がこの世界に居られる時間がそう長くはないであろう予感がそれを助長するのだ。
「会えないことは終わりじゃないんだよ、ルビィ」
「分かってるけど」
「今日はみんなと、皆で沢山のことを共有した。ドキドキしたことも、失敗したことも、笑って泣いたことも。今日のことを私はきっと忘れない。みんなも、皆も忘れないと思う。だからほら、目を閉じれば何時だって会えるんだよ。あの時のあの場所で。それは今日のことを覚えてる人は誰だって平等にそうなんだよ。皆寂しいけど、皆会おうと思えばまた会える。今日のことを忘れない限り」
だから、寂しいと思う気持ちも大切に今日の思い出と一緒に仕舞って、とアイさんは泣きそうな声で言った。
「やだ、自分で言ってて自分で泣いてやんの」
「アイさん風に言うなら、そゆとこあるよね」
「こら、すぐ真似する」
「うゆ」
なんて、馬鹿話をしているとすぐに気持ちも明るくなるのだから私って本当に単純なのだ。いや、それだけじゃなくてアイさんが上手いのだ。何て言うか、お姉ちゃんと居るときみたいな安心感がある。
「リアルでお姉ちゃんだもんね、アイさんは」
「何?甘えたいの、この子はって、やっぱり素の状態だとあんまりルビィっぽくないでしょ、私って」
「けど、そゆとこ私も良いなって思う」
しっかりするところはしっかりする。でも、遊ぶべき時は全力で遊ぶ。心の底から楽しむ。多分、そのスタンスにおいてアイさんは余り遠慮はしないのだろう。
「芯がある大人の人です」
「ちょっとルビィまで三十代疑惑は止めてよね。私二十○歳だから。ラジオでもカミングアウトしてるけど」
「そんな疑惑あったんだ」
聴けば何かと持ちネタの幅が1990年代付近まであるためその様な疑惑が出たのだとか。
「みんなして私を弄るんだから」
「弄られに行ってる節もあると思うよ」
「確かに自分からネタ振りしたりするけどさ」
「ルビィも、もっと自分から何かを発信出来るかな?」
スクールアイドルになると決めた時、それは一大決心で、お姉ちゃんに反対されるかもしれない自分の気持ちをありのまま伝えるなんてことは大冒険だった。けど、思えばそれ以降の私は余り自分から何かを表現したりしていない気がする。
「そうかな?東京でのスクールアイドルイベントの後、スクールアイドルを続けるか止めるかってメンバーのみんな考えたと思うけど、ルビィは続けるって意志を貫いたじゃん。それって大きな選択だったんじゃないの?」
「でもそれは選択を迫られたからで」
本当に大切なのは数多ある選択の海に自分から飛び込んで行く勇気なんじゃないかと思うのだ。
「そういう風に思えるようになったのもこの世界に来たからかな」
「ルビィはそのために来たの?」
「本当はこの世界に来た事に意味なんて無いのかもしれない。だからこそ意味を見出すのは私達のするべきことだったんじゃないかな。だからこの世界に来た私の見出したのは今後の目標」
沢山のことを体験して、アイさんと出逢って、得られた意味。それを私達の世界に帰ってから覚えている保証はどこにもないけど、でも一度導かれた答えはきっと忘れたとしてもまた辿り着ける。
「なら、私はもっとルビィの新しい一面を出せるように頑張ルビィするかな。まぁ、また来週あたりから。今日はなんかもう体がダルいや」
「風邪ひいてないよね?インフルビィ、なんて」
「それフラグって言うんだよルビィ」
なんて、私は体に活を入れるために梨子ちゃんから貰ったリアルゴールドを一気飲みした。微炭酸の冷えた水分が体の中を刺激しながら胃に流れ込み、意識を覚醒させていく。これで布団に入るまでは持ちそうだ。
けれど、この世界での私の活動もこれで一段落だ。