劣等生と異界の魔術師   作:セロリ畑

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 遅れました。ご容赦を。


入学編8 生徒会室への招待

 

「生徒会から呼び出し?」

 

 高校生活三日目の朝。

 登校したテオドールは深雪から声を掛けられ、言われた内容について首を捻る。

 

「ええ。先程七草会長からお兄様共々お誘いを受けてね。テオ君も来てくれないかしら?」

「深雪さんは生徒会への勧誘だよな……なんで俺も?」

「さあ……けれど「連れてきて下さいね」って私に笑顔で仰られていたから……」

「行かなかったら放送での呼び出しもあり得る、か……」

 

 若干頬を引き攣らせて述べるテオドールに、深雪は曖昧な笑みを浮かべて肯定の意を示す。

 用事も分からないのに敵地(と敢えて表現する)に招かれざるを得ないの状況。

 あまり気は進まないが、無視できるものではない。

 

「……因みに、グレイスも?」

「会長はそのつもりだと思うわ。そちらはお兄様からお話がいっている筈よ」

「ん、分かった」

 

 半分諦め気味ではあったが、特段断る理由も無いと判断したテオドールは了承を示す。

 従者にも連絡しておこうと端末を操作し始めた彼を、深雪は極めて自然に努めながら窺い見ていた。

 

 このテオドールという少年は、一体何者なのだろうか。

 昨晩兄と一緒に八雲の所へ行った事を、彼は知っているのだろうか。

 あの伝言についてどういう意味なのか、どういう意図なのかと言及した方が良いのだろうか。

 兄に任せておとなしくしておくべきなのか、まだ深雪には判断しきれない。

 そんな彼女の何か言いたげな視線にテオドールは気がついていて、理由にも当たりが付いていたが、特に何も言わなかった。

 

 

 A組で二人が話していたのと同時刻、E組でも達也たちいつものメンバー(まだ高校生活三日目だがそう言って構わないだろう)からグレイスが同じ話をもたらされていた。

 どう返答すべきかのタイミングでテオドールから同行の意のメールを受け取ったので、反対する気もない彼女はその旨を達也に伝える。

 

「テオドール様も行かれるそうなので、私もご一緒させて頂きます」

「そうか。会長が喜ばれそうだ」

「達也様はあまり乗り気ではないご様子ですね」

「……入学早々に生徒会に目を付けられて良い気分な訳がないだろ」

 

 憂鬱げに面倒そうな表情で漏らす達也だったが、こちらは妹と違って探るような目を隠さずにグレイスへと向けていた。

 彼の視線に対して、グレイスは曖昧に微笑みを浮かべるだけで何も言わない。

 それが誤魔化しではなく、主の居ないところでは話すつもりはない、という意思表示なのだと達也には感じ取れる。

 ならば恐らく今は問いただしても意味はないかと、彼は一度目を閉じてから含みのない視線に切り替えた。

 

「……そういえば、何故グレイスは俺にだけ様付けなんだ?」

 

 そして代わりの話題に、少し気にかかっていた話を持ち出した。

 グレイスは友人たちを呼ぶ際、おおよそ「さん」付けで呼んでいたと認識している。

 E組の皆は「エリカさん、美月さん、レオさん」で、A組の子も「深雪さん、ほのかさん、雫さん」と呼称していた。

 しかし達也に限り「達也様」と、彼女の主と同列の敬称を使っている。

 様付けされるような人間ではないと達也は思っているので、何かしらの理由があるのかと多少なりとも気になっていた。

 問われたグレイスは……若干きょとんとした表情になると、微妙に困ったように小さく微笑みながら答えを返した。

 

「達也様はその、貫禄があると言いますか」

「……貫禄?」

「テオドール様にも言える事ですが、何か悪い状況に陥ってもお一人でどうにか出来るように見える風格を、達也様からも感じるのです」

「……随分と過分な評価だな」

「あー、でもあたしも何となく分かる気がするな」

 

 達也に対する評価に言葉で同意を示したのはエリカだけだったが、よく見れば美月やレオも頷いている。

 それに困惑したのは達也本人で、何故出会って間もない友人たちにそこまで高い評価をされているのかと戸惑っていた。

 

「……偉そうに見えるって事か?」

「いんや、そうじゃないんだけどよ……」

「ほら、達也さんって落ち着いてて大人びてますし、人の上に居てもおかしくないっていうか」

「的確な言葉が思い付かないわね……」

「「「うーん……」」」

「いや、そこまで悩んでくれなくても良いんだが……」

 

 本気で悩んでいるように見えるクラスメイトたちを、達也は更に困惑する。

 その様子を見ていたグレイスは、申し訳なさそうにして端的な答えを述べた。

 

「つまり、私は達也様にテオドール様と同様の雰囲気を感じて、無意識に敬称を用いていたのです。ご不快でしたら申し訳ありません」

「ああいや、気にしなくていい。俺も少し気になった程度だったからね。この話はここまでにしよう」

 

 頭を下げようとするグレイスを制する達也は、これ以上自分が持ち上げられるのを拒んでいるようだ。

 その行動は一般的に、照れ隠しと呼ばれている。

 本人的には限られた感情内の気まずさ程度だったが、達也の頬にほんの少しだけ朱が差していたのがグレイスだけには見えていた。

 

 

 

 時は進み昼休み。

 足取りが重そうな男子二人と足取りの軽い女子二人、計四人は生徒会室の扉の前に居た。

 男性陣は面倒事になりそうな予感のせいで、女性陣は好意を寄せる兄や主と一緒に昼食を食べられる時間になったが故の気分の違いだ。

 招かれたのは主に深雪、次いでテオドール、達也とグレイスは謂わばオマケなので、インターホンを押す役目は必然的に深雪に譲られた。

 深雪が名を告げると明るい歓迎の声が返され、入室の許可が下りる。

 四人が目配せして、戸を開く役目は担った達也がドアを引き戸をスライドさせた。

 

「いらっしゃい。遠慮しないで入って」

 

 やけに楽しそうだな、と達也とテオドールが同じ感想を持つ笑顔で手招きしているのは、生徒会長の七草真由美だ。

 深雪とテオドールが先に入り、二人の後ろに兄と従者が続く。

 そして一礼。

 深雪とテオドールとグレイスが礼儀作法のお手本のようなお辞儀を、達也が軍人のような角張った礼を。

 あらかじめ四人が示し合わせていた……訳ではなく、深雪の威嚇じみた行動にテオドールとグレイスが合わせ、達也が呆れ半分で付き合った、という次第である。

 

「えーっと……ご、ご丁寧にどうも」

 

 新入生四人にそのような態度を取られれば、幾ら十師族と言えど真由美がたじろいでも仕方がない。

 事実、他の生徒会役員や風紀委員長もすっかり雰囲気に呑まれていた。

 場の様子を見た達也は、妹や友人たちの行動の意味が何となく理解出来た。

 相手の陣地でイニシアチブを確保するのが無理なら、空気を制圧する……そんな所だろうと。

 

「と、とりあえず掛けて。お話は、お食事しながらにしましょう?」

 

 それに少しだけ臆した様子を隠す為か、やや早口で着席を促す真由美の言葉に、四人は順に腰掛けてゆく。

 深雪、達也、テオドール、グレイスの順番になったのは、必然だと言えるだろう。

 堂々とし過ぎている新入生たちに調子を乱されていた真由美は、小さく咳払いをして自らのペースを整えた。

 

「こほん。ダイニングサーバーがあるのは……そちらのお二人も聞いていますよね? お肉とお魚と精進、どれがいいですか?」

「俺は精進を」

「私も同じものをお願いします」

「僕とグレイスは弁当があるので大丈夫です」

 

 メニューを達也と深雪が即答して、テオドールがグレイスの持つ手提げ袋を指差しながら辞退した。

 機械に入力して料理が出来るまで、真由美が間を繋げようとしてか、話を切り出す。

 

「入学式で紹介しましたけど、念の為もう一度紹介しておきますね。

 私の隣から会計の市原鈴音、通称リンちゃん」

「……私をそう呼ぶのは会長だけです」

 

 美少女というより美人と表現する方が相応しい少女、鈴音が溜め息を吐く。

 これは苦労していそうだな、と達也とテオドールは内心で勝手に考えていた。

 

「その隣は知ってますよね? 風紀委員長の渡辺摩利。それから書記の中条あずさ、通称あーちゃん」

「会長……お願いですから下級生の前で『あーちゃん』は止めてください。わたしにも立場というものがあるんです」

 

 小柄で童顔な少女が潤んだ瞳で抗議する様に、深雪やグレイスも含めた四人共「これは『あーちゃん』だ」と本人には気の毒ながらも思った。

 

「もう一人、副会長のはんぞーくん……服部刑部を加えたメンバーが、今期の生徒会役員です」

「私は違うがな」

「そうね。摩利は別だけど……あっ、準備ができたようです」

 

 ダイニングサーバーからトレーに乗った料理が出てきたのを見て、真由美が話を区切る。

 テオドールとグレイス、それから摩利の弁当持参組を除く全員に配膳が終わると、会食のような昼食が始まった。

 しかし、全員の主な注目はテオドールたちへと集まっていた。

 それもそのはず。グレイスが手提げ袋から取り出したバスケットからは、弁当というには豪勢過ぎる内容のものが広げられたからだ。

 

「凄く綺麗で美味しそう……グレイスが作ったのよね?」

「はい。テオドール様にはきちんとしたものを召し上がって頂きたいですから」

「分かるわ。私もお兄様には同じように考えているもの」

「だってさ。愛されてるね達也」

「いや、お前も似たようなものだろう……しかし、グレイスは紅茶やお菓子だけでなく、料理も高レベルなんだな」

「あー、色んな所から味を盗んだりしてるからなぁ……よかったら少し分けようか?」

「いいのか? なら、遠慮なく頂こう」

「深雪さんも、よければいかがですか?」

「まあ! ありがとうグレイス。頂くわね」

 

 司波兄妹は取り分けられた鶏肉の香草焼きを口に運ぶ。

 微妙に羨ましそうな視線を複数感じていた二人だったが、それを口に入れて咀嚼した瞬間、一瞬だけ思考を停止させた。

 

「…………美味い。これは、超一流の店でも十二分に通用するぞ」

「……は、はい……香草の風味も、お肉の食感も、これ以上にないぐらい……」

「ふふっ、お口にあって何よりです……先輩方もいかがでしょう?」

「これはどうも。頂きます」

「あっ!? リンちゃんズルい! 私も!」

「ちょっ、あたしの分も残しておけよ!」

「中条先輩はこちらを」

「えっ? あ、ありがとうございます……」

 

  グレイスが差し出した分を間髪を入れずに鈴音が手元に寄せると、真由美と摩利も慌てて箸を伸ばす。

  三年生三人の取り合いを横目に、入る勇気がなかったあずさにはテオドールが自分のおかずを分けていた。

 そしてそれぞれが分けられたものを食べて……洗練度の高さに、先の司波兄妹と同じく固まってしまう。

 

「……フラムスティードさん、うちで専属シェフをやらない? 出来る限りの好待遇でお迎えするから」

 

 中でも一番初めに復帰した真由美が、至極真面目な、摩利や鈴音たちには未だかつてないほどの真面目さに見える表情で、雇用の勧誘をする。

 

「申し訳ありませんが、私の全てはテオドール様に捧げておりますので」

「そ、そっか……残念ね……」

 

 そしてグレイスは爆弾発言──本人的には当たり前だと思っているもの──をにこやかな顔で述べた。

 彼女の笑みの中に有無を言わせぬ雰囲気を感じ取った真由美は、少し気圧されながら引き下がる。

 けれど他の女性陣はグレイスの告白にも等しい台詞から、二人の関係に興味を向けた。

 この集団では最も落ち着いている鈴音が、テオドールへと直球で投げ掛けた。

 

「ガートナー君とフラムスティードさんは主従関係と聞いていましたが、お二人は男女の関係でもあるのですか?」

「私もはっきりとは聞いていませんでしたね。テオ君、どうなの?」

 

 鈴音の言葉に重ねて、ずっと気になっていたであろう深雪も事の真偽を問うた。

 逃げ場の無い話を向けられたテオドールは、傍目でも嬉しそうにしているのが分かるグレイスと視線を合わせてから、照れが混ざった笑みで回答する。

 

「まあ……お察しの通り、とだけ」

「なるほど、回答ありがとうございます。そして不躾な話を失礼しました」

「いえ、お気になさらず」

「けど、テオ君は本当に幸せ者ね? こんなに綺麗でおしとやかで、お料理もとっても上手な子と一緒なんて」

「そうだね。違いないよ」

「私も、テオドール様のお傍に居られて幸せです」

 

 グレイスがそう言って寄り添うようにしてテオドールへもたれ掛かると、女性陣から黄色い歓声が上がった。

 テオドールもそんな彼女に優しい目を向けて、軽く髪に手櫛を通す。

 お互いがお互いを想い合っている……そんな様子に生徒会室に居る皆は口を挟めず、程度の差はあれど顔を赤くしたり視線を逸らしたりしていた。

 

「やれやれ……」

 

 その甘い空間を作り出した二人に、達也もだけは唯一呆れた視線を向ける。

 しかしふと、隣の深雪の様子が少しおかしくなっているのを感じとった。

 目を伏せて少し震え始めた妹にどうかしたのかと声を掛けようとしたが……

 

「──深雪も負けてはいられません!」

 

 その前に深雪が、何かを決意したような眼差しで声を上げて立ち上がった。

 いきなり大声を出した彼女に他の者たちも驚き、目を白黒させている。

 ……テオドールに関しては、何となく心当たりが付いたのか、すぐに苦笑いの表情へ変わっていたが。

 

「み、深雪っ?」

「お兄様! 私たちの兄妹愛も知らしめましょう!」

「待て、深雪、落ち着け──!?」

 

 トンデモ発言をした妹君が最愛の兄に飛び付くまで、僅か数瞬の間。

 この時の深雪の表情が見えていたテオドールは、後に目を逸らしながらこう語る。

 

 ──美女が野獣になると、迫力があるんだな──

 

 それからの話は、司波兄妹の名誉を守る為にも、出会って間もない生徒会役員の面々に、シスコンやブラコンなどの認識が早くも確立された、とだけ記しておこう。

 

 




 次回はいよいよ模擬戦。多分。

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