東方チャンネル   作:佐伯寿和2

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その四

雨は男をドブネズミのように見窄(みすぼ)らしい(さま)に仕立てあげた。そして、その姿は今の男の感情(ココロ)をよく表していた。

「……怯えているのね。可愛(かわい)らしい。」

外套(がいとう)の少女は何もしない。ただ、ただ、男を見詰めている。それだけだった。

 

しかし、男は彼女の視線に(さら)されれば曝される程に、総毛立(そうけだ)ち、血色(けっしょく)の良い肌を水死体のように白く、白く染めていく。それでも(なお)、男は必殺の機会を待ち続けていた。

「…見るな……。」

虫ケラにも等しい男の抵抗は、少女の顔を増々、恍惚(こうこつ)表情(いろ)に染めていく。

「恐怖と殺意が(せめ)ぎ合っている。そして、全てが無駄だと理解している。……あぁ、この万華鏡(まんげきょう)のように移り変わる繊細(せんさい)感情(ココロ)の色がアナタにも分かるかしら?」

男に少女の言葉は理解できない。なぜなら、彼の目も耳も鼻も肌も、舌さえも、彼女の視線に()()けられているから。

 

そして、男が(おのの)く少女の(まなこ)は、その小さく幼い顔の中にはない。

雲から(こぼ)れ落ちた雨粒たちのように、少女という(くも)の外に、それはあった。

「やっぱりアナタを選んで正解だったわ。」

 

(まぶた)があり、睫毛(まつげ)がある。ただ、それだけ。その二つに支えられて、第四の心臓(ひとみ)(ちゅう)(ただよ)っている。

 

「でも、さっきも言ったけれど、私は少食なの。だから――――、」

刹那(せつな)、鳴り止まないカーテンコールのような雨足が、途端(とたん)に消え失せた。

空を(おお)っていたはずの分厚(ぶあつ)い雨雲は、跡形もなく消えていた。

「――――さようなら。」

代わりに、少女の号令で現れたソレが脆弱(ぜいじゃく)な雲を()()んでしまったのかもしれない。

ソレは、この夜会(やかい)(まね)かれた男たちの誰もが予想だにしない珍客中の珍客だった。

 

「……太陽(イル ソーレ)

 

夜を()がすような閃光(せんこう)(かたまり)が、男たちの頭上に()(そそ)がれる。

「……神よ…」

彼らは(まばゆ)いばかりの光の中に、一羽の(カラス)を見た。

大きな黒翼(こくよく)(うるわ)しい三本足は、彼らの目にこの世ならざる存在を(きざ)()むには十分過ぎる()()ちだった。

彼女を見た男たちは(みな)、無駄と知りつつ命を()うように、最後の祈りを捧げる――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――乱入する(たいよう)の退場に合わせて、()()()()が帰ってくる。

 

「……フフフ。」

少女はその緋色(ひいろ)の瞳で(もっ)て、跡地に残った者たちの(うつろ)ろな()食後(デザート)に、堪能(たんのう)していた。

「お姉ちゃん、ただいま。」

碧眼(へきがん)の少女は、誰の目にも()まることなく其処(そこ)に立っていた。

「あら、早かったわね。……それで、どうだったの?アナタ方は。満足できたのかしら。」

「うん、とっても良かったよ。やっぱり悪者の悲鳴と血を吐く瞬間は背筋がゾクゾクしちゃうよね?」

お腹を満たした碧眼の少女は、子どものように瞳をキラキラと輝かせている。

「アナタ……、まだまだ若いわね。」

「お姉ちゃんは?」

対して菖蒲色(あやめいろ)の少女は、アフタヌーンティーを(たしな)淑女(しゅくじょ)のように落ち着いた輝きで、食後の余韻(よいん)を楽しんでいる。

「目に見える悲鳴や血はもう、見飽(みあ)きてしまったわ。この世に芽吹(めぶ)く前の、球根(ココロ)の方が今の私には合っているのよ。」

「そんなものばっかり食べてると、いざって時に力が出ないよ?」

「全く問題なんかないわ。人間なんて、ほんの一時(ひととき)、覗いてあげればアッという間に、その血の一滴に至るまでを(かぐわ)しい美酒に変えてくれるのだから。」

(たわむ)れのような口調で交わされる少女たちの会話はまさに、地獄の支配者に相応しい内容だった。

 

そして、猫と烏の主人である菖蒲の少女は食卓へと振り返り、食後の祈りを捧げる。

 

Ci() vediamo(ヴェディアーモ).All’inferno(アリンフェルノ).」

 

 

四人の女児たちは、コツコツと石畳を蹴り、雨と共に地底へと帰っていく。乳母車の(かご)から、収穫した山のような白い果実を(のぞ)かせながら――――




※CANTINA(カンティーナ)
イタリア語でワインなどを保管する地下貯蔵庫を指します。そこから派生したのか、バーを指す時もこの言葉を使います。「ちょっとカンティーナ寄って行こうぜ。」みたいな。


※il sole(イル ソーレ)=イタリア語で「太陽」の意味です。正しくは、soleが「太陽」で、ilは「冠詞」です。

※「Ci() vediamo(ヴェディアーモ).All’inferno(アリンフェルノ).」
=「また逢いましょう。地獄で。」とイタリア語で書いたつもりです。100%適当印のイタ語なので、ツッコミはなしでお願いしまう。

《あとがき》
ネットの色んな人のイラストを見て触発され、つい書いてしまいました。
ペットの二匹はちょい役になってしまったのが少し残念です。うにゅガラスなんか、セリフすら貰えない始末(笑)

とりあえず、このお話はこれでお終いです。

今連載している方で行き詰ったり、気分が乗らない時に気分転換で書いて行こうかと思っているので、連載はスゴク不定期になります。スンマセン。
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