(no side)
UTX学院、カフェスペース。
地上から離れた位置に存在するその場所で、一人の男がコーヒーを片手に建物の側面に備え付けられた大型モニターを見上げる人々の顔を見下ろしていた。
「...今日も来ない、か」
その赤い瞳が探すのは、茶髪に緑色の瞳を持つ一人の少年の姿。
数日前、この学院の合格発表の日。
今と同じように大型モニターを見上げる人々を眺めていた彼は、その中に一つの純粋に輝く瞳を見つけ、思わずその少年に釘付けになってしまった。
「あいつはその辺の奴とは明らかに違う。
休みの間に会って話がしたいんだが...」
そう言う彼がもう一度地上を見下ろすが、そこに探している少年の姿は無い。
「はぁ、あんないい目をする奴なんて滅多にいないんだがな...」
ため息混じりにそう呟いた彼はコーヒーを飲み干すと、カフェスペースを出て歩き出す。
「仕方ない、かなり面倒だが...
暇だし、探すか」
彼はそう呟きながら、自分の胸ポケットで鳴り続ける携帯電話を完全に無視してエレベーターに乗り込むのだった。
(side out)
★
(side 和真)
「このラーメン美味しいにゃー!」
「本当...!翠星くん、よくこんなお店知ってたね」
「ああ、うん...よく来るからね...」
音ノ木坂学院の入学式前日。
僕は星空さんと小泉さんと一緒に近所のラーメン屋で熱々のラーメンを啜っていた。
...どうしてこうなったんだろう。
そう、確かあれは一時間前の事...
「(なんだろう、これ)」
長期休みにはすぐに宿題や新学期の準備などを全て終わらせてしまう癖のある僕は、春休みの最終日である今日にやる事が無くなってしまったということで、なんとなく散歩に出かけていたんだけど...
「ぐぅ...絶対許さん...あのクソ親父ッ...」
その途中、道の中央をゆらゆらと動く殺気に満ち溢れた鞄の塊というシュールな物体に目を奪われていた。
凄く辛そうに見えるけど、呟かれた言葉にまで殺気がこもっているために助けに行こうと思っても踏みとどまってしまう。
「あっ...」
そうこうしている間に、シュールな物体は角を曲がってしまった。
手伝ってあげたほうが良かったかな...
『美味しかったにゃー!』
『次はどうしよう?』
と、少しだけ後悔をしていると、聞き覚えのある声が耳に入った。
声のした方に顔を向けると、そこにいたオレンジの髪の少女とメガネをかけた少女と目が合う。
「星空さん、小泉さん。久しぶり」
「翠星くん!久しぶりだにゃー!」
「久しぶり、あの時以来だね」
僕が挨拶をすると、二人は笑顔で応じてくれた。
どうやら忘れられてなかったみたいだ、よかった。
「二人は何をしてたの?」
「ラーメン屋巡りにゃ!」
「私はその付き添い。
前のライブの時についてきてもらったから...」
「そうなんだ、星空さんはラーメンが好きなの?」
「うん!翠星くん、いいお店知らない?」
「知ってるよ、実は僕もラーメンは好きなんだ」
「ほほう...案内したまえ、にゃ!」
「かしこまり!」
「...二人とも、ちょっとおかしいよ?」
そんな会話の後、丁度やる事が無かった僕は意気揚々と彼女を連れて行きつけのラーメン屋に向かったーーー
そして現在。
僕の行きつけのラーメン屋を出た僕達三人組は、次のラーメン屋に向かって歩いているんだけど...
「次のラーメン屋さんは始めて行くから楽しみなんだ〜」
「そうなの?それは楽しみだね..!」
さっきから僕の前を話しながら歩く小泉さんと星空さんを妙に意識してしまう。
僕があの後案内したラーメン屋で生まれてこのかた自分が女の子と一緒に食事をする事はおろか、遊んだことすら無い事を思い出してしまった僕は、いつも美味しく食べることの出来るラーメンの味が分からなくなるほど動揺していた。
「そうだ!翠星くん!」
「はーいなんでっしょい!?」
「うわ!?どうしたにゃ!?」
「い、いや、ごめん何でもない...ところで、何?」
「翠星くんは音ノ木坂で何の部活に入るつもりなんだにゃ?」
「部活...?」
「うん!凛は今のところ陸上部に入るつもりなんだ〜」
元気そうに言ってくる星空さんに少し戸惑う。
スクールアイドルが学校にいないみたいだから、アイドルに関する部活を作って活動したいーーーなんて、口に出せるわけがない。
「まだ決まってない、かな」
「そうなんだー...じゃあ翠星くん、一緒に部活見学に行こ!かよちんも、いいよね?」
「えぇ!?わ、私はいいけど、翠星くんは迷惑なんじゃ...」
「いや、僕は二人が迷惑じゃなければいいよ」
「そ、そうなの?」
「うん、僕も一人じゃ心細かったし...」
それに、アイドルに関する部活が本当に無いのか調べなければいけないし。
とは口に出さず、星空さんの提案に乗る。
「よーし、それじゃ、決まり!入学式が楽しみだにゃ〜」
「ふふっ、そうだね!」
楽しそうに笑う二人を見ると、僕も幸せな気分になってくる。
人を幸せにするその笑顔は、僕のずっと思い描いてきたアイドル像そのもので...
「(やっぱり星空さんと小泉さんは、スクールアイドルとしての素質がある)」
それは、幼い頃からずっとアイドルを見てきた僕の、根拠の無いただの直感。
それでも、彼女達が華やかな衣装を身に纏ってステージに立ち、歌って踊るその輝かしい姿が僕の脳裏にしっかりと浮かんだ。
「(だから、本当にアイドルに関する部を作ることが出来たなら、その時はーーー)」
「翠星くーん!早くしないと置いて行くにゃー!」
「っと...ごめん、すぐ行くー!」
彼女達はスクールアイドルとして。
僕はそのマネージャーとして。
一緒に歩んでいけたらいいなーーー
「やっと見つけたっ!」
「...へ?」
すると突然、思考を中断して彼女達の元へ急ごうとした僕の体が一人の男に腕を掴まれて止まる。
僕が振り向くと、そこにいたのは赤い瞳をした僕よりも背の高い青年。
彼は僕の顔をじっと見つめた後、「間違いないな」と小さく呟き、驚く僕に向かって口を開く。
「なぁ、君...スクールアイドルのマネージャーに興味は無いか?」
それは、唐突に訪れた...
僕の運命を大きく変える瞬間だったーーー
誤字、脱字報告等あればよろしくお願いします。