霞とおでかけ【艦ショート!】   作:春宮 祭典

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「クズ司令官、起きなさい!」

 

乱暴にドアを開ける音と同時に、聴きなれた声が耳に入った。

1Kで広さは8畳程の部屋にドスドスという振動が伝わり、布団に包まる彼は身を縮めた。

 

「起きなさい!もう9時よ?いつもならとっくに出勤している時間でしょ?」

「今日は休暇だよ……てか、お前も今日は休暇じゃなかったのか?霞」

 

布団の脇に仁王立ちする彼女は駆逐艦霞。この鎮守府の秘書艦にして、布団の中でささやかな抵抗をしている男の部下である。とすれば、彼はこの鎮守府の提督なのだが、この場所は鎮守府の執務室でもはたまた提督専用の仮眠室でもない。鎮守府近くに借りたこの提督の部屋である。ほとんど寝に帰るだけの部屋なので物はあまり置いていない。

 

さて、全く動かない提督に対して、霞は実力行使に出ることにした。つまりは提督を布団から引っ張り出そうとする。

 

「そうよ!だから休暇は一緒に出かけるって約束したでしょ!起きろ!こ、の……」

「う、うぅ……後二時間……」

 

ぷつんと。霞の頭の中で何かに亀裂が入った。

 

「とおうっ!」

「のわっ!?」

 

霞によって引っぺがされた布団からTシャツにパンツ一丁の何とも情けない姿で提督が転がり出てくる。そして、その勢いのまま、壁へぶつかったのだ。

 

「あたたた……もっと優しい起こし方、あったろうに……」

「クズ司令官相手に優しくしてたらお昼になっちゃうじゃない。ほら、太陽の光を浴びて。体内時計のリセットは充実した私生活への第一歩よ」

「へいへーい」

 

霞に促され、開け放たれたカーテンの前に立ち、伸びをする。「これの効果を実感したことないけど、霞が言うなら本当なんだろうなぁ……」とまだ寝ぼけながら呟き、振り向くと、一人暮らし特有の狭いキッチンで、霞が冷蔵庫を覗いていた。

 

「あ、昨日の残りがある……ええと、これとこれと……あ、ぱぱっと朝食作るからテーブルの準備してて」

「お、おう」

 

なんか夫婦みたいだな、という感想は飲み込んでおいた。実のところ、この部屋に霞が来るのは初めてではない。家呑みと称して提督の部屋を家探しする同僚の保護者役や、酔いつぶれた提督を介抱するなど、結構来ている。その為、合鍵を渡しているのだが、こうして合鍵を使って朝から入ってきたうえに朝食を作るのは初めてだったりする。

 

「……霞って、自炊するのか?」

「ええ、朝潮型の中では一番お料理は得意なのよ」

 

お料理って。可愛いな。———という感想が喉まで出かかったが、何とかこらえた。出来立ての味噌汁をぶっかけられたらたまったもんじゃない。

と、ここで提督はようやく自分の服装に気づき、着替えることにした。もたついていたら霞「のろまね」と、どこぞの最上型重巡みたいなことを言われてしまう。

 

その後も適当な会話を交わし、程なくして朝食が完成した。

 

「……二人分?」

「私も食べてなかったのよ。悪い?」

「まあ、別に悪くはないが……」

 

メニューはご飯とみそ汁、それにサラダと目玉焼きという和なのか洋なのかよくわからない一般的な朝食。「いただきます」と二人声を揃えて、提督はまず味噌汁に口をつけた。

 

「———美味いな」

「……当たり前じゃない」

 

その霞の照れた表情は、提督の今日の心のスナップショットになったらしい。

 

 

「――準備できた?行くわよ」

「ん、車じゃないのか?」

「今日は電車よ。休日は道路混むでしょ?」

「おお、なるほど」

 

提督は駅へ足を向ける。霞もそれに続き、提督に連れ立って歩き出した。最初は二人とも無表情だったが、やがて霞はあることに気付き、赤面した。

 

「……何道路側歩いてんのよクズ司令官!」

「理不尽!?」

 

どうやらそれは霞のお気に召さなかった様である。

霞のローキックが提督の脛にクリーンヒットし、提督は右足を抱えながら悶絶する。

 

「変に気を使ってんじゃないわよ!全く、私は部下なんだからもっとぞんざいに扱いなさいよ!」

 

憤りながらも、霞の顔は耳まで真っ赤。気を使われたことが気に入らないのではなく、さりげない気遣いに不覚にもときめいてしまい、照れ隠しに怒って見せているのだ。

 

「いやだって、霞は女の子なんだから気遣わなきゃダメだろ」

「お、女の子って……な、なによ、なめてるの!?」

「それは違うって。霞みたいな美人さんと歩いてるなら、その位かっこつけたくなるってもんさ」

「び、びじ……おだてたって何も出ないわよ!……てか私が言わせたみたいになってるじゃない!取り消しなさい!今すぐ!」

「事実だから取り消しませーん」

「~っ!この、クズ!クズ司令官!」

 

ふいって顔を背ける霞。横を向いた為に真っ赤になった耳が提督の目に映った。

 

「(ちくしょう可愛いな……)」

「い、いつまで見てんのよクズ!」

 

今度はミドルキックが提督の腰に炸裂するが、提督の表情はにやけていた。

 

 

「……まあ、何だ。俺が悪かったから機嫌直してくれよ……」

「知らないっ」

 

提督が変に煽ったせいで、今頃この時間にはショッピングを楽しんでいる筈の霞はすっかりへそを曲げてしまっていた。提督は焦っているが、傍から見れば、ただの微笑ましい痴話喧嘩にしか見えないのだが。

 

「な、なあ、霞ってば」

「知らないったら知らな――ひゃう!?」

 

雰囲気をぶち壊しにする音、具体的には「くぅ~」と言う霞の腹の音が二人の間に響いた。

 

「……腹減ったから昼食にしようか」

「……そ、そうね」

 

流石にその気遣いには怒れない霞だった。

 

 

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