それでは、本編をどうぞ。
A-RISE。
それは、綺羅ツバサ、優木あんじゅ、統堂英玲奈の三人で構成されている、スクールアイドルグループ...
「...この三人がこの学校...UTX学院を人気にしているのか...?」
「そうみたいだね...?」
昨日、紅月竜音と名乗る人物に言われたように、午前7時に間に合うようにUTX学院前までやってきた俺と穂乃果は、目の前にあるビルのような巨大な建物と、穂乃果が持って来たUTX学院のパンフレットの中で笑う三人を見比べ、頭に疑問符を浮かべた。
『スクールアイドル A-RISE』の事が書かれたページがパンフレットを開いてすぐ目に止まったため、彼女たちがUTX学院のアピールポイントの一つとなっている事は確かなのだろうが、俺にはその三人の少女がUTX学院の人気を上げているとは思えなかった。
俺としては、それよりも...
「ああいうの...IC学生証っていうのか?
あんな感じの他にはない設備のほうが魅力的だと思うけどな」
「うん、すごいよねぇ~」
駅の改札をICカードで通るかのように、UTX学院の生徒達が学生証を提示して学院内に入っていく。
古き良きの音ノ木坂とは真逆と言える近代的な光景に、穂乃果はガラス張りの壁面に顔をつけて感嘆の声を漏らした。
...みっともないからやめなさい。
『UTX学院にようこそ!』
と、頭上からそんな声が聞こえると同時に、いつの間にか後ろに出来ていた人だかりから大きな歓声が上がる。
突然の盛り上がりに、俺と穂乃果は顔を見合わせた後、その人だかりまで下がり、周りの人々と同じように学院の壁面に付いている巨大なモニターを見上げた。
そこに映っていたのは、パンフレットに載っていた三人の少女。
「あれが、A-RISE...?」
「あの人達が、この学校の人気の一つになってるのか...?」
思わず疑問形になってしまう。
なぜなら、モニターの中の三人は...
「なんというか、普通だな...」
「うん...」
奇抜な格好をしているわけでもなければ、道行く人が揃って振り向くような目立った特徴もない。
何の変哲もない、『普通の女子校生』だったからだ。
そんな彼女達が、なぜこんな人だかりを作れるのか、俺の頭の上には疑問符が次々と浮かび上がっていく。
穂乃果もそれは同じようで、小さく首を傾げながらモニターを見つめていた。
『...それでは聞いてください、《Private Wars》』
ーーー瞬間、辺りが静まる。
今まで聞こえていた話し声が全て消え去り、代わりに彼女たちの曲の前奏が響き渡る。
突然聞こえてきたその音楽に、その場の全ての人間の瞳が自然とモニターに、A-RISEに向き...
ライブが、始まる。
「(...凄い)」
ついさっきまで『普通の女子高生』として見ていた三人の少女が、笑みを浮かべながら歌って、踊って...
「(これが、A-RISE...)」
自分の中で彼女達への評価が『普通の女子高生』から『アイドル』へと変わっていくのが分かる。
「(これが、スクールアイドル...!)」
ライブが終わり、しばらくの間放心していた俺は、隣で同じように呆然としていた穂乃果と顔を見合わせ...
「「これだ!」」
声を合わせて言い、走り出す。
これを、穂乃果と海未、ことりがやれば。
三人が、スクールアイドルになれば。
きっと、きっと...
『これだ...?』
ようやく見えた希望に喜ぶ俺たちは、背中に向けられていた緑色の瞳に気付くことはなかった。
☆★
「海未ちゃん、ことりちゃん!おはよう!」
「早速だが、これを見てくれ!」
「「...?」」
ライブの興奮が冷めやらぬまま音ノ木坂学院に到着した俺たちは、道中の本屋で買ったスクールアイドルが特集されている雑誌を海未の机にドサドサと置いた。
「...なんですか、これは」
「アイドルだよ!スクールアイドル!」
「こっちが大阪のスクールアイドルで、これは福岡のスクールアイドルなんだって!」
「わぁ!この衣装かわいい!」
各地のスクールアイドルの写真を指さして見せる穂乃果に、ことりが反応を見せる。
確かことりは、自分で服などを作るのが好きだったため、スクールアイドル達の綺麗な衣装に興味を持ったのだろう。
「でしょでしょ!最近、こんなスクールアイドルが増えてきてて、人気のあるグループの学校は入学希望者が増えるんだって!」
ことりが反応を見せたために、更に穂乃果の言葉に熱が入る。
「それでね、これを見て考えたんだけど...って、あれ?海未ちゃんは?」
と、話を止めて辺りを見る穂乃果の言葉で、ようやく海未がこの場からいなくなっていたことに気付く。
まぁ、あいつは察しがいいからこの後の穂乃果の言うことが分かって逃げたのだろう。
当然、教室にいないということは、廊下に逃げたというわけで。
「海未ちゃん!まだ話は終わってないよ!」
「ひっ!?」
海未はあっさりと逃げている所を穂乃果に見つかり、小さく悲鳴を上げた。
「せっかく考えたんだから、ちゃんと聞いてよ~!」
「...私達でスクールアイドルを始めるとか言い出すんでしょう?」
「おおっ!海未ちゃんエスパー!?」
「誰だって想像つきます!」
そりゃそうだろう。
廃校を救うための話をしている所に入学希望者が増えるという話を持ってきたんだ、次に言うことなんて分かりきっている。
「分かってるなら話は早いね!
今から職員室に行ってアイドル部を...」
「お断りします」
「なんでっ!?」
穂乃果が最後まで言い切る前にバッサリと切り捨てられてしまう。
「だって、こんなにかわいいんだよ!?
こんなにキラキラしてるんだよ!?
こんな衣装普通じゃ着れないよ!?」
「それより、それで本当に生徒が集まると思いますか?」
「うっ...それは、人気が出れば...」
「その雑誌に出ているスクールアイドルは、プロと同じように努力し、真剣にやってきた人達です。
穂乃果のように好奇心だけで始めて上手くいくはずがないでしょう!」
海未に強く言われ、穂乃果が一歩後ずさる。
実際、海未の言っていることは全て正しい。
スクールアイドルになるといっても、最初は完全に無名の女子高生であるために、作詞、作曲、振り付けを一から作った上で衣装を制作し、ライブをする場所を考え、その場所を使う許可をとって、客の呼び込みをする所まで自分達で行わなくてはいけない。
そして、そこまで努力した上で必ずライブが成功するとは限らない。
全てが無駄になる事だって有り得るんだ。
穂乃果がそこまで考えているわけもなく、本当にただの好奇心であるが故に海未はこうして冷たく突き放しているのだろう。
でも、それが分かっていても。
「俺は、三人がスクールアイドルを始めれば必ず人気が出ると思うんだけどな...」
ぽつり、と呟く。
「ひ、ヒロ君...?」
「それって、どういう意味...?」
「え?どういう意味って、そのままの意味だけど...」
何故か顔を赤くして聞いてくる穂乃果とことりに、首を傾げながら答える。
何だよ急に、この状況だと俺が誑し発言をしたように見えるじゃないか。
「と、とにかく!」
と、二人と同じように顔を赤くしていた海未は大きめの声でそう言うと、キッと真剣な顔になり...
「アイドルは、なしです!」
そう結論づけるのだった。
☆☆☆★
「あーあ...いい考えだと思ったんだけどなぁ...」
放課後、海未にスクールアイドルになる事を断られたショックか1日中静かだった穂乃果に連れられて屋上までやってきた俺は、そんな穂乃果の呟きを聞きながら落下防止用の柵にもたれかかり、息をついた。
穂乃果と一緒にA-RISEのライブを見ていた俺だからこそ、スクールアイドルになるというのがいい考えである事はよく分かっている。
でも、海未の言うようにそう簡単になることの出来るものではない。
「まぁ仕方ないよ、海未はお堅いからな。
また別の方法を探そう」
「うん...」
それは穂乃果に向けた慰めの言葉でありながら、自分に向けた諦めの言葉でもあった。
『水が...ちゃ大変...』
と、悲しそうに顔を伏せる穂乃果にかける言葉を探していると、そんな声...いや、歌が聞こえてきた。
ピアノの音も聞こえるため、歌っている人とピアノを弾いている人の二人が音楽室にいるのだろう。
「なんだろう、この歌...」
「行ってみるか?」
「うん、行こう!」
穂乃果は俺の問いかけに元気よく返事をすると、屋上のドアを開き、階段を降りていく。
『...ちゃダメだよ、...の夢の木よ育て』
音楽室がどこにあるのか分からない俺は、穂乃果の後ろについて歩きながら、聞こえてくる歌がだんだん大きくなっていくのを感じていた。
そして。
『さぁ!大好きだばんざーい!』
音楽室に到着した俺たちは、ドアの前で驚愕していた。
その理由は、二人いると思っていた音楽室の中では、赤髪の少女が一人でピアノを引きながら歌を歌っていたから。
その歌を聞いたことは無かったが、彼女の綺麗な声に引き付けられ、曲が終わるまで俺達は一言も発さずに彼女の姿を見つめていた。
『ふぅ...どう?これで満ぞ...』
ガラガラガラッ!
「すごい!」
「ゔぇえ!?」
演奏を終えた赤髪の少女が誰かに向けて言葉を発する前に、穂乃果が勢い良く扉を開き、音楽室の中へ入っていく。
「感動しちゃったよ!」
急に現れた穂乃果に赤髪の少女が独特な声を上げるが、穂乃果はそれに触れることなく彼女にそう言った。
「べ、別に...」
そして、褒められて照れたのか少し頬を染める彼女に、穂乃果は興奮しながら続ける。
「歌、上手だね!ピアノも上手!
それに...アイドルみたいにかわいい!」
「なっ...!?」
と、穂乃果の「アイドルみたいにかわいい」という言葉に、彼女はボッと顔を赤くして立ち上がり、音楽室を出ようとする。
「あ、あの!」
「...?」
「あなた...アイドルをやってみたいと思わない?」
その背中に声をかけた穂乃果は、振り返って穂乃果を見つめる彼女に、思い切った質問を投げかける。
「...何それ、イミワカンナイ!」
が、少女は更に顔を赤くしてそう言い放ち、音楽室を出ていってしまった。
「穂乃果」
一部始終を音楽室の扉の前で静観していた俺は、自分の横を通っていった少女と入れ替わるように音楽室に入り、「だよね...」と寂しそうに呟く穂乃果に声をかける。
「ヒロくん?どうしたの?」
「俺は、穂乃果がやりたい事をやればいいと思う」
「へ...?」
何を言っているか分からない、という表情の穂乃果に、微笑みながら続ける。
「穂乃果ってさ、昔からいつも思い付きで俺達を連れ回してくれたよな?
それで何度も危険な目に合って、何度も怒られて...」
「あ、あはは、ごめん...」
「でも、後悔をした事は無かった。
俺だけじゃなくて、海未もことりもそうだと思う」
「...え?」
「危険な目に合った後も、怒られる前にも、いつだって俺達には笑顔があった。
そうだろ?」
「ちょ、ヒロくん?」
俺は、そう言いながら穂乃果の肩を掴んで回転させ、その背中を軽く押す。
「だから穂乃果は穂乃果のやりたい事で俺達を引っ張ってくれたらいい、それがスクールアイドルであっても、そうでなくても、穂乃果が本気であれば俺達はなんだって喜んで連れ回されてやるからさ。
じゃあ、俺は少し用事ができたからまた後で考えを聞かせてくれよ」
「...うん!」
俺の言葉に元気な返事をした穂乃果は、小走りで音楽室を後にしていった。
さっきあれだけ海未に強く言われたのに、『アイドルをやってみたいと思わない?』と勧誘する辺り、彼女の中にはもうスクールアイドルという道しか残されていなかったのだろう。
だからこうして背中を押してやれば、彼女の真っ直ぐな心に自然と人は惹き付けられていくはずだ。
全く、世話の焼ける幼馴染だな...
さて、じゃあ次だ。
「悪かったね、あの子と二人で話をしていた様なのに割り込んじゃって」
俺は、音楽室に入ってすぐの所にあったピアノを弾くあの少女に目を取られ、穂乃果が見向きすらしなかった方向...
生徒が座って授業を受けるための席に座っていた人物に声をかける。
「...別にいいですよ、もう目的は果たしてましたし」
「そっか、なら良かった。
...こうして顔を合わせて話すのは入学式の日ぶりかな?」
「えぇ、あの時はまさかこんな状況になるとは思っていませんでしたが...」
「はは...同感だな...」
その人物とは、茶髪翠眼で、この音ノ木坂学院において俺を除いて唯一の男子生徒...
「確か、翠星和真君だったかな?」
「? 名前、言いましたっけ?」
「いや、紅月竜音っていう人に聞いた」
「...なるほど、ようやく理解できました」
紅月竜音、という名前が出た瞬間に、合点がいっという表情でそう言う和真君。
「あの、先輩...」
「蒼陽真拓だ、真拓でいいぞ」
「...真拓先輩、さっきのオレンジの髪の先輩と話してた事についてなんですが...」
そこまで言うと、和真君は少し息を吸い、目をキッと鋭くする。
「あの先輩は、スクールアイドルを目指しているんですか?」
「...ああ、多分そうなると思う」
「ッ...じゃあ、真拓先輩はマネージャーに?」
「まぁ...どんな形であろうと、マネージャーのような役回りになるだろうな」
「...なるほど、分かりました。
ならば、僕は...」
俺が和真君の質問に答えると、彼はより一層その瞳を鋭くし...俺を睨んで続ける。
「あなた達をスクールアイドルとして認める事は出来ません」
「...え?」
強く、きっぱりと言い放たれたその言葉に、俺の口からは素っ頓狂な声が漏れ出すのだった。
同じ目標を同じ方法で成し遂げようとする者が二人いて、それを成し遂げられるのは片方だけ。
当然、対立が生じる、という考えで最後の会話を書き上げました。
次回の緑の物語で今回の話の和真目線を書いた後、その次は合同回でアニメ1話を締めくくるという形にしようと考えております。
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