私達カルデアは、今回第2の特異点としてローマにやって来た。
しかし敵は歴代のローマ皇帝たちで、味方の皇帝は現在の皇帝ただ一人。まさに多勢に無勢と言えるだろう。
そして、敵の皇帝の中で特にカエサルが厄介だった。
カエサルはまさかの肥満体サーヴァントとしての召喚という形であったが、
此方との戦力差をその軽く流れるような発言とは裏腹に正確に認識し、『総数による総力戦=戦争』を選択してきた。
元々高い勝率は無かった。故に皆が各個の戦闘で勝利を掴み、敵の戦略を戦術面の総和で崩すという私達の戦略が崩れる事になった。
カエサル自身がそうであったように、時の絶対権力者を殺す方法は暗殺の他無い。
それは個人の場合であり、相手が複数であればその手段はゲリラ戦という事になる。そうやって戦力差を崩すのだ。
それを総力戦へと組み替えられてしまえば自ずと戦力差が如実に表れる。
ましてや相手にはファランクス等の陣形に詳しいアレキサンダーや、軍師として名を馳せた孔明。
此方が不意を衝いて強襲する機会に恵まれても、それを防衛戦の猛者であるスパルタの王が防ぐ。
そして武将としての月に魅入られた狂戦士が武勇を振るい、絶対的な信仰を集めるロムルスが大将となる事で士気も旺盛だ。
だが、その中でうっすらと見え隠れするカエサルの存在こそが最も厄介な存在だった。
ローマとローマが殺し合う。
その中で、戦争は数だという言葉は総力戦においてはまさしく真実だったと思い知らされた。
「…余を置いていけ。
奴等の軍勢が求める目標は余の首ゆえに。」
此方側の陣営の皇帝であるネロ・クラウディウスが私に言う。
私達は最終的に私が生き残り聖杯を手に入れれば勝利となる。
しかし、
「…カエサルが手段としてのネロの殺害と目的としてのローマ崩壊を勘違いするとは思えない。
それに、私達は仲間だよ。一緒に勝ちに行こう。諦めるなんてらしくないよ。」
「余らしくない…?
そうか、そうであったな。
ならば皇帝として最後まで戦い、共に勝ちに行くとしよう。」
彼女がそう言った時だった。
「見苦しく足掻き、美しく滅ぶ在り方を拒むというか。
だが、終わった事に未練を馳せる
「誰ッ!?」
振り向けば―――、
――――そこに
「この身は太陽故に、その光で彼らの眼を塞ぎ諸君らに逃げる時間を作ろう。」
恐らくサーヴァントである事以外誰とも知れない、その深く被ったフードから暗い蒼の髪を覗かせる青年はそう言った。
「感謝するがよい。沈む太陽故にそれが限界かもしれぬが諸君らを救おうとするのだからな。」
それは、私達を救う事が出来るという自信に満ち溢れて聞こえていた。
だが、それは―――――
「それは結局、余の代わりにそなたが死ぬだけの事で無いのか?
恐くないのか? そなたには己の死が。」
私が言おうとしたことをネロが代わりに言った。フードに隠れた彼の眼を覗きこもうとするようとしながら。
その言葉を聞いた青年は呆気に取られた様だった。
フード越しの表情までは解らなかったが。
「…すまぬな、顔が似ていたのだ。この太陽と同じ血を持った月の女神たる妹とな。
許すがよい。そして光栄に思うがよい。日輪の光を受け輝く乙女と片鱗とはいえこの身が似ていると言ったのだから。
…ああ、それではますます命を賭けたくなるではないか。賭けるに相応しいと思えるではないか。
日輪の言葉に疑問を挟む表情は義弟に似ているが、それもまた誇らしい。」
その人は自分の事をやたら太陽太陽と言うが、もしかしてアポロンか何かだろうか?
解らないが、どことなく善人であるのは間違い無いのだと思えた。
だからこそ、彼が此処で犠牲になるのはおかしいと思えた。
「一緒に逃げるという選択肢は、無いんですか?」
私の問いに彼は答える。
「それで助かると心の底から思えるのなら、再度同じことを聞くがよい。」
そうバッサリと現実で切り捨てた彼にネロが反論する。
「いや、助かる。他でもない余がそういうのだ。
…それとそなた、生前に自ら犠牲となったクチか?
自己犠牲に手馴れているようにすら感じられるぞ。」
「それに答えるわけにはいかんな。
……その顔で問われるのは複雑だ。いや…、だからこそ沈む輝きを魅せる意義があると言うものよ。」
そう言うと彼は既に満身創痍のネロの腹を強く殴った。
それにより意識を失い崩れ落ちた彼女を、先程自分でした事とはまるで反するように優しく抱きしめてその髪を梳いた。
「連れていけ。決して振り返るな。沈む陽に目を焼かれたくなければな。
もし、日が沈む事無く輝く事があればまた拝謁する栄誉を与えてやろう。では行けっ!!」
「
惜しむように輝き続ける、背後からして尚眩しい光と共に放たれた宝具の真名を呼ぶ彼の声を背に私達は走り出した。
∮∮
「カエサル様、将校級を除く一般兵たちは皆一部が硬直して負荷の高い戦闘行動に耐えられませんが、
独りで離脱するあの男を追う事そのものは容易です。あの状況からの離脱の為の行動故に罠の可能性は少ないかと。
今すぐに追撃の御命令を。」
カエサルの部下はカエサルにそう懇願した。
そしてその申請は当然の様に通ると彼は思っていた。
だが、カエサルはそう判断しなかった。
「それを判断するのは私だ。あれだけの光を生み出してのける男が折角去ってくれるのだ。追う必要はない。
それに私達に容易に討ち取れると思わせる状況を作る事が奴の狙いである可能性を考えた事はあるか?
少なくとも、この合戦では総合的な消耗は向こうの方が大きい。
深追いをすることなく陣営に戻り勝利の美酒を楽しもうではないか。
兵を引け――――――撤退だっ!!」
カエサルは部下から顔を背けると堪えきれない様に薄く笑った。