ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~番外編(横浜アリーナ編)   作:マーケン

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結局昨日は寝落ちしてしまい日を跨いでしまいました。


第四十二話

 良いことがあったらそれを素直に喜べなくなったのはきっと、それ以上に理不尽と言って良い小さな不運が頻発するからだと思う。

 だから良いことも悪いことも「クックック」とクールにキメて飲み込むのだ。それは一種の儀礼的なことで、そうすることで私は私の身に降りかかることを自分なりに理解しようとしている。

 だけど、今日という日は常の私ではないようで、私のフィルターであるヨハネを取り繕えない程だった。

 

「なんか大人しいけど、どうしたの?」

 

「アイカはーーーーーどうだった?」

 

「私はーーーー凄い嬉しかった」

 

 質問に質問を返す無礼を気にすることも無く、アイカは本当に言葉通りだと言わんばかりに答えてくれた。そして彼女から伝わってくる感覚がそれが本当であると物語っている。

 一日にも満たない時間しか一緒には居ないけれど、アイカの人となりはそれなりに理解したつもりだ。

 アイカは自分の感情に凄く正直な人だ。嬉しいときには当たり前に笑い、感極まれば泣き、悔しければ唇を噛み締める。私は特に彼女の笑顔に惹きつけられた。

 あくまでもスマホのメモリーに入っていた写真だけれど、みんなと出掛けた先で撮ったのだろう写真はどれもとても楽しそうで、アイカの顔を見ているこっちも楽しいのが良く分かる、そんな笑顔なのだ。

 そして、私はそんな笑顔をここ何年、していないのだろうとふと思ったのだ。

 キラキラしたいと願っていた純粋な頃の幼少期以降、私は常にヨハネという衣を纏い、常に自分を作ってきた。そのヨハネというキャラクターの出来栄えに不満は無いし、最高に格好いいと思う自己評価は変わらない。

 

「ヨハネはーーー善子はどうなの?」

 

「私はーーーー」

 

 けれど、今日くらいは素直に自分の感情を表に出すことも悪くないのかもしれない。

 

「ヨハネとしても、善子としても楽しかった」

 

 何にも繕うことなく、言葉を出すと不思議と澄ましていた頬から固さが抜ける。いつもならばきっと「クックック。ラグナロクを越えし同志よ。私は悲しい。ヴァルハラに招かれなかったこの不運を呪わしく思う」なんて言っていただろう。

 

「そっか。なら今日は天使の日だったんだね」

 

 幼少期なら誰でも少しは感じたことがあるはずだ。人から、世界から自分が祝福されていると。私も正しくそうで、だから幼少期の頃はズラ丸によく言ったものだ。私は天使であると。それを知っているからこそアイカはそう表現したのだろう。

 なんだか改めて言われると鼻やら背中やらがむず痒い。

 

「なら今日のアイカは天使に祝福された存在なのよ。感謝しなさい」

 

 少なくとも堕天使に取り憑かれた、よりも遙かに響きは良いだろう。

 

「その割に結構トラブルあったけどね」

 

「私が引き起こしたんじゃないんだからね!?」

 

「分かってる。でも、それも含めて楽しかったねって」

 

 まずライブ当日に憑依。もう論外としか言えないトラブルだろう。けれど、その後もヘアメイクさんがベッドの角に小指をぶつけて骨折、移動用のハイエースのエンジンが入らずに会場まで駅伝、ファンの目が四方八方にある会場への侵入作戦、バズーカに入れる銀テープへのメッセージ記入と銀テープの装填、届かないみんなの分のお昼を自前で準備、チケットのもぎり、となかなか何やってるんだという内容の数々。

 

「なんだか私達らしいんじゃないかな。色んな人が手伝ってくれて、でも上手くいかない時はみんなで協力してって」

 

「本当なら上手くいくのが一番なんだけどね」

 

「昨日はこんなにトラブルは起きなかったんだけどね」

 

「・・・私何もしてないからね」

 

「冗談だよ。それに、みんなで乗り越えたトラブルってのは笑顔を作れる素敵な思い出になるんだよ」

 

 なんて今日を振り返ると、なるほど確かに。どれも大変だったけど、なんだか笑えてくるのだから記憶というものは不思議なものだ。

 一人で自分に降りかかる理不尽な不運と対峙していた時のことを振り返ってもあまり前向きに捉えることは未だにできない。けれど、みんなと一緒に立ち向かったことは悪くない、そう言える思い出になっていた。

 

「ホント前向きね」

 

「善子(ヨハネ)のお陰だよ。私本当は凄くネガティブだし」

 

「私の?」

 

「うん。世界の捉え方、自分の身に降りかかる事象の捉え方、凄く独特だけど、何て言うのか、戦ってる姿勢っていうの?それが後ろ向きじゃないのが衝撃的で。だから私も負けてられないなって」

 

「なら、貴方はリトルデーモンに相応しくないわね」

 

「え?」

 

「私と並び立つ者に“リトル”なんて呼ぶのは不相応だわ。私は堕天使ヨハネ。なら貴方は天使アイカよ」

 

 こんな素敵な笑顔を見せてくれる人に“堕”という文字は必要ない。

 

「それはちょっと恥ずかしいから堕天使でお願いしまーす」

 

「ちょっと、今良いこと言ったのに!?」

 

 一人では自分との対話しか出来ないけれど、二人居ればこうして議論ができる。真面目な話に斜め上から意見が舞い込み、それが新しい発見を生む。

 私は今日、アイカという価値観を知り、そして数ある目標の一つに新しい目標が加わった。

 アイカは堕天使で良いといったけれど、天使から目標とされるような、そんな堕天使でいようと改めて決めた。

 

 

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