ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~番外編(横浜アリーナ編)   作:マーケン

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次回は9/15更新予定


第六話

 朝ご飯に舌鼓を打ちつつ私は考える。この憑依体験が何を引き金に起きたものなのかと。

 少なくとも夜寝る前には私は自室に一人でいた。けれど朝起きたら私だけでなくAqoursメンバー全員が、この別世界の横浜にいるAqoursメンバーに取り憑いている状態となっていた。居る場所がバラバラだったメンバーが全員一緒に同じ状況になっていることから察するに、このAqoursこそが因果関係の中心にいると思われる。けど、それが何故なのか、どのような理由なのかはさっぱり想像出来ない。

 

「花丸ちゃん難しいこと考えてる?」

 

 私が黙々と頭を悩ませていると私が乗り移った体の本来の持ち主であるカナコさんが心配そうに聞いてきた。

 

「なんでこんなことになったのかなって」

 

「やっぱり元に戻れるか心配?」

 

「うん。でも、物語の主人公になったみたいでワクワクしてるのもあるずら」

 

 そう。恥ずかしながら私は今、非常に気分が高揚している。

 さっき考えていたのも、早く元の体に戻りたいというよりは物語の設定を考えているような感覚だった。

 私は図書室に入り浸り本の虫になっていたほど物語が好きなのだ。

 物語には全てがある。現実では到底考えられないようなことも、その世界では事実として存在する。そんな別の世界を本物として触れることが好きなのだ。だからこの体験はとても興味深い。

 

「謎々みたいに地球儀を解き明かしたら、みんなでどこまでも行けるねっ、て感じ?」

 

「それは何の歌ずら?」

 

「ハレ晴レユカイって曲。丸ちゃんが本が好きなように私もアニソンが好きでさ。きっと今の丸ちゃんにはこの曲が似合ってるんじゃないかなって」

 

 そう言ってカナコさんは一曲披露してくれた。

 カナコさんの言うようにハレ晴レユカイは、跳ねそうな心を的確に表現した歌だった。けれど、曲の良さそのものもさることながら、カナコさんの歌の上手さに驚くと同時に残念な気持ちになった。この歌声を実際に鼓膜を震わせて聞くことが出来ないことに。そして多くの観客に聞かせることが出来ないことにだ。

 

「そう言えば星ちゃんもこの曲について語ってたいもする」

 

「星ちゃん?」

 

「うん。埼玉から引っ越してきたクラスメートずら。色々なJPOPを知っている子なんだ」

 

「そうなんだ。今度探してみよう」

 

 いくら私達の事が描かれた作品があるとはいえ細かい点までは描写されないようだ。ちなみに私は自分が創作されたものであるかどうかは考えないことにした。

 創作された結果私達が動いているのか、私達が動いた結果、この世界の作者と呼ばれる人が動かされているのか判別することは出来ないからだ。

 それにどちらが主軸となっているのかは些末な問題だと思う。だって当人達にとって選んだ道に嘘はないからだ。

 

「それにしてものっぽパンを食べると落ち着くずら」

 

「花丸ちゃんすっかり食いしん坊キャラになっちゃってるよ」

 

「いっぱい食べて身長を伸ばすずら」

 

 そう言うとカナコさんは微妙な沈黙を作った。

 

「花丸ちゃんは大きくなりたいんだ」

 

「うん。おら、カナコさんみたいになりたい」

 

 カナコさんは女性の中でも背が大きい。だから朝目覚めて立ち上がった時は見る景色が何時もよりも高い視点で驚いた。たかだか十数cmの違いがこれ程の違いを生むのかと感動すら覚えた。

 とにかく高い視点からだと景色に奥行きが生まれ、文字通り世界が広がる。だから叶うなら沼津みたいな景色を遮るものの無い場所で、カナコさんの視点を味わってみたい。

 けれど、私の言葉にカナコさんはあまり良い反応はしなかった。

 

「私は逆なんだ。こんなに高い身長の女って、女らしくないでしょ?そんな私がAqoursでも一番身長の低い花丸ちゃん役をやっていいのかなって、ずっとそう思ってたんだ」

 

「お互いにないものねだりずら」

 

「ザクッといくね。でもそうだね」

 

 私は迂闊にもカナコさんのコンプレックスを刺激してしまったらしい。けれど私にはそのコンプレックスを共感することはできない。できないけれど私の存在がカナコさんに余計なことを気にさせているのだとしたら、私はカナコさんの力になりたい。カナコさんがとても素敵な女性だと自信を持てるようになって欲しい。

 

「そうだ!今日は私が高い世界を体験するから、今度カナコさんが私の所に遊びに来てよ。そしたら私の体でカナコさんは思いっきり楽しもうよ」

 

 もしもちょっとしたホームステイ感覚でそれができるならとても素敵だなって、私は思いのままの気持ちを伝えた。本当に思い付きだけど、体験できればカナコさんも抱いている想いが変わるかもしれない。

 目覚めてカナコさんと出会ってからたった数時間だけど、私はカナコさんに体を貸すことに何故か躊躇いを感じない。寧ろ私達はお互いに足りないところを補完しあうような、二人で一つの関係とすら感じている。これは理屈ではない本能的な感覚だ。

 

「じゃあ今日は大舞台だけど、一緒に楽しもうね」

 

「うん。一緒に歌おう!」

 

 私はこの高い世界から見る光の海が待ち遠しくなった。

 

 

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