どなた様かの暇つぶしに、少しでも寄与できれば幸いです。

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Dear My Friend

                   ♪

 

「……残念ですが、あなたの命はもう幾許もありません」

 医者が告げたその言葉に、わたしは静かな沈黙で応えた。覚悟はしていたものの、ショックだった。だが、ドラマや小説によく出てくる『足下が崩れていくのを感じた』とか、『目の前が真っ白になった』という風にはならなかった。そんな表現はいくらなんでも誇大しすぎ、と思っていたのだが、やっぱり誇大しすぎだった。

「……あと、どのくらい生きられるんでしょうか?」

 自分の身体の状態は自分が一番解っているので、医者の告げたことが事実だと理解しているわたしは、取り乱しもせずに自分の余命を訊ねた。

「持って三ヶ月程でしょう。しかし、これも確実ではありません。明日かも知れませんし、一週間後かも知れません」

 ようは、「いつ死んでも不思議じゃない」と言いたいのだろう。はっきりそう言ってくれればいいのに、と思う……。

 

 ―――――曖昧に言われたところで、わたしが死ぬことに変わりはないのだから。

 

「入院すれば、もう少しは長く延ばせるでしょう。どうしますか?」

 わたしの態度を死が近い故と思ったのか、医者が延命治療をするか? と訊いてくる。

 わたしは首を横に振った。どうせ死ぬのだから、そんなことをしても意味がないと思うし、第一

「もうすぐ死ぬことが変わらないのなら、残された時間も『わたしらしく』今まで通りに生きたいですから」

 これが、わたしの考えた答えだった。

 

 正しいとは思わない。しかし愚かしいとも思わない。

 誤っているとは思わない。しかし賢しいとも思わない。

 

「では、こちらからはもう何もありません。あなたは、他に何か聞いておきたいことはありませんか?」

 わたしは再度、首を横に振った。

「何もありません。ありがとうございました」

 会話を切って椅子から立ち、そして出入り口の扉に向かって歩き出す。

 そして、出入り口の扉に手を掛けたところでもう一度医者に振り向いた。

「最初にも言いましたけど、このことは両親には伝えないでください。必要になったときに、わたし自身が伝えますから……」

 返事を確認しないでリノリウムの廊下に出る。すると、目の前を小さな男の子が走って行った。「家族のお見舞いに来たのだろうか? それとも?」わたしは走り去っていく男の子を見ながらそんなことを考えた。いつもは考えないであろうことを考えているということは、少なからず、目の前に迫った「死」に何らかの―――恐怖に似た感情を抱いているからなのかもしれない……。

 

                   ♪

 

 廊下を歩き、ロビーを出、自動ドアをくぐり、家まで辿り着いた。

 その間のことはよく覚えていない。確か、どうやって普通に振る舞おうか考えていたはずなのだが、どうしてだろう?

「……ま、いいか」

 わたしはそれまでの思考を軽く片付け、ベッドに倒れ込んだ。

 広くも狭くもない部屋。その部屋の中には他の同世代の人たちと変わらないであろう家具が押し込まれている。

 勉強机。本棚。テレビ。ドレッサー。ベッド。一つ一つをゆっくりと見回した。その途中、わたしの双眸はある一つのもので静止した。

 その視線の先にあるものは、わたしが通う学校の制服。紺のブレザーとチェックのスカート。

 しかし、わたしの目がそこで留まったのは、単に制服があったから、というわけではない。その制服を着て、今学校で授業を受けている友だちのことを思いだしたからだ。

 わたしが病院で「『わたしらしく』今まで通りに生きます」と言ったのは、偏に皆との『約束』があったからだった。

                   ♪

 

「……………………………………………………ちゃん。……優羽(ゆう)ちゃんってば」

 呼び声と同時に背中をつつかれる感触に、わたしの意識は微睡みの淵から急速に浮上していった。わたしは目覚めきらないまま、わたしの背中をつつくのに夢中になっている少女―――灰川(ほのかわ)春留(はる)に目を向ける。

「あ、起きた?」

 春留は、へにゃっとした笑顔を覗かせて、現代文の教科書の253ページの6行目を指さした。

 急にそんなことをされても、キリストでも聖徳太子でもないわたしに理解(わか)るわけもなく―――まあ、キリストや聖徳太子なら今の春留の奇行を理解できるのか? というと、甚だ疑問なのだが―――

「何?」

 と訊ねる。

「次、当たるよ」

 春留は、今度は行の頭にシャーペンで印を付けながらそう言った。どうやら、「次に当てられるのは優羽ちゃんで、優羽ちゃんが読まなければならないパートはここからだよ」と言いたいらしかった。

「次、双海」

 私が教科書を開くと同時に、教師がわたしの名前を呼ぶ。わたしは椅子から立ち、春留に教えてもらった箇所を読んで、速やかに席についた。

「春留、そういうことは始めから口で言ってよね」

「……ごめん」

 目に見えて項垂れる春留。そういう風にされるとわたしも弱い。それに、寝てたわたしが悪いのだし、春留のおかげで助かったのも事実だ。お礼を言わない理由はない。

「……でも。ありがとね、助かった」

 春留は一瞬呆けたような顔をしたあと、「うんっ」と笑みの花を咲かせた。

 

「ありがとう、優羽ちゃん」

「?」

 全く意味が分からない。

 お礼を言ったのはわたしなのに、それにお礼で返されてしまった。

「何で、お礼? ここは『どういたしまして』が普通じゃない?」

 わたしの問いかけに、春留は春留特有のへにゃっとした笑顔を見せた。

「わたしもそう思ったんだけど、『ありがとう』って言われて嬉しかったから。―――だから、わたしも『ありがとう』かな、って」

 自分が嬉しいことをしてもらったら、『ありがとう』でしょ、と春留が笑う。

 わたしは呆気にとられた。わたしでは、そんな考え方なんて欠片もできないだろう。

「春留ってほんと、稀有な発想するのね。それじゃ堂々巡りじゃない」

 言い終わるとチャイムが鳴った。

 

「そこの居眠り女。あんまり仄川に迷惑掛けんなよー」

 

 と同時に、遠慮も何もない声が飛んでくる。

「………」

 迷惑を掛けたのは確かなので、わたしは反論もできない。

「仄川も大変だよなー。こんなのが前の席に座ってるなんて」

 声の主はいつの間にか傍に寄ってきて、春留と話している。

「そんなことないよ、冬木くん。分からない問題とか、いつも教えてもらってるから。ギブアンドテイク。等価交換だよ」

と、見るからに「寝ていたわたしをからかってやろう」オーラを纏った性格の悪そうな少年―――冬木祐一に笑いかける。

「ま、確かに双海は頭いいもんな」

 冬木くんは春留の言い分を肯定する。

 彼のこういうところは、わたしにとって尊敬に値する。たとえ、相手がどれだけ嫌いな人間であっても、いいところは素直に認められるのだ。人間、誰しも嫌いな相手の実力は過小評価したいのが当たり前だ。それをしないのだから、彼は純粋にすごいと思える。

「ね、優羽ちゃん」

「あ……ご、ごめん。聞いてなかった」

 どうやら、かなり深く思考に埋没していたらしい。途中から二人の会話を全く聞いていなかった。

「早く学食に行こう、って話してたの。三笠くんが席をとっておいてくれてるらしいから」

「分かった。それじゃ、急ごう。あんまり待たせるとかわいそうだしね」

「ったく。待たせた張本人が言うなっての」

 わたしと春留と冬木くん。それに、今話に出てきた三笠くんをあわせての四人は、互いが互いに高校で初めて出会ったのだが、今では、中学時代の友だちよりも大切な絆だ。

 わたしは、四人がいつまでも友だちでいられるように。そう願いながら、昼休みの喧噪の内を、学食へ向かって歩いていった……。

 

                   ♪

 

 ピロピロピロリロピロリリロッ!

 

 耳元で鳴る流行のミュージック。

 どうやらわたしは物思いに耽っている間に寝てしまったらしい。見てた夢の内容は覚えてないけど、とても幸せで、とてももの悲しいということだけは漠然と感じていた。

「そんなことより、早く電話に出なきゃ」そう思いつつ、ケータイの通話ボタンを押す。

 

『……もしもし、春留ですけど。優羽ちゃん?』

 電話を掛けてきたのは春留だった。

「うん。何か用?」

『何か用? じゃないよ。学校休んだから、どうしたのかな、って』

 そういえば、今日は学校に欠席の連絡を入れてなかった。それで心配して、わざわざ電話までしてきてくれたらしい。

『優羽ちゃん? 聞いてる?』

「うん。聞いてるよ。ただの風邪だから大丈夫だよ。別に、事故にあったり、死病にかかったりしたわけじゃないから」

 春留は電話の向こうがわで、最近、急に寒くなってきたもんね~、と呟いている。

『そっかそっか。ただの風邪でよかったよ。本当に事故とか死病とかじゃないんだよね?』

 胸の奥が、ずきり、と痛んだ。

「何だか残念そうね。流行性感冒とかって言えばよかった?」

 声が強張るのをなんとか抑える。

 知られてはいけない……感付かれてはいけない……悟られてはいけない……知られてはいけない……感付かれてはいけない……悟られてはいけない……知られてはいけない……感付かれてはいけない……悟られてはいけない……知られてはいけない……感付かれてはいけない……悟られてはいけない……

 そんな考えが頭の中を回りに回る。

『え? えっ!? 優羽ちゃん、本当は風邪じゃないの?』

 普段通り振る舞え……

「バカね。流行性感冒っていうのは風邪のことよ」

『も~。びっくりさせないでよ』

 普段通り振る舞え……

「ゴメンゴメン。母さんが呼んでるから、また明日。学校でね」

『わかった。でも、無理しちゃダメだよ』

 普段通り振る舞え……

「うん。じゃ」

『バイバイ』

 別れの言葉を口にして、通話を終了する。

「…………ふぅ」

 小さいため息を一つ漏らす。

 

 ―――何て、矛盾。

 

 皆がいたから、普通に生きると決意したのに……

 

 普通に生きるために、皆に嘘をつくなんて……

 

 私はどうすればいいのだろう……

 

 どうすべきなんだろう……

 

 そんな言葉が、頭の内でこだましていた。

 

                   ♪

 

 考えた末、わたしは皆から距離を置くことにした。一緒に居続ければ、別れたときの悲しみが増すだけだと思ったから……。

 

 わたしが皆を避け始めて半月。

「昼休み、屋上に来て」

 春留にそう告げられた。

 

 同じクラスなのだから、昼休みだけ避けても意味はない。

 

 それなら……

 

                   ♪

 

 わたしはドアノブに手を伸ばした。

 

                   ♪

 

「…………どうして……」

 わたしたちが通っている学校はコの字型になっていて、そのため屋上は二つある。

 わたしが今し方鉄扉を開いたのは、わたしたちの教室がある棟ではなく、その対面の棟の扉。それなのに、目の前には三人の男女がいた。

「どうして」

 わたしはネジのきれた人形のように、同じ言葉を繰り返した。

「お前は頭がいいからな」

 最初に、冬木くんが口を開く。

「双海さんなら、『どっちの屋上っていう指定はなかったと思うけど?』って誤魔化すと思ったから」

 結果は言わずもがな、だったね。と、三笠くんがわたしの考えをトレースしたように言い当てる。

「優羽ちゃん、最近変だよ。どうしちゃったの?」

 最後に春留が、心配そうにつぶやいた。

 わたしは答えない。こんな状況で口を開けるはずもなかった。

「わたしたち友だちでしょ? 心配ごとがあるなら相談に乗るから」

「…………………………何も、ないよ」

 かろうじて、それだけが言葉になった。

「嘘だよ!! 何もない人がそんなに悲しそうな顔する!? 辛そうな顔する!?  …………………………わたしたち……っ………ともだち……うっ……………ひっく……っじゃ……………なか……たの?」

 一瞬の激昂のあと、春留の言葉に嗚咽が混じる。

「俺も仄川に同意見だ」

「僕も」

 冬木くんと三笠くんも春留に同意する。

 ……もう、隠すのは無理、か。

「………………………………………………………………………………友だちだから。…………………………本当に、本当に大切な友だちだから、言いたくなかった」

 

 『告解の惑い場』

 

 昨日、小説で読んだ言葉が脳裏に浮かぶ。

 ―――――ああ、そうか。この場は、罪を犯したわたしのために神サマが用意してくれたのかもしれない……。

 

「……わたしね、もうすぐ死ぬの。病院で診てもらったから間違いない。病名は忘れた。長かったし、助からないって分かってたから、そもそも覚えようとしてなかったし。入院すればもう少し寿命を延ばせるって言われたけどやめた。

 嘘をついてでも皆と一緒にいたかったからね。…………でも、それもできなかった。別れるときの悲しみが増えるだけだと思ったら、避けるしかないって思った……」

 口を閉じると屋上に静寂が舞い降りた。

 わたしは下を向いているため、皆の表情が分からない。

「…………………………ねぇ、優羽ちゃん」

 春留が静かに口を開く。感情を抑えた声。そのオトが空気を伝ってわたしに届く。

「優羽ちゃんにとって、わたしたちってその程度の存在だったの?」

 わたしはコンクリートの地面を見つめたまま答えない。

 そのわたしの足下に影が増える。

「優羽ちゃん、顔上げて」

 言われるがままに顔を上げると、頬に熱が宿り、徐々に痛みへと変わっていった。数瞬遅れて、春留の平手がわたしを打ったと理解した。

「……春留」

「バカにしないでよっ!! 嘘をつかれても嬉しくないし、距離を置かれることも望んでない!! それは優羽ちゃんなりの気遣いかもしれないよ!? でも、そんな気遣いはいらないよ!! 友だちでしょ!? それなら何もかも話してよ!!」

 春留は流れる涙を拭おうともせず、わたしを真正面から見据えている。その瞳には強い意志の光があった。

「双海」

 冬木くんが春留の隣まで歩いてくる。

「仄川の言ってることも一理あると思う。けどな、俺は全てがそうじゃないと思う。人には言いたくないことの一つや二つ、誰にだってあるはずだろ? 双海は病気のことがそうだった。俺だって言いたくないことはある。それは多分仄川も三笠も同じはずだろ? だから、別に隠してたことにどうこう言う気はない。けどな、お前の行動は間違ってるって断言できる。俺たちがそんなに簡単に友だちを見捨てるようなやつらだと思ったのかよ? 友だちがもうすぐ死ぬからそいつとの付き合いをやめるっていうような奴がいたら、俺はそいつのことを見下げるね。

 友だちっていうのはそういうモノじゃないだろ?」

 最後に口を開いたのは三笠くん。

「僕は双海さんじゃないから双海さんの気持ちや考えは分からないよ。でも、僕が双海さんと同じ立場になって双海さんと同じことをしたら、双海さんも心配するんじゃないかな?

 理屈じゃないと思うんだよね、そういうのって」

 

 皆はわたしの今回の行動を非難しているが、その実、誰よりも心配してくれていることは痛いほど分かっていた。非難するという行為はわたしへの心配の裏返しということも理解していた。

 わたしはそんな皆にどうやって接すればいいのだろう? 一度は皆から逃げたわたしが、もう一度皆と一緒にいてもいいのだろうか……? その資格があるのだろうか……?

 

 ―――本当にバカだ、わたしは。皆はわたしのことをずっと友だちだと言ってくれてるじゃないか。何を怖がる必要がある?

 

 わたしは自身を叱責した。

「わたしはもうすぐこの世界からいなくなるけど、一度は逃げてしまったけど、また皆と友だちでいさせてくれる?」

 わたしは素直な気持ちを口にした。余計な修飾は必要なかった。

 そう、友だちとの間に余計な駆け引きなどいらないのだ。

 わたしは精一杯の笑顔をつくった。

 

                   ♪

 

 友だちに戻れた日から、わたしたちは今までにも増して一緒にいるようになった。

 一緒に登校して、一緒に勉強して、一緒にお昼ご飯を食べて、一緒に遊びに出かけて、今までと変わらない風景がそこにはあった。絶えず笑い声が聞こえる温かな風景が、そこにはあった。

 ―――――そう、これがわたしの望みだった。

 

                   ♪

 

 雪で覆われた校庭の真ん中で、わたしたちは向き合っていた。

「……皆、今日までありがとうね」

 わたしは口を開いた。

 これが皆との最後の会話。

「わたしは皆と友だちになれて嬉しかった。春留には、今までなあなあでしか築いてこなかった友だち関係が、こんなにも大切で温かなものだって教えてもらった。冬木くんには、友だちを無条件で認めることの優しさを教えてもらった。三笠くんには、友だちを想うことは理屈じゃないと教えてもらった。わたしはこんな皆と友だちになれてしあわせだった。

 ……本当にしあわせで、しあわせで、………」

 笑顔で別れようって決めたのに、涙はわたしの意志と関わりなく溢れてくる。わたしはいったん言葉を切り、空を見上げた。鈍色の雲から、粉雪が舞い降りていた。

「……春留が、わたしのことを大切な友だちだって想ってくれる……。冬木くんが、わたしのことを大切な友だちだって想ってくれる……。三笠くんが、わたしのことを大切な友だちだって想ってくれる……。わたしが、春留を大切な友だちだって想える……。冬木くんを大切な友だちだって想える……。三笠くんを大切な友だちだって想える……。そう想えるのが、想ってもらえるのが嬉しい。だから…………だからね、最後にもう一度だけ言わせて……。

 皆、今日まで本当に、本当にありがとう」

 わたしは長い独白(モノローグ)終止符(ピリオド)を打って、お辞儀をした。後悔がないと言えば、嘘になる。でも、それを補って余りあるほどのしあわせがあった。

 頭を上げたわたしは、涙を気にもせず莞爾と微笑んだ。わたしが雪景色の中に咲かせた()()は、もう風に吹かれていってしまったけど、それでも皆の心に残っていると信じている。

 

 ―――さぁ、後はお別れを言うだけだ。

「皆、バイバイ」

 学校帰りに、「また、明日」と言うような気軽さで、言った。

「わたしたちが天国に逝ったら、これから先のこっちのこと、教えてあげるから、優羽ちゃんも、わたしたちが天国に逝くまでの間にそっちであったこと教えてね」と、春留。

「俺たちは当分そっちに逝く予定はないけど、また会おうぜ」と、冬木くん。

「僕たちは何処にいても友だちだから、天国で四人揃ったら、また一緒に遊ぼう」と、三笠くん。

「バイバイ」

「じゃあな」

「またね」

 三者三様の別れの挨拶。皆は泣きそうになりながらも笑っていた。

「それじゃ、またね」

 

                   ♪

 

 家に帰ったわたしは、両親と兄に打ちあけた。両親は泣いていたが、それでもわたしの行いを否定はしなかった。兄は、短く「いい友だちを持ったな」と言っただけだった。

 

                   ♪

 

 いつの間にか雪は止み、夜空には月が煌々と、しかし静かに輝いていた。悲しくなるくらい綺麗だった。

 わたしはベッドに腰掛け、その月を見上げていた。目を閉じると、二度と目が覚めないことは自分でも分かっていた。だから、月を見上げているのだ。でも、いつまでもこうしているわけにはいかない。最後に、今日という一日を振り返って眠りにつくとしよう。

 

 …………………………

 ……………………………………

 ……………………

 

 思い返しているうちに、涙が溢れてきた。

「みん……な…は、泣いて………なかっ……たのに………なぁ」

 わたしは笑おうとして、笑えないでいた。「死」に臨む恐怖よりも、友だちとの(なが)の別れが悲しかった。だから、わたしは祈ることにした。この世界への、皆が暮らすこの街への未練を断ち切るために。

 

 これから先、皆が紡いでいく未来(モノガタリ)には幸福(ユメ)を……

 わたしの永劫の「(ねむり)」には安寧(アタラクシア)を……

 

「………………そして、願わくば……」

 いや、この願いはよそう。願っても意味をなさないものは願う必要はない。そう。皆が、そしてわたしが、友だちを忘れるわけはないのだから……。




はじめての投稿でオリジナル作品という、なんとも目に留まりづらい本作に目を通していただき、誠にありがとうございました。

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