明日も自分と同じようなオッサンに囲まれつつの仕事だと思いながら、憂鬱な気分で眠りにつき、目を覚ましたら赤ん坊になってました。
何を訳の分からん事を言ってるんだと、そう思っただろう? 大丈夫だ、俺自身状況が理解出来ていないからな!
その理解不能な状況の俺だが、取り敢えず自分の小さな体へと神経を集中させる。すると、何故か猿のような尻尾があるのに気付く。
しかも、それが偽物の類いでないのは間違いなく、自分の考える通りに動かせる事から考えても本物なのだろう。
人間はパニックに陥ると、その動揺の大きさによっては逆に冷静になるらしい。何故なら、今の俺自身がそうだからだ。
尻尾を目前でユラユラとさせつつ、何でこんな状況に立たされて居るのかを冷静に考えてみる。
ふむ、分からんな。寝て起きたら赤ん坊だった。それ以外に答えようがない。
三十路のオッサンが、目覚めたら赤ん坊になってる訳ですよ。しかも、尻尾の生えた赤ん坊だ。人間かどうかも怪しい。
で、自分の体に関する事情は分からないので一旦置いておくとして、自身の寝かされている保育器?っぽいやつの両隣へと視線を移す。
するとそこには、俺と同じような赤ん坊が保育器に寝かされて居た。……ただし、右隣の赤ん坊は煩いくらいに泣き続けているけど。
看護婦さーん、隣の赤ん坊が泣いてますよぉーー!!
次いで、俺が視線を向けたのは足下だ。まぁ、足下とは言っても文字通りの意味ではない。ガラス張りの通路と思わしき方向、という意味である。
「戦闘力10かよ。下級戦士の子供とは言え、弱すぎないか?」
「確かにな。コイツの親は戦闘力10000のバーダックらしいが、やはり下級戦士のガキは弱くて当然なのだろう」
「それにしても弱すぎだろ」
俺の隣で煩く泣き続けている赤ん坊に向かって、変な服を着た成人男性二人が嘲笑するような口調で感想を言い合っている。勿論、その成人男性二人にも尻尾が生えていた。
で、ここまで来たら俺にも理解出来たよ。あの変な服とバーダックって名前、それと隣で泣き続けている赤ん坊の髪型からして、赤ん坊の名前はカカロットなんでしょう? ははは、ワロとけワロとけwww
って、笑える訳ないじゃん!! 何だよそれ!! 何だよこの状況!! つまり、カカロットの隣に居る俺は、ブロリーって事かよ!!
「で、この隣のガキは………」
内心で、これまでの人生でも一番のツッコミを入れていると、先程までカカロットの感想を言い合っていた連中の視線が俺へと向けられた。
カカロットについてグチグチと姑みたいな事を言っていたが、俺に向ける視線はカカロットに向ける冷ややかな視線より更に酷かった。解せぬ。
カカロットの隣に居るとなれば、ブロリー以外には存在しない筈。となれば、赤ん坊とは言え現時点での俺の戦闘力は10000程だろう。しかし、何故か俺へと向けられる視線には侮蔑すら感じられる。
強すぎても敬遠されるのだろうか? あ、そうか。ブロリーは生まれながらに強すぎて、ベジータ王に嫌われていたっけ。
そう内心で思う俺は、合点が行ったとばかりに赤ん坊らしくない仕草で小さく頷いた。しかし、どうやら答えは違っていたようだ。
「名前は、ブロリーか。バーダックのガキも弱いが、このブロリーってヤツはもっと弱いな」
「戦闘力1ってのは初めての事らしい。たまに強すぎる個体が生まれる事はあるが、ここまで弱いヤツも珍しいぞ」
「いやいや、珍しいって言ってもよ、弱すぎるのに珍しいもクソもねぇだろ」
「違いねぇ。この戦闘力じゃただのカスだしな」
ちょっと聞きました、奥さん? ブロリーの戦闘力が1って可笑しくねぇ?
ははは、ワロスwww ブロリーが弱いって、そんな訳ねぇじゃんwww
え、嘘だよね? 死んだ記憶は無いけど、転生かと思い実は少し喜んだんだけど……しかも、ブロリーなら尚更じゃん? なのに、戦闘力1て……マジでカスじゃん……。
「カカロットとブロリーは、弱すぎるから同じ星に送られるらしいぞ」
「それも珍しいな。普通なら、一つの星に送る赤ん坊は一人だけだろ?」
「ああ、普通ならそうだ。だが、片や戦闘力10、片や戦闘力1だからな。流石に戦闘力が低すぎて、星の原住民を全滅されるのは無理だと判断されたらしい」
「ふん、弱すぎるサイヤ人など殺せば良いだけだ」
「オレもそう思うぜ」
おいおい、好き勝手言ってんじゃねぇよ! 俺じゃなかったら大泣きしてるぞ、バカ野郎! って言うか、カカロットと同じ星なら地球って事じゃねぇか!?
うわぁ……死亡フラグ満載の地球かよ。勘弁して欲しい。ドン引きだわ。
天津飯に出会えるのは嬉しいが(原作で一番好きなキャラクターだ)、死ぬのはイヤだなぁ。いや、戦闘力が原作のブロリーのままなら別に構わないんだけど、何故か銃を持ったモブのオッサンより戦闘力が低いし、正直言って地球には行きたくない。
しかし、赤ん坊の俺には拒否権がある訳もなく……。
だが、暫く悩んでいた俺に名案が閃いた。それは、イヤなら逃げれば良いじゃない、だ。
つまり、何とか保育器から脱出し、地球に送られるのを阻止すれば良いと言う訳である。
となれば当然、早速行動に移すとしようではないか!
生まれながらの戦闘民族の体のお陰か、どうにかハイハイが出来る事を確認した俺は、保育器から脱出する………と言うか、顔面から地面に思っくそ落ちたのだが。
兎も角、一応は脱出したと言って良いだろう。次は、隠れる場所を探さねばならない。
確か、カカロットは生後間もなく地球に送られる筈なんだから、一日くらい隠れてたら遣り過ごせるだろう。
沢山の保育器の下を縦横無尽にハイハイし、周囲に視線を巡らす。しかし、隠れる場所が一つも見当たらない。
絶望だ。結構疲れてきた事も相まって、かなりブルーである。
「ん? ガキが一人居ないぞ?」
「あぶぅ(ヤバ!?)」
「そこに居たのか! どうやって保育器から出たんだ!?」
見つかっちまった!? 最悪だよコンチクショー!
俺を捕まえようと近付く男から、一心不乱にハイハイをしながら逃げる俺。もうそりゃ必死に、だ。
こうなったらカカロットが宇宙船に入れられるまで、保育器の下をハイハイしながらドリフトしたりしつつ遣り過ごすしかない。
「何だコイツ!? 戦闘力1のクセに、滅茶苦茶素早いハイハイだな! つうか、早すぎてキモい!!」
「あべあぶぶぅ(戦闘力の事は言うんじゃねぇよ!)あぶあば(泣きたくなるだろうが!)あびびぶぅあばあば(それに、キモいって言うな!こちとら必死なんじゃボケ!!)」
悪態つきつつ必死の形相で逃げ続ける俺。多分、今の俺の顔は、十人見たら十人が笑うくらい必死の形相だと思う。
それくらいマジで、全力で、フルパワーでハイハイしているのだ。
だが、俺の必死の抵抗は虚しく、体力が尽きたところで猫を摘まむようにしてアッサリと捕まった。そして、ハァハァ(;´Д`)ゼェゼェと激しく呼吸を乱す俺と、煩く泣き続けているカカロットを一緒に抱える男の手によって、一人乗り用のポッドにそれぞれ押し込まれる。
ポッドの中で項垂れる俺の呼吸が戻ったきた頃には、死刑宣告にも等しいカウントダウンが始まった。
そうして、俺の必死の抵抗は名も知らぬ男の手によって防がれ、無情にも地球へと飛び立ったのだ。
しかし、イタチの最後っ屁と言わんばかりにポッドの中に放り込まれる瞬間、俺は名も知らぬ男のスカウターをパクったけどな!
ポッドの扉が閉まる瞬間の男の顔が、滅茶苦茶面白かったので許してやろうではないか! あと、キムタクみたいに、「ちょ、待てよ!」って叫んでいたところなんかが最高だったと付け足しておこうwww
のんびり書いていきまーす!