ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~番外編(横浜アリーナ編) 作:マーケン
積もる話もあろうということで私達は今駅に程近い大衆居酒屋に入り、酒を飲み交わしていた。
こういうのは流石に私達も初めてで入店するときは少しキョドりそうになったけれど、この世界では私達はいい大人で、なんの支障も無く四人がけの個室席に通された。
「これこそ大人の特権なのかな」
「二人で呑みをするのは初めてじゃないけどね」
「確かに。二人揃って氷結を一気飲みして・・・吐いたっけね」
「懐かしっ。まだ中三の夏休みの前くらいだよね」
なんて話し方をすると私達が十年来の友人かのような印象を受けるが、中身の年齢で考えるとほんの一年前のことだ。
その時は軽い気持ちでパッケージが美味しそうだった氷結を買って乾杯したのだ。
酎ハイとは恐ろしいもので飲み口はまるっきり炭酸飲料のジュースそのもので、初夏の暑さもあったため一気飲みしてしまったのだ。アルコール分にまだ慣れていない私達はあっという間に胃袋が暴走し、可愛らしい口からとても可愛くない液体をぶちまけた訳だ。
「じゃあ、一先ず乾杯」
「乾杯」
あの時とは違い、私達はグラスを合わせると一口、二口、と慌てずにレモンサワーを飲んだ。メニューには日本酒やらワインやら沢山のお酒があったけれど、流石に冒険する気にもならず、無難に飲みやすいものを選んだ。
3時間ものライブでいつの間にかお腹も空いていたのか、喉を通る冷たい水分が直接胃に落ちる感覚がしたけれど、以前とは違い飲んだのは大した量ではない。私は一旦グラスを置くと穹を見た。
この世界に招かれたAqours以外の知り合い。いや、知り合いと一口に片付けられない人だ。
「驚いたよ。朝起きたらアラサー女子になっててさ。私達との世界の違いを調べたらここに辿り着いた。で、Twitterにアンタのことが一瞬話題に上がってたのを見て確信したんだ」
「そう言えばさっきもそんな事言ってたね」
確かにあんな芸当をするのは私くらいなものだ。他にいないなら知ってる人が見れば一目で確信できただろう。
「しかし、アンタの友達、凄いね」
「うん。凄いよ。今日も凄かった」
積もる話は沢山あった。穹と会えなかった間に起きた出来事を。それこそ内浦で出逢ったAqoursのみんなの事を。
「会場入ってそれをすぐ感じたんだ。だってフラワースタンドの数が凄くってーーーー」
だけど、気付けば私は今日のライブの事を穹に話していた。それだけ今日のライブに凄く感銘を受け、すぐにでもその感動を分かち合いたいと思ったのだ。
会場入りしたときの香り、沢山の人の光、広いけど近いと錯覚させるみんなの存在感、みんなの物語の追体験、トラブルを乗り越えた勇姿、みんなで歌ったエンディングなど私は夢中になって話し、穹は私の話にうんうんと耳を傾ける構図となった。
そう言えばいつもは穹が色々と私を振り回すことが多かったけれど、時々穹が聴き手にまわる時があった。それは決まって私がその時にどハマりしていることに関連した話だった。
「好きなことを話している時の星って本当に楽しそうに話すよね」
「みんなそうでしょ。自分の好きな事なんだから」
「星の話し方って聴いてるこっちの好奇心を揺するんだよね。そういうの知ってたから星から誘われたとき音楽やろうって気になったんだよね」
「それは褒めてるってことでいいのかな?」
「さあね」
さらっと流す穹に思わずムッとなりそうだったけれど、次に穹が言った言葉を聴いたことでそんな気も霧散した。
「星はどうして私達がこの世界に来たんだと思う?」
話題の切り替えは唐突だったけれど、私を振り回すのは穹の十八番だ。少しブランクがあるものの、そんな穹の切り替えに合わせて私の思考も即座にシリアスなものに切り替わる。
「多分この世界のAqoursのライブを成功させるためにみんなが呼ばれて、私は多分そのオマケなんじゃないかなと」
この世界にはキャストとしてAqoursメンバーそれぞれに該当する人物が存在していた。
更に言えば、聴くところによるとAqoursのみんなはこの世界の体の持ち主と会話ができるらしい。けれど私はそれができない。それこそ私がオマケなんじゃないかと思う根拠だ。
「なるほどね。でもそれなら私の存在の説明がつかない」
「Aqoursはこの世界でら規模がデカいから目を引かれるだけで、事象の中心ではないってこと?」
「そう。だから私は寧ろアンタこそ中心なんじゃないかって思ってる」
「まさか」
「ま、どう思うかはアンタの自由だけどさ」
そう言って穹は幾らかのお金をテーブルに置いて立ち上がる。
「もう帰るの?」
「もう帰るよ。やるべき事だって思うことはやったしね」
「それが穹がこの世界に呼ばれた理由?」
「私はそう結論した。じゃあね星。多分この世界では今生の別れだと思う」
穹の言葉は淀みなく、そして立ち去る後ろ姿に迷いは無かった。
「またあっちの世界で・・・会おう!」
私の絞り出した言葉に穹はひらひらと手を振って応えた。それは拒否か肯定か、どちらの意か分からぬまま穹は店から出て行くのを見送った。
「・・・これは堪らないね」
答えのないことがこんなにももやもやするとは、何も言わずに立ち去った私に穹はきっとそうとうヤキモキした筈だ。
「私が原因、ね」
ねえ、貴方はどう思う?今日一日私と一緒に居てどう感じた?そう私は私の体に問い掛けた。答えなんてない。そう分かっていてもそうしないではいられなかった。そうだろう。もしも私が原因だとしたならば、その半身であるこの人にも理由があるのだから。
「とりあえず帰りながら話ししよ?」
けれど、そんな私の駄目元という気持ちとは裏腹に、思いも寄らぬ返答に私は呆然とするしかなかった。