ストライク・ザ・ブラッド~史上最強の吸血鬼~   作:悩める地上絵

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一応前回よりも文字数は多くなっていますが、他のSSに比べたら短く感じるかもしれません。


聖者の右腕篇
プロローグ


周りを炎に囲まれ月が天から見下ろすなか、積み重なった瓦礫の上に2人の人間が立っていた。一人は腕を震わせながら金属製のクロスボウを構えている髪の色素が薄い少年、もう一人は炎に照らされ虹のような髪を靡かせた少女である。何かを拒否するように必死に叫ぶ少年に対して、少女の方はすべてを受け入れたような穏やかな表情を浮かべていた。少女が泣き笑いのような表情を浮かべた後、少年の構えていたクロスボウから銀色の矢が少女の心臓へと放たれた。

そして白い閃光が巻き起こり、純白の雪が舞う。後に生きていた者は閉じられたまぶたから赫い涙をこぼして横たわっていた少年だけだった。

 

第四真祖という化け物を知っているだろうか。

第四真祖は不死にして不滅。一切の血族同胞を持たず、支配を望まず、ただ災厄の化身たる十二の眷獣を従え、人の血を啜り、殺戮し、破壊する。世界の理から外れた冷酷非情な吸血鬼なのだと。過去に多くの都市を滅ぼした化け物なのだと。

それを聞いた白を基調としたクリーム色のパーカーを着た少年は笑みを浮かべていう。

「うん、だから?」

ここは絃神島。太平洋上に浮かぶ小さな島。カーボンファイバーと樹脂と金属と、魔術によって作られた人工島だ。この街、いや、この世界において、化け物など珍しくもない。それは世界最強といわれる吸血鬼であっても。

 

真夏の森―――――――――――――

深夜の神社境内を煌々と燃える篝火が照らし、拝殿には月光が儚げに差し込んでいた。季節を忘れ去るほどに空気が冷たいのは周囲に張ってある結界のせいであろう。

虫の音すら聞こえなくなった完全なる静寂。そんな社の拝殿の中央に、少女が座っていた。その眼前には御簾に遮られて姿は見えないが、“三聖”と呼ばれる獅子王機関の長老たちが座っている。

いずれも最高位の魔術師、霊能力者であるが、彼らを取り巻く気配は静謐そのもので、威圧感はまるで見当たらない。神秘とは閉じたもの、隠すものであるが、ここまでくるとそういったことを考慮しても異常である。

 

「名乗りなさい」

 

三聖から少女へ向かって声がかけられる。口調は厳かだが、冷血さは感じない。肩書に反して若い女の声だった。

「姫柊です。姫柊雪菜」

 

緊張で震えたような声が一瞬遅く響く。だが、御簾の向こうにいる女は構わず質問を投げかける。

 

「歳は?」

「あと四ヶ月で十五になります」

「そう…あなたは成績がいいわね。縁堂が褒めていたわ。それで、縁堂には何を習いましたか?」

「呪術全般と巫術、あとは幻術と禍祓いを」

「魔術は?縁堂の専門はそちら方面のはずですが」

「大陸系のものについては一通り。西洋魔術は基礎理論だけです」

「魔族との戦闘経験、それに武術は?」

「模擬戦闘なら養成所で集中訓練を二回ほど。実戦はありません。武術は使えます。いちおうは」

「そう―――――――――だといいけれど」

 

くす、と御簾の向こうで女が笑った。その瞬間、爆発的に膨れ上がる殺気を感知し、雪菜は後ろへと跳んだ

 

「――っ!?」

 

危険を察知した反射的な行動であった。雪菜がいた場所には、刃が振り下ろされていた。一瞬でも遅ければ、御簾の前には血だまりができていただろう。そして、闇の中から二体の貌のない鎧武者が現れる。一体は太刀を握った武士、一体は四本腕の弓兵の式神である。おそらくは御簾の向こうの三人の誰かの仕業であろう。

 

「響(ゆらぎ)よ!」

 

短い呪言を唱え、掌に呪力を集中し、それを武士の鎧越しに内部へと叩きつける。武士の式神は霧散し、依り代であろう太刀が空中を舞う。雪菜は太刀を掴み取り、弓士の攻撃を太刀で受け流し、矢を放ち終えた相手を袈裟懸けに切り捨てた。二体目の式神も霧散する。

 

「これは…何の真似ですか?」

 

これ以上するならば術者を討たねば不利なのは雪菜である。ただでさえ力量が劣っているのだから。だが、待ちかねていたかのようにまばらな拍手が御簾の向こうで響いた。

 

「ふははははは。良い判断である、姫柊雪菜。よく凌いだ」

 

男は低く野太い声で満足気に笑う。

 

「呪詛卜筮を不得手とするも霊視、剣術においては抜きん出た才を持つ逸材……典型的な剣巫じゃな。まずは合格と言っておこうかの」

「合格…?」

 

御簾の向こうから聞こえてくる長老たちの声に、雪菜は眉をひそめる。

 

「そう、あなたが剣巫の資格を得るためには本来ならあと四ヶ月の行を修めねばなりませんが、事情が変わりました。座りなさい。姫柊雪菜」

 

雪菜は彼女の言葉に渋々と従い、正座へと戻った。太刀は横に置いておく。

 

「姫柊雪菜、まずはこれを」

 

その言葉とともに一匹の蝶が雪菜の前に止まり、瞬時にある高校生を写した写真へと変わった。友人たちと談笑している姿を隠し撮りしたらしく、フレームの細い眼鏡に少し陰のある笑みを浮かべているが、無防備で隙だらけの表情だ。

 

「この写真は?」

 

「彼の名前は暁古城といいます。知っていますか?」

「いえ」

 

雪菜は正直に首を振る。その答えは予想していたのだろう。女は感慨もない口調でさらに訊ねてくる。

 

「彼のことをどう思いますか?」

「え?」

 

突然の質問に雪菜は戸惑う。

 

「写真だけでは正確なことは判りませんが、おそらく武術は完全な素人か初心者の域だと思われます。危険な呪物を所持している様子もなく、撮影者を察知している気配も見られません」

「いえ、そういうことではなく、あなたが彼をどう思うかと訊いているのです」

「は、はい?なにを......?」

「たとえば顔の良し悪しだとか、見た目の好き嫌いの話です。どうですか?」

「あの......わたしをからかってるんですか?」

 

真意のわからないあまりに場違いな長老たちの質問には悪意すら感じ、雪菜は思わず側に置いた太刀に手が伸びそうになる。

 

雪菜のそんな反応に、御簾の向こうからは落胆のため息が聞こえてくると、

 

「では、第四真祖という言葉に聞き覚えはありますか?」

 

雪菜は息を呑んだ。まともな攻魔師ならばその単語を聞いただけでしばらく沈黙するのは当然のことだ。

 

焔光の夜伯(カレイドブラッド)のことですか?ですが、第四真祖は存在しないと聞いています。ただの都市伝説の類だと」

 

「いいえ、実在するのです。その写真に写っている少年が第四真祖です。東京都絃神市――――――人工島(ギガフロート)の“魔族特区”にいます」

 

女の言葉に雪菜はしばし絶句した。

 

「第四真祖が日本に!?」

「ええ、そうです。そしてそれが今日あなたをここに呼んだ理由です。あなたを彼の監視役に命じます。そして、彼が危険な存在だと判断した場合、全力を以って抹殺してください」

「抹殺......!?」

 

困惑から一変、雪菜は動揺して言葉を失う。第四真祖とは災厄の権化。これまでの修行で手を抜いたことはないが、所詮は見習いである。しかし真祖とは一国の軍隊に匹敵する戦闘力を持つといわれるほどの存在だ。それほどの大役が自分に務まるのであろうか。

 

しかしここで自分が辞退しても、その役は他の誰かに回ってしまう。厄介事ではあるが、誰かがやらなければならないことである。

 

「受け取りなさい、姫柊雪菜」

 

巻き上げた御簾の隙間から女が何かを差し出した。それは一振りの銀の槍。雪菜はその名前を知っていた。

 

「これは…」

「七式突撃降魔機槍、“シュネーヴァルツァー”です。銘は“雪霞狼”」

 

それは魔族に対抗するために作られた獅子王機関が開発した武器だった。だが、武器の核として宝具にもなり得る古代の宝槍を使用しているため量産が効かず、世界に三本しか存在しない。いずれにせよ、雪霞狼は個人レベルで扱える中では間違いなく最強を誇る獅子王機関の秘奥兵器である。この世界の魔導の武器では、という但し書きがつくが。

 

「これを…私に?」

 

差し出した槍を受け取りながら、雪菜は信じられないという表情で聞いた。

 

「真祖が相手ならばもっと強力な装備を与えて送り出したいところですが、現状ではこれが精一杯です。受け取ってくれますね?」

 

「はい、それはもちろん......ですが、......これは?」

 

そう言って雪菜は困惑の表情を浮かべた。

なぜなら差し出されたのは槍だけでなく、セーラー襟のブラウスとプリーツスカート、どこかの学校の制服と思われるものもあったからだ。

 

「制服です。私立彩海学園高等部一年B組、出席番号一番。それが第四真祖たる暁古城の現在の身分です。あなたには、そこへ転校してもらい、彼の監視をしてもらいます」

「え?第四真祖?学生が?え?」

 

床の上に投げ出してあった写真を見下ろし、雪菜は目を丸くした。

 

「あらためて命じます、姫柊雪菜。あなたはこれより全力を以って彼に接近し、彼の行動を監視するように―――――――以上です」

 

一方的にそれだけ言い残して、御簾の向こう側から気配が消えた。

一人取り残された雪菜は渡された槍を凝視し、無意識のうちにため息をもらした。

 

 

 

 

一方そのころ、去っていった3人のうちの1人が誰に向けたものでもなくポツリとつぶやいた。

 

「あの写真では仕方がないとはいえ、彼に武術の経験がないと見られるとは。やはり梁山泊の弟子は変わっていますね」

 

彼の雰囲気はごくありきたりな学生のもの。なぜなら彼は武術を鍛錬をしていく内に、大抵の武術家がまとっていくような、ある種の冷たい威圧感を持つような教えを受けていなければ性格をしていないから。

 

彼が撮影者に気づいたように見えなかったのは当然のこと。なぜなら監視や盗撮をしてくる理由に心当たりがありすぎて反応する必要を感じないから。

 

 

 

人の人生は他者の悪意で動かされていくという。

すべてが悪意によるものではないかもしれない。だが、本人の与り知らぬところで他人の意思が介在し、それによって歪められていくことがありふれたことなのは事実なのだろう。

 

こうして第四真祖となった少年の止まっていた運命の歯車は動き出した。それが緩やかなものか、歯車自身をも壊してしまうほどに激しいものかはまだ誰にもわからない。

 




次話の投稿はキャラ紹介と一緒に載せるので一週間以上先になると思われます。
キャラ投稿は「ケンイチ」と、「ストブラ」のキャラの内「ケンイチ」と関わった者、具体的に言えば古城と凪沙です。
それぞれ原作を読んだことのある人にはつまらないものかもしれませんがどうかよろしくお願いします。
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