ラストファラオ   作:蕎麦饂飩

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太陽の血脈の麗しき零落


落日の刻

僕の母サマは凄く美人だ。多分後世を含めても3本の指に入る美女なのではないだろうか?

僕の母サマは美人過ぎて愛人も居たりするけれど。

それこそ3人くらいの男が流れている。

 

まあ、うちの国は今現在は王権の建て前的な部分で姉弟で結婚しておかないとまずい所もあるので、

その婚姻外でパートナーを作っても仕方ないと言えない所は無い訳じゃないけども、

まあ、息子としては酷く複雑だ。戸籍上の父親が急逝したのも母親のせいだとか言われているし、

僕の名前なんて愛人の方からとられている。

戸籍上の父親の立場を考えるに、不憫なものだとは思うよ。

 

結婚はしたものの、婚姻相手は娼館で働き、職場ではシングルを自称して客の子供を孕む娼婦だなんて、

夫の立場からすれば泣いていいと思うんだ。

 

とはいえ、そもそもエジプトの王朝事体ギリシャ系の血で構成されている事とか、

エジプトは文化圏的にギリシャ、現在ではローマの飛び地的な所もあって、

国の為に色恋で営業する必要があった母親もまた苦労があったと思う。

 

ファラオと言う存在はギリシャ・ローマ的な影響力が薄まってくる度に対内的な方向へ移行していく権力だと僕は考えている。

本来、国家として外側の顔色ばかり窺う国であるよりかは其方で良い筈なのだが、

その理由が対外的な影響力が低下している故だというのは泣きたくなるほどむなしいものだ。

 

まあ、僕は簡単には泣かないよ。内心はこんなのでも言動は王としての威厳を見せてきたつもりだ。

何せ、ファラオだからね。死ぬ時であっても誇り高くあってみせるよ。

 

例え、外国だけでなく国内の貴族達からも裏で売女王と呼ばれても、母サマは涙を見せる事は無かった。

それで国を救えるのなら、王族としての責務だと受け入れていたからだ。

僕だってその息子だ。

 

 

 

僕の血統上の父親が暗殺されると、母サマは次の権力者に歩み寄り、その男の愛人となった。

正直に言えば僕としてはかなり複雑だ。

その男は母サマに骨抜きになり、自身の妻を棄てるような男だった。そんな男が長続きする筈も無い。

聡明な母サマにそれが解らなかったはずはないのだあろうが、それでもそうするしか選択肢は無かったのだろう。

 

もはやエジプト王朝はどうあがいても滅亡だ。

それを如何に先延ばしにするか、如何に軟着陸させるか、

そしていかに美しく散るかが偉大なる先王たちへの礼儀であり、

国民達へと果すべき義務なのだと理解しているつもりだ。

 

 

僕の血統上の父親は暗殺されたとはいえ、その名前の栄光は未だにローマでは強力なものだ。

僕にもその血筋の継承があるが、ローマ本土に於いてその継承を以って育ったアウグストゥスには敵わない。

故に、彼が義父に蜂起した際には僕などそのついでとして殺されるだろう。

 

 

 

「殿下ッ!!」

 

ああ、慌ただしい様子で兵士の1人が僕の所にやって来た。

恐らくよくない知らせだろう。

 

「どうした、少々焦りすぎだ。まず水でも飲むがよい。」

 

 

「その様な場合ではありません殿下ッ、いえ、―――陛下ッ!!」

 

 

 

 

『陛下』…か。

僕はその言葉だけで大凡を悟った。

 

「母は、美しく死なれたか?」

 

「…ハッ、蛇の毒を以って御自害なされました。」

 

 

そうか、ならば息子である僕もそれに准じよう。

 

 

「ローマの兵は何処まで来ている?」

 

「恐らくあと数刻もすれば、此処に来るものかと。」

 

 

であるならば少々忙しくなるが仕方ない。

 

「宴の用意をせよ。彼らを丁重にもてなすのだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、予定より遅くはあったものの、ローマ兵はやって来た。

そして僕の前に隊列を組んで並んだ。

故に、僕は言わなければならない。

 

「遠路はるばるご苦労。まずは疲れを癒すがよい。」

 

その言葉と、様々な料理に彼らは命乞いをしようとしているように思えたのか、

その様な事で助かりはしまいと言ってきた。

そして今すぐ僕を捕らえて、本国で処刑すると。

 

 

「見縊るな、この身はファラオ。誇りある太陽の血が流れる者ぞ。

明日にでも自らの足でローマに足を運び、己が首を差し出しに行こう。

先程の無礼は此度のみ赦す。次は無い物と思え。

…諸君らの王は一日遅れたことを責める狭量な王で無いというのなら、持て成し位は受けていったらどうだ?」

 

 

結局彼らは僕の持て成しを受ける事を選んだ。

僕に持て成しを受けた後、僕をローマへと運ばせた。

 

 

そして今、僕はアウグストゥスの前にいる。

成程、僕よりもローマの王(カエサルの後継)に相応しい男だ。噂以上の男だった。

 

「出迎えご苦労。感謝する。

所で処刑の日付は何時にする。」

 

「…お前は自分が処刑される側だと理解しているのか?」

 

 

ああ、縄で縛られてもいない上に、こんな表情でいるからそう思うのも仕方ないか。

まあ許して欲しいものだ。この身はファラオなのだから。

 

 

「日は昇り、そして沈む。

偶々沈む時が余の番だったというだけの事。

余は太陽の現身である故に。そうだろう義弟よ。」

 

「―――そうか、少々不敬であったようだな義兄上。

だが、処刑はさせて貰う。カエサルの後継者はひとりでよい。」

 

 

それは仕方ない。

それに、処刑するにしても対象は王朝の者全てなく、

己以外のカエサルの後継者、つまり僕が死ぬだけで兄弟に責は及ばないか。

何たる温情。我が義弟に相応しい。

 

 

「結構だ。余の首を曝し王権の正当性を掲げるがよい。

余はローマの日昇を祝福しよう。」

 

 

心残りと言えば、僕自身のピラミッドを建て損ねた事だが、

それは仕方ない事だと諦めることとしよう。




美しく咲いて、美しく散るのは王族の伝統芸。
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