これからも頑張るぞ!
...ということで、本編へどうぞ。
「...い、...真!」
遠くから声が聞こえる。
このどこか懐かしい声は...中学校の頃の...
「おい、起きろよ和真!」
「はっ!?」
聞こえた声に勢い良く顔を上げる。
「どうしたんだよ、昨日眠れなかったのか?
お前が放送を無視して眠るなんてらしくないな」
周りを見渡すとそこは知らない教室で、今まで机に伏せていた僕に声をかけたのは同じ中学校で仲の良かった友達だった。
でも、彼がここにいるのはおかしい。
「な、なんでここにいるの...?」
「はぁ?なに寝ぼけてんだよ。
俺達は一緒にこの学院を受験しただろ?」
確かに彼が言う通り、彼もこの学院を志望していた。
でも彼だって第二希望だったし、第一希望には余裕で通れる程の学力があったはず。
それにさっき廊下で見た名簿には...
「この学院の新入生の男子は僕だけのはずじゃ...」
「...お前、どんな夢見てたんだ?」
震える声で言った僕に向けて呆れたような顔をした彼は、ため息をつきながら教室のドアの方に体を向けた。
「さっきの校内放送、お前は聞いてなかっただろうが、全校生徒が講堂に集合って言ってたぜ。
俺は先に行ってるから、お前もその間抜けな涎の痕を取ってから早く来いよ」
彼の言葉に慌てて持っていたティッシュで顔を拭く。
もう痕が残っていないかを聞こうとすると、もう彼は教室から出ていってしまっていた。
そっか、あれは夢だったのか...
まぁ、確かによく考えると変な所はいっぱいあったよね。
男が一人しか入学しないなんておかしいし、そもそも一年生が一クラスしかない学院なんて、廃校寸前じゃないか。
「よし、僕も早く行かなきゃね」
目を擦りながら立ち上がり、走り出す。
ここから僕の輝かしい高校生活が始まるんだーーー
ガシャンッ!
「...あれ?」
突然聞こえた音と背中に感じる微かな痛み。
いままで教室にいたはずの僕は、何故か見たことの無い天井を見上げていた。
「ここは...?」
体を起こして周りを見る。
恐らく今、ここから落ちたのであろうベッド。
それを囲むようにして閉じられたカーテン。
そして微かな湿布の臭い...
これは、保健室?
そうだ、僕は新入生の名簿を見た後、倒れて...
「...あれが、夢だったんだ」
それを理解した瞬間、何とも言えない脱力感が湧いてきた。
さっきの夢、楽しそうだったな...
『はっ!夢!?...よかったぁ〜』
と、カーテンの向こうからそんな声が聞こえた。
どうやら隣のベッドで寝ていた人は僕とは逆に覚めて喜ぶような夢を見ていたんだろう。
よかったね、見知らぬ人...
「ねぇ、君!」
「うわぁ!?」
僕が見知らぬ人の幸せを喜んでいると、突然カーテンが開かれ、さっきの声の主らしきオレンジの髪をサイドで結んだ人が顔を出した。
「この学院って、廃校になってないよね?」
「...はい?」
この人...リボンの色が赤と青だから、この先輩は一体何を言っているんだろう。
学院が廃校になった夢でも見てたのかな...
「いえ、廃校になるとは聞いてませんよ」
「だよね!ありがとう!
よーっし!ヒロくん達と輝かしい高校生活を送るぞ〜!らんららんらら〜ん!」
先輩はそう言うと、楽しそうにスキップして行ってしまった。
なんというか、元気な人だったな...
というか、ヒロ
「あら?起きてたの?」
そんな事を考えていると、保健室に入って来た女性...保健室の先生であろう人に声をかけられた。
「大丈夫?頭が痛かったりとかは?」
「大丈夫です、ありがとうございました」
「ああ、お礼なら私じゃなくてあなたをここまで運んできた三年生の女の子に言いなさい」
「三年生の...?」
「え?知り合いじゃないの?
あなたより背が低くて、黒髪の...」
僕より背の低い、三年生の黒髪...
少し考えてみたけど、まずこの学院の三年生に知り合いがいるかどうかすら分からない。
「...すいません、ちょっと心当たりが無いです」
「そう...まぁ、特徴的な子だったから、またいつかお礼を言っておきなさい」
「はい...失礼しました」
話ながらベッドから立ち上がり、先生に頭を下げて保健室を出る。
寝不足で少しだるかった体も、気絶という形ではあったけど休息をとれて楽になることが出来た。
ただ、体が健康になっても、内面的な問題は増えていく一方だ。
しかし、どれだけ問題が増えたとしても、スクールアイドルを誕生させる事は絶対に諦めない。
例え前途多難な茨の道でも、一つ一つ解決して一歩一歩歩んで行こう。
「...さぁ、まずはこれからだ」
一年一組の教室の前に立った僕は、気合いを入れてその扉に手をかけ、開く。
「すみません、遅れました」
そう言いながら教室に入った僕に向けられるのは、多くの女子の視線。
分かっていたことだけれど、女子しかいない教室に男子が一人混ざるというのはどこか恥ずかしい。
「ああ、翠星か。
お前の席はそこの開いてるところだぞ」
「はい、よろしくお願いします」
僕を見てから空席を指さした担任であろう教師に頭を下げ、指定された席に向かう。
席が後ろの方なために、女子の列に挟まれた道を通ることになり、席に着く頃には少しだけ顔が赤くなっていた。
これが毎日かぁ...
頭を抱えて息を吐く。
自分の席に向かうだけでこうなるなんて、慣れるのにどれだけ時間がかかるんだろう...
「翠星くん」
と、これからの事を考えて少し暗くなっていた僕に、もう聞き慣れてきた声がかかった。
「小泉さん、おはよう」
「うん、おはよう!
どうしたの?寝坊?」
「いや、ちょっと気絶して保健室にいたんだ」
「き、気絶?それって大丈夫なの?」
「先生は軽い貧血って言ってたし、多分大丈夫だと思うよ」
「よかった、体調が悪くなったら言ってね?」
ああ、やっぱり小泉さんは優しいな。
その優しさで、スクールアイドルも引き受けてくれたら凄く助かるんだけど...
と、ここであの元気いっぱいな少女の事を思い出す。
「そういえば星空さんは?」
「あっ、凛ちゃんはあそこだよ」
小泉さんが指さした先を見ると、大人しく先生の方を向いて話を聞く星空さんがいた。
「...なんか、少し元気がないような?」
「あー...それは、部活の見学会が中止になっちゃったかじゃないかな」
「中止?なんで?」
「そっか、翠星くんはさっきの集会に来てなかったんだったね。
あのね、実は...」
「それじゃ、私は緊急の職員会議に行ってくるから、この時間は自由時間にする。
新入生同士仲を深めておくといい」
小泉さんの言葉を遮るようにそう言った先生は、教室から出ていってしまった。
緊急の職員会議。
部活の見学会の中止。
まさか。
「...多分、先生もこれに関連する会議に行ったんだと思うんだけど、実はね...」
さっき、僕は夢の中でなんと考えた?
『一年生が一クラスしかない学院なんて、廃校寸前じゃないか』
まさか、そんな。
保健室で会ったあの先輩はなんと聞いてきた?
『この学院って、廃校になってないよね?』
嘘、でしょ?
今から小泉さんが言うことをほぼ予測出来てしまった僕は、その予想が外れることを強く願う。
「この学院はね、廃校を検討することになるんだって」
「は、はは...」
当たってしまった不吉な予想に、僕の口からは乾いた笑いが無意識に漏れ出す。
進むと決めた茨の道に悠然と立ちはだかる廃校という名の高い壁。
突き付けられた無慈悲で残酷な現実に、僕は...
「無理でしょ、こんなの...」
ただ、夢が砕け散るのを感じることしか出来なかった。
次回の緑の物語は、和真があるものを探して学校中を駆け回ります。
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