ラストファラオ   作:蕎麦饂飩

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日は少女を照らす

私達はローマ連合の軍勢から逃れ、再起を図る事にした。

あの人はどうなっただろうか?

そんな後ろ髪を引かれる様な思いが心の何処かに引っ掛かっていた。

それでも、いや、だからこそ私達は彼の分も勝利を掴む必要があった。

 

 

そしてママンなブーディカさんやねこみみモードなタマモキャットさんを初めとして、

呂布、荊軻、スパルタクスと仲間を増やしながら雌伏の時を過ごし、

遂に攻勢に転じた私達はアレキサンダーと分かれて行動した孔明、そしてカリギュラを撃破するも、

カエサルの策に嵌りレオニダスとロムルスに挟まれるという絶体絶命の状況に追い込まれた。

 

レオニダスは守戦のエキスパートで逃がしてくれるとは思えなかったし、

正面切ってロムルスを討つには神祖は強すぎた。

 

だが、その上でも私の側に付いてくれた人たちが頑張ってくれた。

単騎で戦場を動かし、まさに一人で戦争を引き起こせる無双の武人呂布がその身を犠牲にして活路を拓き、

荊軻が「始まりの皇帝が相手では不足無し」と還る覚悟を棄てた決意の一撃を以って神祖に致命的な損傷を与えた。

そしてそれでも戦いを続行するロムルスにスパルタクスが荊軻に続いて仕掛け、これを撃破した。

だが、ロムルスは聖杯を持っておらず、その聖杯はカエサルの元にあるという事だった。

 

 

だが、残った戦力でレオニダスを撃破しようとした私達に、更なる追撃が待っていた。

ダレイオスとアレキサンダーによる、広くない通路でも効率的に戦い得る様に陣形だけでなく進軍速度まで計算された波状攻撃。

レオニダスが通路の片方を絶対に護りきる事を前提とした、もう片方の通路から常に強敵を送り込み続ける戦術は、確実に私達を殺しに来るという殺意があった。

きっとその戦術を練ったカエサルは今頃ほくそえんでいるに違いない。

私達はそう悔しさを噛み締めた。

 

だが、その悔しさは敵にとっては望むところであり、

レオニダスとダレイオスが宝具で呼び出したローマ連合兵の補充としては破格な彼ら自身の軍隊、

そしてその中を駆け巡るアレキサンダーを乗せた彼の愛馬。

その密度と強引な流れによる削りは、

『後少し届かない』状況を常に私達に押し付けて追い詰めていった。

 

 

 

そして、敵の弓兵が放った弓矢が、レオニダスと剣で打ち合っているネロの頭部に向かっていくのが見えた。

レオニダスがこの状況で回避を許してくれるとは思えない。

私だけでなくネロもこの時レオニダスの槍に貫かれるか、矢に貫かれるか選ぶ他無いと思っていただろう。

だから彼女は言ったのだ。

 

「雑兵の矢に撃たれて死ねるかっ!!」

 

だが、しかし雑兵の矢を恐れて槍に貫かれるのも御免だと彼女の眼は語っていた。

そんなネロの髪に何時の間にか着いて(憑いて)いた、旧そうな黄色い紙で造られた髪飾りが橙と赤の間の様な色の光を放った。

 

その光は鳥の妖精の様な霊体となり、矢を咥えては燃やし尽くした。

 

「…あの男め、全く粋な事をしてくれる。――余も応えてやらねばなっ!!」

 

 

此処に『後少し』が成り立った。

自身の槍を防ぐ(・・)事で矢でネロが倒れるという予想を立てていたレオニダスは、

その槍でネロを直接刺し抜くまで狙う必要はないと考えていたのだろう。

踏み込みはあくまで浅いものだった。

 

―――それが明暗を分けた。

 

 

 

前に進んだネロの剣がレオニダスに届いたのだ。

 

「見事…ッ!!」

 

 

倒れて消えるレオニダス。

そして彼の生存を前提とした作戦は崩壊し、アレキサンダーとダレイオスは倒れた。

 

 

 

 

 

そして、この特異点の最後の最後。

黒幕であったローマ連合軍筆頭魔術師、その正体であるカルデアの裏切り者レフに、

利用されるどころか逆に利用し返したカエサル。

彼は最後のフィナーレだと嘯く様に、されど豪胆に告げ、最後の大戦略を用意していた。

彼の体型が肥満だとかそう言う事がまるで気にならない程、彼が恐ろしく、そして優れた王だと嫌でも理解できた。

流石は皇帝の代名詞たる終身独裁官。その名前は伊達では無かった。

 

 

最早これ以上奇跡は起きない。

何処かでそう諦めていた時だった。

 

 

ネロの髪飾りに似た紙飾りが空を覆った。

それらは昏い光となって空の光を沈めた。それは何処までも幻想的でどこか悲しい光景だった。

 

誰もが、そうカエサルを含めて誰もが意識をその光景に奪われていた時だった。

 

 

カエサルの後ろに誰かが立っていた。

いや、誰かと言うには私達はその青年を知りすぎていた。

その青年は杖の様な刃を浅く持ち、カエサルを貫いていた。

 

 

「死因にも拘らず暗殺に無警戒とは拍子抜けだぞ。終身独裁官ガイウス・ユリウス・カエサル」

 

カエサルは自身の渾身の大戦略がまさかの生前の死因である暗殺によって阻まれると想像していただろうか?

私はカエサルが憤慨していて当然だと思っていたが、予想に反してその顔は安らかだった。

 

 

††

 

 

「…お前に殺されるのなら本望と言うものだ。警戒する必要すらあるまい」

 

僕の刃を受けて尚カエサルは笑っていた。

止めろ、それではまるで、まるで貴方が…

 

「…何時から気が付いていた?」

 

僕はその感情を覆い隠してファラオとして徹した仮面で返す。

 

「最初から、と言いたいところだが実際には宝具を使った辺りからだな。

また、遇いたいものだ。…全く、未練が増えてしまったぞ。

これは奇跡だ。奇跡の旅だった。

まさか願いが叶ってしまうとは。やりたくない仕事でもやってみるものだ。

だが、人間は欲深い。願いがかなうと、また新たな願いを叶えたくなるのだからな」

 

不倫先の妾の子に随分と優しさをかけるものだ。

そこに母サマは…いや、今は止そう。

 

「そうか。では一先ず眠るがよい。我が…いや、ローマ終身独裁官カエサルよ」

 

僕が刃を抜くと、カエサルは笑って消えていった。

 

 

 

 

††

 

かたくなにフードで顔を隠す青年のお蔭で私達もローマも助かった。

 

「ありがとう」

 

「感謝の言葉位述べてやらねば。

所で何と呼べばいいのか?」

 

 

そう言えば名前も聞いていなかった。

ネロの言葉で初めて気が付いたけど。

 

 

「好きに呼ぶがよい。この身は太陽故に寛大だ。」

 

その言葉にネロがどうやら悪い事を考えた顔をし出した。

 

「では――――そなたの妹君に似ているという事で…」

 

ネロがぶつぶつと何かを言っている。

その言葉に耳を傾けると、『お兄様』『兄君さま』『兄上様』『にいさま』『お兄ちゃん』『アニキ』『あにぃ』『兄チャマ』『お兄ちゃま』『おにいたま』

と随分不穏な方向に向かっている。此処まで来れば寧ろ最終的な結論が気になる位だった。

 

「いや、乙女の柔肌に拳を送る暴挙をしでかしたのだ。

此処は一つ極めて恥ずかしい呼び名を言ってやろう」

 

 

少し深い声でそう言ったネロはその後覚悟を決めたように彼の方を向いていった。

 

「にぃやぁ、ありがとう」

 

もう、「いいあぁ、あいあおう」としか聞こえない脳が蕩ける魔術染みた声が聞こえる。

これが黄金劇場か…っ!! ローマ半端ない。私は意識を何とか保ちながらそう思った。

 

だが、それ以上に―――――

 

 

 

 

 

 

「気にするな。そなたを輝かせるは余の責務だ、我が月よ……ではなかった、当代ローマ皇帝ネロ・クラウディウス」

 

…今、普通に返した。しかも妹扱いして。

実は恥ずかしかったのかまだ顔を真っ赤にしたネロと私は、

この尊大な青年が妹に『にぃや』と呼ばれ(せ?)ている実はムッツリなシスコンである衝撃の可能性に辿り着いた。

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