ラブライブ!〜二色のマネージャー物語〜   作:紅翼 天奈

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投稿が大きく遅れてしまい、大変申し訳ありませんでした。
遅れてしまった理由としては、前回の青1-4話で和真のセリフを2箇所に出したため、書かなければいけない事が多くなりすぎてしまったためです。

今後もこんな事が起こりうる可能性があるため、タグに『不定期更新』を追加させて頂きましたが、出来る限り早く更新出来るよう善処しますので、どうかこれからもよろしくお願いします。

今回は、話を作るのが難航した分、それ相応のボリューム(この物語における平均文字数の倍)となっておりますので、どうかお楽しみください。

それでは本編をどうぞ。


緑 1-4話 アイドル研究部

~UTX学院~

 

 

放課後、カフェスペースで息をつく男が一人。

 

「ふぅ...授業を終えた後のコーヒーは格別だな...」

 

彼の名は紅月竜音、スクールアイドルグループ『A-RISE』のマネージャーである。

 

「リューネ!ここにいたのね!」

 

「げっ、ツバサ...」

 

「『げっ』とは何よ!...じゃなくて、あなたの言ってた音ノ木坂学院についての情報が入ってきたわよ」

 

「ほう?お前がわざわざ教えに来てくれるとは、相当凄い情報なんだろうな」

 

竜音一人だけだったカフェスペースに飛び込んできた少女...A-RISEのリーダー、綺羅ツバサの言葉に、彼は余裕の表情でそう答えた。

その理由は、彼の記憶の中に色濃く残るあの少年...翠星和真が何かを成したのだと確信しているからである。

 

「まぁ、確かに凄い情報ね...というかその反応、もう知ってるの?」

 

「ふっ...知っているというより、察しているというべきかな...」

 

微妙にかっこつけながらそう言う竜音は、余裕の表情を崩さず、コーヒーに口をつける。

 

「それにしては落ち着いてるわね...私は驚いたわよ、まさか貴方の言っていた音ノ木坂学院が...」

 

そして、ツバサの言葉を軽く耳に受けながら、口に含んだコーヒーを、ゆっくりと味わい...

 

「...廃校を検討するなんて情報が入ってきたのだから」

 

その全てを、盛大に吹き出すのだった。

 

 

 

★☆

 

 

~音ノ木坂学院~

 

 

 

「明日からは普通に授業だから、しっかり用意をしておけよ。

これでHRは終わりだ、起立!」

 

『ありがとうございましたー!』

 

HRが終了し、先生が教室から出て行くと、辺りが少し騒がしくなる。

 

新しい友達と早速買い物に行く約束をしたり、近くのカフェの話をしたりと、女子特有の会話が繰り広げられていく。

話し声に混ざって多くの視線も感じるため、僕の噂話をしている人がいるのかもしれない。

 

...居心地、悪いなこれ。

 

でも、事あるごとに先の事を心配していても始まらない。

まだ一日目だし、これは慣れの問題だから...と、ポジティブな思考で席を立つ。

 

 

視線が集まる。

 

 

...うん、慣れだよ慣れ。

 

引きつりそうになる頬を気合いで止め、教室を出る。

すると、廊下で話していた小泉さんと星空さんと目が合った。

 

「翠星くん!もしかして、今から帰るにゃ?」

 

「よかったら、一緒に帰る?」

 

「...ごめん、ちょっと用事があるんだ」

 

優しい二人の言葉に、つい大きく頷いてしまいそうになるけれど、僕にはやる事がある。

 

昼休みの失敗の原因はこの学院の事をあまり知らない自分にあったと考えた僕は、放課後に一度この学院を回ってみようと思っていたのだ。

 

「そっか...じゃあまた明日ね!」

 

「うん、また誘ってね!」

 

二人に手を振り、廊下を歩き出す。

 

保健室の場所は朝の一件で知ってるから...

まずは、職員室を探してみようかな?

 

 

 

 

 

 

「ふぅ...これで一通り回ることが出来たかな...」

 

30分後、僕は一階の廊下をうろうろとしながらそう呟いた。

 

職員室、図書室、理科室、家庭科室...などなど、生徒が少ないとはとても思えない広さの学院を回るのは、運動不足な僕にとって少しだけつらいほどだった。

昔はこの学院も、人が多かったんだろう。

 

それと、学院内を回っている間に、何度かあの黒髪蒼眼の先輩の姿を見かけた。

綺麗な先輩を三人も連れていたので、あの先輩はかなりモテるのだろうか?

 

何にせよ、一人だけの転校生ということで僕と同じような環境におかれている先輩の元気そうな姿が見られて少しだけ安心した。

こんな特殊な環境なんて滅多にないだろうし、言ってしまえば唯一の理解者である彼が元気ならば僕も嬉しくなってくる。

 

「...っと、ここはどこだっけ?」

 

と、考え事をしながら歩いていると、自分の今いる場所が分からなくなってしまった。

でも慌てることは無い、今まで校舎内を歩いて学んだため、近くにある教室などから現在地を知ることが出来るのだから。

 

「ふふん、早速覚えた事が活かされるね〜♪

教室、教室っと...ん?」

 

独り言で自分を褒めながら辺りを見回していると、この学院ではあまり見かけなかった押し戸タイプのドアを見つけた。

最初にここを通った時には見逃していたのか、この小さなドアに気付いていなかったようだ。

 

「...何の部屋なんだろう」

 

今まで気付かなかった事もあり、俄然興味が湧いた僕は、そのドアに近付く。

 

が、中が見えるようにという意図で付けられたであろう窓にカーテンがかかっており、部屋の中を見ることが出来なかった。

 

「...誰かいないのかな」

 

コンコン、とノックをして数秒待つ。

 

...返事はない。

 

「うーん...もしかして、物置とかなのかな?」

 

自分の中でそう結論付けながらもドアノブを握ってみる。

 

「お、開いた...って、暗い...」

 

鍵がかかっていなかったようですんなりと中に入ることが出来たのだが、どうやら中庭に面した窓にもカーテンがついていたようで、部屋の中は闇に包まれていた。

 

あ、これは入っちゃいけない感じだ。

 

回れ右して部屋を出て、ドアをそっと閉じる。

普通の人なら好奇心で部屋の中に入ってみたりするのだろうが、あいにく僕はそんな勇気を持ち合わせていない。

 

何の部屋だったのかは気になるけど、無人で中が見えない部屋なんて日常生活で入ることは無いだろう。

 

「あんた、そこで何してるの?」

 

と、部屋から離れようとした僕の横からそんな声がかかる。

 

声のした方向を見ると、そこには僕より背の低い黒髪の女の子がいた。

背が低いから分からなかったけど、リボンの色が緑だから、三年生のようだ。

 

しまった、中に入っていたのがバレたかな...?

 

「ほら、どきなさいよ、ここは私の部室なの」

 

「へ?部室?」

 

「そう、部室」

 

先輩はそう言いながら部屋の中に入り、ドアを閉めた。

カーテン越しに室内が明るくなり、先輩の影が中で動いているのが分かった。

部屋に入ってすぐに電気をつけることが出来た辺り、本当にここは彼女の所属する部活の部室なのだろう。

 

...何の部活なのか、ますます気になってきた。

 

「あの、すみませーん」

 

コンコンとドアをノックして先輩を呼び出す。

このモヤモヤを晴らさずに帰りたくはないため、せめて部の名前だけでも...

 

『何よ、あんた体調悪いんでしょ?

余計な事してないで、早く帰りなさい』

 

と、室内から聞こえたそんな声に、僕の頭に疑問符が浮かぶ。

 

別に僕は体調が悪いわけでもないし、もう一人の男であるあの先輩と勘違いしてるのかと思ったけれど、彼がさっき元気に歩いていたのを見ているため、勘違いという訳ではない。

 

体調が悪い、と言えば朝に大きな心当たりがあるが、それをあの先輩が知ってる筈は無いし...

 

 

『お礼ならあなたを運んできた三年生の女の子に言いなさい』

 

 

朝の事を思い返していた僕の脳裏に、保健室の先生とのそんな会話が蘇る。

そうだ、確かその人の外見は...

 

 

僕より背が低くて、黒髪。

 

 

「失礼します!」

 

「ひゃあ!?な、何よ!?」

 

「朝はありがとうございました!」

 

ドアを勢い良く開けて部屋の中に入り、頭を下げる。

まさか助けて貰った人が目の前にいるというのに礼を忘れるなんて、不敬にも程がある。

 

「いいわよそんな事、ほら、顔上げて」

 

「はい...って、え...?」

 

先輩に言われて顔を上げた僕は、目の前に広がる光景...

 

壁に貼られた大きなポスター、本棚いっぱいに詰まったDVDや雑誌。

その全てがスクールアイドルのグッズ、それも僕が持っているような物から限定のものなどが大量にあるという光景に固まる。

 

「...な、なんでこんなにスクールアイドルのグッズが...」

 

「何よ、この部の名前を見てないの?」

 

「名前...?」

 

「ほら、ここよ」

 

先輩はドアの近くで固まっていた僕を外に出すと、ドアの小窓の角を指す。

そこには小さなシールが貼ってあり、近寄って目を凝らすと、そこにはネームペンで書かれた『アイドル研究部』という文字があった。

 

「アイドル...研究部...」

 

「そう、そして私はこの部の部長。

まぁ、もっとも他の部員は...」

 

「先輩!」

 

「ひっ!?何よ!」

 

「先輩は、スクールアイドルなんですか?」

 

「っ...ええ、そうよ」

 

先輩の言葉を遮って質問した僕に、先輩は何故か苦々しい顔で答えた。

 

自分の手で作ろうとしていた理想の部活動が存在し、そこにはスクールアイドルがいた。

 

ならば、僕のするべき事はもう決まっている。

 

「僕をこの部に入れて下さい!そして...

先輩の、音ノ木坂学院のスクールアイドルのマネージャーにして下さい!」

 

頭を下げ、そう言い放つ。

 

突然現れて、マネージャーにしてくれなんて図々しいのはわかっている。

でも、目の前にずっと求め続けてきた物があるんだ、何もしないなんて考えられない。

 

頭を下げているために先輩がどんな表情をしているのかは分からないが、きっと戸惑っているのだろう、なかなか返事が帰ってこない。

 

僕が頭を下げてから、数十秒経った頃だろうか、先輩はゆっくりと口を開き、小さな声を発した。

 

 

「...ダメよ」

 

 

「...え?」

 

僕の口から素っ頓狂な声が漏れ出す。

 

「ダメって言ったの」

 

「...それは、僕が男だからですか?」

 

いくら内心で図々しいと思っていても、断られるとは思っていなかった僕は、焦りながらその理由を問う。

 

「違うわ、別にあんたが女でも断るわよ」

 

「じゃあ、なんで...」

 

「...ここじゃ話しにくいから、入って」

 

先輩はそう言いながら部室のドアを開け、僕を部室に招き入れる。

 

「...この部、最初は何人だったと思う?」

 

そして、中庭に面した窓のカーテンを開き、外を見ながら話し始めた。

 

「アイドルになりたい、アイドルが好き。

そんな子たちを集めて始めたこの部活...

私は、本気でアイドルになりたかった。

だから、毎日走って、体作りをして、練習メニューを作って、練習を重ねて...

だけど、私だけが頑張ったってダメなの」

 

その声は、段々と小さく、弱々しくなっていく。

 

「いくら私一人が努力しても、ライブは一人でやるんじゃない。

だから、みんなに呼びかけて、全員で私の作った練習メニューをすることにしたの。

...でも、本気でアイドルになりたいなんて思っていたのは、私だけだった。

練習についていけないから。

そんなに本気じゃないから。

そんな事を言いながら、一人、また一人と退部して...

気付くと、私だけになっていた」

 

先輩はそこまで言うと振り返り、僕と目を合わせた。

 

「私は、アイドルになりたいの!

昔から、ずっとずっと夢見てたことだから!

...だから、私が認められるくらいアイドルに対して本気な人しか、この部には入れない、分かった?」

 

「はい、よく分かりました...」

 

僕が小さく頷くと、先輩は軽く息を吐いてから再び窓の外を見る。

そして、僕は...

 

「...ので、僕をこの部に入れて下さい!」

 

そんな先輩の背中に、先ほどと全く同じ言葉をぶつけた。

 

「...はぁ?」

 

「アイドルに対して本気、と言うならば、僕は本気でアイドルのマネージャーを目指しています。

これで認めていただけますか?」

 

「っ...軽々しく、本気だなんて言わないで!」

 

「軽々しくなんてない!何度でも言いましょう、僕は本気でアイドルのマネージャーになりたい!

だから、この部に入れて下さい!」

 

「ダメって言ってるでしょ!」

 

「そこをなんとか!」

 

「ダメよ!」

 

「お願いします!」

 

「ダメ!」

 

「お願いしまぁあああす!」

 

懇願と拒絶の応酬が続く。

何度断られようと、絶対に諦めない!

 

「...なんで?」

 

「お願いしま...え?」

 

「何であんたは、そんなにアイドルのマネージャーになりたいと思ってるの?」

 

先ほどまでの激しい言葉の応酬とは裏腹に、先輩は僕の目を真っ直ぐに見つめながら、静かに聞いてきた。

 

何で、か...

 

「...アイドルは、みんなに笑顔を届ける仕事。

だから、私は悲しいなんて言わない、これまでも、これからも、笑顔を絶やさない...」

 

「...それって」

 

「...はい、僕が昔、大好きだったアイドルの引退宣言の時の言葉です。

先輩も、知っていますよね?」

 

「えぇ、私もあの人の事は好きだったから...」

 

そのアイドルは、僕がアイドルの事を好きになったきっかけで、見る人全てに笑顔を与える素晴らしいアイドルだった。

 

「僕は、あの引退宣言をテレビで見た時から、彼女のような人を笑顔にするアイドルを、その輝きを、支えるのが僕の夢になっていたんです」

 

「...にこ」

 

「え?」

 

「私はにこ、矢澤にこよ。

あなたは?」

 

「す、翠星和真、です...?」

 

急に名前を聞かれた理由が分からず、疑問符を浮かべながら返事をした僕に、先輩が小さくため息をつく。

 

「これくらいも分からないようじゃ、マネージャーは務まらないわよ?」

 

先輩の言葉に、ようやく自分が認められたという事に気付き、喜びがこみ上げてくる。

 

「っ...よろしくお願いします、にこ先輩!」

 

「ええ、和真。

一緒に最高のスクールアイドル、目指すわよ!」

 

「はい!」

 

 

こうして、僕は...

 

 

 

 

 

一つの夢を叶えた。

 

 

 

☆★

 

 

 

「まずは、一歩だ」

 

その後、もう夕方だということで先輩と別れた僕は、廊下を歩きながらそう呟いた。

 

スクールアイドルのマネージャーになったからとはいえ、これで終わりではない。

まだ、この学院を救うという最終目標には程遠いんだ。

 

だから、一歩。

 

だけど、一歩。

 

確実に前に進んでいる。

 

先輩が言うには、これまで作詞はなんとか出来たのだが、作曲や振り付けを考える事が出来ないため、これまでのライブはA-RISEなどの有名グループの曲で行っていたらしい。

しかし、アイドル研究部が先輩一人だけになってしまった事からライブをする事が難しくなり、他のグループの曲を使っていた事から『音ノ木坂学院のスクールアイドル』を語れなかったため、知名度はほぼ0のまま今に至るそうだ。

 

だからまずはこの学院内で作曲出来る人を探して...

振り付けは、運動の出来る誰かに...

あと、この学院内でライブができそうな場所を探して使用許可を...

 

「考える事、多いなぁ...」

 

でも、マネージャーとして頭を回すのはとても楽しい。

ずっと夢見てた事なんだ、絶対にやり遂げてみせる。

 

「あんた、歩くの遅いわね」

 

と、外へ出た所で背伸びをしていた僕の背中に、くぐもった先輩の声がかかる。

アイドルは喉が大事だから、風邪をひかないようにマスクでもしているのだろうか?

そう考えながら振り返って先輩の方を見る。

 

「うわ!なんですかその格好!?」

 

「私服よ!悪い!?

アイドルはプライベートを隠さなきゃいけないの!」

 

そこには、茶色のコートで体を隠し、マスクとサングラスで顔を隠した完全装備の先輩の姿があった。

隠すというより、むしろ目立ちそうだ。

 

「悪いというか完全に不審者のそれですよ!

そんな格好してたらいつか通報されますよ?」

 

「...通報されても、隠さなきゃいけないの」

 

「手遅れッ!?」

 

通報された事があってなおアイドルとしてこんな格好を続ける先輩の不屈の精神に驚く。

これがアイドルの精神...なのかな...?

 

確かに芸能人が街へ出る時には変装するらしいが、学校のホームページにすら載らない先輩がこんな格好をしていた所でただの不審者でしかないような...

 

 

「おいコラそこの翠星和真ッ!」

 

 

と、考え込んでいた僕の名前を呼ぶ男の声がした。

 

...男?

 

ここは音ノ木坂学院の敷地内。

だから僕の事をフルネームで呼べる人なんていない筈。

でも、なんか聞き覚えのある声のような...

 

そう考えながら声のした方向...校門の方を見ると、黒髪紅眼の男がこっちに向かって走ってきていた。

 

って、黒髪紅眼!?

 

「廃校とはどういうことだーッ!」

 

「え!?紅月さ...わああああ脳が揺れるぅー!?」

 

「ちょっ、和真!?」

 

突然現れた紅月さんは、驚く僕の肩を掴むと勢いよく前後に揺さぶった。

 

「謝れ!君ならいいマネージャーになると思ってこの学校に注目してた俺と廃校の知らせを聞いた時に吹き出したコーヒーに謝れ!」

 

「ご、ごめんなさ...いや、コーヒー関係ありますか?」

 

こんな状況で冷静なツッコミができるとは、僕は高校生になって精神的に成長したのかもしれない。

 

そう自己分析している間に、紅月さんは僕を掴んでいた手を離してため息をついた。

 

「それで、君はこれからどうするんだ?

あんなにがっつり大見得切ったわけだし、そう簡単にスクールアイドルのマネージャーになる夢は捨てないだろ?」

 

「ええ、勿論です...というか、もうなりました」

 

「は?なった?」

 

「はい、スクールアイドルのマネージャーに」

 

「え、早っ...いや、でもこの学校廃校するんじゃないのか?」

 

「廃校を『検討』です、まだ決まってません」

 

「...その自信からして、止める気か?廃校を?」

 

「はい、A-RISEがUTX学院の入学者を増やしたように、僕はこの学院の名前をスクールアイドルの力で広めていこうと思っています」

 

「ふふ...やっぱり君は面白いな。

普通の人間なら挫ける廃校という現実に抗うか...」

 

紅月さんは楽しそうにそう言うと、ポケットから一枚の紙...A-RISEのライブのチラシを取り出して僕に渡してきた。

 

「明日、朝七時から...」

 

「ライブするんですよね?知ってますよ、ファンですもん」

 

「...知っていたことだが、改めて言われると照れるな...」

 

そう言いながらも貰ったチラシを丁寧にファイルに入れた僕に、紅月さんは嬉しそうに「じゃあ」と続ける。

 

「今回は、君がマネージャーをする事になったというスクールアイドルも連れてくるといい」

 

そんな紅月さんの言葉に辺りを見渡すと、さっきまでいたはずのにこ先輩の姿がいつの間にかなくなっていた。

 

僕は紅月さんがやってきた方向...校門の方を向いているため、先輩が先に帰っていたとしたら校門を出る姿が見えるはずだ。

 

「どうした?」

 

先輩の姿を探している僕の姿を不思議に思ったのか、紅月さんが声をかけてくる。

 

「いえ、先輩が...そのスクールアイドルがさっきまでここにいたんですが、いつの間にかいなくなってるんです」

 

「...スクールアイドルって、あの不審者みたいな格好の子だったのか」

 

「...本人いわく、プライベートを隠すための変装だそうです」

 

「俺達はいつも変装してランニングしてるが、パーカー被って伊達眼鏡付けるくらいで充分だぞ」

 

「僕もそう思います...」

 

あんな格好じゃ、学院内でも普通に不審者と勘違いする事もあるだろう。

顔と体が完全に隠れた不審者が学院内に入ってきたら、僕だってすぐに先生を呼ぶ...

 

...あれ、そういえば、紅月さんは入校の許可をとっているのだろうか

 

「おっと、噂をすればなんとやら、戻ってきたぞ」

 

紅月さんの言葉で校舎の方を見ると、確かに先輩が戻ってきた。

 

「あの人です」

 

...教師を引き連れて。

 

「...和真よ、こういう修羅場に出会った時の教訓を教えておいてやろう」

 

紅月さんはそう言うと、校門の方へ向き直ってクラウチングスタートの体勢をとった。

 

「三十六計逃げるにしかず、だッ!」

 

『逃がすな!追え!』

 

『ダメです!速すぎます!』

 

『どこかの学校の陸上部なの!?』

 

教師達の声を背に受けながら走る紅月さんを見ながら、僕は教わった言葉を記憶から消し去り、頭の中で彼に対する評価を少し下げるのだった。

 

「...何も聞かずに先生呼んじゃったけど、あれ、あんたの知り合い?」

 

「知り合いですが、あの人の自業自得なので別にいいですよ」

 

「そう、なら良かった」

 

と、相変わらずマスクの下からくぐもった声を発する先輩の姿を見ながら、紅月さんの言葉を思い出す。

 

『今回は、君がマネージャーをする事になったというスクールアイドルも連れてくるといい』

 

先輩なら、誘わなくても行くだろうな...

でも、マネージャーとしてこちらから誘った方がいいのだろうか?

 

「和真」

 

「はい?」

 

「明日の朝、ライブ行くわよね?」

 

そんな先輩の言葉に、思わず小さく微笑んでしまう。

答えは、勿論...

 

「ええ、当たり前じゃないですか」

 

「...あんたならそう言うと思ったわ。

それじゃ、また明日の朝に会いましょう」

 

「はい!」

 

元気よく返事をして、歩き出した先輩の背中を見つめる。

 

僕は、この人なら最高のスクールアイドルになれる、と確信している。

だけど、そのためには一つ、大きなものが欠けているとも考えている。

 

それは、彼女の隣にいるべき仲間の存在。

 

マネージャーである僕は当然、彼女のサポートに最善を尽くすつもりだが、ステージに上がるのは彼女一人だけ。

僕がこの音ノ木坂学院において二年生の先輩の元気な姿を見つけて安堵するように、同じ境遇の人間の存在は心に精神的な余裕を与えてくれる。

 

ただのお節介かもしれないが、彼女の隣には同じ気持ちを分かち合える仲間が必要だ。

 

そして、勧誘すべきその仲間は...

 

「...当然、あの二人しかいないよね」

 

 

早速決まった次の目標は、無類のアイドル好きの小泉さんと、運動の出来る星空さんを勧誘し、仲間と振り付けの課題を一気に達成すること。

作曲の問題はその過程で適任者を探して解決すればいい。

 

「よし、やってやる」

 

そう呟いて気合を入れ、歩き出す。

 

その足取りは軽く、希望に満ち溢れていたーーー




現在、もう一度これからの展開を考え直しているため、今回の次回予告はお休みとさせて頂きます。
本当に申し訳ございませんでした。


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