ラブライブ!サンシャイン!!~陽光に寄り添う二等星~番外編(横浜アリーナ編)   作:マーケン

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第九話

 鞠莉はみんなより先に会場に行ってしまったし、ダイヤは部屋で昨日のライブ映像をチェックしている。私はと言えば日課をこなさなければどうにも落ち着かず、ジャージに着替えるとランニングに出かけた。例え体が変わっても世界が変わっても、私はこの習慣を変えられないらしい。

 しかし、この世界の私役をしているナナカさんは、今日という日に限ればこの新横浜周辺で相当な有名人だ。おいそれと外を出歩いていたらファンに見つかって大騒ぎだ。だから私はオバチャンが付けるようなサンバイザーを目深に被って近隣住民風の装いをして外に出た。

 外に出て思ったのは極々ありふれた感想だった。都会だな、と。けれど初めて見る街は新鮮でいつもよりも足が軽かった。

 

「果南、今日は抑え気味なの?」

 

 私ならもっといつもペースが速いだろうと思ったのかナナカさんが疑問をぶつけてきた。ナナカさんの中では私はどれだけアスリートなんだろう?

 

「少しだけだよ。流石に慣れてない場所だからね」

 

「そっか。でも道案内くらいしてあげられるから心配ご無用だよ。それに、果南が思うように動けるのか興味あるし」

 

 聞くところによるとナナカさんは私が相当な体力お化けだと想定して鍛えていたらしい。だから鍛えたことがどれ程通じるのか確かめてみたいらしい。

 その感覚は私も覚えがある。自分の体はどこまで動くのか?どの領域まで行けるのかという衝動。伸び盛りの頃は面白い位に記録が伸びるため、嵌まりやすい沼だ。

 

「この後ライブあるんだよ?程々にしないとね」

 

「残念。じゃあ体のコンディションはどう果南?」

 

「だ、だいぶ良い感じ」

 

「よーし、じゃ、ハグしよ」

 

「文字通りの一心同体だから、したくてもできないよ」

 

 ナナカさんはわりと淡々と喋るらしく最初は会話をしていても冗談なのか本音なのかイマイチ判断が付かなかったけれど、段々と癖が分かってきた。この人は結構チャーミングな性格をしていると。

 

「あーあ、私も果南の体を動かしたいな」

 

「十分ナナカさんの体も動けますよ?」

 

 実際、ちょっと走った程度では息が上がらない程度には体力があることが実感できる。

 というか、この細さのどの辺にこれ程の体力があるのだろうと思う。まぁその辺りは私も人のことを言えないが。

 

「私も果南を体験したいんだよ。どんなに頑張っても私は私以外にはなれないから」

 

 見て、と言われて私はポニーテールにした髪の先端を顔の前に持ってくると、微かに青みがかった髪色が目に付いた。

 

「今日はAqoursのライブだから。果南を見たい人が沢山いる。だから私を通して果南を見て欲しいって、そう思って果南カラーに染めたの。でも、どんなに近付けても私は私。果南じゃないんだよ」

 

「ナナカさんは人の真似をする以前に十分可愛いと思うけど」

 

「んー、これは私の癖というか、なんというか、悪癖?なのかな。私ね、この世界にはない風景とか空気感とかに凄く憬れ持っちゃうタイプなんだよね」

 

 照れながらも語られたのは、なんというかガチな話しだった。

 ナナカさんはハマる作品の影響を良い意味でも悪い意味でも受けやすく、幼少の頃からアニメの真似をしたりしながら成長していった。

 そんな生活をしている最中、ふとナナカさんに妙案が浮かんだ。これだけ多彩な作品があれば自分の置かれた環境に近い作品もあるのではないかと。時にナナカさんは中学生。美術部に所属していた頃だ。

 自分が真似するのではなく、向こうから自分の世界に飛び込んでくるという発想に、ナナカさんは自分が天才ではないかと自画自賛したという。

 そんな頃に出逢ったのが『ひだまりスケッチ』という作品だった。

 ひだまりスケッチは美術科のある高校に通う学生アパートに一人暮らしをする生徒達の日常を描いた作品だ。

 その世界観は日常の中の小さな出来事が徒然なるままに描かれ、そこに存在するさり気ない喜びや面白さがじわりと染みる味のある作品だ。

 ナナカさんはそのひだまりスケッチを自分と重ねた。そして自分の生活の中で見付けるひだまりスケッチ感に一喜一憂するようになった。

 しかし、夢中になりすぎたためか結局ナナカさん自身がその世界に入りたいと思うようになり、作品に登場する人物として声を当てたいと声優を志望する切っ掛けとなったようだ。

 

「好きも高じればなんとやらだね」

 

「高じればっていうより拗らせてるよね」

 

「果南がそれを言う?」

 

「もう、蒸し返さないでよ」

 

 ナナカさんの言わんとすることは分かる。鞠莉とのことを言っているのだろう。

 鞠莉とはお互いに本音をぶつけなかった結果、二年程関係がぎくしゃくしたのだ。拗らせてると言われても仕方が無い。

 

「ごめん。でも、そんなところを含めて私は果南が好きだよ。果南になりたいくらいにね」

 

 ナナカさんは更に続けた。

 声優を目指す最中、『ラブライブ!』という作品が異様な盛り上がりを見せたこと。そのコンテンツは架空の世界を架空のまま終わらせない、この世界にアニメの世界を招いて二人三脚で物語が進んでいくものだった。

 アニメの中に飛び込むしかないと思っていたナナカさんには衝撃的だったという。だから好きになったし、絶対にラブライブ声優になろうと誓った。そして、私と出逢った。

 

「ラブライブの世界に心を惹かれた人は大勢いる。私もその一人。だから果南が私や大勢の人にとってラブライブとの世界を繋ぐ架け橋なんだよ」

 

 だから果南を求め続けているのだとナナカさんは言った。

 それを聴いて私は勘違いをしていたことに気付いた。ナナカさんは自分に自信がないとか、そういった自己否定的な感情で私になりたいと言っている訳では無かったのだ。

 

「そっか。なら今日は私を見たいって人と、ナナカさんを見たいって人両方に楽しんで貰おう」

 

 確かに今回のライブはAqoursとしてのライブだけど、キャラクターを愛した人だけが来るわけでは無い。キャストもまた主役であり、キャストの活躍を望む人もいるのだ。

 今日という日において、私達はどちらも欠けてはならない存在だ。

 

「やろう、ナナカさん」

 

 きっと私達はそのためにこの世界に来たのだと、私はそう思い決意を固めた。今日という日を最高の一日にすると。

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