黒い少年と影の世界   作:ユキノス

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夏休みに入りました。今年こそはちゃんと課題やらないと……と何回言っただろうか。


33:今度こそ、掴んで離さない

「がっ! ……つ、うぅ……クソッ、何が起きた?」

 

 フィリアと《犯罪者》になった理由を話している時に、後ろから誰かに押されて……ふらついたら床が抜けて、ここへ落ちてきた。

 それに、落ちる直前に聞こえたあの声。……どうして、PoHとフィリアが一緒に?

 

「……罠にはめた? いや、それにしては理解できない点が多い……けど、今はまず脱出かな……」

 

 ずっとフィリアと行動していたから、だろうか。前は1人が普通だったのに、いつの間にか彼女にもたれかかっていたかもしれない。

《死神》と呼ばれたような人間が、人の温もりを求めるからこうなるのだ。

 

「……敵、はやっぱいるのか。──邪魔だっ!」

 

 自分の甘さに対する怒りを、哀れなモンスターにぶつける。マップの広さ的に、フロアの数はそう多くない筈だ。

 

(フィリアに何があったのかは、分からないけど……今ここで死んでたら、何も聞けずに終わってしまう。それだけは、絶対に嫌だ!)

 

「っは、はぁっ、はぁっ……」

 

 最後の敵が(たお)れ、ダンジョンの外まで出た時、HPゲージはレッドの数ミリ手前まで削られていた。

 

「は、はは………空気が美味いや………」

 

 本来なら、PoHによる待ち伏せが無かったことには大いに感謝するべきなんだろう。でも、それを補って余りある程の疲れと、心にぽっかりと空いた穴が、そんな事を微塵も感じさせてくれなかった。

 

「あー……とりあえず、帰るか……」

 

 と言っても、《ホロウ・エリア》には今帰っても誰も居ないし、寝込みを襲われる可能性も十分にある。

 だからと言って、75層より下にはもう行けないし……

 

「…いや、そもそも、なんでアークソフィアって選択肢が出ないんだろ」

 

 あそこなら《圏内》で、エギルやクラインも居て、リズベット武具店2号店もある。拠点としては申し分無いだろう。……他と違って、受け入れ拒否も無いし。

 

「……転移、《ホロウ・エリア管理区》」

 

 後ろで、「ごめんね」と聞こえた気がした。

 

 ***

 

 アークソフィア 転移門前

 

「よっ、ケン坊。今日はやけに浮かない顔してるじゃないカ」

「やぁ、アルゴ。そんなに分かりやすいかな?」

「……そこはウソでも否定してほしいもんだったけどナ。悪いが、オネーサンじゃなくても一発で分かるヨ」

「そっか……感情の抑制プログラムでも仕込んでみるかな…」

「何バカなこと言ってるんダ、このゲームクリアしない限りは無理だゾ」

「『組めないだロ』とは言ってこないんだ?」

「そりゃあナ」

 

 くつくつと笑う《鼠》は、果たしてどこまで知っているのか。真相はコルの山の先にある、というと思ったよりしょぼい感じがする。

 それはともかく、長居するのも申し訳ないので、「何かあったら報せてくれヨー」、の声を背中に受け、中央通りにあるエギルの店へ向かうことにした。

 

 ***

 

「マスター、特製のカフェオレだ。2杯くれ」

「2杯ってことは……大方、フィリアって子のことか?」

「ご名答。流石、ゲーム前からの付き合いなだけはある」

「褒めても3杯目は出ねぇぞ。で、何があった?」

 

 エギル──本名アンドリュー・ギルバート・ミルズと、その奥さんが開いている店『ダイシー・カフェ』は、東京都御徒町にある。昼はカフェ、夜はバーという特徴があり、夜は繁盛している。

 夜は、というのはまあ……カフェに強面のスキンヘッドがいたら、入るの躊躇するよね、っていうこと。

 でも居心地は悪くないので、江戸川区から週一で通う程には気に入っている。

 

 ちなみに『カフェオレ2杯』は、「相談したいことがあるから、飲みながら話そう」という意味。

 

「うん、実は──」

 

 時系列もバラバラで、途中から涙が出てきて、それでも最後まで話し終わったと同時に、エギルはカップを置いた。

 

「なるほどな。裏切られて、尚且つその相手があいつとは……つくづく、お前も因縁があるな」

「……うん。正直、うんざりだけどさ。『ごめんね』って、言われたからには……どうしても、そうしなきゃならない理由があったんじゃないかな、って……。もしかしたら、PoHに俺の事を吹き込まれて、そんな奴と一緒になんて嫌だ、とか思われてたり……って考えると……怖くて……」

「ケント。フィリアを拠り所にしていたお前と同様、フィリアもお前を拠り所にしていたんじゃないか?」

 

 僕を、拠り所に。《死神》なのに。一緒にいたら、死ぬのに。

 でも、ここしばらく一緒に居たけど、フィリアは死ななかった。攻略組でもない、トレジャーハンターなのに。《死神》と呼ばれる僕に、涙を流した。「あんまりだ」と。だからこそ、僕はフィリアを拠り所にしていた。

 

 じゃあフィリアは? 1ヶ月近くもの間、《ホロウ・エリア》の狂ったプレイヤーと、補給も出来ない状況で、自分を殺し、それでも生き延びていた。そんな彼女が、僕を頼る必要があるのか……?

 

「……いや、そんなこと……」

「ある。逆に言うと、そんな極限状態でひと月過ごした所に、ようやくまともなプレイヤーが来たんだぞ? 同じ状況なら、俺だって頼る。……お前には俺たちがいる。でもな、今のフィリアにはお前しかいないんだ」

「僕しか、いない……」

「そうだ。助けたいっていうなら、俺たちもできる限りのバックアップはする。だから、()()()()掴み取るんだ。そしてその手を離すな。お前が必ず、アインクラッドまで持ってくるんだ」

「うん………うん。分かった……僕、やるよ。絶対、フィリアを連れ戻して……ここに連れてくる。だから、待ってて。どれだけ時間がかかっても、絶対に帰ってくるから」

「おう。そん時は、ジンジャーエール……に似たドリンクでも振る舞わせてもらうぜ」

 

 涙を拭い、その手で拳を突き合わす。太い笑みを交わし、温くなってしまったカフェオレを飲み干す。

 ………うん? ちょっと待った。さっきエギル、俺()()って言った? ってことは、誰かもう1人……

 

「……しかし、立ち聞きとは随分な趣味じゃねえか? クライン」

「へへっ、いやぁレア素材がドロップしたもんでよ、どれくらいの値がつくか聞きに来たら……」

(先客)がいた、ってわけか。……ちなみにどっから聞いてた?」

「えーと……悪ぃ、『カフェオレ2杯』の所から」

「全部じゃねえか! しかもエギル、お前気付いた上で言わなかったな!?」

「ああ。話を途中で切るのも悪いしな」

「むぐ……ま、まあとにかく。今何層の攻略中?」

「今か? えーと……82層だな」

「そっか、さんきゅ。じゃあ……目標、88層までに連れてくる!」

「おっ、じゃあ賭けるか。俺は間に合わない方に賭けるぜ」

「おいおい、賭けにならねーだろ!」

「いやいやいやいや少しは信じろよ。お前ら鬼か」

 

 男3人の笑い声が、カウンター周辺に響いた。その光景を1人のプレイヤーが見ていたが、その時は誰も気付かなかった。




ホロウ・フラグメントには会話ログ機能が無いので、会話文をメモる為にスクショすると、アルバムの画像がえげつない量になるのがネックです。スキップと非表示はあるのに、何故ログだけ無いのか……。
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