「KUKYAAAAAAA─────」
あれから数日。今までデバフでも負っていたのかというレベルで調子の良いフィリアに半ば引きずられるような形で攻略を進め、大空洞ボスを討伐した。両手が鎌の骨ムカデみたいな奴で明らかに強そうだったし、何なら今までのボスよりも一回の被弾が痛かったのに、驚くほどあっさりと討伐出来てしまった。
「……ふぅ。お疲れ!」
「お疲れー! 一気に駆け抜けちゃったね」
「ホントホント。でもあの場所──PoHと戦った辺り、結構終盤の方だったんだね」
《エリアシステムコンソール》とかいういかにもなマップが野晒しにされていた《ジリオギア大空洞》だが、実の所攻略箇所はそこまで多くなかった。上層、中層、下層にそれぞれ複数ある入口はほとんどが宝箱数個くらいの行き止まりだったし、何より他エリアと比べてあまりにも無機質過ぎる為、《管理区》がメインならこのエリアがサブだったりしたのかなぁ、だからこんなシンプルなマップなのかなぁ……等と思いを馳せたりしていた。
さて、光の灯った首飾りを手に最終エリア──《アレバストの異界》を解放しに行こう。
「ところでケント」
「ん? どうしたの?」
「わたし、今までケントのこと弟みたいに思ってたの」
「あー……そうだね、『お姉ちゃん』呼びしようかなんて話もしたっけね」
「そっ、それは忘れて!……それで、ね。あの時……とってもカッコよかった!」
「へっ? えっ、いや、その……結局、1人じゃどうにかはならなかったし……むぐっ」
「そろそろ怒るよ。最初にキミが来てくれなかったら、あの時わたしは殺されてたんだからね」
「う……」
怒られてしまった。だがそれを言われてしまうと、僕の方こそフィリアに助けて貰わなければ死んでいた訳で……モニョモニョ…
「ま、まあアレだよ、あの件はお互い様ってことでさ? うん。はい、この話終わりでお願いします……多分お互い幸せにならないし、下手に口外して聞かれると混乱招くし……」
「え〜……なんて、冗談。確かに、アインクラッドのPoHはまだ生きてるんだもんね。──じゃあ、2人だけの秘密ってことで」
「うん、賛成。さて、最後のエリアもパパっと攻略して──
大切な人を助けたら、他の皆も助けられる。いいじゃないか、最高だ。例えそれが、人々に知られる訳にはいかなかったとしても。別に今までだって、成功したとてお礼どころか謗りを受けたことだってザラだし。お礼なんてされるに越したことはないが、それでも……恨み言を言われるくらいなら、知られないままでいい。最近はそう思う。
***
アレバストの異界
強さを求めて彷徨った異形の森
「な、なんというか……おとぎ話の魔女が住んでそうな……」
「あ〜、そう言われてみれば……そう、かも?」
薄暗い森。グネグネと捻じ曲がって生えた謎の植物。毒々しい色の沼。雰囲気はバッチリだが、探索するとなるとあんまり嬉しくない要素だったりする。視界不良と行動制限が、どうしても苦手だ。
森らしく昆虫型モンスターが闊歩するフィールドを、無用な戦闘を避ける為慎重に進む。転移石を発見した、が……
「……風切り音?」
「上っ!」
「へ? ──うおおおああああ!?」
空気を裂くような音と共に、巨大な昆虫型モンスターが落ちてきた。《HNM:Amethyster The Queen》──間違いなくボスモンスター、それもこいつはエリアボス!
「……いきなりエリアボスとは、随分なお出迎えだな!」
「やるよ!」
昆虫型、という扱いになっているから昆虫型と言っているが、実の所このタイプの……サソリを少し人型に寄せたような見た目のモンスターを昆虫と称して良いものか、未だに分からない。だが周囲を見渡す限り卵も産むし、6本足だし、頭胸腹に分かれて……
「ケント!」
「っ、ぶね……!」
いつの間にか女王渾身のフックが眼前に迫っており、受けるのも間に合わないと判断して大きく回避行動を取る。すんでの所でかわされた女王はカチカチと顎を鳴らし、大きく吼えた。
「サンキューフィリア、助かった」
「平気平気。足から削っていく?」
「……そうだね、基本足で行こう。隙が出来たら腕とか尻尾、無理な追撃はしない。それでいい?」
「勿論!」
頷きあってお互いが対極の位置にいるよう立ち回り、着実にゲージを削っていく。1本目のゲージが赤く染まった頃、女王はぐぐっ……と力を溜めるような動作と共に縮こまった。
「っ、踏みつけくるよ!」
「後隙で一気に攻める!」
「了解!」
ぐわっ! と跳び上がった女王から一旦距離を取り、勢いよく駆け出す。
「──跳ぶよ! 3、2、1、ゼロ!」
「SYAAAAAAAA─────!」
「「ハァァァァァアアアアッ!」」
女王が着地した瞬間、2人同時に跳躍。カタナ奥義スキル《散華》とフィリアの《アーマー・ピアース》が放つ桜色と空色の光が薄暗い森を眩く照らし、女王の頭に深々と突き刺さった。1本目のHPゲージが消失し、女王が苦しそうな声を上げたと同時に、突き刺さっていた筈の武器がバネのように弾かれる。
「うわっ!?」「きゃっ!?」
奥義技の長い技後硬直で動くのが遅れた僕は地面に思い切り尻餅をつき、衝撃で少し減ったHPゲージの先で、女王が先程よりも高く跳んだのが見えた。そのままカーソルとHPゲージがロストし、完全に逃げたのだと思い知らされる。
「……逃げられた、か……」
「うーん、残念。──でも、流石に疲れたかも……」
「そうだね、今日だけでボス2連戦な訳だし……転移石だけ解放して、今日はもう休もう」
仮にもフィールド内だというのに、緊張が解けてきてしまっている。そのせいで、後ろから歩いてくる《ホロウ》の5人パーティにも気付けなかった。
「────!!!!!」
「……ケント?」
見知った面々だった。僕の灰色だらけのフレンド欄で、はっきりと黒い文字で表示されている名前。彼女らがギルドを組んだのは知っていたが、会ったら迷惑になるだろうとひたすらに関わるのを避けていた。ああ──生きていてくれている。手を取りあって、この世界を戦い続けている。情報としては知っていても、実際に見ると涙が溢れてしまいそうだ。
「……うん? よう! ケントじゃねえか!」
「うぐっ……うん……久しぶり……!」
「お久しぶりです! こんな所で何を?」
「おう、あの時はありがとうなぁ。お陰で俺たち、今やこうして徒党を組むまでになったぜ」
「ううん……それはっ、それは……皆が、頑張ったからで……僕は……」
「な、泣かないでくれ。私たちは大丈夫だから──すまないが、そろそろ行くよ」
「うん……」
涙で滲んだ視界に、去っていく5人の背中がぼんやりと見える。頭の中がぐちゃぐちゃで、上手く言葉が出てこない。フィリアが必死に宥めてくれているが、それでも気持ちが落ち着く気配は無い。
「け、ケント……あの人たちは、一体……?」
「ご、ごべん……ぐすっ、生きてるの見たら嬉しくなっちゃって……。《ホロウ・エリア》が一段落したら、改めて言おうと思ってたんだけど……えと、この前も同じようなこと言ったっけ……」
「ううん、いいよ。時間かかってもいいから、ゆっくり紹介してね? ちゃんと、全部ね」
「──うん、勿論。……少しずつだけど、話すよ。とりあえず、戻ろう」
過去は消えない。隠し続ける事も出来ない。良い事も、悪い事も。だから、向き合わないと。乗り越えないと。
──前に進む為に。