黒い少年と影の世界   作:ユキノス

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……年度、変わりましたねぇ…………


35:一線

 刃を振るう。()なされる。手首を返して切り返す。防がれる。

 

(ああクソ、突破出来ない!)

 

 ケントは内心焦っていた。デュエル申請せずに斬りかかったことに、ではない。キリトの持つ《二刀流》が、攻めにも守りにも厄介であったことだ。

攻められれば、反撃に転じる余裕が無くなる。守られれば、突破する為の速度または威力が足りなくなる。愛刀を全力で振るえば勝てるだろうが、その間に反撃されてしまう。

 

(この剣筋、ヒースクリフはどうやって突破したんだよ……!)

 

そう、ヒースクリフは二刀流のキリトを破っている──ケントは知らないが、そのヒースクリフでさえシステムの力を借りての勝利だった為、参考にするだけ無駄である──。

デュエルとも言えない、何も産むことの無い殺し合いを始めてから10分。休むこと無く刀を振るっているが、全く届かない。それどころか、どんどん弾かれる回数が増えてきた。視界もグラグラして、照準が定まらない……。

 

「いい加減……諦めやがれ! 俺は……フィリアを、助ける……ん、だ!」

「そんな状態で行かせられるか! もうフラフラじゃないか!」

「うる、さい……! 早く、行かなきゃ……!」

 

ぐらぐらと揺れる視界の中で、キリトが駆け寄ってくる。まだ止めようと言うのか。まだ縛ろうと言うのか。

──分かってる。無理なレベリングで、眠気も疲労も何もかも限界な事ぐらい、自分が一番分かってる。

だからこれは意地だ。助けると決めた。もう死なせないと決めた。それだけの事。たったそれだけの……何よりも譲れない意地。

 

「──()()!!間に合わなくなるだろうが!!」

 

最後の力で踏ん張り、獲物を振るう。空を切ったかに思えたそれは、微かに、だが確かにキリトのHPを削った。

 

***

 

「ッ──!」

 

目の前で、友人のカーソルが犯罪者(オレンジ)に変わった。……避け切れなかったらしい。

しかし当の本人は、刀を振り抜いた姿勢のまま倒れてしまった。流石の彼も、溜まりに溜まった疲労の前には無力だったようだ。

 

「ケント! おい、しっかりしろ! ケント!」

 

返事が無いが、かと言ってこのまま放っておく訳には行かない。互いに納刀してケントの肩を担ぎ、ポーチに入れてある転移結晶を掲げる。

 

「──転移!『《ホロウ・エリア》管理区』!」

 

***

 

アークソフィア、エギルの店

 

「──という事があって、今は……少なくともしばらく、ケントはアークソフィアに戻れない。……俺が油断したせいだ、ごめん」

 

頭を下げるキリトを、仲間達が慌てて宥める。

 

「ううん、キリトくんは悪くないよ。ケントくん、あれで頑固な所はあるし……それに、彼の言う事も分かる。フィリアさんの安否も分かっていないみたいだし、不安に思っても仕方ないよ」

「私もそう思います。でも、だったらお兄ちゃんが代わりに行く、とかじゃ駄目だったのかな……」

「そうよね……1人より2人が良いと思うんだけど、違うの?」

「んーん、その通りよ。でも、仮にその時行ったとして……遅かれ早かれ、ケントは限界だったでしょうね。でも行きたかった」

「それで、一度止めたかったキリトさんと口論になっちゃったんですね……。でも、それなら責めてデュエルがあったんじゃないですか?」

 

そう、別に斬り掛からなくてもデュエルと言う手があった筈なのだ。攻撃を捌くのに注力せざるを得なかったキリトはともかく、ケントがデュエルをしなかったのは何故なのか。

 

「恐らく、だが」

 

その言葉に、全員がさっとそちらを向く。それまで聞き役に徹していたエギルだ。

 

「キリトやクラインなんかは、大方予想がついてるんじゃねえか? あいつが意地でも助けに行った理由と、デュエルを選ばなかった──()()()()()()()()()理由」

「前者はともかく……後者は《慈悲深い死神》の話か? でもよォ、ありゃあ……」

「ああ。最終的には『《ラフコフ》の仕業』って事で、討伐戦を以て片付いた筈だ。だが、PoHの奴は逃げ延びているし、《ホロウ・エリア》に残党が居ないとも限らん」

「……それに、パーティーメンバーが死んだ事実は変わらない……。だから──」

 

トラウマ。その4文字が全員の脳裏を過ぎった。

 

「……エギル」

「ああ。半分は俺達がああ言ったせいだろうよ。……だけどな、だからってどこ行くんだお前」

「決まってらァ! あいつを助けに…………ああクソッ、行けねぇ……ッ!」

「……そうだよ。俺達じゃ行けねぇんだ」

 

かつて助けられ、その後何度か関わる内に、いつしかかけがえの無い友となった男が窮地に向かおうとしているのに、自分は何も出来ない。握り締めた拳に、悔し涙が落ちた。

 

「……なぁ、キリの字よ。おめぇに頼みてぇ。おめぇにしか頼めねぇ。……出来るもんなら俺が行きてぇけど……ケントを、俺の親友を、どうか助けちゃくれねぇか」

「ああ、勿論。……それと、お前も来いよ。もう1人なら一緒に来れるからさ」

 

その話を聞いたクラインがハッとして顔を上げた。すぐに 涙を拭うが、出てきた言葉は「で、でもよォ……」といった自信無さげなものだった。

 

「ありがたい事ではあるんだけどよ。その……アスナと行かなくて良いのか? 実力的にも、パートナーとしても最適だろ?」

「今回は譲ります。だって、クラインさん行きたいんでしょう?」

「お……おうとも! あいつにゃ大恩があるんだ、ここで動かにゃ男が廃るぜ! 男クライン、ケントの助太刀として推参してやらぁ!」

「ああ、頼りにしてるよ」

 

全員一抹の不安はあれど、この2人なら必ず帰ってくるという確証があった。




今更ですが、ストレアエンディングを見たいが為にSteam版でRe:ホロウ・フラグメントを購入しました。Vita版でもちまちま進めるしか無かった実装エレメントですが、やっぱ多いし条件鬼畜だと思うんですよね……何なんでしょうアレ。ほんとに。
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