ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~番外編(横浜アリーナ編) 作:マーケン
曰く、その人は平均的な無気力人間だと言う。
自分でそれを自覚し、それを少しばかし変えたいと思いながら動き出せない、そんなどこにでもいるアラサー女子。それが私の宿主だ。
「なんで急に話をしようと思ったの?」
「あ、やっぱり気付いてた?話そうと思えば何時でも話ができたって」
「そりぁ、なんとなくは」
電車に揺られながら、窓に薄らと映る自分の姿と対話するように私はこの世界の私とでも言うべき人と話をしていた。
「聴きたいことも一杯あったと思うけど、私は貴方の行動を邪魔したくなかった。貴方には、黒松星として行動して欲しかったから余計な要素を入れたくなかった」
「この世界で描かれる“ラブライブ!サンシャイン!!”には登場していない黒松星を貴方は知っているの?」
「作品はファンが増えれば増えるほど色んな側面、世界観が追加で生まれてくる」
私もそれには同意だ。例えばスタートレックシリーズなどはファンフィクションの宝庫だ。そしてファンフィクションの中でも有名になると公式と混同されてしまったり、あるいは公式でないと認知されつつも公式並に有名なキャラクターが出来上がったりした。メアリー・スーなんてのは創作界隈では誰でも聴いたことのある名だろう。
他にもガンダムシリーズなどは初期の設定の穴を縫うように外伝が創作され、映像作品にまで昇華するケースが多い。
そんな例を挙げられると大凡私という立ち位置が理解出来た。
「私は本編外のキャラクターなんだね、この世界では」
「うん。でもーーー」
「ああ、分かってる。この世界と私達の世界は多分相互作用はあってもどっちが主体とかは無い、でしょ」
もしこの世界で描かれていないことは全て存在しないなんてことになってたら今頃私達の世界には沼津と秋葉原、よくてニューヨークくらいしか存在しない極々小さな世界になってしまう。けどそんな事はなくて、ちゃん私達のでも日本は北海道から沖縄まであるし、海外に目を向ければ華の都パリもあれば砂漠の国エジプトもある。小さな所ではエロマンガ島だってある。流石にエロマンガ先生なんて人は知らないけれど。
「で、貴方が私を知っていて、私という主体性を容認したから邪魔をしたくなかった、と?」
「ラブライブを好きになった私には貴方が作品に寄り添うための言わばアバターみたいなものだったから」
「じゃあこの世界で私を描いたのは」
「私。でも描いたなんて大袈裟も良いところ。だって貴方全然私の予想もしない動きをするんだもの」
そう苦笑して言った。けれど、それはストレスが溜まっているとか不満があるとかそんなのではなく、手の掛かることに喜びを見出しているかのようでもあった。
「私の技量が足りないのは分かってる。けど、貴方の事を書いてると、創作してるっていうよりも貴方の活動日記を代筆するみたいな、そんな感覚になるの」
有言不実行であったり、昨日できたことが今日はできなかったり、かと思えばもの忘れをしたり、作品に登場するにしては凄く不安定で、こんなものを世に晒すのか、と自分でも思ったという。
「けど、そうさせる程私を夢中にしたのがラブライブなんだ」
最初はアイドルアニメなんてどれも似たようなものだろうと色眼鏡で見ていた。実際、評判が良かったデレマスなんかは評判通り楽しく鑑賞したけれど、そこまではハマらなかったという。
「何て言うのかな?プロ野球より甲子園が好きな人いるでしょ?あんな感じなんじゃないかな」
それが作品の優劣によるものではなく、個人の主観によるものだと分析しているあたり、アニメに対し主観による優劣を付けないように気を配っているのが分かる。
「でもラブライブはなんかハマっちゃったんだ」
彼女は本当に、心底からそう思っているように語る。彼女の好きなラブライブのことを。
どうやら彼女は好きな事については多弁になるタイプの人らしい。私は時折相づちを打ちながら話を聴いた。
作品の勢い、規模の大小はあれど等身大なキャラクターの姿、音楽、そしてキャストとのリンク。それはキャストと同世代の彼女には凄く衝撃的で目が離せなくなったのだと言う。
「で、気付いたときにはAqoursのライブに行くことになっていたと」
「うん。でも初めてのライブだし、それに行くことでこれまでの私にどんな変化が生まれるのか、正直行くのを迷ってたところもあったの」
これまで自分という人間を強いて言うならばオタク気質はあるけれど、基本的に何も無い人間であると定義していた彼女はそんな風に夢中になれることが三十路を目前に見つかるとは思っていなかったのだ。
「そんな時まさか貴方が私のとこにくるなんてね」
驚きつつも私に行動させたのは私を通して見ていた景色を文字通りに体験できるからに他ならなかったかりだ。
「それで今日と言う一日を貴方と語りたかった」
「一緒に肩を並べてってのは考えなかったの?」
千歌先輩達は色々と宿主となった人と相談しながら行動していた。
「私の好きなラブライブの世界に私は居ない。それは変えられない大前提」
「さいですか」
まぁ個人的に譲れない価値観というのは誰にでもある。逆に言えば彼女にとってラブライブがそれだけ大切なものになっているというのは喜ばしいことなのかもしれない。
「なら今日は語り明かさないとね。ようやく対話の窓口を開いてくれたことだし」
「乗り気になってくれて良かった。それじゃあーーーー」
ゴトンゴトン、と電車に揺られ、寒空の下を歩き、湯船に浸かって体を温め、固めのベッドに横になって意識が消えるまで私達は沢山の会話をした。
「星ちゃんにとってこの世界に来た理由を付けるならどんな事になるの?」
「んー・・・それは多分、沼津に居るときと同じ距離感でみんなと一緒に居たかったからじゃないかな」
「そっか。私はね、勝手なんだけど星ちゃんが私に会いに来てくれたんだって、今でもそう思ってるんだ」
「何それ。ほんと勝手だね」
くすりと笑って、けれどそれを否定しようとは思わない。
この世界に来たみんなそれぞれにこの世界に来た意味はバラバラで、だけどそれが今日という日を一つのものとして形にできたこと。それこそに価値があるのだと思う。
微睡みの中、そう答えを得た私は最後に、きっちりとするべき事をした。それは過去に出来なかったことを取り戻すかのように。
「おやすみ。そしてばいばい。それでまた別の形で会おうね」
すでに意識がないのか彼女から返答はなかったけれど、別れを告げることができたことに満足感を覚えながら安心して意識を手放した。