「良くない、良くない、実に良くないなあ。
そうだろう?――――――――――クリストファー君。
君は嘘をついている。誤魔化しはいけないよ。嘘は見抜かれる。
見抜かれることは怖いかな? 恐いかな? でも私には嘘をつかれる事の方が悍ましい。
君は嘘をついてるね? 嘘は良くない事だ。とても、とてもとても良くない事なんだ。
特に大切な人を裏切る嘘は許される事じゃない。許されて良いものでない。
解るかい? 判るかい?
私だって、この世界は好きじゃない。正直に言おう。ああ、寧ろ大嫌いだ。
何せ女性が慎ましさを持っていない。そう、慎ましくないんだ。肉体的にも精神的にもだ。
同意するだろう? 女性が戦場に出る事は良い。それは私の周辺でもあった事だ。
だが、女性の真の戦場は内側に仕切られた世界にある。
嫉妬に駆られて呪い殺し、夫婦喧嘩で呪い殺し、行き違いで呪い殺す。
裸に網を被る様な服のセンスに着いていけなくなったら呪い殺す。
私の妻だって、夜には首に鋭い歯を突き立てて、明けた日からの証拠として所有権を主張する。
そんな少々の愛らしさのある慎ましさが必要なんだ。君にも解るだろう?
それを忘れて外側こそが自分達の戦場だと嘯く女達には辟易して敵わない。
大切に大切に可愛がっていたのに、私の使い魔である中でも飛び切り可愛らしい番蛇を監視に付けていたのに、
それでもやって来た悪い虫のせいで家出して海賊になった娘を私に思い出させたところも、この世界は減点だ。
それと私たち
遅れて新大陸を発見したと言う新参者の海賊って奴が私達は大っ嫌いなんだ。
自動で敵を追尾する魔力弾に名前を付けなかったのに、手動で敵を追尾する魔力弾に操魔弾と名付ける様な無様さだ。
それでいて尊大な態度を取られるとお目こぼしもしていられなくなる。
わかるだろう? わかるにちがいない。 わかっているはずだ。
君たちの事を言ってるんだから解ってもらわないと私も困る訳だ―――――」
今、僕は若干というかかなりドン引きしている。
今すぐ則天武后も両手を上げる拷問でも始まりそうな空気が周囲に蔓延している。
世界修復の旅、その終着点だったゲーティアを倒した後もまだ旅には続きがあって、今、アガルタという所に僕たちはいる。
ブリュンヒルデの孫に当たる、というか三つ編みでカチューシャを作ったまま、
サイドポニーの様に横に纏めて長い髪を流している背の伸びたブリュンヒルデに似た女性に見える
男性的な服が好きだと言いながらも、服のセンスがどう見ても女性的で、しかも少し若干どころかかなり微妙な事を除けば、
此処に来るまではカルデアの一癖どころか十癖もある英霊たちの中ではかなりの常識人でまともな人というイメージだった。
以前、珍しくエイリークが普通に喋ってくれたことがある。
それは僕とジャンヌ・オルタが北欧勢どころか、
サーヴァント全体で見ても普通に善性で常識的な人だとシーヴァルトを評していた時だった。
エイリークは「嫉妬深くて執着的なのは女性に限った事では無い」と一言助言して去って行った
その後彼の奥さんが妨害をかけてこなかった事を見ると、今になって考えるに奥さんも合意の上の事だったのだと思う。
その時は普段狂気を前に出したエイリークがシーヴァルドに言うのも変な話だと少しは思わなくも無かったけど、
それは今になれば狂気が前に飾るか、後ろに潜ませるかの違いでしかなかったのだと分かる。
そもそもエイリークは自分の先祖であるシーヴァルドを普段から恐れている所がある。
そこをもう少し注意深く意識するべきだったと今にして思う。
というよりエイリークの奥さんでさえシーヴァルドを恐れているのもこれを見れば誰もが納得する。
この世界で何度かジャンヌやオルタやアルトリアの窮地を救ったり支援して、その度に体が向いちゃいけない方向に曲がっていたり、
『性別不明組』としてデオンやアストルフォと同じ扱いを受けた時に物凄く嫌そうな顔をしていた彼とは一線を画す。
これが『蛇の目を持った王』シーヴァルドの恐怖の一端。
ただのDV妻に共依存しているだけの夫では無い。
彼は今も一方的にレジスタンスを纏めていた男に語り続けている。
メガロス=ヘラクレスを自身の制御下において。
「何、この程度簡単な狂気だよ。
彼は生前、その幾度と狂気と苦痛を乗り越えたのだから今回も少し後押ししてあげれば良い―――――。
ああ、此処ではそういう『設定』なのか。でもそれなら私も『ヘラの栄光の設定』を持ち出すだけだ」
そう言ってヘラクレスを解放した時には、対ブリュンヒルデの便利屋さんだと思っていた僕とジャンヌ・オルタの印象を塗り替えた。
以前に「魔術を使うのは女性の仕事だから私は他の分野でも頑張れるようにしてきた。」と言っていたけど、
あの魔術式の後ではその言葉が胡散臭く感じる。嘘ではないのだろうけれど。
清姫と似て非なるけれど嘘つきが嫌いという意味では同じようだし。
シーヴァルドが呼び出した魔術の鎖を使って、ヘラクレスに縛り上げられていくコロンブス。
…僕も、もうそろそろ目を逸らしたくなってきた。
「―――御祖母様が言っていた。
死なせたくなくて、それでも殺したくなる程相手を想える事は愛なのだと。
ならば、君たちは殺意にすら値しないということになる。
故に、君には戦死すら与えない」
僕の隣でブリュンヒルデが「記憶力が良いのね。流石は私の孫」と言ってるけど、
貴女のお孫さん完全にヤバい人ですよ?
えっ、アレって古代北欧だとそんなに珍しくないのっ?
思わず救いを求めて古代北欧勢に視線を送るけれど、エイリークを筆頭に誰もが目を逸らした。
勿論ニコニコしている孫馬鹿な美女は別である。
「天の道から墜ち、総てを失った女の孫としても、祖母の姉妹に君を紹介するのは気が引ける。
だから、君は此処で死ぬんだ。殺される訳じゃ無い。
戦いの中での死なんてそんな『ご褒美』をあげるわけにはいかない。
そんなハッピーエンドはあげられない。そうだね、今から熱病と飢餓感の妄想で倒れて死ぬというのはどうかな?
熱病で苦しんだ君の記憶を参考に今すぐにでも作り上げてあげよう」
えっ、戦死ってご褒美なの?
そうなの? 北欧勢…。
そこで『まあ確かに』みたいに頷き合わないで!!
そんな内心のツッコミをしている間にコロンブスは消滅した。
聴覚に「彼の体感では2週間というところだったかな?」という声が響いたけど恐らくは気のせいだと思いたい。
そして彼は再び何時もの様に戻ると僕達の仲間として一緒に行動した。
一度彼の本性を知ってしまうと、道中周囲が距離を取ってしまったり、丁寧語になってしまうのは仕方ない。
そして魔神たるフェニクスの前に来た時に、
どうやらとても気に食わない世界をプレゼントされて限界が来てたのか、
其れとも本性を知られたから今更どうでも良くなったのかは判らないが、再びシーヴァルドは狂気モードになっていた。
感情的でなく丁寧に淡々と告げられる説明の様に諭す様な話の中に、狂気が顔を覗かせて舌なめずりをしていた。
「死にたくない? どうして死にたくないのかわからない。
戦って死ねるんだよ。空腹や事故で死ぬわけじゃない。
何なら御祖母様たちでなく私自身が直接導いても構わない。
私は此処まで共に来た仲間達にはそう思ってるくらいだ。」
それは本気で止めてほしい。ワルキューレ的価値観は北欧だけのものにしておいてください。
「人理修復の旅だって、死して尚戦争に繰り返し出撃したい人々に溢れてる。
素晴らしい仲間との旅だった。」
いや、戦争自体が目的で蘇った人なんかそうそういません。
全く居ないとも言えないのが英霊の恐い所だけれどさ。
「何度でも蘇るから死ぬのが恐い?
ならその恐れを愉しめば良いじゃないか。
己の苦痛を愉悦に、絶望を歓喜に感じるんだ。
まあ、好きでもない君を恐怖から解放する意味なんて何の意味も無い。
では、始めようか。君の大嫌いで大嫌いな死の恐怖に付け込んであげよう。
私は手足を切り落として酒に漬けるなんてことはしないさ。
只々魂を削ぎ落しながら、死に漬けて、混ぜ合わせて、破片と結合させては、引き上げて乾かす。それを繰り返すだけさ。
因果操作で擬似的にね。
…竜の証明は血と眼に宿り、輪廻を回る蛇竜は回帰を呼ぶに至りて大神に辿る。
私は天の道より墜ちた全てを失いし者の血を継ぐ者。
御祖母様が言っていた。――――――女の子を哭かせる男は生きる価値の無いクズだと。
――――――――『変神』」
竜の影を纏い、蒼く燃える血を身に宿す戦士が其処に居た。
普段の服装とはまるで違う洗練された戦装束。
それは蒼銀の髪が馴染むような蒼き輝きを讃える鎧に純白の生地に黄金のルーン文字で縛られるように彩られたスカート。
ルーンの配置と彼の被る羽根飾りの兜は竜の様に見え、月の光のようにも見えた。
その手に持つはある半神が自身の人間性を生贄に奉げるに遣い、神性を高めた杖にして祭具にして槍―――その派生品。
それは天使の鐘、それは死神の鎌、それは――――――戦乙女の持つ招待状だった。
永遠の生と永遠の戦いと永遠の死を与える彼の宝具。
それはフェニクスの絶望と言うゴールだった。
カルデアに戻ってきた彼はアガルタでの在り方が嘘の様に何時もの恐妻家に戻っていた。
うん、でも山の翁とブリュンヒルデと一緒に、
「戦乙女と言う仕事の女性は、時折面倒な薬物系の理系にストーカーされて不幸になってしまう。困ります」
「煙ばかり吸って堕落した者は首を落とさねば。その時には鐘の音が鳴るだろう」
「一応私の武器にも鈴が付いているので、親近感はわきますね」
そんな風に『死の天使』会談してる辺り、やっぱりヤバい人なんだろうけれど。