もう京太郎はTSして京子ちゃんになればいいと思うんだ   作:通天閣スパイス

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咲逆行の続きがどうももうしばらく書けそうにないので、以前書いてそのまま放置していた小説をあげてお茶を濁すテスト


一話目

 目が覚めると、美少女になっていた。

 

 

 

 いや、何を言っているのか分からないと思うが、俺も何が起こっているのか全く分からない。俺のそこそこの頭脳で理解できるような事象を遥かに越える超常現象が、俺の身に起こっている。

 

 まず俺は男性で、自分で言うのもなんだが二枚目半の、一般的な域を出ないれっきとした男子高校生だったはずである。

 長野県の清澄高校を通い、所属する麻雀部で部活動に勤しむ、でもなんだか存在が空気になってきたような男子。それが俺で、須賀京太郎という人間だったはずだ。

 

 なのに今、朝起きた俺が部屋の姿見で見た自分の姿は、俺が知るその須賀京太郎のものなどではなく。

 ある程度の名残は残っているものの、明らかに別人だと思ってしまうほどに異なった、自分の好み“ド”ストライクの――『美少女』の容姿だったのだ。

 

 

 

「……うっそぉ」

 

 

 

 ペタペタと、呆然とした表情で自分の顔を触る、俺。

 

 優しげな印象を受ける垂れ目、スッキリと整った輪郭、程々に小振りな唇。髪は所々が無造作に伸びたセミロングで、色合いは実った稲穂のような綺麗な金色。

 身長は160あるかないかくらいで、全体的な雰囲気は子供と少女の中間と言った辺り。しかしスタイルは非常に発達しており、そのアンバランスさが何とも言えない魅力を生み出していた。

 

 そんな容姿の美少女が今、鏡の中で自分と鏡合わせのことをしている。

 頬を触れば少女も頬を触り、くるりと一回転すれば少女も回って、胸に手をやれば少女もおそるおそると自分の胸を揉み出した。鏡の中の少女は、俺の心の赴くままに様々な姿を見せている。

 これでその少女が他人なら個人的には嬉しい限りなのだが、悲しいかな、鏡の中で俺と相対している彼女は俺自身で。正確には俺が目が覚めるとなってしまっていたのが、その美少女だった。

 

 自分が少女になっている、という事実を一先ず受け入れた俺は、姿見の前から一度離れて。キョロキョロと周囲を見渡してみると、ここが自分の部屋――によく似た場所である、と理解した。

 大まかには自室と同じであり、例えば家具の配置や種類などは俺の自室と同じものだったが、細部がどうにも違う。壁に張っていたサッカー選手のポスターは某自称アイドル二十八歳プロ麻雀選手のものになっているし、棚の上に飾っていた昔のアニメの食玩は見た記憶もない女児向け魔法少女ものになっていて、ハンガーに掛けて外に出してある制服は清澄高校の女子用のそれであった。

 言ってしまえば、俺の部屋を多少女性っぽくした感じ、というところだろうか。少女趣味のぬいぐるみなどがない辺り違和感は大きくないものの、それでも慣れ親しんだ自室との差異は感じられる。

 

 

 

「……」

 

 

 

 ふと。嫌な仮説が一つ、頭の中に浮かんだ。

 荒唐無稽であり、普通なら創作物の設定が精々のものではあるが、現状に対する答えとしては十分な説得力を持つ。いや、持ってしまう。

 

 いやいや、と内心は首を横に振りながらも、それを確かめるために部屋の外へと出て。家の構造が“何故か”自宅と酷似しているために迷わず目的地、一階のリビングへと着くと、そこにいた女性の姿を見た。

 その女性は、俺がよく知る人間で。いつものようにリビングで朝食の用意をしているその女性は、確かに俺の母親である。ほんの少しの差異もない、俺の知るそのままの姿をしていた。

 そんな彼女はリビングに入ってきた俺を見ると、「おはよう」と挨拶をしてきて。その様子も普段のものと少しも変わらなくて、仮説の現実性がさらに強くなってくる。

 

 

 

「……えっと、さ。俺の名前って、なんだっけ?」

 

 

 

 ちょっと下らないことを聞くけど、と前置きして、彼女にそんなことを尋ねる。

 

 彼女は一瞬キョトンとした後、何を言っているのかとばかりに呆れた表情をして。リビングの入り口で立ち尽くしている俺に、さばさばとした調子で言葉を返した。

 

 

 

「――――何言ってるのよ、『須賀(すが)京子(きょうこ)』でしょ? いいからさっさと顔洗ってご飯食べちゃいなさい、朝はあんまり時間に余裕ないんだから」

 

 

 

 そう言って、仕度の作業に戻った母親を、横目に。

 まさかの仮説が当たった俺は、ただただ、口の端を引き吊らせることしか出来なかった。

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 須賀京子。どうやらそれが、俺の名前らしい。

 

 名前からしていかにも俺を女性にしました、というような感じを受けるが、実際そういった風である。

 須賀京太郎と同じく清澄高校に通い、そこの高校一年生で、所属する部活は麻雀部。出席番号も、教室の席の場所も同じで、交遊関係も男女問わず浅く広くと須賀京太郎のそれとあまり変わりはなかった。

 

 強いて違いを挙げるなら、夏の終わりだったはずの日にちが初夏の辺り――俺が麻雀部に入部したばかりの頃に戻っている、ということぐらいだろうか。

 色々な葛藤をしながら女子制服に着替え、憂鬱な気持ちで学校に向かった俺はそんな小さいタイムスリップが起きていること以外は男の時とあまり変わらない学園生活に、少し面食らって。特に何事もなく午前の授業を終えた後、学食に向かった俺は一人、レディースランチに口をつけていた。

 

 

 

「……」

 

 

 

 ズズズ、とスパゲティを啜りながら、無言で考える。

 

 朝起きて、女になってて、流されるままに学校に行って、そのまま何事もなしに学生生活を送ってる現状。

 親や教師、クラスメイトが特に何の反応を示さない辺り、俺が女であるというのはどうやら普遍の事実であり、少なくとも『須賀京子』が前は男だった、というようなことはないらしい。肉体的にも社会的にも、この世界は俺が女性である世界だということが分かった。

 

 しかし俺は、須賀京太郎は、確かに男だったはずで。少なくとも俺には男として生まれた記憶があり、男として過ごした記憶を持っていた。

 ならばこれは、いったいどういうことなのだろうか。自分が女になり、世界も俺が女であるとされているものに変わってしまった現状の理由と原因は、何があるというのか。

 極めて良いとは言えない俺の頭でもいくつかの仮説は思いついたものの、それらは全て推量と仮定に基づいたものであり、内容も随分と非科学的なものばかりであり。こうである、と自分を納得させられるような理由を導き出すことは、現状では不可能に近いようである。

 

 じゃあ今、俺に出来ることは何か。……残念ながら、何もない、と言わざるをえない。

 と言うよりも、この状況は一介の高校生が理解と対処可能な範疇を優に越えている。とてもじゃないが、俺にこの状況を解決出来る能力も自信もありはしない。

 

 故に、今俺が出来るのは、こうして状況に流されるまま生活を送ることだけである。

 そう結論付けた俺は、食べ終えたレディースランチの食器を片付けると食堂を後にして、麻雀部の部室へと足を向けた。

 

 今日は半ドンだから、もう授業はない。この後は楽しい楽しい部活動の時間で、我らが麻雀部も例外ではなかった。

 チラリと携帯で時間を確認してみると、既に授業が終わってから四十分ほど経過してしまっている。今頃は他の部員達も昼食を食べ終わるか、既に部室に行って皆を待っていることだろう。

 

 ……そういえば、俺が女になってるなら大会とかどうなるんだろうなぁ、などと。

 そんなことを考えながら歩みを進め、十分ほどの道程を経て部室へと到着して。カチャリとドアノブを回して扉を開き、麻雀部へと足を踏み入れた。

 

 

 

「……お。ようやく来たなー、きょうちゃん」

 

 

 

 予想通り、部室には既に四人の少女がいた。

 

 扉を開けた俺に最初に反応したのは、雀卓の椅子に座ってタコスを食べていた少女であり、彼女は快活な笑みを俺へと向ける。

 片岡優希という名前の彼女は、人懐っこい性格をした元気娘であり、麻雀部のムードメーカーだ。男の俺とは親友と言って差し支えないほどに仲が良かったが、女の俺とも関係はあまり変わらないのだろう、彼女は好意的な視線を俺に向けていた。

 

 

 

「須賀さん、遅いですよ。もう皆さん集まってます」

 

 

 

 続いて声をかけてきたのは、ベッドの上に腰かけてぬいぐるみを抱いている、真面目そうな雰囲気を持った少女。

 高校生離れしたバストを持ち、少し居眠りしていたのかまだ眠そうな目をしている彼女は、原村和。昨年の全中王者であり、素の実力は部内で一番高いであろう、全国でも有数の実力者の一人である。

 男の時は仲は良くも悪くもない、知り合い以上友人未満の関係でしかなく。個人的には是非ともお近づきになりたかったものの、後に彼女には少々百合の気があると優希から聞いて、悔し涙をこっそりと流したものだった。

 

 

 

「ま、二人ともそうゆわんで。別に遅刻したわけじゃあないしのぅ」

 

 

 

 その二人に対して俺のフォローをしてくれたのが、染谷まこ先輩。実家が雀荘を経営しており、自分もその手伝いをしているらしい、人の良くできた部内で一番優しい先輩である。

 眼鏡を外すと可愛かったり、広島弁を話したりと色々な特徴があるが、何故か清澄高校麻雀部ではわりと影が薄い。……他の部員のキャラが濃い、と言うべきだろうが。

 

 そして最後の一人が、部室の奥にあるホワイトボードの前に立ち、腰に手を当ててドヤ顔で佇んでいる少女で。

 茶髪をおさげにして纏め、おでこを広く出した健康的な印象の彼女こそ、この清澄高校麻雀部の部長――兼、清澄高校生徒議会長。この部とこの高校の学生のトップを務める彼女、竹井久は俺に視線を向けると、ニヤリと笑みを浮かべて、

 

 

 

「さて、揃ったわね……。それじゃあ清澄高校麻雀部、県大会に向けての全体的な流れを説明するわよ!」

 

 

 

 バシン、と叩きつけるようにして背後のホワイトボードを一回転。

 予め書いておいたのだろう、いくつかの短い文章が箇条書きに書かれている面を表にして、俺達麻雀部員へとそう宣言した。

 

 ……ん、いや、ちょっと待て。“揃った”?

 

 

 

「さて、それじゃあ始めに――――」

 

「あ、あのー! すいません部長、ちょっと!」

 

 

 

 始まったばかりの部長の話に、右手を挙げて慌てて割り込む。

 キョトンとした表情を浮かべる彼女に対し、俺はふと気になった、しかし俺達にとっては重要なことを尋ねた。

 

 

 

「あー、えっと、その。……今、麻雀部員がこれで全員揃った、って言いました?」

 

「え? あ、うん。そう言ったけど?

 私とまこ、和、優希、貴女。私達、合計五人の麻雀部員じゃないの」

 

「……六人じゃなくて、五人?」

 

「え、ええ。補欠は出せないけど、これでギリギリ団体戦に出れるって、貴女が入部した時に大騒ぎしたじゃない」

 

「…………えっと。宮永咲、って知ってます?」

 

「え? 誰それ?」

 

 

 

 心底、不思議そうに。そんな名前は聞いたことがないと、彼女は言った。

 

 生徒議会長、他の学校で言う生徒会長の役職に就いている部長は仕事柄、名簿に目を通す機会がある。

 つまり彼女は、全校生徒の名前を熟知――とは言わないまでも殆どの名前を一度は目にしており、それが清澄高校の生徒の名前なら少々の見覚えくらいはあるはずなのだ。

 にも関わらず、彼女は宮永咲という名前を知らないと断じて。俺が何度か問い返そうとも、その答えは変わることはなかった。

 

 ……そう言えば、同じクラスのはずの咲の姿が何故か見えなかったし、登校する時もあいつを見かけなかったけど。

 いや、いやいや、いやいやいや。さすがにそれは、洒落にならないんじゃなかろうか。

 

 

 

「あの、ホントに咲のこと知らないんですか!? あの魔王で、ポンコツで、嶺上マシーンのあの咲ですよ! プラマイゼロのあの咲ですよ!?」

 

「いや、だから、ホントに知らないんだって……。って言うか須賀さん、いきなりどうしたの? なんか変な夢でも見た?」

 

 

 

 しつこく咲のことを尋ねる俺に、逆に心配するような目を向けてくる、部長。

 部長以外の三人も似たり寄ったりで、突然騒ぎ出した俺に皆、不思議そうな――俺が何をそんなに騒いでいるのか分からないというような目で、俺を見つめている。

 

 ああ、成程。これはやはり、そういうことなわけで。

 この世界と俺が男である世界の差異が、こんなところで現れてしまった、ということだったりするのだろうか。

 

 

 

「……何がなんだか、よく分かんないけど。話がそれで終わりなら、説明始めてもいいかしら?」

 

 

 

 頭を抱えてその場にしゃがみこんだ俺を見て、一先ず放っておいた方がいいと判断したのか、部長は中断していた自身の話を再び始める。

 

 県大会、つまりは二、三週間後にあるインターハイの県予選に向けての計画を語る彼女に、俺はチラリと目をやって。

 

 

 

 

 

 

 

 ――宮永咲がいない清澄の未来を考えて、思わず乾いた笑みを浮かべてしまった。

 

 

 




なお、今のところ続きはない模様。

咲逆行は現在執筆中につき、どうぞ気長にお待ちください。いや、忙しいんです、ホント。

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