それでは、本編をどうぞ。
「ヒロくん!」
「穂乃果...」
「頭、大丈夫!?」
「それはこっちのセリフだこのア穂乃果!」
「心配したのに怒られた!?」
昼休み。
四時間目の途中で教室に帰ってきた俺は、授業が終わって開口一番心配してるのか馬鹿にしてるのか分からない言葉(彼女の反応を見るにどうやら後者)をかけてきた穂乃果に向けて怒りをぶつけるのだった。
「その様子ですと、あのポスターを見たようですね」
「ああ、バッチリこの目に焼き付けてきた。
ご丁寧に日時まで書いて、これで間に合わなかったらどうするつもりなんだよ...」
隣の席に座ったまま声をかけてきた海未に、ため息混じりの返事を返す。
彼女の言う『あのポスター』とは、俺の怒りの原因である例の『初ライブのおしらせ!』の事で間違いないだろう。
「すみません、私も気付いたのはポスターを見た人に言われた後で...」
海未も俺と同じように疲れた表情で言う。
なるほど、止める間もなく気付いた時には手遅れだったのか...
「まぁ、もう告知しちゃったものは仕方ない。
その代わり穂乃果、何がなんでも1ヶ月以内にライブの準備を終わらせるぞ、いいな?」
「うんっ! もちろんだよ!」
「元気な返事でよろしい。
ところで...」
と、ここで一度言葉を止め、さっきからずっとスケッチブックを抱えてキラキラした目でこちらを見ている少女の方に体を向ける。
「さっきからことりが持ってるそれは...?」
「うふふ...ライブの衣装、考えてみたの!
まだ見てないのはヒロ君だけだよ、はい!」
「衣装を!?
凄いなことり、どっかの誰かとは大違いだ!」
「ねぇヒロくん、なんでこっち見て言うの?」
どうやら、俺に衣装の案を見せたくてこちらを見ていたらしいことりを褒め、彼女から受け取ったスケッチブックを捲って中を見る。
そこには、デフォルメ化された穂乃果がピンクの衣装を来ている可愛らしい絵が描かれていた。
「おー、アイドルっぽい!」
「そう?嬉しいな♪」
俺の言葉に両手でガッツポーズをとるような仕草を見せることり。
あぁ、癒される...
それにしても、この絵を見たところミニスカートとか結構肌の露出が多い衣装だけど...
「これ、海未は着れるのか?」
昔から恥ずかしがり屋の海未が自らこの衣装を着る姿が全く目に浮かばない。
完成した衣装を見て逃げ出す姿は容易に想像出来るけど...
「私は、スカートの丈を長くしてもらいます」
俺の問いにすぱっと答える海未。
「...一人だけ、丈を長く?」
「ええ、この衣装では破廉恥すぎて人の前になど立てませんしね」
いや、一人だけ丈がおかしかったら逆に目立つし不格好にも程があるだろ。
それでいいの? という気持ちを込めてちらっとことりに目を向ける。
「(ぐっ!)」
いい笑顔のサムズアップが返ってきた。
あっ、これ普通に作ってゴリ押すつもりだ。
ことり、天使から小悪魔へジョブチェンジか...?
可愛いからOK。
「それじゃ、衣装問題は解決で...グループ名が決まってないんだったか?
さっき言ってた『少し考えた案』、一回聞かせてくれよ」
「「「.....」」」
俺の言葉に三人が苦い顔をして顔を背けた。
「...どうしたんだよ」
「これ、一応二つだけ思い付いた案だけど...見る?」
「? そりゃ見るけど...」
何で疑問系?と思いながら穂乃果から紙を受け取る。
どれどれ、案その一...
『みんなの名前をとって、ほのか!うみ!ことり!』
「何だ、お前らは漫才師にでもなるのか?」
「穂乃果の発案です!」
一つ目の案で彼女達が顔を背けた理由が分かり、見る気が失せているが、もしかすると二つ目は良いかもしれない。
信じてるぞ、案その二ーーー
『海未ちゃんは海!ことりちゃんは空!穂乃果は陸!
名付けて...陸・海・空!』
「市民の平和でも守るつもりかッ!?」
「これも穂乃果ちゃんの案だよ~!」
「どっちもアイドルとかけ離れすぎだろ!却下だ却下!
っていうか、もうライブまで1ヶ月しか無いんだぞ?
こんな事で時間使ってないで、早く練習を始めて行かないと間に合わないんじゃないか?」
「そうだよねぇ~...よし!じゃあこうしよう!」
そう言って、穂乃果は自らの鞄から黒のマーカーを取り出した。
...何する気だ、お前。
☆☆☆★
「うん!これでよし!」
満足げにそう言う穂乃果。
その目の前には例のライブのお知らせが...
「...これで、いいのかなぁ...」
『初ライブのおしらせ!そして...グループ名募集!』
...と、加筆されたライブのお知らせがあった。
「結局人任せですか...」
「時間も取らないし、グループの知名度も上がって一石二鳥だよ!」
「確かに、それはそうだけど...」
「よーっし!次は歌と踊りの練習だーっ!」
元気に腕を振り上げて言う穂乃果。
...まぁ、穂乃果の言う事も一理あるし、グループ名はひとまずこれでいいか。
それよりも今は練習をしていかなきゃな。
本番で失敗するわけにいかないしーーって、あれ?
「練習って、どこで?」
「「「あっ」」」
無情にもそのタイミングで鳴り響く五時間目の予鈴。
どうやら歌と踊りの練習はまだ始められないようだ。
☆☆☆★
「ぃよーっし!今度こそ練習場所を探そう!」
あれから二時間が経過し、放課後。
クラスメイト達が部活をしようと次々に教室から出ていく中、俺達四人は穂乃果を中心に集まっていた。
「練習場所を探す、と言うけどあてはあるのか?」
「無いよ!」
いつも元気な穂乃果の返答に思わずため息を一発。
あてがないって事は、つまり...
「探しに行こう!」
「やっぱりそうなるんだね...」
「私は部活動があるので、出来るだけ早くして下さいね」
口々に言いながら席を立ち、歩き出す。
まぁ、この学校には人が少ないんだし、練習場所なんてすぐ見つかるだろうな。
☆☆☆★
まずはグラウンド。
『入った!いえーい!』
バスケットコートで遊ぶ帰宅部らしき少女達や...
『いっちに!いっちに!』
グラウンドを列になって走る陸上部の人々がいた。
「ここだと邪魔になりそうだね...」
☆☆★☆
次は体育館。
『いけーっ!』
『アタック!アタック!』
ここでは、バレー部の少女達が汗を流していた。
「あー、ここも全部使ってる~...」
☆★☆☆
空き教室。
「うーん!ぬぐぐ!」
「鍵がかかってる...」
「空き教室は使えないみたいですね...」
「勝手に使えないんなら、鍵を貸してもらいに行こう。
理由を説明すればいけるかもしれない」
「そうだね、スクールアイドルをやるって言えば貸してくれるよ!」
俺の提案に意気揚々と職員室に向けて歩き出す穂乃果。
...提案しといてなんだが、部活でもないのに使わせて貰えるのかな?
★☆☆☆
「空き教室を?何に使うんだ?」
「スクールアイドルの練習を...」
「アイドル?お前らが?」
俺達の担任...確か、山田先生だったか。
彼女は穂乃果の言葉を聞いて怪訝そうに俺達の顔を流し見ると...
「ふっ」
「は、鼻で笑った...!?」
☆☆☆★
「...で、歩き回り教師に笑われ辿りついたのがここか」
俺達が最後にやって来たのは屋上。
昨日、穂乃果とやって来た後に和真君と話した、俺にとってはかなり印象深い場所だ。
「ここしかないようですからね...」
「日陰もないし、雨が降ったら使えないけど、贅沢は言ってられないよね...」
「うん、でもここなら音とか気にしなくて良さそうだね!」
屋上を見回しながら話す。
夏場は暑さが厳しそうだが、歌の練習をしても迷惑になりにくいし、なかなかにスペースがあるためダンスで大きく動いても大丈夫だろう。
「よーっし!頑張って練習しなくちゃ!」
気合い十分な穂乃果は落下防止用の柵に背を向けて立ち、海未とことりもその横に並んだ。
「まずは歌の練習から!」
「「はい!」」
「俺は客観的に見て改善点を探すから、思いっ切り歌ってくれ」
さて...普段から話してる俺は彼女達の声が綺麗な事は知っているのだが、果たして歌うのが上手いかどうか...
例えばこの中に一人でも音痴がいたならば、その一人だけ特別メニューで歌の練習時間を増やすなどの措置が必要になってくる。
そうなってしまうと困るため、出来れば綺麗な歌声が聞ければ...始まるの遅くない?
...........
「...えっと、曲は?」
おずおずと切り出すことり。
「私は、知りませんが...」
額に汗を滲ませる海未。
「私も...」
小さな声で言う穂乃果。
「「「...」」」
自然と、三人分の瞳がこちらを向く。
「いや、俺が知ってるわけないじゃん」
「だよねぇ~」
静まり返る屋上。
...どうすんだよ。
☆☆☆★
「とりあえず私は弓道部に顔を出してから行くので、先に少しだけ考えておいてください」
「「はーい」」
部室に向かって歩き出した海未の背中に手を振る穂乃果とことり。
あの後四人で話し合った結果、穂乃果の家で今後の事を考える事が決まった。
部活動がある海未だけは途中参加だ。
「それじゃ、歌詞を考えながら行こうか」
「あっ、それに関してはもう決まってるから大丈夫だよ!」
「え? 決まってる?」
「うん、歌詞が出来てるわけじゃないけど、歌詞を書けそうな人がいるんだ~」
そう言ってニヤリと笑みを浮かべる穂乃果。
何だよその言い方、気になるだろ。
「それにしても決まってるなら言ってくれよ、何も知らない海未が悶々としながら部活に行っちまったぞ?」
「大丈夫だよ、後でちゃ~んと話すから♪」
「? ならいいけど...」
なんで一人だけ楽しそうなんだよ、俺達を蚊帳の外にして楽しいか?
と考えながらちらっと隣にいることりの顔を見る。
「♪」
た、楽しそう...だと...!?
まさか、蚊帳の外にされていたのは俺だけだったのか...!?
「お、おい穂乃果、教えてくれよ。
幼馴染に隠し事は無しって言っただろ」
「いや、聞いたこと無いけど...
後で海未ちゃんも一緒に教えるから、それまで秘密!」
「ぅぐ...気になるッ...!
ことり! 教えてくれ〜!」
「あっ! 教えちゃダメだよことりちゃん!」
「あはは...ヒロ君、我慢しよ?」
「くっ...ことりが言うなら仕方ない、我慢するか...」
正直めちゃくちゃ気になるが、とりあえず今は忘れて歌詞問題が解決しそうだという事を喜ぼうか。
衣装とライブ場所の問題が解決し、歌詞もなんとかなりそうで、グループ名も並行して決まりかけている。
...となると後は作曲か。
作曲といえば頭に浮かぶのはやはりあの赤髪の一年生。
彼女には穂乃果が一度『イミワカンナイ』と一蹴されているが...
「穂乃果」
「なにー?」
「作詞はいいが、作曲はどうするつもりだ?」
「? 作曲なら、適任な子がいたじゃん」
きょとんとした顔で聞き返してくる穂乃果。
...まぁ、そうだよな。
「ああ、そうだったな、忘れてたよ」
本当に忘れかけていた。
穂乃果は一回や二回断られた程度で諦めるような奴じゃ無いって事を。
「適任な子?」
「うん、音楽室で会った赤髪の子でね、歌もピアノも上手なんだ〜!」
「そうなの? そんな子が音ノ木坂にいたんだね」
「私もびっくりしちゃったよ〜」
「それで、また勧誘に行くのか?」
「うん、でも今度はスクールアイドルになる事じゃなくて作曲だけをお願いしに行こうと思ってるんだ。
確かにあの子がスクールアイドルになってくれたら凄く嬉しいんだけど、今は歌を準備する方が大事だもんね」
「なんだ、穂乃果にしてはしっかり考えてるな」
「でしょ〜? えへへ...
って、穂乃果にしてはってどういう意味!?」
「そうと決まれば明日の朝にでもあの子に会いに行こうか」
「ねぇ、どういう意味? ヒロくん? おーい?」
穂乃果と露骨に目を合わせないようにしながら歩く。
さて...四人揃ってあの子に作曲を頼みに行き、彼女がそれを承諾してくれるかどうかだが...
多分、また断られてしまうだろう。
あの子は現状、俺達の事を全く知らない。
名前すらも知らないような奴等が急にやって来て、『スクールアイドルをやるから曲を作って欲しい』なんて言い出してもすぐそれに応じる事の出来る人間は数少ないだろうしな。
ならどうすればいいか?
答えは簡単、俺達の事を知ってもらえばいい。
俺達のやる気を、スクールアイドルにかける想いを、絶対に成功させたいという心を。
一度あの子の目で見てもらえばいい。
そのためには、穂乃果達が頑張っていると一目見て分かるような状況が必要なのだが...
「...よし、俺も一肌脱ぎますか!」
「? ヒロ君、どうしたの?」
「一肌って?」
「ふふふ...後で海未も一緒に教えるから秘密〜」
「あっ!ズルいよヒロくん、教えてよ〜!」
「隠し事はそっちが先だろ、我慢しろよ〜」
「えぇーっ!気になるよ〜!」
「そうか、ならば穂むらまで競争して俺に勝てたら教えてやろう。
昔はかけっこも鬼ごっこも負け続きだったが、八年の時を経て進化した俺の身体能力を見るがいい!」
「むっ、穂乃果だって毎朝走ってるんだから、ヒロくんには負けないよ!」
「その意気や良し! ならば俺も全力で...
って、お前毎朝走ってるってもしかして遅こ「よーいドン!」あっ!? ズルいぞ穂乃果!」
「二人とも待ってよ〜!」
一人フライングして前を走る穂乃果。
それを追いかける俺。
後ろをついて来ることり。
三人揃って笑顔を浮かべる俺達は、着実に前へ進み続けるこの一歩を踏みしめるのだった。
『...くしゅんっ!
何故でしょう、噂されているような蚊帳の外にされているような、不思議な気分です...』
...保健室送りになってるのにさらっと流しすぎた気がします。
次回の青の物語は、0話で登場したあの二人が再登場します。
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