ストライク・ザ・ブラッド~史上最強の吸血鬼~   作:悩める地上絵

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遅くなってしまい申し訳ありません。

ただ時間があった割に内容は原作とそこまで変わりません(時系列を多少いじったりする程度の小細工しかしていません)ので、ご注意ください。




絃神島――――

太平洋に浮かぶこの島は公的には東京都に属するが、実体は独立した政治系統を持つ特別行政区だ。

だがこの島はただの離島ではない。

魔族特区

獣人、精霊、半妖半魔、人工生命体、そして吸血鬼―――この島では、自然破壊の影響や人類との戦いによって数を減らし、絶滅の危機に瀕した彼ら魔族の存在が公認され、保護されている。そして彼らの肉体組織や特殊能力を解析し、それを科学や産業分野の発展に利用する―――――日本を代表する大企業、あるいは有名大学の研究機関がこの島にはひしめき合っている。そのため、この島の住民の大半は研究の関係者、もしくはその家族である。ゆえに日本本土で珍しいとされるようなこの島の情況も住民にとってありふれたものであることだ。そんなことよりも島民にとって重要なのは周りの環境だろう。暖流の影響を受けた気候は穏やかで、太平洋のど真ん中、熱帯に位置する絃神島は真冬でも平均気温は20℃を超える。つまり、何が言いたいかというと

 

 

 

 

 

「本当にいつもその恰好で暑くないんですか、南宮教諭」

「藪から棒に何だ、わざわざそんなことを言いに来たのか」

 

現在古城がいるのは、普段通っている彩海学園高等部の職員室だ。本日は夏休み最後の火曜日。いくら学園の生徒でも、部活や補修を受けているわけでもなければ普通は来ない場所である。ちなみに古城の目の前にいるのは、黒のレースアップしたワンピースを着た少女である。襟元やそで口からフリルがのぞいていて、腰周りは編上げのコルセットで飾り立てたドレスで見た目は上品だがこの猛暑の中では視覚の暴力としかいえない暑苦しさである。自宅からここに来るまでの間にメガネに垂れ落ちた汗を拭く必要があった古城にとっては嫌がらせかとすら思える。

 

「で、本当に何の用だ?」

 

顔の輪郭や体格が小柄で人形のように見えるがその少女の態度は不遜で、外見年齢からは想像できない口調で再度問うてくる。

その少女の名は南宮那月。実際には(自称)年齢26歳の大人の女性、それも古城のクラスの担任の教師を兼任する攻魔師(魔族に対抗する技術を身に付けた者の総称)で古城が今日彼女のもとを訪れたのもそれが関係していたりする。

 

「学校に来る用事ができたので、そのついでに夏休みの追加課題を新学期初日に忘れたりしないようあらかじめ提出しようかと」

 

「ほう、てっきり私は昨日アイランド・ウエストのショッピングモールで、眷獣をぶっ放したバカな吸血鬼(コウモリ)のことが関係していると思ったのだがな?」

「は?」

 

担任教師の思わぬことばに古城は気の抜けた声をあげてしまった。

西地区のショッピングモールで起こった騒動。困ったことに、古城には心当たりがありすぎた。しかし、そのことを那月に話すわけにはいかなかった。なぜならその騒動には古城と件の吸血鬼以外にもとある少女が関わっているからだ。

その少女は古城の正体を知っているため、重要参考人として事情聴取を受けるようなことになっては困るからだ。なぜなら第四真祖などという吸血鬼は、この絃神市には、存在しないことになっているからだ。つまり古城は未登録魔族なのである。特区警備隊(アイランド・ガード)などに正体をばらされたりしたら、非常に面倒なことになる。

 

結果、錆びついたような動きで首を横に振るしかなかった。

 

「そうか、ならいい。私はてっきり、お前の正体を知って尾け回していた攻魔師がそこらの野良吸血鬼と遭遇して揉めたんじゃないかと心配していたんだ」

「は、ははっ......まさかそんな」

 

偉そうな口調で分かりづらいが、那月の心配していたという言葉は嘘ではないのだろう。古城はそんな担任に偽りを伝えなければいけないことに罪悪感を覚えながらも昨日のことを思い返していた。

 

 

 

「あいつの身体も大概おかしいだろ」

 

この日古城は級友である矢瀬基樹とその幼馴染である藍羽浅葱の二人と市内のファミレスに来ていた。矢瀬は宿題と追試のため、古城は残っていた追加課題ために浅葱から勉強を教えてもらうためである。その見返りとして、浅葱がその細い身体のどこに入るのかと思えるような量のメニューを注文し、矢瀬と割り勘しても財布が氷河期に入る羽目に遭ってしまったが。

 

矢瀬と別れた古城は、吸血鬼である自分を呪い殺さんとしているかのような日差しに顔を顰めてパーカーのフードを目深にかぶり、歩き出した。

否、歩き出そうとした。実際には店を出て数歩と歩かない内に視線を感じて立ち止まったからだ。

 

「……」

 

無言で周囲に視線を巡らせると少し離れたところにいた少女が目がほぼ合った瞬間電柱の影に隠れた。

古城はその様子気づかなかった体を装っててひとつ小さくため息をつくと、皮膚を炙るような日差しに晒されながら尾行者を引き連れて帰路に着いた。

 

 

 

古城は反射鏡や道沿いの店のガラスで確認して、面白くなさそうに鼻を鳴らした。

 

「やっぱり尾けられてる......な」

 

古城から十五メートルほど離れた後方を、一人の少女が歩いている。ファミレスを出た時点から付いて来ていた尾行者である。

 彼女が着ているのは、浅葱のものと同じ彩海学園の女子の制服だ。襟元がネクタイではなくリボンになっているということは、中等部の生徒なのだろう。肩に担いだベースギターのギグケースが目を引く。

 見覚えのない顔だった。綺麗な顔立ちをしているが、どことなく人に馴れない野生のネコに似た雰囲気がある。短いスカートに慣れていないのか、ときたま動きが無防備で危なっかしい。

 

彼女は古城から一定の距離を保ったまま、話しかけることもせずに追従していた。この炎天下の中モノレールにも乗らずに表を歩いている時点でおかしいし、かといって尾行中に反射鏡などに映り込むなどいまどき新人刑事や新米探偵ぐらいしかしないだろう。本人は気付かれていないつもりらしいところも含めて、古城としては本気で尾行しているのか判断に悩むところである。

 

一応、古城の1つ違いの妹で彩海学園中等部の生徒である暁凪沙の関係者であるセンも考えてはみたが、そうであるなら話しかけてこないのはおかしい。

 

正直に言えば、尾行される理由については心当たりがある。というよりもありすぎる()。だが、それがどちらのセンなのかはわからない。尾行や監視をされるのは、本土にいたころのとある事情から、この数年散々似たようなことをされて慣れているが、この尾行者はそれらに比べるとかなり拙い。最近付け加えられることになったワケに関しても、このように相手にバレバレな尾行をするような者が来る理由にはならない。

 

どちらにしても相手がどの程度の動きをとることができるのか知っておこうと思いつくと、たまたま目についたショッピングモール近くのゲームセンターに入って様子を見ることにした。

 

そして案の定、少女は困り果てたように周囲に視線を巡らせた。

 古城の姿を見失うのは避けたいが、かといってショッピングモールに入ってしまえば古城とばったり鉢合わせる可能性が高い。そんなところだろう。

 夕暮れ時、ショッピングモールの前で一人立ち尽くす少女の姿は、ひどく儚げに感じられた。それを観察しながら、古城は何か自分がひどいことをしているように感じられてしまった。

 

「…………はぁ」

 

 仕方ない、と言うように溜め息を吐いて、古城は仕方なく通路に出る――と同時に、間の悪いことに少女の方も覚悟を決めたのか、意を決して踏み込んできた。 結果、先程の予想通り、二人はばったり鉢合わせてしまった。

 

 古城たちはしばしの間無言で見つめ合う。どうにか先に反応したのは、ギターケース少女の方だった。

 

「だ......第四真祖!」

 

 彼女はやや上擦った声で叫ぶと、重心を低くした。その速度は、年齢を考えるとなかなかのものかもしれなかったが、古城の関心はそこにはなかった。

古城の好みとはだいぶ違うが、間近で見ても整った容姿をしていたがそれも正直どうでもよかった。

 先の一言で少女が古城を尾行していた理由がやっと判明した。この中学生は第四真祖と呼ばれる吸血鬼を探していたのだ。魔族を狙う賞金稼ぎの類ではなさそうだが、古城を第四真祖と呼ぶ者にろくなのがいた例がない。

 

 世界最強の吸血鬼、などという非常識な肩書きを古城が受け継いだのは、ほんの三カ月ばかり前のこと。ひた隠しにしている努力と担任教師の協力のおかげで、現在その事実を知る者はこの島にそう多くはいないはずで、古城の思い当たる限りの者の関係者にもこの少女は該当しそうにない。

 

 とりあえず面倒事を避けようと思いついたのが、

 

『すみません、ケガはありませんか』

「は?」

 

少女は古城の言った言葉の意味がわからなかったようだが、古城は少女の全体に軽く目を通すような素振りをしてそのまま言葉を続ける。

 

『ケガはないようですね。それでは』

 

少女が呆然としたのも当然で、実は先ほど古城が話していたのは日本語ではない。モスクワ皇国の公用語である。梁山泊にいた頃に「発達段階で語学を学ぶと覚えが早い」と言われて秋雨から叩き込まれていたのだ。

 

幸い少女は古城が何を話していたのかわからなかったようで、その隙を利用して古城は店を出る。と、その直後、

 

「な......!?待ってください、暁古城!」

 

我に返った少女が自分の名前を呼ぶのを聞いて、確実に厄介事だとわかり、古城は胡散臭いものを見る顔付きで振り返った。

それに対して少女は生真面目そうな瞳で古城を見返し、少し大人びた硬い声で答えた。

 

「わたしは獅子王機関の剣巫です。獅子王機関三聖の命により、第四真祖であるあなたの監視のために派遣されて来ました」

 

知らない単語がいくつかあったが、少女が口にした名前を聞いた瞬間、古城は自分の顔が勝手に顔芸を始めたのをはっきりと感じた。

 

“獅子王機関”

 

それまで大事にしてきたものの多くを裏切ることになってしまった古城にとっては、3か月前から忘れることのできない名前である。

失ったものと引き換えに守れたものもあるし、あれはそもそも自身の選択の結果でもある。そのため彼らに対して恨みはない。しかし聞いて愉快な気持ちになれるような名前でもなかった。

 

関り合いになりたくない古城は結局何も聞かなかったことにしようと考えた。

 

「あー……わりィ、人違いだわ。他を当たってくれ。俺は古城なんて名前じゃないし」

「え? 人違い? え、え……?」

 

 少女は騙されやすい性格だったらしく、古城の出任せを信じてしまったようだ。それとも案外根が素直なだけか。

 その隙に立ち去ろうとした古城を、少女は慌てて呼び止める。

 

「ま、待ってください!本当は人違いなんかじゃないですよね!?」

 

「いや、監視とか、そういうのはホント間に合ってるから。じゃあ、俺は急いでるんで」

 

 古城はぞんざいに手を振ってその場を離れた。

 

 呆然と立ち尽くす少女を見た限り、どうやら尾行を諦めてくれたらしい。根本的な解決になってはいないが。

 

ショッピングモールを出るところで少女が尾いてきているかどうか確認するため、またばれないよう念のため、持っていたスマホを自撮りモードで鏡代わりにして背後の様子をうかがう。そして画面越しに目にした光景にギョッと目を剥いた。

 

「イイ歳して中学生に手ぇ出してんじゃねぇよ、オッサンども」

 

 古城の顔に焦りが浮き、低い呻きが漏れた。いつの間にか、少女の冷ややかな態度のせいで少々険悪な雰囲気になっている。

 しかし古城は容易に動くわけにもいかない。

 万が一騒ぎが大きくなって警察沙汰にでもなった際、古城にとばっちりが来ないとも限らないこととは別にもう一つ。

 

 男達が手首に嵌めている金属製の腕輪の存在だ。生体センサーや魔力感知装置、発信機などを内蔵した魔族登録証。それを付けているということは、彼らは魔族特区の特別登録市民、すなわち人外。魔族だ。

 通常、腕輪を着けた登録魔族が自分から人間に危害を加えるということはまずない。そんなことをすれば特区警備隊の攻魔官たちに追いかけられることになるからだ。だからすぐに少女の身が危険になることはない。

 

 問題は、古城の正体、第四真祖の正体が少女の口から漏れる可能性があること。

そちらの方が、古城にとっては大問題だった。そんなことになれば、多くの魔族に古城は様々な理由で狙われることになる。

 いや、やはり少女の身に危険が及んだ時の方が古城の信条にとってははるかに大きな問題だ。それは失ったものを辱めることであり、守ったものすら穢すことにもなるからだ。

 

 再び溜め息を吐き、この状況を丸く収めるため、介入するタイミングをスマホ越しにうかがう。

 

 男のどちらかが少女を罵倒する言葉を吐き、腕を掬いあげるようにしたのを見て男たちが動いたのを悟った。古城はタイミングを逃したと考え、すぐに振り返る。

 

その直後のことだった。

 

若雷(わかいかずち)っ――――‼」

 

少女が柳眉を逆立てて呪文を叫び、腕を振り上げた男の体が、トラックに撥ねられたような勢いで吹っ飛んだのは。

 




今後の投稿予定について簡単に活動報告に書きます。
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