「すまんな、デートを邪魔しちゃって。
俺の名前は紅月 竜音、よろしく」
「いえ、デートじゃないんで大丈夫ですよ。
あ、僕は翠星 和真です」
UTX学院、カフェスペース。
星空さんと小泉さんと別れ、僕に声をかけてきた人...紅月さんに連れられてやってきたこの場所で、僕は目の前に座っている彼にそう言いながらコーヒーに口をつける。
落ち着いた返答をしたものの、僕の内心はコーヒーの味を全く感じられない程に緊張していた。
「ほんとにぃ?結構仲良さげだったけどぉ?」
「本当です。
彼女達と会ったのも数日前の事ですし」
「へぇ...その数日前ってのは、
ドキッ...と、心臓が跳ねるのを感じる。
つい一瞬前までおちゃらけた雰囲気を纏っていた紅月さんの瞳が鋭く光を放ったのがはっきりと分かり、更に緊張感が深まった。
「はい、落とした受験票を拾ってもらって...」
「そしてその後に三人でA-RISEのライブを見た。
...そうだね?」
「...はい」
「ああ、やっぱり君だったんだね...
さて、じゃあ早速...まぁ、さっきちらっと言ったけど、本題に入ろうかな?
翠星和真くん、君はスクールアイドルのマネージャーに興味はないかい?」
「っ!」
薄く笑みを浮かべ、目を細める紅月さんの二度目の言葉にもう一度耳を疑う。
普通ならこんな事を言われても相手の言葉を疑うような事はしないだろうけど、紅月さんの纏っているオーラやUTX学院という場所でのスクールアイドルについての話という点が、彼が何者であるかをほぼ明確にしているために今の状況が信じられないでいる。
僕はそんな隠しきれない動揺を宿しながら目の前にいる大きな存在に向かって口を開いた。
「その...こんな事聞くの、失礼かもしれませんけど...なんで僕なんですか?」
「君の目が輝いていたから」
「...はい?」
あっさりとした即答に思わず聞き返す。
僕の目が、輝いていた...?
「まぁ、その質問からして大体察してるだろうけどさ。
俺はな、公にはしてないが...とある三人組のスクールアイドルのマネージャーなんだ」
「そのグループって、やっぱり...」
「それで、そんな立場にあるだけに色んな人を見てきた」
紅月さんは僕の質問を遮って続ける。
「そんな多くの人の中でも純粋で綺麗に輝く瞳を持つ人ってのは本当に稀なんだよ」
「...そんな稀にしかいない人が、僕だった?」
「ああ、そういう事だ。
そして、そんな輝きを持つ君がマネージャーをすれば、きっと彼女達も輝けるーーー」
そこまで言うと、僕と目を合わせて言う。
「...A-RISEは、更に高みへ行けるんだ」
「っ...!」
「どうだい?A-RISEのマネージャーをやってみないかい?」
ずっと憧れ、愛し、目指した。
スクールアイドルのマネージャー...それも、A-RISEのマネージャーに誘われている。
答えは、すぐに決まったーーー
「スクールアイドルには興味があります。
ですが...お断りさせていただきます。」
「...ん?それはどういう事だ?」
「僕はスクールアイドルのマネージャーにはなりたいですが、A-RISEのマネージャーにはなりたくないんです」
「あー、もしかして、A-RISEの事が嫌いなのか?」
「ああ、そういう事じゃないんです!
むしろファンですよ!」
「んー...?だったらなんで?」
「えっと...A-RISEは僕の『憧れ』なんです。
だから、そこに入るのは何か違う気がするんです。」
そう、それが僕の答え。
今を逃したらもう夢には近付く事すら出来ないかもしれないけど...
「僕は、A-RISEの『ファン』でありたいんです!」
「ふふふ...はっはっは!」
「...紅月さん?」
「いやぁ...どうやら俺は君の事を舐めていたようだ。
君は俺が思ってた以上に...俺達を好きでいてくれてるんだな」
そう言うと、紅月さんは胸ポケットから紙を取り出してさらさらと何かを書くと、それを僕に渡してきた。
「これは俺の電話番号だ、何か困った事があったらかけてくるといい。」
「あ...ありがとうございます」
「あと、俺がA-RISEのマネージャーって事は内緒だぜ?
明日からはただの先輩後輩だ。
って事で...改めて、よろしくな!」
「はい!.....って、先輩後輩?」
「おう、だって合格発表来てただろ?」
「...あの、紅月さん」
「ん?」
「合格発表って、来たら受かるわけじゃないんですよ...?」
「...うそん、落ちたの?高校は?」
「音ノ木坂学院です」
「スクールアイドルは?」
「いません」
「...マジで?」
「マジです」
...紅月さんが動きを止め、僕の頬に汗が流れる。
ど、どうしよう。
紅月さんが『やべぇ』って思っているのがまじまじと伝わってくる。
「そ、その...なんかごめんなさい...」
「い、いや、こっちが壮大な勘違いをしてただけだから...」
「えーっと...連絡先、返しましょうか?」
「あー、別にいいよ。
出会いは大事って言うし...
そうだよ、この出会いは後々俺の為になるんだよ、うん、いつか、きっと」
後半は小声でよく聞き取れなかったけど、自分の中でこの出来事を正当化しようとしているのは伝わってきた。
「あー、本当にごめん、外まで送って行くよ」
「あ、はい、ありがとうございます...」
そう礼を言うと、ふらふらと立ち上がった紅月さんについて行ってここに来た時も乗ったエレベーターに乗り込む。
「...しかし、勿体無いな。
君みたいな人がスクールアイドルに関わる事すら出来ないなんて...」
「いえ、それに関しては努力しようと思っています」
「ん?そうだったのか?」
「はい、そもそもこの学院を受験しようと思った理由はA-RISEを近くで見てアイドルの世界を知ろうと思ったからなんです」
「近くで見るのは良くてマネージャーは駄目なのか?」
「そうですね...『見る』と『介入する』は大きく違うと思うんです」
「...こだわりが深いんだな」
話しながらエレベーターを降り、建物を出る。
「はは...まぁ、そういう事なので、僕はスクールアイドルのマネージャーは目指したいと思っています」
「でも、音ノ木坂にはスクールアイドルは...」
「はい、いません...今は」
「...ふふふ、はっはっはっはっは!
そうか、今はいなくとも未来の事は分からんな!
...それじゃあ、待ってるぜ?」
「...待ってる?」
「ああ、待ってる。
音ノ木坂学院で生まれるスクールアイドルとA-RISEが同じステージに立つその日を」
「っ...!ええ、必ず追い付いて見せますよ...
僕がマネージャーを務める、未来のスクールアイドルと一緒に!」
「ああ、楽しみにしてるぜ...それじゃ」
「はい!またいつか!」
タッと駆け出し、UTX学院から離れる。
決意は固まった。
後は進むだけだーーー
「よし!まずは音ノ木坂にスクールアイドルを誕生させてやる!」
力強く踏み出した翠の瞳の少年は憧れに向かって歩んでゆく。
これは、彼と未来のスクールアイドル達が創ってゆくーーー
ーーー緑の物語。
★
「ふふふ...楽しみ、楽しみ♪」
「随分と楽しそうね、リューネ?」
「げっ!ツバサ!?」
「全く、探したんだぞ?」
「ずっと電話に出ないから心配してたのよ?」
「英玲奈、あんじゅ...」
「ほら、ランニングに行くわよ?
もうサボらせないんだから♪」
「あのさ、流れるように一緒に走ることにしないで貰えるか?
俺はただののマネージャーなんだけど?」
「サボるから走らされるんじゃない」
「サボらなかったらお前らのハードなメニューに付き合わされるからサボるんだろうが!」
「結局サボってるのは認めるのね...」
「はぁ、全く...ほら、行くぞ」
「「「あれ、行くの?」」」
「お前らが行くって言ったんだろ!?」
「い、いや、竜音ならてっきり面倒くさがるかと思ってな」
「ええ、竜音くんなら絶対に逃げると思っていたから...」
「ついに逃げるのを諦めたのね、リューネ!」
「お前らは一体俺を何だと思ってるんだ!?」
「サボり魔ね」
「逃げ足の早い男かな」
「隠れるのが上手い人、かしら」
「きれそう」
「ま、まぁ、やる気があるのはいい事ね!
さぁ、行きましょう?」
「はいはい...っと、帽子帽子」
「はい、持ってきてあげたわよ。
全く、隠すのも大変ね、もうマネージャーだって公表したらどう?」
「熱狂的なファンもいるからな、男がマネージャーやってるってのがバレると面倒なんだよ。
というかお前らこそパーカー被るのやめたらどうだ」
「ファンの子達が集まって来ちゃ大変じゃない」
「はは、まぁ人気者は大変って事だな。
じゃ、行きますか」
「ふふ、やっぱりやる気なんじゃない、何かあったの?」
「...未来のライバルに会った」
「へぇ、あなたにライバルなんて言わせるグループねぇ...何て名前なの?」
「まだ出来てない」
「...はい?」
「音ノ木坂学院にこれから生まれるスクールアイドルだ」
「...冗談でしょ?」
「大マジだ。
音ノ木坂にスクールアイドルが生まれたという情報を聞いたら、すぐにマークしておいてくれ。
きっとそのグループは、頂点に。
...
「...ええ、分かった。
いつも私達の事を見ているあなたが言う事だものね」
「しかし、竜音にそこまで言わせるなんて、一体どんな人なんだ?」
「人を引き付ける力がある人とかかしら?」
「...まぁ、出てくれば嫌でも知ることになる。
それより今は特訓だ、走りに行くぞ」
「本当にやる気満々ね、リューネがここまでやる気なんて初めてじゃない?」
「ふん、どーだか。
初めてかどうかは知らないが、そんな貴重な事なんだ、時間が惜しい、さっさと行くぞ。」
「はいはい、それじゃ行きましょっか」
駆け出した紅い瞳を持つ少年を追うように三人の少女が走り出す。
これは二つの物語の裏で進んでゆくーーー
ーーー赤の物語。
突然の新キャラの竜音については名目上は《赤の物語》としているのですが、赤 ○-○話 として彼目線の物語が本編において進行する事はありません。
ですが、A-RISEのマネージャーとして青と緑の物語において重要な立ち位置にはなる予定です。
もしも彼目線の物語を作るとすれば、それは番外編として公開する事になると思います。
ここからは、この物語のメインキャラ三人の設定(容姿、性格等)を軽く紹介します。
《蒼陽 真拓(そうよう まひろ)》
青の物語の主人公。
黒髪蒼眼の強気な少年、高校二年生。
様々な学校に転校を繰り返しているために特技は多く、勉強もそこそこ出来る。
元が弱気だった為に肝心な所で弱いが、やる時はやる。
《翠星 和真(すいせい かずま)》
緑の物語の主人公。
茶髪碧眼の心優しい少年、高校一年生。
UTX学院を落ちた勉強の苦手なアイドルオタク、と、ここだけ聞くと印象は最悪だが、強い意志と夢に向かって真っ直ぐに突き進む精神が人を引き付ける才能に結びついている。
少し小柄な事を気にしていたりする。
《紅月 竜音(こうげつ りゅうね)》
赤の物語の主人公。
黒髪紅眼の陽気な少年、高校三年生。
A-RISEのマネージャーを務めているのだが、A-RISEの三人のハードな練習メニューに付き合わされている事に不満を抱いている。
音ノ木坂のまだ見ぬスクールアイドルと同じステージに立つその日まで、彼は今日も長距離のランニングに出かけてゆく。
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