ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~番外編(横浜アリーナ編) 作:マーケン
思えば私が全ての元凶なのかも知れない。そう、昨晩の私は呪いが掛かっていると噂される“
「ちょっと、この様って何よ」
「堕天使の証って事よ」
「嬉しいのか嬉しくないのかイマイチ判断に困るんだけど」
私に軽快なツッコミを入れるのは憑依した体の本来の持ち主であるアイカさんだ。アイカさんはこの世界の私役を担当する声優さんだ。
「それよりその呪卍って何よ?あからさまにジュマンジのパクーーーー」
「パ、パパパパクりとかじゃないわよ。それにアイカさんだって人のこと言えるの?何よあのコール&レスポンス。あれこそダチョウ倶ーーーーー」
問題のコール&レスポンスとはアイカさんのいや、この世界の私がやるライブの時の自己紹介だ。細かいことは割愛するが、私が地団駄を踏むと皆が飛び上がるという芸だ。とは言え完全に丸パクりではないから気にするほどではない。それにどうやらラジオの投稿者の案だとかが昇華して出来上がったらしいから、そもそもパクりとかとはちょっと趣が違う。加えて言えばあの三人組の芸はもはやパクる云々を越えたものだ。
「あれはあれで良いのよ」
私の指摘に慌てふためく姿を想像したがアイカさんは冷静に、平然とそう答えた。それに私はおや、と思い、気付けばアイカさんにその理由を聴いていた。
「私ね、アドリブとか弱いの」
人前に出るような仕事に憧れた癖にアイカさんは人前で上がってしまう。それでも夢を諦めきれず飛び込んだのはラブライブと呼ばれるスクールアイドルプロジェクト。それは人前により出ることを意味した。
そんな世界に飛び込んでからもアイカさんの苦戦は続いた。けどアイカさんはヨハネ(善子)として足掻いた。そんな中で色んな人の想いが結集して出来たのがあのコール&レスポンスだった。
それは緊張する舞台の上で出来る数少ないルーチン。身に染みた動きというのは心を平静に近付ける効果がある。かのメジャーリーガーであるイチロー選手がバッターボックスに入るにあたり照準を合わせるようなルーチンをするのも普段と同じ実力を出せるようにするためだ。
ただ、アイカさんにはそんな理論的なこと以上の意味があった。それは想いが繫がっているという実感だ。
みんなで作ったコールにみんながレスポンスをする。それだけのことでアイカさんは憬れていた場所がどういう世界だったのか正しく認識できるようになったという。
「今だって人前で緊張しない訳じゃ無い。けど、それを含めて私はその場所が好きなんだって、夢の場所なんだって思えるようになったの」
少し恥ずかしげに、けれど誇らしく語るアイカさんに私は圧倒されると共に共感を覚えた。彼女の得た実感は、私もまたラブライブ予選を迎えるにあたって感じたものだからだ。
「起こること全てを受け入れて、全てを楽しもうと、だね」
「これはね、ラブライブと出逢って、貴方に巡り会えて貰ったものなんだ」
だから今日、
「善子ちゃん、泣いてるの?」
は、と我に返るとルビィが私のことを心配そうに覗きこんでいた。
「どうしたずら?」
「花丸ちゃん、善子ちゃんが」
この世界のAqoursは横浜アリーナでのライブを迎えるに当たって近隣のホテルに学年別に分かれて泊まっていた。今私が居るのはそのホテルの部屋で、そこには当然ながら私だけでなくルビィや花丸も居る。
朝食後、それぞれこの世界の自分と対話していた筈だけど、いつの間にか二人は一区切りついていたらしい。
それにしても不思議な気持ちだ。別人に乗り移った二人に対し全くと言って良いほど私は違和感を感じていない。二人がこの状況に早くも適応し、何時ものようにしているからというのもあるのだろうが、馴染みすぎである。
そんなことよりも今しがた聞き逃せないワードが花丸から飛び出した気がする。
「私、泣いてた?」
そんなつもりはさらさら無かった。けれど指摘されて気付いてみると確かに目には熱いものが込み上げており、目元を拭えば温かな湿り気を帯びていた。
「私どんな顔してる?」
「凄く嬉しそうずら」
この嬉し涙が私の内から生じたものなのか、はたまたアイカさんの感情から生じたものなのか私には判断が付かなかった。けれど、どちらかなんて問答するのは野暮なことなのかもしれない。私とアイカさんが面と向かって同じ会話をしていたらきっと、私達は二人揃って同じように嬉しそうに泣くだろうと想像が付いてしまったから。
「ホントは善子と花丸ちゃんは仲良いね」
「う、五月蝿いわね、腐れ縁よ。って、だからヨハネよ」
「ぴょーん。うん、ばっちりね。これならライブのコール&レスポンスも平気そうね」
図らずもアイカさんの誘導でダチョウ的な事をしてしまったが、以外としっくりと来るこの不思議。これは逆輸入するしかないだろうと、そう思った。