ジリオギア大空洞
《円環の森》という名前らしいこの森は、その名の通りぐるぐると同じ所を彷徨う──訳ではなかった。
マップこそ広いものの、蓋を開けてみれば道はハッキリとしていて進みやすく、平坦だったため、特に危なげなく突破できた。問題はエリア名にもなっている《ジリオギア大空洞》だが、まあ当然柵なんて無いんだろうな…と思いつつ。
さっきから、フィリアがずっと俯いたまま目を合わせてくれないんですが……。
「……えと、フィリアさん。僕が何かしたなら謝るから、顔を上げて貰っても…」
「あ、ううん。ケントが何かした訳じゃないよ。…ただ、ちょっと考え事してただけ」
「考え事…今後のこととか?」
「うん、そんな感じ。何しようかな、って色々浮かんできちゃって」
──嘘だ。分かりやす過ぎる。僕でも見抜ける。
「そっか。早く実現させる為にも、ここのボスもぱぱっと倒さなきゃね」
でも、今思い返してみると、この時僕はフィリアに何があったか聞くべきだった。でも色んな人に嫌われてきたから、彼女には嫌われたくないからと、僕は逃げた。逃げてしまった。すぐ隣で、彼女が音を立てて壊れていくのを見過ごしてまで。
***
「……うわ、でっか……てか高っ! これが《ジリオギア大空洞》かぁ」
「落ちたら……まあ、即死だよね」
「戦闘の時も気をつけないとね。…あと、これどこに行けば良いんだろ?」
「…あそこ、大きめの亀裂入ってない? 私達も入れそうなぐらいの」
「えっ、どれどれ……あれか!」
角度的に少し見えづらかったが、確かに岩肌に大きな亀裂が入っている。あそこがダンジョンでなかったら何がダンジョンなのか。
「行ってみようよ、キーアイテムとかあるかもしれない」
「うん、行こう!」
***
「随分と不気味な場所だな…マッピングもしなきゃ」
「あ、それなんだけど……実は昨日、ちょっとここ探検してたんだよね」
「ええっ、武器預けてたのに!? そんな無茶な…」
「ふっふっふ、私の《
「いや、フィリアのスキルを疑うつもりは毛頭無いけど…『もしも』があってほしくないから…」
「大丈夫。ほら、こっちこっち」
「…はぁーい」
出来る限りの戦闘を避けるべく、2人とも《
そうして少し歩いたら、突然壁の前で「ここだよ」と言って止まった。……何があると?
「ここ? 壁……じゃない、隠し扉か」
うっすらとだが壁らしき扉の輪郭が見え、改めてフィリアの視力に感心する。僕ならあと3年経っても無理だっただろう。
「うん。それで、ほらあれ」
「宝箱だ! なんかワクワクしてきたねぇ」
「私が開けてくるから、ケントには入口で見張っててほしいんだ」
「了解。任せたよ」
「ありがと、………お願いね」
サムズアップで返し、《索敵》を使う。………何もいない。それでもたまに《隠蔽》しているPKerがいるので、刀に手をかける。ラフコフなんかはそれでも厳しい時もあるので、油断ならないのだ。
「……ねえ、ケント」
「ん、どったの?」
「私が、
「いや、『人を殺した』って言ってたけど……それがどうかした?」
「うん。その、殺した人についての話。」
「それはしてない、かな。…大丈夫なの?」
「お陰様でね。ケントと初めて会うほんの少し前のお話」
お互い背を向けたまま、ピッキングの音に混じって、ぽつりぽつりと言葉が紡がれていく。
「ある日探索していたら、突然《ホロウ・エリア》に飛ばされたの。何かのクエストフラグでもなければ、近くに誰か居たわけでもない状態で。……拠点に戻ろうとしても、
「1ヶ月……!?」
1ヶ月。彼女は1ヶ月も、見知らぬ《圏外》の土地に放り込まれて、プレイヤーとも触れ合うこと無く過ごしたというのか。……そんなの、普通だったら壊れてしまう。モンスターに備えて夜もろくに眠れず、加えてたまに見る人もNPC、尚且つあのザマ。店も無いから、アイテム類は尽きたら終わり。生き延びただけでも奇跡だ。
「……で、またある日のこと。散策してたら、《索敵》に誰かが引っ掛かった。カーソルの色はグリーンだったから、仲良くなれたらぐらいに思ってたんだ。……でもね、そこに居たのは……………
「……!」
「……あれは……絶対にわたし。信じられる? その時の事……無我夢中で……必死だった……。我に返った時、目の前のわたしは消えていたんだ」
「……フィリア」
いつしかピックの音も止まっていた。それを気にも留めず、彼女は話を続ける。
「そのあと、わたしのカーソルはオレンジになっていた。わたしが……わたしを殺したからかなって」
「……そんな」
「……ケント。だからわたしの罪は、カーソルの色を戻しても決して消えない。ずっと……ずっとこの影の世界で、生き抜かなきゃいけない。わたし…あなたと出会わなければ良かった…こんな…気持ちにならなくてよかったのに…」
「……っ、いられるよ! 絶対方法はある! 僕がそれを見つける!」
「……ケント、ありがとう……。でも……すこし我慢してて」
「フィリア……? 何、」
を。と口に出すより早く、誰かに後ろから押された。ギリギリ倫理コードが発動しない強さだった為、プレイヤーの特定はできない。でもそれより気にすべき事は、いつの間にか空いた――落とし穴。
「……え? ──うわあああ!!!」
「ごめん──ごめんケント……」
ああ、なんだ。彼女は──
「じゃぁな、《
「──!」
違う。彼女は、僕を見捨てた訳でも、殺したかった訳でもない。
「……ッ、貴様ァァァァァァァ!」
落ちていく中で、その名を呼んだ。呪われたゲームに現れた、
また次回、がいつなんだ。……いつなんだ……………。