黒い少年と影の世界   作:ユキノス

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待たせるの大好きって言われてもそろそろ反論出来なくなってきました


32:ジリオギア大空洞

ジリオギア大空洞

 

《円環の森》という名前らしいこの森は、その名の通りぐるぐると同じ所を彷徨う──訳ではなかった。

マップこそ広いものの、蓋を開けてみれば道はハッキリとしていて進みやすく、平坦だったため、特に危なげなく突破できた。問題はエリア名にもなっている《ジリオギア大空洞》だが、まあ当然柵なんて無いんだろうな…と思いつつ。

 

さっきから、フィリアがずっと俯いたまま目を合わせてくれないんですが……。

 

「……えと、フィリアさん。僕が何かしたなら謝るから、顔を上げて貰っても…」

「あ、ううん。ケントが何かした訳じゃないよ。…ただ、ちょっと考え事してただけ」

「考え事…今後のこととか?」

「うん、そんな感じ。何しようかな、って色々浮かんできちゃって」

 

──嘘だ。分かりやす過ぎる。僕でも見抜ける。

 

「そっか。早く実現させる為にも、ここのボスもぱぱっと倒さなきゃね」

 

でも、今思い返してみると、この時僕はフィリアに何があったか聞くべきだった。でも色んな人に嫌われてきたから、彼女には嫌われたくないからと、僕は逃げた。逃げてしまった。すぐ隣で、彼女が音を立てて壊れていくのを見過ごしてまで。

 

***

 

「……うわ、でっか……てか高っ! これが《ジリオギア大空洞》かぁ」

「落ちたら……まあ、即死だよね」

「戦闘の時も気をつけないとね。…あと、これどこに行けば良いんだろ?」

「…あそこ、大きめの亀裂入ってない? 私達も入れそうなぐらいの」

「えっ、どれどれ……あれか!」

 

角度的に少し見えづらかったが、確かに岩肌に大きな亀裂が入っている。あそこがダンジョンでなかったら何がダンジョンなのか。

 

「行ってみようよ、キーアイテムとかあるかもしれない」

「うん、行こう!」

 

***

 

「随分と不気味な場所だな…マッピングもしなきゃ」

「あ、それなんだけど……実は昨日、ちょっとここ探検してたんだよね」

「ええっ、武器預けてたのに!? そんな無茶な…」

「ふっふっふ、私の《 隠密(ハイド) 》スキルを甘く見ないでね? 暗い所なら、敵に見つからず探索する事などお手の物なんだから」

「いや、フィリアのスキルを疑うつもりは毛頭無いけど…『もしも』があってほしくないから…」

「大丈夫。ほら、こっちこっち」

「…はぁーい」

 

出来る限りの戦闘を避けるべく、2人とも《 隠蔽(ハイド) 》で身を隠して進んでいるが、こうしてるとトレジャーハンターより盗賊(シーフ)なんじゃないかな……と口に出したら最後、お叱りを受けそうな上に《 隠蔽(ハイド) 》が破れそうなので言わないでおこう。

 

そうして少し歩いたら、突然壁の前で「ここだよ」と言って止まった。……何があると?

 

「ここ? 壁……じゃない、隠し扉か」

 

うっすらとだが壁らしき扉の輪郭が見え、改めてフィリアの視力に感心する。僕ならあと3年経っても無理だっただろう。

 

「うん。それで、ほらあれ」

「宝箱だ! なんかワクワクしてきたねぇ」

「私が開けてくるから、ケントには入口で見張っててほしいんだ」

「了解。任せたよ」

「ありがと、………お願いね」

 

サムズアップで返し、《索敵》を使う。………何もいない。それでもたまに《隠蔽》しているPKerがいるので、刀に手をかける。ラフコフなんかはそれでも厳しい時もあるので、油断ならないのだ。

 

「……ねえ、ケント」

「ん、どったの?」

「私が、犯罪者(オレンジ)になった理由。まだ、話してなかったっけ」

「いや、『人を殺した』って言ってたけど……それがどうかした?」

「うん。その、殺した人についての話。」

「それはしてない、かな。…大丈夫なの?」

「お陰様でね。ケントと初めて会うほんの少し前のお話」

 

お互い背を向けたまま、ピッキングの音に混じって、ぽつりぽつりと言葉が紡がれていく。

 

「ある日探索していたら、突然《ホロウ・エリア》に飛ばされたの。何かのクエストフラグでもなければ、近くに誰か居たわけでもない状態で。……拠点に戻ろうとしても、転移結晶(クリスタル)は使えない。かと言って《圏内》の場所も分からなかった。だから、1ヶ月近くかけて慎重にマッピングしてたの。……結局、街も何にも無かったけどね」

「1ヶ月……!?」

 

1ヶ月。彼女は1ヶ月も、見知らぬ《圏外》の土地に放り込まれて、プレイヤーとも触れ合うこと無く過ごしたというのか。……そんなの、普通だったら壊れてしまう。モンスターに備えて夜もろくに眠れず、加えてたまに見る人もNPC、尚且つあのザマ。店も無いから、アイテム類は尽きたら終わり。生き延びただけでも奇跡だ。

 

「……で、またある日のこと。散策してたら、《索敵》に誰かが引っ掛かった。カーソルの色はグリーンだったから、仲良くなれたらぐらいに思ってたんだ。……でもね、そこに居たのは……………()()()()()()

「……!」

「……あれは……絶対にわたし。信じられる? その時の事……無我夢中で……必死だった……。我に返った時、目の前のわたしは消えていたんだ」

「……フィリア」

 

いつしかピックの音も止まっていた。それを気にも留めず、彼女は話を続ける。

 

「そのあと、わたしのカーソルはオレンジになっていた。わたしが……わたしを殺したからかなって」

「……そんな」

「……ケント。だからわたしの罪は、カーソルの色を戻しても決して消えない。ずっと……ずっとこの影の世界で、生き抜かなきゃいけない。わたし…あなたと出会わなければ良かった…こんな…気持ちにならなくてよかったのに…」

「……っ、いられるよ! 絶対方法はある! 僕がそれを見つける!」

「……ケント、ありがとう……。でも……すこし我慢してて」

「フィリア……? 何、」

 

を。と口に出すより早く、誰かに後ろから押された。ギリギリ倫理コードが発動しない強さだった為、プレイヤーの特定はできない。でもそれより気にすべき事は、いつの間にか空いた――落とし穴。

 

「……え? ──うわあああ!!!」

「ごめん──ごめんケント……」

 

ああ、なんだ。彼女は──

 

「じゃぁな、《 死神(Grim Reaper) 》」

「──!」

 

違う。彼女は、僕を見捨てた訳でも、殺したかった訳でもない。()()()が絡んでいるのが、それを如実に示している。

 

「……ッ、貴様ァァァァァァァ!」

 

落ちていく中で、その名を呼んだ。呪われたゲームに現れた、PoH(本物の死神)の。




また次回、がいつなんだ。……いつなんだ……………。
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