世界という名の三つの宝石箱   作:ひよこ饅頭

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更新が遅くなってしまい、申し訳ありません…。
それなのに話が短くて本当に申し訳ありません…(汗)
今回は前回でも言っていた通り、ペロロンチーノ様回になります!


第10話 取引と交流

 王国へ向かうモモンガとナーベラル、帝国へ向かうウルベルトとユリとニグンをそれぞれ見送ったペロロンチーノは取り敢えずナザリックのことはアルベドに任せてコキュートス、アウラ、マーレを伴って大森林へと出かけていった。大森林の探索はコキュートスとアウラに任せ、まずはマーレを連れてカルネ村へと向かう。

 日にちは経っているものの王国戦士長と名乗っていた男がいないか用心深く確認しながらペロロンチーノは村の中へと足を踏み入れていった。エンリやネムはいないかと周りを見回し、ふと見覚えのある背を見つけてそちらへと声をかけた。

 

「…村長さん、調子はどうですか?」

 

 明るい声を意識しながら村長の元へと歩み寄る。

 村長は驚いたように一瞬ビクッと身体を震わせると、こちらを振り返って安堵の表情を浮かべた。にっこりとした笑みを浮かべ、村長もペロロンチーノの元へと歩み寄ってくる。

 

「これは…ペロロンチーノ様! 本当に来て頂けるとは思っておりませんでした」

 

 笑顔と共に歓迎され、ペロロンチーノも自然と満面の笑みを浮かべる。

 

「折角助けられたんだから仲良くしたいですし、俺も少し気になっていたので…。順調に復興が進んでいるようですね」

 

 周りを見回しながら話すペロロンチーノに、村長も村の中をぐるっと見回した。ペロロンチーノの言葉通り、村の至る所ではそれぞれ復興作業が行われている。しかし順調かと言われれば、それは小首を傾げざるを得なかった。

 荒らされた田畑や壊された家々の修復、村を囲むようにして作られていく簡素でいてみすぼらしい柵。

 作業しているのは女子供や年寄りばかりで、一番頼りになるはずの男たちは数えるほどしか見られない。

 しかしそれも仕方のないことだった。

 ペロロンチーノたちが村を助けに来た時には既に村の過半数が犠牲になっており、その殆どが抵抗の力を持つ若い男たちだった。

 死んだ者は決して生き返らず、全ては生き残った者たちだけでしていかなくてはならない。しかしそれでは、いざ命が助かって村を復興しようにも、時間がかかって仕方がない。作業する者たちの顔にも疲労の色が見え、どうにも苦しい状況のように思えた。あの姉妹たちもどこかで作業をしているのだろうか、とペロロンチーノは内心で小さく顔を翳らせる。疲労の色濃く今にも倒れそうになっている姉妹の姿が頭に浮かび、ペロロンチーノはいてもたってもいられなくなった。

 勢い込んで姉妹の居場所を問い質そうとして、しかしその前に村長がこちらに声をかけてくる方が早かった。

 

「ところで、そちらの方はどなたでしょうか?」

 

 村長の視線の先には両手に杖を持ってペロロンチーノの後ろに隠れるようにして控えている闇妖精(ダークエルフ)の子供。

 ペロロンチーノはハッと我に返ると、今回の目的を思い出して慌てて後ろを振り返った。片足を半歩後ろに下げて身体の向きを傾けると、背後に立つ小さな背をそっと押して前に促した。

 

「あぁ、そうだ! この子はマーレです。俺たちに仕えてくれてる子で、とっても優秀で良い子なんですよ!」

「マ、マーレ、です…。あ、あの、よろしくお願いします」

 

 マーレが杖を持つ手に力を込めながらおどおどと頭を下げる。

 庇護欲をくすぐられる幼気な態度に、村長は知らず穏やかな笑みを浮かべていた。

 しかしそれでいて幼い子供だからといって侮る様子は一切ない。ペロロンチーノの連れだからという理由が大きいのだろうが、村長は片膝をついてマーレに視線を合わせると、礼儀正しく小さく頭を下げた。

 

「そうでしたか。はじめまして、マーレさん。私はこの村の村長を務めております。よろしくお願いしますね」

「は、はい…」

「実は俺の代役としてマーレをここに置かせてもらおうと思って連れて来たんです。俺が毎日ここに来られれば良いんですけど、そういう訳にもいかなくて…。何か困ったことがあったらこの子に言って下さい」

「そんな! 村を助けて頂いて、これ以上ご迷惑をおかけするわけにはいきません!」

「いや、気にしないで下さい。…実を言うと人間とも交流を持ちたいとずっと思っていたんです。でも、見たとおり俺たちは異形なのでなかなかうまくいかなくて…。だから皆さんが少しでも俺たちを受け入れてくれてすっごく嬉しいんです! ぜひ仲良くさせて下さい!」

 

 拳を握りしめて力説するペロロンチーノの勢いに、村長は少し気圧されたようだった。

 しかしその顔には負の色は少しも見られない。

 村長は小さな微笑みを浮かべると、大きく頷いて頭を下げることでペロロンチーノの申し出を受け入れた。

 これが例えばモモンガやウルベルトであったなら、ここまで上手くはいかなかったかもしれない。村長が人外であるペロロンチーノやマーレを受け入れたのは、偏にペロロンチーノの明るい人柄と、モモンガとウルベルトが情報収集している短い間にも村人たちと交流を深めていた結果だった。

 

「良かった! ありがとうございます、村長さん!」

「いえいえ、こちらこそ。我々のような者を気にかけて下さって、ありがとうございます」

「よーし! じゃあ、さっそく……」

 

「あーっ! ペロロンチーノ様だぁ!」

 

 胸の羽毛を膨らませて意気込むペロロンチーノに、しかし不意に聞こえてきた幼い高い声がそれを遮った。

 咄嗟に口を閉ざして周りを見回せば、丁度満面の笑みを浮かべてこちらに駆けこんでくる少女の姿が目に飛び込んできた。

 少女は小さな足に急ブレーキをかけると、ペロロンチーノの目の前で立ち止まってキラキラとした目で見上げてくる。

 

「こんにちは、ペロロンチーノ様!」

「こんにちは、ネムちゃん。今日も元気そうで良かったよ。でも、そんなに走ったら危ないよ」

 

 頬を赤く染めて満面の笑みを浮かべる様が何とも可愛らしい。

 ペロロンチーノはだらしなく緩みそうになる表情を必死に引き締めさせながら、しかし衝動を抑えることができずにそっと少女へと手を伸ばした。ガントレットの鋭い指先で傷つけないように細心の注意を払いながら、髪を梳くようにして優しく小さな頭を撫でる。

 後ろではマーレが無機質な瞳でそれを見つめていたのだが、幸か不幸かペロロンチーノはそれに全く気が付くことはなかった。

 飽きることなくネムの頭を撫で、不意に再び聞こえてきた少女の声に漸くその手の動きを止めた。

 

「ネム、急にいなくなってどうし……ペ、ペロロンチーノ様!?」

「こんにちは、エンリちゃん。今日も一段と可愛いね」

 

 妹のネムを探しに来たのだろう、こちらの存在に驚くエンリにペロロンチーノはすかさず甘い言葉を囁いた。

 流石は“エロゲー イズ マイ ライフ”を唱えるだけの事はあると言うべきか、ほぼ条件反射でくさい台詞を堂々と口にしている。

 もしここにモモンガやウルベルトがいたなら、まるで変質者を見るような白い目でペロロンチーノを見つめたことだろう。しかしここには二人のどちらもいはしない。

 マーレは変わらぬ無機質な目で姉妹を見つめており、村長はキョトンとした表情を浮かべ、ネムはエンリにじゃれつき、エンリは赤くなった顔に戸惑ったような表情を浮かべていた。エンリが反応に困っている中、彼女にじゃれついていたネムが無邪気な笑顔を浮かべてペロロンチーノを見上げてくる。

 

「ペロロンチーノ様はいつまでいらっしゃるんですか?」

「う~ん、ちょっとだけ村長さんと話したいことがあるから、それが終わるまではいるつもりだよ。とりあえず今日一日はいるかな」

「わぁっ! やったー!」

「こら、ネム! ペロロンチーノ様はお忙しいんだから…、本当にすみません!」

「いやいや、大丈夫だよ。ネムちゃんが喜んでくれる方が嬉しいしね」

 

 ペロロンチーノは声音こそ紳士的に落ち着いた口調で話してはいたが、被っている黄金の兜の下では顔が緩みっぱなしだった。こんな顔を見られたら威厳も何もあったものではない。

 ペロロンチーノはネムからの思った以上の好感度に内心でガッツポーズを取りながら、しかし何とか態度には出さずにあくまでも優しく紳士的に彼女たちに接した。

 

「…ところで、エンリちゃんとネムちゃんは今まで何をしていたのかな?」

「畑の手入れをしていたんです。今回の件で酷く荒れてしまいましたし…、人手はいくらあっても足りませんから」

 

 顔を翳らせながらも気丈にも小さな笑みを浮かべるエンリに、ペロロンチーノは羽毛に覆われた胸の裡がキュゥッと切なく痛むのを感じた。

 できることなら力になってあげたいと思いながら、ふとこの場に来た一番の目的を思い出した。

 危ない危ない!と思わず内心で冷や汗を浮かべる。このまま忘れて帰ってしまっていたらモモンガやウルベルトからきつい御仕置きをされていたかもしれない…。

 また忘れる前にさっさと済ませてしまおうと心に決めると、ペロロンチーノは勢いよく村長を振り返った。

 

「村長さん!」

「はっ、はい!?」

「実は折り入ってご相談があったんです!」

「は、はぁ…、一体どのようなことでしょうか?」

 

 どこか不安そうな表情を浮かべる村長を尻目に、ペロロンチーノは傍らに控えるマーレへと視線を向けた。

 

「マーレ、頼めるかな?」

「は、はい。少々お待ちください」

 

 ペロロンチーノの言葉にマーレはこくんと一つ頷くと、杖を持つ両手に力を込めてそっと目を閉じた。短い詠唱と共にマーレの目の前の空間がぐにゃりと歪み、徐々に一つの影が浮かび上がってくる。

 村長と姉妹が驚愕に息を呑む音が小さく聞こえてくる中、彼らの目の前で何もなかった空間に一つの巨大な石の塊が姿を現した。

 

「これは石の動像(ストーンゴーレム)と言って、簡単に言うと石で出来た動く人形のようなものです。動きは遅いですけど力持ちなのでいろんな作業に役立つと思います。………こいつを一日銅貨5枚でレンタルしませんか?」

「れんたる…ですか……?」

 

 聞き慣れぬ言葉に村長たちが思わず不思議そうな表情を浮かべる。

 ペロロンチーノも言葉のチョイスを間違えたことに気が付き、慌てて何とか言い直そうと口を開いた。頭の中で必死に言葉を選びながら、何とかこの取引が上手くいくように願う。

 

「えっと、つまり、このストーンゴーレムを一日銅貨5枚で皆さんにお貸ししたいと思っているんです」

「これを、ですか……」

「村の復興には人手がいるでしょうし、かといって俺たちがずっとお手伝いをするわけにもいきません。こいつなら必要と思われる個数を用意できると思いますし、力仕事では特に役に立つと思います。…それに、有料の方が村長さんも何かと安心でしょう?」

 

 最後はワザとおどけたように言ってみせるペロロンチーノに、村長は小さく苦笑を浮かばせた。

 ペロロンチーノとしては無償で提供したかったのだが、それはモモンガとウルベルトから断固反対されていた。

 一つは、無料よりもいっそ取引の形をとった方が人間というものは安心しやすいということ。

 この世界にあるのかは分からないが、ペロロンチーノたちがいた現実世界では“無料ほど怖いものはない”という言葉もあったほどだ。これは決して詐欺ではないのだが、それを証明するためにも敢えてこの形をとった方が無難でいて村長側も安心するだろうとのことだった。

 次に、この世界の金はいくらあっても足りないという現状があった。

 ナザリックの宝物殿には金貨の山がいくつもあるのだが、あれはあくまでもユグドラシルでの金貨だ。この世界で使えるかも分からないし、例え使えたとしてもできるならあまり使いたくないというのがペロロンチーノたち全員の考えだった。

 しかし外の世界に活動の幅を広げたなら少なからず金銭というものは必要になってくる。冒険者となるモモンガたちやワーカーとなるウルベルトたちがどのくらい稼ぐことになるのか分からない以上、その他の手段も講じていく必要があった。

 

「それで…、どうでしょう…?」

「……ペロロンチーノ様からのご厚意を捨てるようなことなどできません。心苦しくはありますが、喜んでその申し出を受けさせて頂きます」

「あ、ありがとうございます!」

「ただ…我々はそのゴーレムというものに詳しくありません。まずは一体だけ使わせて頂いて、後ほど必要に応じて個数を決めさせて頂いてもよろしいでしょうか?」

「それは勿論! また決まったらマーレに言って下さい」

「分かりました」

 

 真剣な表情を浮かべて頷く村長に、ペロロンチーノも一つ頷きを返す。

 一度マーレを見やると、改めて村長へと目を向けた。

 

「他の人たちにもマーレを紹介したいので、少し村を周っても構いませんか?」

「勿論です。皆もペロロンチーノ様の御姿を見れば喜ぶでしょう。私も案内を…」

「はーい! 私が案内するー!」

 

 

 村長の言葉を遮ってネムが元気よく手を上げてくる。

 ペロロンチーノと村長が思わずネムを見つめる中、ネムはにこにこと満面の笑みを浮かべ、エンリは困惑した顔をネムやペロロンチーノたちへと向けていた。

 

「あ、あの…ネムもこう言ってますし、私たちでペロロンチーノ様をご案内しても良いですか?」

 

 ネムだけでなくエンリからも思わぬ申し出をされて、ペロロンチーノは思わず歓喜に胸を高鳴らせた。まさかこんなに早く姉妹を攻略できるとは!とあまりにも早すぎる喜びに打ち震える。

 この好機を逃してなるものかとばかりに心の中で拳を握りしめると、あくまでも面は冷静の仮面を被って村長を振り返った。

 

「俺は全然構いませんよ。村長さんも忙しいと思いますし」

「ですが…、……いえ、そうですね。エンリ、ネム、頼めるかい?」

「はい!」

「はーい!」

 

 エンリとネムがそれぞれ元気な声で返事をする。

 柔らかな笑みを浮かべて頷く村長に、姉妹もそれぞれ頷きを返してペロロンチーノの元へと歩み寄ってきた。

 

「こっちですよ、ペロロンチーノ様!」

 

 ネムが可愛らしい笑みと共にペロロンチーノの右手を握ってくる。瞬間、マーレがピクッと小さく反応してほんの微かに表情を強張らせたが、この時もペロロンチーノはそのことに全く気が付かなかった。ただネムの可愛らしさに内心で身悶えながら彼女に促されるままに足を動かし始める。

 ペロロンチーノは村長と短く挨拶を交わすと、マーレやストーンゴーレムやエンリを引き連れてネムの案内のままに村の奥へと足を踏み入れていった。

 モモンガとウルベルトと三人で散策した時と同じ光景が目の前に広がる。

 多少復興は進んでいるものの、それは微々たるもので時間はまだまだかかりそうだ。

 ペロロンチーノは村の現状を注意深く観察しながら、出会う村人たち全員に挨拶とマーレやストーンゴーレムの紹介をしていった。

 村人たちは全員笑顔と共にペロロンチーノたちを迎え入れてくれ、多少の戸惑いの色を浮かべる者はいたものの、それでも十分良い傾向にあると言えるだろう。特にペロロンチーノを快く受け入れてくれたのは生き残った男たちであり、防衛のために訓練を始めた者たちだった。

 ひらけた場所に木の丸太やカカシを立て、それに向かってそれぞれが得物を振るっている。

 彼らが持つ得物は、彼らを襲った騎士たちが持っていたものが殆どで、全体的には長剣が多い。しかし中には弓矢もあり、ペロロンチーノは引き寄せられるようにそちらへと歩み寄っていった。

 手短に男たちと挨拶を交わすと、改めて弓矢の的となっているカカシを振り返る。

 カカシはペロロンチーノが立っている場所から丁度30メートルほど離れた場所に立っており、今まで放たれた矢の殆どがカカシの足元の地面に突き刺さっていた。カカシ自体に刺さっているものは二、三本と少なく、それさえもカカシの腹の部分や太腿の部分に刺さっていて殺傷力はあまりないものだった。

 

「……ちょっとそれを貸してくれませんか?」

「? …それは構いませんが…」

 

 一番近くにいた困惑の表情を浮かべている男から弓矢を受け取ると、ペロロンチーノはそのまま肩幅に足を開いて矢をつがえ、弓を構えた。ゆるく(・・・)弦を引き、狙いを定める。

 ペロロンチーノが狙っているのは一番遠くに立っているカカシ。

 彼が何をしようとしてるのか理解した姉妹や男たちが思わず固唾をのむ中、まるで弾かれたように勢いよく矢が放たれた。弾丸のように空を切り裂き、カカシの柔らかな眉間部分を捕らえる。

 少しのズレも小さな歪みもなく眉間部分に深々と突き刺さった矢に、今まで静かに見守っていた姉妹や男たちから大きな歓声が上がった。

 ペロロンチーノはと言えば、構えていた弓をゆっくりと下ろしながらホッと小さく安堵の息をついていた。しかしそれは狙いが外れなかったことへの安堵ではなく、力加減を間違えなかったことに対するものだった。

 ペロロンチーノにとって、この程度の距離などよそ見をしていても当てられる。しかし問題なのは、いつも通りに矢を放った場合、的を破壊してしまう危険性があることだった。

 超遠距離まで矢を狙い放つことのできるペロロンチーノの腕の筋力は100レベルということと異形種ということもあって凄まじいものがある。的が非常に近く、なおかつカカシといったか弱いものであればなおのこと、矢一本で破壊することなど容易なことだった。力を緩めて放って本当に良かった…と内心でもう一度安堵の息をつく。

 それでいて姉妹の反応はどうだろうと目を向けると、未だ興奮したように騒ぎ立てる男たちの中でエンリだけが一人神妙な表情を浮かべていた。暫く何事かを考え込むように目を伏せ、次には勢いよく顔を上げてペロロンチーノを見上げてきた。

 

「ペロロンチーノ様!」

「は、はい!?」

「どうか私に弓を教えて下さい!!」

「っ!!?」

 

 突然の思ってもみなかった言葉に、ペロロンチーノは兜の下で大きく目を見開いて小さく息を呑んだ。

 ペロロンチーノの顔を映すエンリの大きな瞳には強い意志と決意の色が宿っている。

 ペロロンチーノは小さな戸惑いの表情を浮かべながら、落ち着かせるように穏やかな声音を意識して声をかけた。

 

「…どうしていきなりそんなことを言いだしたんだい?」

「いきなりなんかじゃありません! 私、ずっと考えていたんです…。あの時、何もできない自分が悔しかった! お父さんを、お母さんを、皆を守れない自分がどうしようもなく嫌で…、ペロロンチーノ様たちが助けに来てくれなかったら、私もネムもあの時に死んでいました!」

「……………………」

「強くなりたいんです…! 少しでも、ちょっとでもいいから…、ネムや皆を守れる力がほしい!」

 

 話しているうちに感情が高ぶってきたのか、大きな瞳は潤みだし、声は悲鳴のように切なく歪む。

 ペロロンチーノは必死に言い募るエンリを暫く見やると、一つ小さな息をついてそっと小さく細い両肩に両手を触れさせた。腰を折って視線を低くし、まるで覗き込むようにエンリへと顔を近づける。

 

「落ち着いて、そんなに必死にならなくても大丈夫だよ。…エンリちゃんの言いたいことは分かった。でも、正直言って俺にどこまで教えられるか分からないんだ。俺はエンリちゃんたちと違って異形だからね」

「……………………」

 

 ペロロンチーノの言葉に、エンリが悲しそうに顔を歪めて黙り込む。

 しかし、先ほどの言葉は紛れもなくペロロンチーノの本心だった。

 異形で種族が違うから…と言うのは言葉の綾だが、ペロロンチーノの場合、ユグドラシルというゲームで弓兵に特化したアバターがそのまま自分の肉体になっただけなのだ。謂わばペロロンチーノの力は普通に訓練や経験から積み重ねられた熟練の技術(ワザ)ではなく、言うなれば本能的に刻み込まれたものなのである。

 基本の構えを知らなくても、身体が勝手に基本の構えを取ってくれる。

 腕をどうやって引き、どこに力を込めたら矢がどう飛ぶのか、頭ではなく本能が理解している。

 そんな状態で人に教えることなどできるのだろうか…。

 しかしそんな不安の中でも、彼女の力になりたいという思いはあるのだ。

 ペロロンチーノは落ち込んだように顔を俯かせるエンリの頭へと手を乗せると、ガントレットの爪で傷つけないように優しく撫でた。

 驚いたようにバッと顔を上げるエンリと目と目が合う。

 

「それでも、君たちの力になってあげたいと思うこの気持ちは本当だよ。…どこまでできるかは分からないし、毎日っていう訳にもいかないけど、それでも良ければ協力するよ」

「っ!! ありがとうございます! 本当にありがとうございます!!」

 

 瞬間、エンリの顔がぱあっと明るく輝いて弾けたような笑みを浮かばせた。

 飛び上がらんばかりに喜ぶ少女に、ペロロンチーノもにっこりとした笑みを浮かべる。

 屈めていた背を伸ばし、改めてエンリを見つめた。

 

「でも、今日はまだ駄目だからね。次に俺がこの村に来た時に改めて教えてあげるよ。とりあえずエンリちゃんはそれまでにできるだけ腕の筋肉を鍛えておくこと! 良いかい?」

「分かりました!」

 

 嫌な顔一つせずにしっかりと頷くエンリに、ペロロンチーノの笑みが更に深められる。今度この村に来るまでに彼女専用の弓をウルベルトに作ってもらおうと密かに心に決めながら、ペロロンチーノも大きく頷いて返した。

 彼らの周りでは村の男たちもペロロンチーノへ教えを請い始め、ネムは楽しそうにストーンゴーレムにじゃれついている。

 和やかな光景と村人たちの温かさを感じながら、ペロロンチーノは今この時を心から楽しんでいた。

 人間種と異形種という違いはあれど、この場には一つの陰りも存在しない。

 ペロロンチーノ主体のカルネ村との交流は、こうして先行き良く始まるのだった。

 

 




何故だ…、姉妹とのシーンでのペロロンチーノ様が変態にしか見えない…(汗)

当小説ではエンリちゃんは弓兵になるようです!

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