苦手な方はお気をつけください。
クドイ程クドイです。
- : 思考文と設定します。
2017/8/28
本文を少し修正致しました。
01.口から出た虚ろ
目の前には剣が刺さっていた。
岩になどではない。人に刺さっているのだ。
天から雨が降るのと同じように、平等に空から降り注いだ武器達。
それは水ではなく剣であった。
それは水ではなく斧であった。
それは水ではなく槍であった。
それは水ではなく絶望であった。
雨など降ってはいなかった。けれど液体がまるで雨のように顔を濡らした。
傘のように覆いかぶさった女が笑い、世界が赤に染まっていく。
それは間違いなく絶望であった。
引き戻されるように、落下したように目が醒めた。
引っかかっていた唾液を喉奥へと押し込んで小さく咳が口から出る。
-あの夢だ。
-未だに引きずっているのか?
-トラウマだから仕方ない。
「カット」
騒がしくなる思考に額を押さえ、小さく口を動かして思考を遮断する。
無理やり落とした思考が余韻のように残留し、それを誤魔化す為にメガネを外して目頭を軽くマッサージする。
ぼんやりとした視界で辺りを確認して、ようやくここが学校の教室である事を思い出した。
頭痛が和らいだあたりでメガネを戻し、前を向く。
目の前に広がるのは小学生にしてはレベルの高い授業。黒板の内容もそれに比例するように白い部分が増えている。
さらに黒い部分を消すようにしてスラスラと内容を継ぎ足していく教師。
対して自分の机の上に視線を戻せば白紙に近いノートが開かれている。
授業中に眠って、しかも夢の内容がアレだ。
「……死にたくなるな」
ボソリとつぶやいた言葉など誰にも聞こえる訳がない。
聞こえたところで別に興味もないだろう。
小さく溜め息を吐き出し、ノートにペンを走らせていく。
枕にしていた左手が少し痺れている事など気にも留めずに。
「よお! なのは!」
昼休みになり、わざわざ隣の隣の更に階段を跨いで隣の教室からやって来たのは銀髪が眩しい少年だ。
-騒がしい少年。他人をまるで自分の物のように扱う。
-眩しい男。まるで神に愛されてる容姿だ。
嫌いな存在である。日陰に存在している自分とは真逆の存在であり、それでいて日陰を疎む存在でもある。
-主観だけで言うなよ。
-客観でもその通りさ。
-ならばどうする?
答えなど決まっている。図書室へ逃げよう。
-否、戦略的撤退だ。
-否、図書室に前進だ。
カット。
これはただの敗走でしかない。そう、敗走である。
自分の勝利など必要ではないし、何より日蔭者が勝利する理由もない。
「
「ん?」
甘んじて敗走の味を楽しんでいたのだけれど、声を掛けられて振り返る。
-笑顔も添えてな。
そこに居たのは紫色の髪の女の子、月村だった。見覚えのある本を両手に持っていた彼女に顔を向ける。
-すずかたん!
-春だ! 屋上での昼食を誘おう!
-幼女が相手なんて……うっ…………ふぅ。
「カット」
「え?」
「いや。で、何か用?」
「えっと、借りてた本を返そうと思ってたんだけど」
「あー……俺の机にでもぶち込んどいてくれ。出来るな? キティ」
「ふふ。了解しましたわ、御主人様」
まるで台詞なような言葉を交わして、お互いに軽く笑う。
演技がかった軽口もそろそろ二桁目になろうとしている。お互いに慣れたモノである。慣れさせてしまった自分が言うのもオカシナ話かもしれないが。
-ふあぁぁあ! すずかたんかわいいよすずかたん!
-成長すればきっと美人だ。今からツバ付けとこう。
-バッカ! 幼女が最強だろ!
-光源氏計画を始めよう。
-それだ!!
「カット」
「お前! 俺のすずかになんの用だ!」
思考の余韻に苦しみながら耳に聞こえた声に眉間をこれでもかと寄せる。月村の顔がどうしてか申し訳なさそうに笑っているから俺の顔はさぞ劣悪に歪んでいるのだろう。
そもそも月村はお前さんのモノではない。更に言えば俺のモノでもないし、モノですらない。
-消えな、ガキ。
-ママのおっぱいでも吸ってな。
-おいおいガキなんかで思考を回すなよ。
-ショタが可愛いのは認める。
-え?
カット。
主張するように頭痛の波が激しくなり、片手で頭を抑えて大きく溜め息を吐き出した。
「……別に」
「ハッ! 根暗野郎め! さっさと俺達の前から消えな!」
「……へいへい」
余計に面倒な事にならない為にさっさと退散しよう。
再度大きく溜め息を吐き出して、月村に向けば相変わらず申し訳なさそうな顔をしていた。
-ほら! 笑顔だ!
-すまぁいる!
-今すぐニッコリ笑うんだ!
俺の表情筋はそこまで鍛えられていない。
図書室でのんびりと昼休みを過ごし、授業時間ギリギリに教室に戻って席に座る。
回避した面倒事と図書室での調べ物を比べればどちらに利益があるかなど語るまでもない。
座っていればどうしてか視線を感じ、そちらを見れば月村がやはり申し訳なさそうな表情でコチラを見ている。
-なんだあの可愛い生物は。
-やっぱり幼女だぜ!
少しばかり不思議に思いながら、机の中に手を入れる。言っていた通りであるならば可愛い子猫の贈り物がこの中にあるはずなのだ。
-持ち主は俺だから贈り物という表現は微妙。
-微妙なのは今更だ。
-なんせ芝居じみてるし。
-小説の引用だ。もちろんすずかたんも。
-その内官能小説でもこっそりと――
貸し出すにしても俺が持っている事が問題になってしまう。それに主目的である性処理すらこの年齢ではそれほど必要には感じない。
-否、文章を読む為。
-否、思考を巡らせる為。
-否、すずかたんが真っ赤になりながら読む為。
-応、すずかたん可愛すぎる。
-つまり、帰宅途中に官能小説を買うという事で可決だろうか?
-応!
カット。
第一、貸した後の言葉遊びや関係に困ってしまう。今の関係のままで十分だし、それ以上になるとしても精神年齢が――
「……ん?」
手に当たる感触を考えるに、本が無い。疑問に思いながら机の中を覗き見ても、やはり無い。
顔を上げて、月村を見れば両手を合わせて普段の申し訳なさに拍車を掛けて申し訳なさそうな表情をしていた。
-事件か!?
-事件だ!
-被害者は!?
-犯人はヤスだ!
-ギルティ! ギルティ!
カット。
熱狂するように騒がしくなってきた思考を一度遮断して息を吐き出す。
ともかく、既に教壇に教師が立っているから問いただす事も、謝られる事も出来ない。
-あれだな。これをネタにすずかたんをだな……。
-鬼畜乙。
-それは引くわ。
-ねぇわ。それは絶対ないわ。
-……ごめんなさい。
月村のことだから何か事情があるのだろうけど。その事情も聞けない事にはなんとも言えない。
今はこのつまらない授業に集中しよう。
-じゃ、じゃあ、あれだ! すずかたんの家に行こう!
-なぜ?
-行きたいけど。
-家族の人に向かって言ってやるんだ。
-何を?
-娘さんが本を失くしたので、娘さんを貰いますね。
カット。授業に集中していよう。
休憩時間になり、目の前にやってきた月村と金髪の少女。
言葉を待っていれば、月村がすんなりと頭を下げてきた。
「ごめんなさい……」
「事情がわからないから、謝られてもわからないんだけど」
「なによアンタ! すずかがこうやって謝ってるっていうのに許さないって言うの!?」
-リアルツンデレとは。
-ぬかしおるわ。
-しかも話を聞きませんのよ。皆様。
-ギルティ。
-これはギルティ。
-脱がすしかないのでは?
カット。目の前の金髪の少女の声も耳鳴りがするし、何より思考遮断で頭が痛い。
頭痛を我慢しながら、溜め息を吐き出して確認の為に口を開く。
「あー、バニングスさん? でいいのかな?」
「クラスメイトの名前ぐらい全員覚えなさいよ!」
「……これは失礼致しました。貴女のように常に学年一位を取れるほど高尚な頭脳は持ち合わせておりませんので。ワタクシめが覚えられるのは比較的近くにいる人の名前程度ですのでお許しくださいませ、バニンガムさん」
「ッアンタね!」
「ア、アリサちゃん」
恭しく、丁寧に頭を下げてやれば今にも殴り掛かりそうな声で凄まれた。
-おー怖い怖い。
-もっと煽ろうぜ!
-話がややこしくなるのでは?
-ツンデレが出てきてすずかたんがオロオロしてるぞ!
-煽れ! もっと煽るんだ!
-オロオロすずかたんをもっと観察せねば……!
-いっそ扇ごうぜ! スカートが捲れるぐらいに!
-なんだろう、風。吹いてきてる。確実に……!
カット。教室内だから風も吹いてきてないし、スカートも捲れないし、下から覗くこともない。
「ふんっ。まあいいわ。それで、すずかを許すの? 許さないの?」
「内容にもよるよ。それこそ実は親の仇だったりしたら許せないさ」
「はぁ?」
「例えばの話でリアリティもない戯れ言。嘘だよ。口から出た虚ろだ」
「アンタってヤツは……!」
「アリサちゃんいいよ。大丈夫だから」
「でも! コイツは根暗で人の事をこうやって馬鹿にして笑ってるような――」
「うん。でも、大丈夫だから、ね?」
「一度で言うことを聞かないとは頭のいい子供らしくないね」
「――アンタねぇ……!」
「大丈夫だから、ね?」
「……すずかがそういうなら。でも何か言われたりしたらすぐ言いなさいよ!」
そう言い残して、しっかりと俺を睨みつけてからバニングスさん……バニングスさんでいいんだよな? は俺と月村から離れる。
-ツンデレ面倒
-ツンだけだからな。
-フッ、ツンデレなど煩悩を捨てれば可愛いものよ。
-煩悩の塊から煩悩を捨てれば何になるんだ?
-" の塊”になる。
-まさに器だな。
-どうせその器に煩悩がインするんだろ。
-ブッピガンするのか。
「で、謝られる要因は……だいたいわかるけど」
-実はアナタの事が嫌いなの。もう近寄らないで。
-月村の手にはバラバラにされた本が……!!
…………。
-ごめん俺。
-元気出せよ。
「実は、あの本なんだけどね」
「お、おう……」
「その、えっと……
スメラギクン? スメラギ?
-あの眩しいガキだ。
-誰かがそう呼んでた気がする。
ああ、あのガキか。
歪んでる恋愛小説をアイツが? 表紙と題名は普通な本だったからか。
-お、すずか! その本おもしろそうだな!
-え、うん。ちょっとクセが強いけど面白かったよ。
-じゃあ貸してくれ!
-え? でもこれは――
-ありがとよ! さあ、飯にしようぜ!
みたいな? いや、俺の一方的な思考だから現実がどうなってるかはわからない。そもそも普通に借りた可能性もある。あるのか?
-ないだろ。
だよなぁ。何にしろ、目の前で怒られる事に怯えている月村は一切悪くないだろう。
「いいさ。数日したらスメラギくん? から返しにくるだろ」
「だと、いいんだけど」
「……どうにかなるさ。今はどうにもならないバニングスさんをどうにかしてくれ」
「え?」
肩を竦めて両手を軽く上げた俺を少し遠くで睨んでくるバニングスさん。月村と喋ってる間ずっと睨んでくるのだ。
-あれは視線で人を殺せるね。違いない。
-隣の高町さん? も睨んでる。
-むしろ周りの女子も睨んでないか?
-男子は男子ですずかたんと喋ってるから睨んでくるし。
-女子たちはあれか? あのイケメンガキがいいのか?
-マジかよ。イケメン最低だな!
カット。
頭痛を抑えるように溜め息を吐き出した俺に月村は苦笑して小さく"ごめんね”と呟いた。
次は原因がわかっているので俺はソレを素直に受け取った。
~「カット」
分割思考の切断のルーティング。
~屋上昼食
憧れの行為。青春。
~名前のない『本』
ちょっと気取った貴族の青年とそれに仕える少しだけヤンデレなメイドさんの恋愛を綴った小説。結果的にヤンデレメイドさんが青年に恋人を殺させて一緒に逃げるように仕向けた為に『歪んだ恋愛小説』と主人公は言った。ちなみに架空の作品。
~すずかたそ
可愛い。
~キティ
子猫。変更点。沢山セクハラと言われていたので
~犯人:ヤス
大体コイツが犯人。ヤスが悪いよヤスが。
~光源氏計画
古代日本から伝わるロリコン経典より
~遊ぶアトガキ
前拙作と似た感じに。