真っ暗な金庫内に足を踏み入れた瞬間に、左右の壁から幾つもの炎が発生した。
それに少し驚くものの、暫くして炎の明かりに目が慣れると、天井から吊るしてある松明に火が点いたからなのだと理解し、驚きも冷めた。
だが、直ぐに新たな驚きにより目が点になる事となる。
その理由は…………
「レッドリボンの兵士ではないな。何者だ?」
金庫内にある筈の金銀財宝は一つも存在せず、その代わりに近未来的な様相のサイボーグが一人居た。
俺は知っている。目の前の真っ青な色をしたサイボーグの事を、俺は知っているのだ。
それ故に意味の無い質問であったのだが、自分の心を落ち着ける為に敢えて質問する事で時間を稼いだのである。
そんな俺とは対称的に、ランチさんは親の仇でも前にしたかのように叫ぶ。
「何だテメェ! オレの宝は何処だ!」
「下品な女だな。……しかし、お前の発言で何者かは理解出来た。トレジャーハンターなのだろう、お前達は?」
「ぶっ飛ばすぞ、テメェ! 宝は何処だって聞いてんだろうが!」
俺が動揺のせいで黙っていると、宝が無い事で怒髪天になったランチさんがサイボーグに文句を言い募り始めた。
そしてそんなランチさんにサイボーグが、「やれやれ」って感じで肩を竦めた瞬間………
「死ね!キザ野郎!」
そう叫びながら発砲するランチさん。サイボーグの………サイボーグ
だがスパスから放たれた散弾の悉くが、サイボーグ忍者が持つ忍者刀によって弾かれてしまう。
それを見てますます苛立ったランチさんは、腰に提げていたポーチから手榴弾を取り出し、物凄い凶悪な笑みを携えてピンを抜く。
そして小さく秒数を呟いた後、サイボーグ忍者に向かって投擲。
弧を描くように投げられた手榴弾は、サイボーグ忍者の頭上で盛大に爆発し、破片を四方八方に飛び散らせた。
「はっはっはっ!素直に宝のある場所を喋っていれば助かったのにな!」
勝ち誇るランチさんには悪いが、俺の目には確りとヤツの動きが見えていた。
……ヤツは、サイボーグ忍者は、俺達の真後ろに移動しているのだ。
ただ素早く移動しただけじゃない。残像拳を使用して真後ろに移動したのを確かにこの目で確認した。
その証拠に、勝ち誇るランチさんを尻目に俺が背後に視線を向けると………
「ほう、私の動きを視認出来るとは驚かされる。なかなか優れたソルジャーのようだ」
「な、何!? 何時の間に後ろに!?」
「子供は年齢に見合わぬソルジャーっぷりだが、女の方は年齢相応だな」
驚かされたのは俺の方だよ。何でお前が残像拳を使えるんだ?
いや、そもそも何故此処に居る………グレイフォックス!
「ど、どうやって………オレの爆弾で死んだ筈だろ!」
「手榴弾が爆発する瞬間、その刹那に素早く移動しただけだ。
それより、此処にはレッドリボンの兵士が来ている筈。ソイツらには遭遇しなかったのか?」
「チッ……いけすかねぇヤツだ」
「質問に答えてくれないか?」
「あぁ、会ったよ。だが、ソイツらは一人を残して全滅したがな」
「お前が殺ったのか? それとも、そっちの子供のソルジャーか?」
「オレだよ。文句でもあんのか?」
「いや、文句など一つもない。どちらにせよ、私が排除する手筈だったからな」
何か俺を他所に話が進んでいるんですけど……いや、それが悪いとは言わないよ? ただ、グレイフォックスの存在にパニクっている俺を無視するのは止めてくれると有り難い。
そんな俺を尻目に、ランチさんが「だったらオレらに用はねぇだろ。宝は何処にある? 隠してるとぶっ殺すぞ」などと言い始めたので、マジで再び殺し合いを再開しそうだったので俺が仲裁に入る。
「ストップ!ランチさん、落ち着いて!」
「バカかお前。やっと宝を隠してある場所まで来たのに、指咥えて我慢出来んのか? それでも男か、ブロリー?」
確かにそれはそうだけど、今は我慢して欲しい場面なんですよ。仕方ないでしょうが。
そう思いつつガックリ項垂れていると、グレイフォックスが小さく俺の名前を呟きながら驚いているのが視界に入った。
あれ? 俺とグレイフォックスは初対面の筈なんだけど、何で俺の名前を聞いてビックリしてるのかな?
「……そうか。ふっふっふっ、お前がブロリーだと言うのならば納得出来る。私の動きを視認出来た理由がな」
「……初対面の筈だけど?」
「仲間からの情報で、恐ろしく強い子供に出会ったと聞いた。そして、その子供が成人する頃を見計らってFOX部隊に勧誘する為、ブロリーという名の子供を探すべきだと新人の部隊員が進言していたな。
因みに、情報をくれた男の名前はスネーク。勧誘すべきだと進言していたのはメアリーだ」
何それ止めて!? 俺はFOX部隊には絶対に入らんぞ!
何せ俺は武道家であって兵士ではないのだから、戦場に行ったりするつもりは微塵もないんだ。
………あれ? でも、ナメック星に行ってフリーザ達と戦うって事は、戦場に行くのと同義なような気が………。
い、いやしかし、やはりそれとこれとは別問題だと思う。常識的に考えて。
「お、俺は兵士になるつもりは無いぞ!」
ちょっと考え始めたら動揺したのもあって、少し吃りつつの拒否となってしまった。
しかし、俺の明確な意思が伝えられたのは事実。
すると、グレイフォックスは俺の発言を耳にしても特に気にした素振りも見せず、クツクツと笑いながら口を開く。……いや、フルフェイスのヘルメットを被っているのではっきりとは分からないが、喋り始めたので口を開くと言う表現は間違っていないだろう……と思う。
「そこまで毛嫌いしなくとも良い。それに、本気で勧誘を考えているのはメアリーだけだからな。他のメンバーは新人の戯れ言だと思っているから気にしなくとも問題ない」
「そ、それなら安心だ。……それはそうと、何でレッドリボンの兵士が来る事を知っていたんだ? アンタの口振りから察するに、此処で待ち受けていたのは分かるが」
「雷電……ブロリーは知らないだろうが、雷電という仲間からの情報で事前に知っていたのだ。そして、その兵士達の始末に丁度良いからと、丁度近くに居た私が待ち受けていた訳だ」
「成る程。……それじゃあ、もう一つ教えてくれ。此処にあった宝は?」
いい加減宝の事を尋ねなきゃランチさんに怒られそうなので、それを尋ねてみた。
すると、無言で俺の横に立っていた妙齢の女性からの殺気が消えた。……誰とは言わない。怖いので、そこは察してくれ。
「宝は確かに此処にあったが、それは十年も前の事だ。私達FOXの隊員が以前に発見し、その時に回収している。
余談だが、此処にあった宝のお陰で部隊の装備が最新式になった」
「そ、そう、ですか」
片頬がピクピクと痙攣しているのが分かる。
その痙攣を無視して、隣に居る女性に視線を向けると………
(般若!!! 恐ろしい程に憎悪の炎を瞳に灯した般若!!!)
メッチャ凄い形相を浮かべるランチさん。
きっと誰が見ても同じ発言をするだろう。……般若だと。
そんなランチさんが、俺へと鋭いメンチを切って来た。
ははは、ランチがメンチを切るって、何それちょっと面白いではありませんか!
なんて冗談を言える雰囲気ではないのは一目瞭然で、まるで親の仇かのように俺を睨み付けると、これまたまるでこの世のすべての怨み辛みを吐き出すかのように口を開くランチさん。
「宝が無いのなら、オレは何の為に此処に居るんだ?」
「それは………レッドリボンの兵士が、此処に宝があると言ったからで、俺は無関係ですよ?いや、マジで」
「だったら、その兵士はぶっ殺すべきだったんじゃないか? 確か、ブロリーが殺す必要は無いとか言わなかったか?」
「い、いやぁそんな事言ったっけ? ……言ったような気もするけど、取り敢えずそのショットガンを下げてくれる? ちょっと怖いんだけど」
この世の全ての負を背負っているかのような雰囲気を醸し出すランチさんと言い合っていると、スゲェ楽しそうに笑い出すグレイフォックス。
まるで他人事のようなリアクションをしているが、お前らFOXの隊員が宝を持って行ってるせいでランチさんが怒っているんだから、彼女をどうにかして欲しい。
だが、グレイフォックスはその笑い声を最後に、ランチさんが笑い声に反応して声の主に銃を向けた瞬間、フラッシュグレネードの閃光と共に消え去った。
……自分だけエスケープするとは、なんたる卑怯者!
しかも宝に関係する者の一人のクセに、逃げるというのはマジで信じられない諸行!
しかし、そんな悠長に内心で愚痴っている場合ではないのだ。
何故なら、苛立ちを向ける相手が居なくなった事で、その苛立ちを拭い去る為に俺の方へと銃口が向けられたからである。
「あー……良かったら、俺がお世話になっている人のところに来ません?」
「そこに宝があるのか? あぁん?」
「いや、宝は無いけど……ランチさんの好みバッチリな男と出会うチャンスがありますよ」
「な、何でテメェがオレの好みのタイプが分かるんだよ? 適当な事を言ってると……いや、そうじゃねぇだろ。お、オレは宝が欲しいんだ」
ちょっと動揺を示したところを見るに、ここが攻め時だな。
俺は敢えて意図的に意味深な笑みを浮かべると、言葉を続ける。
「ワイルドな外見と、それでいてキッチリした性格の男」
「なっ!? 何でオレの好みを!?」
「そんな男と知り合えるチャンスがありますよ? 直ぐに出会えるとは言いませんが、再来年までの内には出会う事になるのは間違いありません。
ランチさんは可愛いから、きっとその男もほっとかないんじゃないかなぁ。いや、先ず間違いなくほっておかないでしょうね。どうします?」
「ほ、本当にオレの好みの男か? それに、何で再来年までなのか気になるんだが……」
ミスったかもしんない。……確かに言われて気付いたんだけど、好みの男に心当たりがあるのなら直ぐに会わせれば良いだけなのに、わざわざ再来年まで待てってのは変な話だよね。
何て言い訳すれば………
「好みなのは間違いありません。ただ、来年じゃないと会えないってのは……えーと、今の居場所が分からないから、ですね」
「それは、適当な事を言ってる訳じゃ……」
「そんな事ないですよ! あれっすよ、実は俺には稀に未来を予測出来る時があるという能力があるんですよ!」
「めちゃくちゃ嘘臭ぇ」
「でも、信じてついてくれば、再来年にはワイルドな彼氏持ちになれますよ? ついて来た方が良いと思いますけどぉ?」
「お、オレが彼氏持ち!? しかも、ワイルドな彼氏だと!?」
カメハウスへ、一名様ご案内致しまーす!
出来れば天津飯とくっついて貰いたいと主人公が、ランチさんを亀ハウスへと連れ帰るのが決定しました。
でも、実際にくっつくかどうかは不明。