世界という名の三つの宝石箱   作:ひよこ饅頭

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長らくお待たせしてしまい、大変申し訳ありませんでした!(土下座)
そしてそして、お気に入り件数3000件突破、ありがとうございます!
ここまで来れるなんて信じられません!
正直夢なんじゃないかと思うほどです……(汗)
こんな趣味に走りまくりの小説ですが、今後も少しでも皆さんに楽しんで頂けるよう精進して参ります!


第36話 森の支配者

「――……それは本当なのか?」

 

 薄暗い室内に、緊張感を孕んだ掠れた声が零れて消える。

 死の世界から蘇り蜥蜴人(リザードマン)の連合長となったシャースーリュー・シャシャは、目の前の同胞が持ち帰ってきた情報に思わず低い唸り声を上げた。

 ここはリザードマンの集落に新たにできた“王会の館”の一室。

 “王会の館”とは、“アインズ・ウール・ゴウン”の傘下に加わった際、統治者となったコキュートスの命によって建てられた建物である。

 用途としては主に“アインズ・ウール・ゴウン”の支配者たちを迎えての謁見や、コキュートスとの会談。その他にも今回のようにリザードマンたちだけでの話し合いの場としても利用されていた。

 今回この場に集っているのはシャースーリューの他に、彼の弟でありリザードマン一の戦士でもあるザリュース・シャシャ。一時リザードマンの代表を務めていた雌のリザードマンであるクルシュ・ルールー。丁度ザリュースと共におり、半ば強引にこの場の話し合いに参加してきた元・“竜牙(ドラゴン・タスク)”の族長であるゼンベル・ググー。そして、今回の話し合いを行うに至った情報を持ってきた、二体の狩人のリザードマンたちだった。

 彼らが持ってきた情報とは『東と西の王が手を組んで“黄金の鳥人(バードマン)”を倒すために勢力を集めている』というものだった。

 

「………この“黄金のバードマン”とは、間違いなくペロロンチーノ様の事だろうな……」

「ええ、間違いないと思うわ。アインズ様とオードル様は兎も角、ペロロンチーノ様はこの森では既に恐怖の対象として噂が広がっているし、東の王と西の王が危機感を持つのは当然だと思うわ」

 

 ザリュースの独り言のような言葉に、クルシュが同意して大きく頷いてくる。シャースーリューとゼンベルも大きく頷き、狩人のリザードマンたちは不安そうな表情を浮かべて代表たちを見つめていた。

 

「それで……、どうすんだ? 東と西が手を組んだところで、あいつらが倒されるとも思えねぇが」

「……一番安全なのは、こちらから進んで報告することだろうな。東と西が“アインズ・ウール・ゴウン”に勝てる可能性など皆無に等しい。ならば、我らの取る行動は一つだ」

「そうだな……。至急、コキュートス様に謁見を申し入れよう。お前たちも共に来てくれ」

 

 シャースーリューの決断に、この場にいる全てのリザードマンが大きく頷いて同意を示す。シャースーリューも一つ頷いてそれに応えると、行動を起こすために立ち上がった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「……東の王と西の王の結託? なんだそれ?」

 

 時は少々過ぎて再びの“王会の館”。

 シャースーリューたちが使っていた部屋とはまた違う部屋で、シャースーリューたちは目の前の玉座に向けて深々と頭を下げていた。

 彼らの目の前の玉座に腰掛けているのは黄金のバードマンことペロロンチーノ。そして彼らが最初に報告しようと考えていたコキュートスは、ペロロンチーノのすぐ傍らに控えるように立っていた。

 何故この場にコキュートスだけでなくペロロンチーノもいるのかと言うと、シャースーリューたちの報告を聞いたコキュートスが彼を呼びよせたからでは決してない。コキュートスを探している最中、丁度避難所となる偽のナザリックの建設のためにコキュートスの元を訪れていたペロロンチーノと偶然出くわし、あれよあれよという間にこのような場が設けられてしまったのだった。

 突然の思わぬ状況に、シャースーリューたちの緊張はピークに達している。

 そんな中でも勇気を振り絞って報告した彼らに返されたのが、先ほどのあっけらかんとした言葉だった。

 

「……う~ん、今一よく分からないんだけど……。もっと一から詳しく説明してくれないかな?」

 

 ペロロンチーノの言葉に、シャースーリューたちは下げていた頭を小さく上げながら困惑した表情を浮かべる。

 一からと言われてもどこから説明したら良いのかが分からず、思わず互いに顔を見合わせた。

 困惑と疑問と緊張に支配されて何も言葉を発せずにいるシャースーリューたちに、ペロロンチーノは小首を傾げながらもより具体的に、まずは『東の王と西の王は何者なのか』という所から質問を始めた。それにシャースーリューたちは再度顔を見合わせると、次にはこの場の代表としてシャースーリューが自分たちの知っていることを全て話し始めた。

 彼の話によると、そもそもこの広大なトブの大森林には三大と呼ばれる三つの大きな勢力があったらしい。

 南を縄張りとする“南の大魔獣”。東を支配している“東の巨人”。西を支配している“西の魔蛇”。そして北に関しては多くの種族が入り混じっているらしく、これといった支配者がいる訳ではないらしい。

 “南の大魔獣”に関しては、恐らく支配下に下して今は冒険者モモンの従獣となっている“森の賢王”の事だろう。

 そして残りの“東の巨人”と“西の魔蛇”が今、ペロロンチーノたちを倒すために手を組んで勢力を集めているとのことだった。

 

「へぇ~、そんな奴らがいたんだな~。……でも、何でそいつらは俺たちを狙っているんだ?」

 

 心底不思議そうに首を傾げるペロロンチーノに、今まで黙っていたクルシュが恐る恐る口を開いてきた。

 

「……恐れながら、ペロロンチーノ様のお噂は既に森中に轟いております。“恐ろしい魔物たちを引き連れて、森に棲むモノたちを連れ去る恐ろしい黄金のバードマンがいる”と。東の王と西の王が脅威に感じてペロロンチーノ様を狙おうとするのは仕方がないと思います」

「あ~、そういえばそうだったな……」

 

 クルシュの言葉から噂の存在を思い出して、ペロロンチーノは思わず力なく後ろ頭をかいた。

 思えば“恐ろしい黄金色のバードマン”の噂は、クルシュだけでなくピニスンからも聞いていたことを思い出す。

 こちらの存在を脅威に感じて反抗してくるのも当然のように思われた。

 ペロロンチーノは一度大きな息をつくと、徐に傍らに控えているコキュートスを振り仰いだ。

 

「どう思う、コキュートス?」

「至高ノ御方デアラセラレルペロロンチーノ様ニ刃ヲ向ケルナド、許シ難イ大罪。即刻身ノ程ヲ弁エサセルベキデアルト愚考イタシマス」

「……いや、まぁ、その気持ちは嬉しいんだけど……。う~ん、でも今まで“東の巨人”やら“西の魔蛇”の存在は知らなかったんだよなぁ。コキュートスは何か心当たりはないか?」

「申シ訳アリマセン。私ハ把握シテオリマセンデシタ」

「いや、俺もだから別に良いんだけど……。アウラなら何かしら知ってるかな……。コキュートス、悪いけどアウラを呼んできてもらえるか?」

「畏マリマシタ」

 

 コキュートスはペロロンチーノへと深々と一礼すると、次には踵を返して扉へと歩を進めた。しかし部屋の外へと出る訳ではなく、外で扉を守っているシモベへと、アウラを呼んでくるように言伝を行っている。その間に、ペロロンチーノはなるべく詳しく“東の巨人”と“西の魔蛇”について知るべくシャースーリューたちに質問を再開させた。

 しかしシャースーリューたちも彼らがどんな存在であるかまでは詳しくは知らなかった。“東の巨人”は巨大な剣を持っていることと、“西の魔蛇”は人間のような顔を持ち、魔法を使うことくらいしか分からない。

 恐縮したように身体を縮み込ませるシャースーリューたちを見つめながら、ペロロンチーノは必死に自身の知識をこねくり回した。

 “東の巨人”に関しては大きな剣を持っているということから、得物を振るえる人間のような腕を持った種族であることが予想される。“巨人”という二つ名から、それこそ巨人族である可能性も考えられたが、どうにも確信は持てなかった。

 次に“西の魔蛇”に関してだが、こちらもなかなか種族を特定することは難しい。恐らく蛇のような外見をしているのではないだろうかと予想はできても、それだけではあまりにも情報が少なすぎた。

 どうにも想像の域を出ないな……と思わず小さなため息を零す。

 後はアウラ頼みだな、と思考を巡らす中、不意に扉をノックする音が外から聞こえてきて、反射的にそちらを振り返った。視線のみで伺いを立ててくるコキュートスに、扉を開けてやるように頷いて返す。

 コキュートスは一礼して扉へと歩み寄ると、開いた扉の隙間からアウラの慌てたような表情が姿を現した。

 

「ペロロンチーノ様。第六階層守護者アウラ・ベラ・フィオーラ、お呼びと伺い馳せ参じました」

「ああ、よく来たね、アウラ。急に呼び出してごめんよ。こっちにおいで」

 

 室内に入ってすぐの扉の前で片膝をついて頭を下げてくるアウラに、優しく声をかけながらこちらに来るように手招く。

 アウラは素早く立ち上がると、ペロロンチーノを待たせないための配慮か足早に玉座へと歩み寄ってきた。

 

「ペロロンチーノ様、何かご命令でしょうか? ……もしや、そこのリザードマンたちと何か関係があるのでしょうか?」

 

 チラッとシャースーリューたちを見やりながら聞いてくるアウラに、ペロロンチーノは考え込みながらも小さく頷いた。

 どこから話すべきか……と思考を巡らせ、全て話すべきだと即判断を下す。

 ペロロンチーノはすぐ傍まで来たアウラに労いの意味を込めて軽く頭を撫でてやると、次には手短にシャースーリューたちから聞いた情報をアウラに説明していった。

 

「――……と言う訳なんだけど、アウラは“東の巨人”と“西の魔蛇”について何か心当たりはないかな?」

 

 小首を傾げながら問いかけるペロロンチーノに、しかし返ってきたのは申し訳なさそうな困り顔だった。

 

「申し訳ありません、ペロロンチーノ様。“東の巨人”も“西の魔蛇”も、それらしき情報は持っておりません。強者の情報は注意深く集めているつもりだったのですが……」

「まぁ、考えてみれば“森の賢王”と同列に呼ばれてるってことは“東の巨人”と“西の魔蛇”も同じくらいのレベルなんだろうし、見逃しても仕方がないか。あまり気にしなくても良いよ、アウラ」

「あ、ありがとうございます、ペロロンチーノ様!」

 

 ペロロンチーノの気遣いともとれる言葉に、アウラは申し訳なさそうに眉を八の字に歪ませながらも顔を笑みの形に綻ばせる。ペロロンチーノもニッコリとした笑みを浮かべると、次にはアウラから視線を外してシャースーリューたちへと目を向けた。向けられた視線に気がつき、シャースーリューたちはすぐに再び深々と頭を下げてくる。

 

「“東の巨人”と“西の魔蛇”が手を組んでいると言っていたな。奴らがどこにいるか分かるか?」

 

 ペロロンチーノの問いを受け、シャースーリューやザリュースたちは自身の後ろにいる二体の狩人のリザードマンをチラッと振り返る。彼らはビクッと怯えたように一度身体を強張らせると、互いに顔を見合せた後に勇気を振り絞るようにゆっくりと口を開いてきた。

 

「か、確実な居場所は分かっておりません。た、ただ……」

「拠点としている場所なら、分かります。も、もしかしたらそこに、どちらかがいるのかも……」

「ふむ……。奴らは勢力を集めていると言っていたな。どのくらいの規模で、どういった種族がいるのか分かるか?」

「き、規模は……よく、分かりません」

「ただ、悪霊犬(バーゲスト)やバグベア……、あと、子鬼(ゴブリン)の姿も見ました。他にもいるかどうかは、分かりません……」

 

 二体のリザードマンたちの答えに、ペロロンチーノは低い唸り声を上げながら思考を巡らせた。

 正直に言って、今までの話を統合してもあまり脅威には感じられない。“東の巨人”も“西の魔蛇”もレベルで言えば30いくかいかないかくらいであろうし、集められている種族も聞く限りではそこら辺に転がっているような獣並みのものばかり。放っておいても別に損害はないのではないだろうかとさえ思えてくる。

 しかし、ここで放置していれば、モモンガやウルベルトから非難されることは明白だった。また、どんな時でも油断するのは褒められたことでは決してない。

 ペロロンチーノは座っている玉座の背もたれに深く背を預けると、更に思考を深く巡らせた。東と西の勢力をどういった形で対処するか頭を悩ませる。

 一番問題なのは、東と西の勢力がどれほどの規模で、どの程度の統率がなされているかだった。

 獣の寄せ集めであればそれほど重要視する必要はない。しかし目の前のリザードマンたちのように、一定の理性や文化を持ち、組織を構成できる知恵を持っている集団であれば、こちらの対処も変わってくるのだ。

 ペロロンチーノは暫く頭を悩ませると、漸く考えをまとめて俯かせていた顔を上げた。こちらの様子を静かに窺っていたコキュートスやアウラたちを見やり、次にリザードマンたちへと目を向ける。

 

「……まずは“東の巨人”や“西の魔蛇”がどんな奴らなのか見てみよう。君たち、案内を頼むよ。コキュートスとアウラも準備を頼む」

「ハッ、畏マリマシタ」

「畏まりました」

 

 ペロロンチーノの決断に、コキュートスとアウラがすぐさま跪いて頭を下げてくる。そしてシャースーリューたちも一瞬呆然とした表情を浮かべたものの、次には弾かれたように慌てて頭を下げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ペロロンチーノの命により、すぐさま東と西の勢力に対する一軍が編制された。

 編制したのはコキュートス。

 アウラは予備軍としてリザードマンの集落の留まり、ペロロンチーノとコキュートスを中心に、エントマと八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)を含むコキュートスの配下である虫系のシモベたちが多数。そしてリザードマンたちも勉強という名目で何体かが同行することになった。

 情報を持ってきた二体の狩人のリザードマンを先頭に、まずは情報を入手した場所へと案内してもらう。その一方でエントマや彼女の眷族である虫たち、そして八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)を中心に周辺を捜索しながら奥へと進んでいった。他のシモベたちはペロロンチーノの護衛としてペロロンチーノの周りに控えるようにして従っている。彼らの後ろで随従しているリザードマンたちは総数約二十体ほど。先頭で案内している狩人のリザードマン以外は全員が戦士であり、その中にはザリュースとゼンベルの姿もあった。

 ペロロンチーノたちは注意深く周りを見回しながら森の奥へと進んでいく。

 黙々と足を進めること数十分後、突然前方の森が途切れていることに気が付いて、ペロロンチーノたちは漸く動かしていた足を止めた。

 

八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)、周辺ニ散リ包囲網ヲ張レ。エントマ、オ前ノ虫タチニモ動イテモライタイ」

「はい~、良いですよぉぉ」

「他ノモノハペロロンチーノ様ヲオ護リシロ」

 

 コキュートスがすぐさま指示を飛ばし、シモベたちも次々と行動を開始していく。ペロロンチーノも取り立てて思う所はなかったため、彼らの準備が整うのを大人しく待つことにした。

 

「オ待タセイタシマシタ、ペロロンチーノ様」

 

 数分後、包囲網が滞りなく出来上がったのか、コキュートスが跪いて頭を下げてくる。ペロロンチーノは一つ頷いてコキュートスを立ち上がらせると、案内として先頭に立たせていたリザードマンたちを後ろへと下がらせて改めて前方へと目を向けた。

 ペロロンチーノたちの視線の先にあったのは、深い森の中にぽっかりと空いた広場のような場所。しかしそれは自然にできたものでも干ばつといった災害によってできたものでもなく、見るからに人為的にできたものだった。この場に生えていたのだろう幾つもの木々が無残な姿となって地面の至る所に倒されて転がり、場所によっては溝のように地面がめくれている部分もある。何をどうしようとしてこうなったのかは皆目見当もつかなかったが、少なくともここが目的地の一つだということは判断できた。荒廃した大地の至る所に亜人や魔獣たちが犇めき合い、奇声や怒号や悲鳴を上げてけたたましく騒いでいた。

 

「……どうやらここで間違いないみたいだな。後は“東の巨人”か“西の魔蛇”がどちらかでもいたらいいんだけど……」

 

 近くの茂みにしゃがみ込んで身を隠しながら広場に視線を走らせる。

 目に飛び込んでくるのはリザードマンが言っていたバーゲストやバグベアやゴブリン。他にも人喰い大鬼(オーガ)やボガードなどもいるようだった。

 ざっと見た限りでは勢力は1000程度。しかしこれが全てである保証はなく、違う場所にも散らばっている可能性も大いにあった。

 とはいえ、ここで手を拱いていても仕方がない。探索や監視能力に長けたシモベたちを配置して監視するのも一つの手だが、第二のナザリックの建設も進めなければならない今、こんな事にあまり時間と人手を割く訳にはいかなかった。

 ならば選択できる手は一つしか残されていない。

 ペロロンチーノは仮面の奥で小さく目を細めさせると、次には傍らに控えるコキュートスを振り返った。

 

「……今からこの場を一気に制圧する。情報も欲しいから何体かは捕虜として生かしておいてくれ」

「畏マリマシタ」

「エントマ、こちらの動きが外部に漏れたら不味いから包囲網を厚くして一匹も逃がさないように配下たちに伝えてもらえるかな?」

「はいぃ、畏まりました」

 

 ペロロンチーノの指示に、コキュートスとエントマがすぐさま返事を返してくる。他のシモベたちも無言で頭を下げ、ペロロンチーノはそれを見届けた後に勢いよく立ち上がった。

 

「お前たちはここに潜んで隠れていろ。制圧戦がどういったものなのかよく見ておくと良い」

 

 一番後ろに控えているリザードマンたちを振り返ると、ペロロンチーノは短く指示を出してすぐに視線を前方へと戻した。

 アイテムボックスからゲイ・ボウを取り出し、弦に指をかけて大きく引き絞る。

 瞬間、どこからともなく現れる光の矢。

 ペロロンチーノは広場の中心辺りにいる一体のオーガへと狙いを定めると、一拍後に勢いよく矢を解き放った。

 それと同時にコキュートスとエントマ、コキュートスの配下たちも一気に広場へと躍り出る。

 突然のことに亜人や魔獣たちが驚愕の声を上げる中、コキュートスたちは容赦なく彼らに襲いかかり、蹂躙していった。

 ペロロンチーノは未だ広場には足を踏み入れず姿を見せぬまま、コキュートスたちを援護するように次々と矢を放っていく。彼らに被害が及ばぬように爆撃系の矢は控え、代わりに貫通系の矢を中心に次々と亜人や魔獣たちを串刺しに貫いていく。

 亜人や魔獣たちは応戦するモノよりも逃げようとするモノの方が多く、ペロロンチーノたちは逃走先に回り込むような形で外側から内側に向けて攻撃していった。

 

「何をしている! 戦えっ!!」

 

 不意に聞こえてきた低いドラ声。

 反射的にそちらへと視線を向ければ、地中へと繋がる洞窟の入り口から何体もの妖巨人(トロール)が地上へと這い出てきたところだった。

 中でも一際体格のいいトロールが一体おり、先ほどの声はこのトロールのものだと理解する。

 そのトロールは二メートル後半という長身に筋骨隆々の体格。顔は長い鼻と長い耳が目立ち、人間での感覚で言えば非常に醜い分類に入る。加えて身に着けている装備や武器が他のトロールたちとは少しばかり違っており、動物の皮を何枚も集めて作製したのだろう革鎧を身に纏い、ごつごつとした大きな手には巨大なグレートソードが握り締められていた。それもグレートソードはどうやら魔法武器であるようで、中心に刻まれた溝から粘着質な液体がぬらぬらと溢れて刀身を濡らしている。

 何とも不気味で気色の悪い武器。

 ペロロンチーノは嫌そうに顔を歪めながらも構えていたゲイ・ボウを下ろすと、翼を羽ばたかせて宙へと舞い上がった。一瞬この場にリザードマンたちだけを残していくことを躊躇するも、すぐに気を取り直して森の木々の頭上まで上昇する。それでいてゆっくりと広場の中心に向かって舞い降りていくのに、ここで漸くペロロンチーノの存在に気が付いた亜人や魔獣たちが驚愕の表情を浮かべた。コキュートスたちも動きを止め、目の前の獲物には目もくれずにその場に跪いて深々と頭を下げる。

 ペロロンチーノはトロールたちの目の前まで降下すると、無造作に着地して一際大きなトロールを真正面から見やった。

 

「初めまして、トロールの皆さん。俺は……――」

「黄金色のバードマン!? ならば貴様が噂の鳥野郎か!!」

「ちょっと、途中で遮るなよ。まだ話の途中だろ」

 

 大きなトロールに言葉を遮られ、ペロロンチーノは思わず仮面の奥で顔を顰めさせる。

 しかしすぐさま気を取り直すと、注意深く周りの気配を窺いながらも再び口を開いた。

 

「君の言う通り、俺が噂のバードマンだよ。“東の巨人”と“西の魔蛇”っていう奴らに会いに来たんだけど、どこにいるか知ってるかな?」

 

 失礼な態度に怒ることなく大人の態度で対応するなんて、なんて自分は寛容なのだろう……と内心で自画自賛。

 しかし目の前の大きなトロールが大きく反応したことに気が付いてペロロンチーノは思わず小首を傾げさせた。

 

「……東の王に会いたい、だと……? 貴様の目は節穴か! 俺こそが東の地を統べる王であるグだ!」

 

 グ……? とペロロンチーノは更に大きく首を傾げさせる。幾つもの驚愕と疑問が頭に湧いてきて、思わず混乱してしまいそうになった。ペロロンチーノは目の前のトロールをまじまじと見つめると、仮面の奥に隠れている大きな鳥目を何度も瞬かせた。

 目の前のトロールの口振りから、どうやら“東の巨人”とは目の前のトロール自身の事らしい。てっきり言葉通りの巨人族かと思っていたこともあり、トロールでは些か巨大不足ではないだろうか……と感じずにはいられなかった。

 また、先ほどトロールが口にした不可解な音の意味が分からない。

 先ほどの自分たちの会話の内容とトロールの言葉の内容を何度も脳裏で反映させ、そこで漸く『ひょっとしたら名前かも知れない……』という考えに思い至った。

 

「えっと……、さっきの“グ”って、もしかして君の名前だったりする?」

「そうだ! 俺に相応しい力強き名前だ!」

「へぇ~。……俺はペロロンチーノだ。よろしく」

 

 内心で変てこな名前だなと思いながら短く自己紹介するペロロンチーノに、グと名乗ったトロールは見るからに嘲りの笑みを醜い顔に浮かばせた。

 

「ふぁふぁふぁふぁふぁ! 俺とは違って臆病者の名前だ!」

「………え~……」

 

 突然名前を貶され、ペロロンチーノは思わず間延びした覇気のない声を零していた。

 『何でスパゲティーの名前なの?』とツッコまれたことは数あれど、流石に臆病者の名前だと貶されたのは初めてである。

 周りではナザリックのモノたちが怒りに殺気立っており、ペロロンチーノは軽く手を振って宥めながらも小さく首を傾げさせた。

 

「どうして俺の名前が臆病者の名前だってことになるんだ?」

「長い名は勇気が無い者の名だ! 俺のような短い名こそ、勇気ある者の名前なのだ!」

「へぇ~、トロールの文化ってやつかな……。因みに“アインズ”は?」

「貴様と同じく勇気なき者の名だ!」

「じゃあ、“ウルベルト・アレイン・オードル”は?」

「ふぁふぁふぁふぁっ! 最も勇気がなく、臆病者の名だ!!」

(……うわ~、ウルベルトさんがここにいたらブチギレてそうだなぁ…。)

 

 『本当に臆病者かどうか思い知らせてやろうか……?』と殺気立った笑みを浮かべる山羊頭の悪魔の姿が容易に頭に浮かび、ペロロンチーノは思わず仮面の奥で半笑いを浮かべる。それと同時に、この目の前のトロールだけは絶対に“アインズ・ウール・ゴウン”の傘下には組み入れまいと固く心に誓った。

 ペロロンチーノとしては他のトロールたちとは一見違う目の前のトロールは“アインズ・ウール・ゴウン”に組み入れても良いのではないかという考えもあったのだが、しかしウルベルトや、何よりナザリックのシモベたちのことを思えばそれも憚られる。ペロロンチーノも彼らの気分を害してまで手に入れたいほど目の前のトロールに魅力を感じたわけではないため、できるだけデータを取ることにしようと思考を切り替えた。

 とはいえ、あまりにレベル差があり過ぎると詳細なデータは取り難い。

 どうすべきか……と考え込む中、ふとリザードマンたちの存在を思い出してペロロンチーノは背後を振り返った。

 突如頭にひらめいた名案に、思わず仮面の奥の大きな鳥目がキラリと光り輝く。

 ペロロンチーノは自身の思いつきに満面の笑みを浮かべると、一人無言で何度も大きく頷いた。

 

「……そうだ、そうだよ。俺ってば今日頭冴えてるんじゃないか?」

「おい、貴様! 何をブツブツと呟いている!」

「いやいや、すっごく良いことを思いついたんだよ! 最近リザードマンの集落を傘下に加えたんだけどね。今、彼らを何体か引き連れてきてるんだよ。折角だから君にはリザードマンたちの経験値になってもらおうと思うんだ!」

「……? 何を言っている?」

 

 ペロロンチーノの言葉に、グは訝し気な表情を浮かべて大きく首を傾げさせる。ペロロンチーノが何故そんなことを言い出したのか分からない、と言うよりかは、彼が何を言っているのかさっぱり分からないといった様子だ。しかしナザリックのシモベたちはペロロンチーノの言葉も思考も完全に理解し、あるモノは思慮深さに崇拝の念を強くし、またあるモノはあまりの慈悲深さに感動すら覚えていた。

 リザードマンたちに経験を積む機会を与え、加えて至高の存在に弓引く許し難い大罪を犯したモノにさえ経験値という役に立てる機会を与えるとは、何と慈悲深くお優しい御方であろうか……。

 ペロロンチーノ本人やモモンガやウルベルトが聞けばドン引きするようなことを思いながら、ナザリックのシモベたちはペロロンチーノの思い付きに感極まって深々と頭を下げた。

 しかし、名指しされたリザードマンたちからすれば堪ったものではない。

 突然強敵と戦わなければならなくなったことに全員が戦慄する中、まるでそれに気が付いたかのようにコキュートスがペロロンチーノの元へと歩み寄ってきた。

 

「……ペロロンチーノ様。一ツ進言サセテ頂イテモ宜シイデショウカ?」

「うん? 良いぞ。なんだ?」

「ハッ。恐レナガラ、リザードマンタチダケデトロールタチヲ相手ニスルノハ些カ荷ガ勝チスギルト思ワレマス。ドウカ私ガ援護スルコトヲオ許シイタダケナイデショウカ?」

 

 ペロロンチーノははたっと目を瞬かせると、マジマジと目の前のコキュートスを見つめた。続いて未だ茂みの奥に隠れているリザードマンたちを見やり、最後にトロールたちを見やる。

 確かに二十体のリザードマンでこのトロールの数を相手取るのは無謀なような気がしてきて、思わず『あ~……』と小さく声を零してしまう。

 ペロロンチーノは一つゴホンッと咳払いをすると、気を取り直して改めてコキュートスへと目を向けた。

 

「分かった、援護をつけるのは許可しよう。ただし、その援護役は弓兵で後衛職である俺がするよ。コキュートスは彼らの戦闘に邪魔が入らないように他の亜人や魔獣たちを制圧していってくれ」

「……畏マリマシタ。感謝イタシマス、ペロロンチーノ様」

 

 コキュートスはペロロンチーノへと深々と頭を下げると、次には彼の命に従うべく素早く頭を上げて踵を返した。まずはリザードマンたちが戦うための場所を確保するべく、得物を片手に自身の配下にも指示を出していく。コキュートスと彼の配下たちはペロロンチーノの意思を体現するべく、トロールたちやペロロンチーノの周りをまずは掃除し、次にはそこからリザードマンたちがいるところまで道を切り開いていった。

 これにかかった時間は僅か五分弱。

 これにはトロールたちも恐怖に顔を強張らせているようだった。

 

「みんな、ご苦労様。おーい、早くおいで―」

 

 コキュートスや彼の配下たちに労いの言葉をかけた後、次には茂みの奥のリザードマンたちへと声を張り上げる。ペロロンチーノの間延びした声かけに、リザードマンたちが恐る恐るといったように茂みの奥から姿を現した。ザリュースとゼンベルを先頭に、二十体のリザードマンたちが切り開かれた血濡れの道をゆっくりと進んでペロロンチーノの元へと歩み寄ってくる。

 ザリュースやゼンベルたちが傍らまで来たことを確かめると、ペロロンチーノは仮面の奥で満面の笑みを浮かばせた。

 

「はーい。では、これからみんなにはトロールたちと戦ってもらいます! まずは一つ確認するけど、トロールという種族の特徴と弱点は知ってるかな?」

 

 まるで引率する教師のように問いかけるペロロンチーノに、リザードマンたちは困惑と緊張に顔を強張らせながら互いに小さく顔を見合わせる。答えが分からないのか、ただ答えられるだけの気持ちの余裕がないのか、リザードマンたちは一切口を開こうとしない。

 ペロロンチーノは小首を傾げさせると、次にはトロールたちへと視線を向けた。

 コキュートスたちが見せた力に気圧されているのか、彼らは未だ動こうとせずに突っ立っている。

 

「……トロールという種族は、オーガ以上の攻撃力と異常な再生能力を持っている。だから、唯の斬撃や打撃はあまり効果がないんだ。攻撃するなら、再生能力が効かない炎や酸の攻撃が非常に有効だ。誰か、炎か酸の攻撃手段は持ってる?」

 

 ペロロンチーノの問いに、リザードマンたちが再び互いに顔を見合わせる。しかし誰一人名乗りを上げず、ペロロンチーノは思わず出そうになったため息を咄嗟に呑み込んだ。

 彼らの攻撃手段の少なさに落胆するものの、突然の思わぬ戦闘に準備も何もできているはずがないとすぐに考え直す。

 これは自分の援護がかなり必要になってくるだろうと予想する中、不意にザリュースの姿が目に飛び込んできた。

 思わずマジマジと見やり、湧き出てきた思考に思わず大きく首を傾げさせた。

 

(……そういえば、こいつって凍結系の武器持ってたな。ゲームの中では凍結系の攻撃はトロールにはあまり効かなかったけど、凍傷とかってありなのかな?)

 

 凍傷とは、極度の冷感によって血流に障害が生じたり、細胞を損傷させてしまう症状のことだ。重度であれば細胞が壊死してしまうこともあるらしく、流石のトロールも細胞が壊死してしまえば再生できないのではないだろうか。

 

(う~ん……。これは検証してみた方が良いかもしれないな……。)

 

 ペロロンチーノは大きな方向性を決めると、一つ頷いてリザードマンたちに指示を出すことにした。

 

「えー、炎や酸での攻撃手段はないとのことなので、その辺りは俺が援護しようと思います。その代わり、君たちは俺の指示通りに動いて下さい。攻撃はザリュース君の凍牙の苦痛(フロスト・ペイン)を中心に行ってください。他の皆さんはザリュース君の援護をして下さい」

「えっ!? わ、私ですか……!?」

「トロールに凍結系の攻撃が効くのかどうか実験してみたいんだ。心配しなくても俺が援護してあげるから大丈夫だよ」

 

 一気に顔を強張らせるザリュースに、ペロロンチーノは安心させるように努めて優しい声音を意識して励ましてやる。しかし彼の緊張は一向に緩む様子がなく、ペロロンチーノは肩を竦ませて早々に和ませることを諦めた。なるべく早く終わらせてあげた方が良いだろう……と、ゲイ・ボウを大きく構える。

 弓と弦に添えられたペロロンチーノの手には、赤々と光り輝く矢が四本出現していた。

 そこで漸く我に返ったように動き始めたトロールたちを見やり、ペロロンチーノはリザードマンたちだけに聞こえる声量で彼らにタイミングを伝えた。

 

「……まだ動くなよ。俺が“行け”って言ったら行動を開始しろ。………3……2……1! ……行けっ!!」

 

 ペロロンチーノは『1』と言葉にした瞬間に全ての矢を放ち、四本の矢は襲いかかってくるトロールたちに全て当たって凄まじい爆音を響かせた。

 その一拍後、ペロロンチーノの合図に従ってリザードマンたちもザリュースを先頭にトロールへと突撃していく。

 ペロロンチーノの初撃によってトロールたちは炎の渦に呑み込まれ、何とか命からがら炎から逃げ延びられたのはたったの三体。加えて生き残った三体も全員が酷い火傷を負って、全身を真っ赤に染め上げていた。

 肉が焼ける臭いと、炭化した焦げ臭さが鼻に突く。

 目の前まで来たトロールたちは受けたダメージが全て火傷であるため上手く再生させることが出来ず、醜く歪んだ傷や剥がれて垂れ下がった皮膚の慣れの果てをユラユラと揺らしながら怒号と共に襲い掛かってきた。

 ザリュースめがけて振り下ろされたグレートソードを十体ものリザードマン総出で受け止め、違うトロールの攻撃は特殊技術(スキル)によって肉体強化したゼンベルを中心に残りのリザードマンたちが防ぎきる。もう一体のトロールはペロロンチーノの炎の矢によって眼球から頭を貫かれ、内側から燃やされて呆気なく頽れていった。

 

「「「うおおぉぉおぉぉおおおぉぉおぉおぉぉおっ!!!」」」

氷結爆散(アイシー・バースト)ぉぉっ!!」

 

 リザードマンたちが何とかグレートソードを押し返したとほぼ同時に、ザリュースがフロスト・ペインの大技を発動させる。

 こちらまで襲いかかってくる冷気を涼しく感じながら、ペロロンチーノは噴き出す冷気の直撃を受けたグの様子を注意深く観察した。

 ザリュースの周りにいたリザードマンたちはあまりの冷気に後退っていたが、グは後退る様子は一切見せない。

 やはり凍結系の攻撃は効かないのか、それともレベルが足りないのか、はたまた逆に効き過ぎて凍り付いているだけなのか……。

 更なる検証が必要だろうか……と思い悩む中、ふとペロロンチーノはグの動きが少し鈍っていることに気が付いた。まるで錆びついた人形のようなぎこちない動きに、ペロロンチーノは何度か目を瞬かせる。ザリュースは更にフロスト・ペインを振るっており、攻撃を受けるたびにグの動きが鈍っているように思われた。

 どうやら凍結系の攻撃も少なからず効いているようだと判断すると、ペロロンチーノはすぐに計画を変更してコキュートスの名を呼んだ。

 

「コキュートス、捕らえろ」

「ハッ」

 

 短く命じれば、すぐさまコキュートスと彼の配下が行動を開始する。

 彼らは瞬きの間にトロールたちの目の前まで移動すると、コキュートスはグの両腕を鷲掴み、彼の配下たちはゼンベルたちが相手をしていたトロールに群がって全ての動きを阻害した。

 

 

「ペロロンチーノ様、あれらは捕らえるのですか?」

 

 無言でコキュートスたちの様子を見つめる中、不意に背後から可愛らしい少女の声が聞こえてくる。それに後ろを振り返れば、そこにはいつの間に戻って来たのかエントマが一礼した姿勢で佇んでいた。

 ペロロンチーノは頭を上げるように促してやりながら、彼女の問いに対して一つ大きく頷いてみせた。

 

「うん。配下としてではなく実験用にね。もう少し詳しい検証が必要みたいだし……。エントマの方でナザリックに運んでもらえるかな?」

「はいぃ、畏まりました」

 

 再び頭を下げるエントマを背に、ペロロンチーノはコキュートスやザリュースたちの元へとゆっくりと歩み寄る。突然のことに呆然となっているザリュースたちを見やり、ペロロンチーノはすぐに視線をグや他のトロールへと向けた。

 グも他のトロールも、今はコキュートスの配下たちの手によって地面に押し付けられるように拘束されている。

 小さな怒りと大きな恐怖に顔を歪めている二体を見下ろした後、ペロロンチーノは彼らから視線を外して再びザリュースたちへと目を向けた。

 

「みんな、ご苦労様。おかげで興味深い検証が出来たよ」

「……あ、あの……ペロロンチーノ様。これからこのトロールたちを一体どうするつもりなのでしょうか?」

「うん? もう少し色々と検証してみたいことが出てきたからね。まぁ、じっくりといろんな実験をしてみようと思ってるよ」

 

 まるで何でもないことのように呑気な声音で言ってのけるペロロンチーノに、途端にザリュースたちの顔が恐怖に引き攣る。

 しかしペロロンチーノはそれに気が付くことはなく、森からこちらに歩み寄ってくるシモベの姿に気が付いてそちらへと振り返った。

 

「ペロロンチーノ様、何体かの亜人と魔獣を捕らえました。その中に“西の魔蛇”なる存在の居場所を知っているモノがおりましたので、連れて参りました」

「おおっ、ご苦労様!」

 

 配下の言葉に嬉々として彼が連行しているモノに目を向ければ、そこには一匹のゴブリンが怯えた様子で立ち竦んでいた。まだ子供なのか、ひどく小さな身体をブルブルと大きく震わせている。

 

「ふ~ん、こいつか……。“西の魔蛇”がどこにいるのか、俺に教えてくれるかな?」

 

 これ以上怯えさせないように、ペロロンチーノは努めて優しい声音を意識して問いかける。

 しかしゴブリンやリザードマンたちにとっては、その猫なで声も恐怖の対象でしかない。

 思わず小さな悲鳴を上げるゴブリンの子供に、ペロロンチーノは訳が分からず小首を傾げるのだった。

 

 


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