とある男は、ダンボールという人類の叡知を使用して数々の困難を打破し、そして数々の脅威を打ち払ったと言われる。
ある時は慌てず動かずジッとその場を遣り過ごし、ある時はダンボールからの奇襲を仕掛ける。
その恐るべき戦闘スタイルは無数の人々の心を支配し、それと同時に魅了した。
そう、その男とは………
▲△▲△▲△▲△
「あれ? 何でこんな場所に荷物を放置してあるんだ?」
あ………ヤバい(;・∀・)
いや、大丈夫だ。まだバレた訳じゃなし、焦る時間帯ではない筈だ。
それに、俺があの伝説の男を操作していた時は、少し警戒されたとしてもすぐに警戒を解いてくれたのだから。
そう思いながら自分を安心させていると、俺の被ったダンボールに接近してくる兵士。
……な、何故だ!? ゲームでは上手く行っていたじゃないか!!
そ、そうか、これはハードモードだったんだな!? イージーモードだと思い込んでいた!
クソ、俺とした事が……とんだ醜態を晒しちまったぜ。
「まったく……適当な仕事をするヤツが居たもんだ」
愚痴を言いつつダンボールに触れようとした瞬間、俺はダンボールから飛び出した。そして、兵士が声を出す暇を与えずに、顎の先端を掠めるように右フックを放つ。
すると、兵士の意識は彼方へと飛んで行き、糸の切れたマリオネットの如く地面へと倒れ伏した。
「ぎ、ギリギリの攻防だった」
ふぅぅぅ、と大きな溜め息を吐くと手近にある扉を開け、その中にたった今気絶させた兵士を引きずり込む。そして兵士の装備一式と軍服を奪い、それを着込むと再び通路へと出た。
完璧な変装だ。そして完璧な手際である。
スパイとしての自身の手際を自画自賛しつつ、俺は通路をゆっくりと進む。海底基地であるのにも関わらず、通路を歩いている限りはそれを感じさせない。
まるで地上と変わらぬ様子に、時折此処が海底である事を忘れる始末だ。
ふむ、潜水艦が停泊していた場所には数々の兵器が積まれていたが、あそこ以外は普通だな。となると、此処は兵器製造所なのか?
この海底基地の存在理由を推測しつつ進んでいると、何やら異様な扉を見付けた。今までにも沢山扉はあったが、どれもこれも普通の家にありそうな何の変哲もない扉であった。
だが、今見付けた扉は、銀行の金庫かと見紛うような造りになっており、中にはきっと重要な物が保管されていると予想させる。……或いは、重要な施設、という可能性だろう。
しかし残念ながら、暗証番号とカードキーがなければならないらしく、中には簡単に入れそうもない。
……いや、俺のパワーなら容易にぶち破れるのだが、それをしてはスパイ活動はそこで終了だ。ならば、暗証番号を知っている者を探し出し、次いでカードキーを手に入れねばならないだろう。
だが、この海底基地の規模がそれを阻む。何故なら、あまりに大きすぎてしらみ潰しに探し回れば数日は掛かると予想されるからだ。
確かに走り回ればすぐに見付けられるだろうが、それをすれば先程も述べたようにスパイ活動は終了となるだろう。故に、変装したスパイだとバレずに動く必要性がある訳だ。
ますます自分が伝説の男を知っているお陰で冷静な判断で行動出来る事に良かったと思いホッとしつつ、その場をあとにする。
先程気絶させた兵士に尋ねるか、それとも他の兵士を捕らえて聞き出すか、どちらが良いだろうかと考えながら来た道を戻って行く。
すると、先程気絶させた兵士を引き込んだ部屋に入ろうと扉に手を掛ける新たな兵士を視界に入れ、俺は少し焦る。
ヤバい! 他に兵士は居るか!?
背後と前方を確かめ誰も居ないのを確認すると、扉に手を掛ける兵士の背後に素早く回り込む。そして、羽交い締めにするとそのまま気絶させた兵士の部屋に引きずり込んだ。
「動くな!」
「ひぃ……」
「この先にある扉、あれを開ける暗証番号は何だ?」
「お、オレは知らない……」
「カードキーを持っている者は?」
「博士だ……名前は知らない」
「博士? この海底基地の存在理由は兵器製造所なのか?」
「オレは警備の為に派遣されただけで、知らない……」
ふむ、下っ端と思わしき兵士は、背後から羽交い締めにしている為に表情は窺えないが真実を言っているのだと察せられる。
どうしてかと説明すると、今にも殺されるのではと恐怖して小刻みに震えているからだ。この状態で嘘などつけれない筈である。
もし嘘だとしたら、それこそ稀代の大嘘つきだ。
もう聞き出せる事実はないと判断した俺は、最後に博士の居場所を尋ねた後に兵士を気絶させた。勿論、一人目の兵士同様に無駄に苦しめたりしていない。
その後は、怪しまれないように意識しつつも素早く通路を進みながら時折見掛ける兵士にそれとなく敬礼して遣り過ごし、何やら機械の部品が乱雑に放置されている一画に辿り着いた。そして、人間にしては異常に上半身が大きい護衛を侍らす博士を見付ける。
あれは人間か? ……大きすぎないだろうか?
いや、大きい以前に、明らかに変だろう。何せ、下半身は普通の大きさの男が、上半身だけビスケットオリバのようになっているのだ。
まるで上半身だけを取っ替えたような、そんな可笑しな体型である。
「何だね? ボクの護衛に興味があるのかな?」
あまりにも変な体型の男を見て思わず呆然としてしまっていた俺は、博士だと思われる白衣姿の男に見咎められた。
俺はその手痛いミスに小さく舌打ちしつつ、やむを得ずその場を何とか遣り過ごそうと思い小さく頷く。すると、白衣姿の男は満面の笑みを浮かべる。
「なかなか良い目をしているね。良いだろう、説明して上げようじゃないか!
この護衛の男は、実は人間じゃないのだよ。総督は何処ぞの研究者が造った不細工な機械人形に御執心だが、ボクが造り出したのはあんな貧弱な人形とは大きく違う。
ボクのサイボーグは、あの人形の倍のパワーを誇るのだよ!」
「えぇと、その人形ってのは……メタリック軍曹の事でしょうか?」
「その通りだ。君も見たなら分かるだろう? あの不細工で愚鈍な人形など、ボクのサイボーグと比べたら雲泥の差だと!」
……いやぁ、俺から言わせるとメタリック軍曹の方が好きだな。シュワちゃんに似てるし、何より格好良い。
でも、そのメタリック軍曹も悟空が破壊しちゃうんだよね。まだ先の話だけど。
ま、それは兎も角、目の前の博士はどうやらサイボーグを造る為に雇われた博士のようだ。ただし、人造人間やセルを生み出す予定のドクターゲロに、レッドリボン軍内での地位を奪われているらしい。
然もありなん。このサイボーグでは大した評価は受けられないんだろう。故に、妥当な評価だと言える。
「ふん、総督も愚かなヤツだよ! ボクが……いや、ボク達が優れた科学者だと、いずれは認めさせてやるけどね。
あの兵器が完成したら、世界は……くくく、はぁはっはっはっ!!!」
「……何やら物凄い兵器を生み出したような発言ですが……」
「ふっふっふっ、それは流石に秘密さ。例えレッドリボンの兵士だとしても喋る訳にはいかない。
それに……これから死ぬヤツに教えたって意味は無いしね!!!」
「なっ!?」
不敵な笑みを浮かべる博士は、突如俺に向けて懐から取り出した銃を向ける。そして、一切の躊躇いもなく引き金を引いた。
しかし、一般人からしたら無慈悲な弾丸だとしても、俺からしたらただの石つぶてである……いや、石つぶてより頼りない物だと言えるだろう。
乾いた音が室内に響き渡り、次いで銃の先端から光と共に弾丸が飛翔して来るが、俺はそれをキャッチボールでもするかのように容易く掴み取る。
「何故俺がレッドリボンの兵士ではないと分かった?」
「……この研究棟には兵士でも入らないように言い聞かせているからさ。それより、君は何者だい? 何故銃弾を素手で掴めるのかな?」
「……何でだと思う?」
「君もサイボーグなのかな?」
「……さてね」
「面白い。ボクの造ったゴライアスと、君という謎のサイボーグのどっちが強いのか……それを試すのも一興!
ゴライアス! あの男を破壊しろ!!」
ゴライアスと呼ばれた護衛のサイボーグが、ドスンドスンと足音を響かせながら俺へと接近し始めた。
しかし、その足取りは……いやいやいや、折角シリアスな雰囲気だったのに、これじゃあ台無しだ。
何故なら………
「足遅っ!?」
「パワーに割り振ったから仕方ないだろ!!」
「いくらパワーに割り振ったとしても、限度があるだろう! 」
「煩い煩い煩ーーーーーい!! あのバカな総督とおんなじ事を言うなーーーーーー!!!」
いや、言うよ。だって遅すぎるもん。そして、総督ってのはあのちっちゃい男の事なのだろうが、結構見る目があると思うよ?
だって、こんな偏った性能のサイボーグより、ドクターゲロのサイボーグを支持してるんだから。
ゴライアスと呼ばれるサイボーグからしたら全力のスピードなのだと思われるが、客観的に見て牛歩のようなユッタリとした足取りで俺の間合いへと漸く到達すると、屈強な上半身を捻り、勢い良く右ストレートを放って来た。
流石に身体が大きい事もあり、その迫力はなかなかのものである。
だがしかし、如何せん俺を倒すにはパワーが低すぎた。メタリック軍曹の倍のパワーだと言っていたが、確かにそれくらいの性能はあるのだと理解させられるものの、戦闘力300の俺からしたらショボい一撃にしか感じられない。
ただし、メタリック軍曹と闘った時の悟空なら苦戦するだろうな。
それは兎も角、俺はゴライアスのパンチを片手で掴むと、拳を破壊する為に力を込めて握り締める。
すると、バキバキッと金属が歪むと同時に軋みをあげる音が室内に響き、ゴライアスの右手から黒煙が立ち上ぼり始めた。
博士は、それを見て驚愕したように目を見開く。
「そ、そんな!?」
「俺を倒すには役不足だったようだな」
そう不敵に言い放つと、一般人には目にも止まらぬスピードで回し蹴りを放った。きっと博士には何が起きたのか理解出来ないだろう。
俺の全力から程遠い一撃を横腹に受けたゴライアスは、下半身と上半身に分断され地に落ちる。最早その一撃だけで機能停止寸前に陥っているらしく、人間と変わらぬ姿をしている為に気持ち悪いと思わせる不気味な動きを繰り返す。
「あびぼ……あじゃぱぁ……暗証番号……140.15」
「暗証番号?」
成る程、どうやらカードキーは博士が持ち、暗証番号は護衛のサイボーグであるゴライアスが知っていたらしい。俺としてはラッキーな状況だな。
……だが、警備の観点から言うと、カードキーと暗証番号を一緒にしたら不味いだろう。いくら分けていると言っても、博士の護衛として常に一緒に行動しているのだし、意味が無くなるじゃん?
「そんな、ボクのゴライアスが……」
「カードキーを渡して貰おう」
「くっ………き、君の正体は、まさかFOX部隊員なのか!?」
「何の話だ?」
「違うのか!? なら何故ボクの……ボク達の邪魔をする!?」
「いや……何でと言われても……暇潰し?」
「ふ、ふ、ふ………ふざけるなぁぁあああああ!!!」
錯乱したかのように叫びながら暴れ出す博士を見て、平和的にカードキーを譲って貰うのを諦めた俺は、博士の背後に一瞬で回り込むと手刀を叩き込み気絶させる。
そうして静かになった博士の懐から、目的であったカードキーを抜き取った。