世界という名の三つの宝石箱   作:ひよこ饅頭

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第45話 水面下の思惑

 リ・エスティーゼ王国王都に聳え立つロ・レンテ城。

 王城の一角にある一つの部屋では、日付が変わった真夜中だというのに未だ眩いばかりの灯りが爛々と輝いていた。

 室内には多くの人間が集まっており、ある者は知り合いと小声で何事かを話し、ある者は窓から外の景色を眺め、ある者は無言のまま時が過ぎるのをひたすら待っている。しかしそんな中でも多くの者たちが部屋の両片隅にそれぞれ佇んでいる存在にチラチラと視線を向けていた。

 彼らはこのリ・エスティーゼ王国の王都内にいた冒険者たち。オリハルコンやミスリルなどの上級冒険者から、(アイアン)(カッパー)といった最下級冒険者まで、正に言葉通り王都内にいた冒険者全員がこの場に集められていた。

 うるさくはないものの、少なからずざわついている空気。

 しかし不意に扉が大きく開かれたことによって、一瞬で誰もが口を閉ざし、室内が静寂に包まれた。

 扉から姿を現したのは六人の人物。

 一人を除いて残りの全てが女というその一団は、堂々とした足取りで室内へと足を踏み入れると、そのままこの場にいる全員の目の前で立ち止まった。

 

「皆さん、まずは非常事態時に集まってくれたことに感謝をいたします」

 

 まず初めに口を開いたのは四十くらいの眼光鋭い一人の女。彼女はこの王国王都の冒険者組合(ギルド)の組合長を務めている人物であり、つまりはこの場にいる殆どの者たちのまとめ役であった。

 自分たちが所属する組織のまとめ役が口を開いたことによって、この場の空気が一層シャキッと引き締まる。

 組合長は多くの視線が自身に集中することに怯む様子もなく、変わらぬ堂々とした態度で話を続けていった。

 

「本来であれば冒険者組合は、国家の問題への介入は認めておりません。しかし、今回の件は別です。冒険者組合は王国を全面的にバックアップし、早急に問題を解決するべきだと判断しました。詳しい作戦内容については王女からお話があります。皆さん、ご清聴願います」

 

 彼女が話している背後で、白い全身鎧(フルプレート)を身に纏った少年が大きな地図を彼女たちの背後の壁に貼り付けている。また、組合長の言葉が終わった後、次に一歩前に進み出て口を開いたのは黄金色の髪に輝かんばかりの美貌を持った愛らしい少女だった。少女の左右には“蒼の薔薇”のラキュースとイビルアイとティナ、そして王国戦士長のガゼフも付き従うように立っている。

 

「ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフと申します。今回の非常事態に集まって頂き、ありがとうございます」

 

 ぺこりと頭を下げる可憐な少女に、途端に部屋の至る所から感嘆の吐息の音が小さく聞こえてくる。

 誰もが“黄金”と謳われる王女の美貌に目を奪われる中、当の王女自身は背後に張り付けられた地図を使って現状をこの場にいる全員に説明し始めた。

 彼女の話によると、現在、突如現れた巨大な炎の壁によって王都の北東部分の一角が完全に包囲されたという。炎自体に害はないものの、包囲された区画の内部には多くの悪魔が蠢いており、より上位の悪魔の指示によって動いている可能性が大きいとのことだった。

 今回の騒動の首謀者と思われる存在は“ヤルダバオト”という名の悪魔と、そのヤルダバオトに“御方”と呼ばれていた存在。

 次々に情報を整理しながら話していく王女に、冒険者たちもその都度浮かんだ疑問などを次々と発言していく。

 “御方”という存在の正体やヤルダバオトという悪魔の脅威度や彼らの目的。その他にも、ヤルダバオトの口からもたらされた情報の虚偽の可能性についてなど。

 冒険者たちの疑問は尽きず、まだまだ彼らの情報共有は終わりそうにない。

 白熱している彼らの様子を意識の端でぼんやりと眺めながら、モモンガはモモンガでただいま絶賛頭の中で情報共有と意見交換の真っ最中であった。

 

『――……だから~、何度も言ってるじゃないですか。俺もつれてこられたんですって。本当は外で高みの見物を決め込むつもりだったってぇのに……』

 

 頭の中で少々癖の強い聞き慣れた声が響いてくる。

 声の主は、自分とは正反対の部屋の隅に佇んでいるレオナール・グラン・ネーグルことウルベルト・アレイン・オードル。

 モモンガは現在〈伝言(メッセージ)〉で今回の件についてウルベルトと情報共有という名の話し合いを行っていた。

 

『いやいや、そもそもどうして高みの見物を決め込むつもりだったんですか。ウルベルトさんのことだから、てっきり嬉々としてデミウルゴスと一緒に行動していると思って、あの時もウルベルトさんに〈伝言(メッセージ)〉を繋げちゃったんですよ?』

 

 モモンガの言う“あの時”とは、ヤルダバオトとなったデミウルゴスと初めて対峙した時のことである。まさかデミウルゴスが“蒼の薔薇”のメンバーと戦っているとは思わず、モモンガはどういうことかとウルベルトに〈伝言(メッセージ)〉を繋げていたのだ。

 しかし、返ってきた言葉は『詳細はペロロンチーノたちに任せているので知りません』というもの。加えてナーベラルやイビルアイと共に王城に来てみればそこでレオナールとなっているウルベルトと出会い、モモンガはアンデッド特有の感情抑制が追いつかないほど大きな混乱に見舞われることになったのだった。

 

『いや~、だって今回は参加するにしても完全に裏方ポジションだろう? でも、テンション上がったら絶対に表舞台に出ちゃいそうだったしさ~。それだと大事になると思って、俺なりに遠慮して今回は不参加にしたんだよ』

『な、なるほど……、そうだったんですか……』

 

 ウルベルトの言い分に、モモンガは思わず大いに納得してしまった。

 確かにテンションが上がって無茶を仕出かすウルベルトの姿が容易に想像でき、もしそんな事態になれば大変な騒動になることは間違いないだろう。今回ばかりはウルベルトは賢明な判断をしたとしか言いようがなく、内心で頷くモモンガに次はウルベルトの方が疑問の声を投げかけてきた。

 

『俺からすれば、モモンガさんが今ここにいることの方が疑問なんですがねぇ。冒険者での依頼があるって言ってなかったか?』

『その依頼でここに来たんですよ。依頼主はレエブンっていう王国貴族で、依頼内容は“八本指の拠点制圧の参加”。それで王都に向かっている途中に戦闘の光が見えたので、早速参加しようと思って行ってみたら……』

『デミウルゴスが“蒼の薔薇”のメンバーと戦っていた、と……』

 

 言いよどんだモモンガの言葉を、ウルベルトが引き継ぐように代わりに言ってくる。思わず黙り込むモモンガに、〈伝言(メッセージ)〉からウルベルトのため息の音が聞こえてきた。

 

『……何やってんですか、モモンガさん。セバスから、ツアレを誘拐したのは“八本指”だって聞いてたでしょうが。なら、俺たちの襲撃チームと王国側の連中がかち合う可能性だって考え付いたでしょう』

『まさかこんなことになるとは思ってなかったんですよぉぉっ!!』

 

 ウルベルトからの指摘に、モモンガは〈伝言(メッセージ)〉内で絶叫を上げる。しかし『多額の依頼料につられた』とまでは流石に口には出せなかった。

 実は今回のレエブン侯からの依頼は、依頼料がとんでもなく高かったのだ。これで少しは金銭面が楽になると喜び勇んで引き受けたものの、エ・ランテルから王都までの移動時間が予想以上に長く、本当に依頼に参加できて依頼料を貰えるのかと気が気ではなかった。つまり、今回の一連の行動は完全に焦ってのものだとしか言いようがなかった。

 しかしもしそんなことを口にすれば、ウルベルトからどんな目を向けられるか分かったものではない。

 無言のまま内心で小さく唸り声を上げるモモンガに、不意に興奮したようなイビルアイの声が高々と響いて聞こえてきた。

 

「――……知っている者もいるだろう。エ・ランテルに王国三番目のアダマンタイト級冒険者が生まれたことを。そう、彼……“漆黒”のリーダー、漆黒の英雄モモン殿だ!」

 

 瞬間、一斉にこの場にいる全員の視線がこちらに向けられる。

 至る所から呻き声のような声もちらほら聞こえてきて、モモンガは取り敢えず応えるように軽く片手を挙げてみせた。

 

「さぁ、モモン殿! 前に来てくれ!」

 

 イビルアイから嬉々として前に出てくるように言われる。

 しかし正直に言って、今は前に出て注目を浴びるよりも、ウルベルトと今後について相談し合いたかった。それに今もなお、現状で分かっていない部分も多くあるのだ。

 

「いえ、私のことはお構いなく。そんな事よりも、早急にヤルダバオトを止めるための作戦を開始した方が良いでしょう」

 

 尤もらしいことを口にして、さっさと話し合いに戻ってくれるように促す。

 こちらの言葉に頷いてこれからの作戦について話し始める王女と、どこか残念そうに小さく項垂れるイビルアイ。

 冒険者たちの視線も自分から離れて前方の王女たちへと戻る中、モモンガは気づかれない程度に小さく息を吐き出した。

 

『なんだ、随分と有名になったじゃないか。この辺りで一言気の利いたことでも言ってやれば良かったのに』

 

 〈伝言(メッセージ)〉からウルベルトのからかうような声が聞こえてくる。視線をウルベルトに向ければ彼は人化した顔にニヤニヤとした笑みを浮かべており、途端にモモンガは不貞腐れた表情を兜の中の骨の顔に浮かばせた。

 

『……今回は別に良いんですよ。そんな事よりも現状についてです。デミウルゴスと戦った時、これらの行動は全て“御方の指示”であると言っていたんですけど、これってどういうことなんですか? それに、実際に“蒼の薔薇”の……あのイビルアイとかいう子供も、“御方”と呼ばれる不気味な死神のような男を見たって言ってましたけど』

『それは俺も知らないな。俺がデミウルゴスから聞いた計画の内容には、そんな存在は一切出てきていなかったはずだ。ペロロンチーノの指示で一部変更した可能性もあるが……』

 

 考え込むように言いよどむウルベルトの声音には、明らかに不満そうな響きが宿っている。チラッとウルベルトの表情を見やれば、彼は人化した顔に実際に不機嫌そうな表情を小さく浮かべていた。

 顎に細長い指を添えて眉を潜めるその顔は、モモンガの目から見てもひどく男前で格好いい。ナーベラルが扮するナーベにも言えることだが、整った顔というのはマイナスの表情を浮かべたとしても魅力的に見えるらしい。

 一人納得して内心で頷くモモンガに、ふと〈伝言(メッセージ)〉越しにウルベルトの小さな声が聞こえてきた。

 

『………たくっ、一体どうなってんだ……。大体、“御方”ってのが表舞台に出ること自体おかしいだろ。ペロロンチーノは何を考えて……、これじゃあ魔王役のデミウルゴスよりも上位の存在がいることになるじゃねぇか。魔王ってのは悪の化身で、魔の最上位の存在なんだぞ………』

 

 一見正しいことを言っているようでいて少々ずれた言葉に、モモンガは思わずズルッと肩を滑らせる。どこまでも“悪の在り方”や“悪の美学”を優先的に考えるウルベルトに、この時ばかりは少々恨めしく感じてしまった。

 しかし、ずっとウルベルトにだけ意識を向けていることもできない。目の前では今後の作戦について説明しており、モモンガもその作戦で重要な役割を担う以上、そちらにも意識を向ける必要があった。

 王女ラナーを中心にたてられた作戦は、人を弓矢に見立てたものだった。

 まずは冒険者の団体で一つのラインを形成する。その後ろに更に衛士のライン。最後尾に神殿や魔術師組合などの支援部隊によるラインを形成する。その状態でまずは進攻し、敵の陣地内に進入。敵が迎撃に出てきた場合はまずは交戦を行い、撃退が無理であれば先頭のラインである冒険者たちが敵を引き連れた状態で後退を開始する。冒険者たちが敵を引き連れている間に次のラインとなっている衛士が出来得る限り前進してバリケードを作製。敵を引き連れた冒険者は最後尾の支援部隊に傷を癒してもらった後、再出撃して敵を食い止める。彼らが敵の守りを薄くして引き留めている間に、唯一ヤルダバオトと対等に戦えるモモンガが矢となって敵陣の中心部にいるであろうヤルダバオトの元へと突撃するというのが今回の作戦の全容だった。

 作戦中は王女ラナーはこの場で待機し、“蒼の薔薇”のラキュースとティナは冒険者たちの最前列のラインに加わり、イビルアイはモモンガと行動を共にすることになっている。

 しかし問題なのは王国最強と名高い戦士長であるガゼフがどの役割を担うか、という部分だった。

 当然この疑問は冒険者たちから問いかけられ、誰もがガゼフに視線を向ける。モモンガやウルベルトも思わずガゼフに目を向ける中、ガゼフは厳めしい顔を更に厳しくさせながらゆっくりと口を開いた。

 

「……答えよう。貴族の私兵は主人の館を守り、兵士は王城の守りに入っている。私直轄の戦士たちは王族の守りだ」

 

 瞬間、ザワッとこの場が大きく騒めいた。

 

「それはストロノーフ様も前には出ないということなのか!?」

「その通りだ。私は王城に残り、王族の方々をお守りする役目である」

 

 堂々と言ってのけるガゼフに、しかしこの場の空気はガラッと変わった。

 彼らが浮かべるのは苛立ちの表情。しかしそれはガゼフ個人に向けたものだけではなく、その背後にいる王族や貴族に対するものも多分に含んでいた。

 確かにガゼフの言っていることは正しい。兵士とは主人である王族や貴族を守るのが仕事だ。それを考えれば、ガゼフたちが前に出ずに自分たちの主である王族や貴族を守ることは当然のことであるとも言えるだろう。

 しかし、いくら頭では理解できたとしても、心まではそう簡単に納得してくれるものではない。加えて今回の場合、王族や貴族の対応によっては兵たちを前に出すこともできるという部分があるため、尚のこと冒険者たちの不満と苛立ちは募っているようだった。

 

「皆の不満は分かるわ。でも、その前にこれだけは覚えておいて。今回、皆を集めた費用は王家から出ているのではなく、ラナーの個人的資産からよ。それにモモン殿をお連れできたのは貴族であるレエブン侯のおかげ。彼が自分の兵を出さないのは、悪魔が王都内に散った場合の備えにしようという意図があってのことよ。確かに私も皆と同じ感情を貴族や王族に対して抱いている。でもそんな者ばかりではないということも知っておいてほしいの」

 

 彼らの不満や苛立ちを少しでも抑えようと、ラキュースが代表して言葉を尽くして説得し始める。彼女の言葉や王女ラナー本人がこの場にいることもあり、徐々に冒険者たちのあからさまな態度は鳴りを潜めていく。

 しかしモモンガは嫌な予感を感じてチラッとウルベルトへと視線を向けた。

 ウルベルトはその顔に不満も苛立ちも浮かべてはおらず、無表情のまま目の前の成り行きを見守っているようである。誰の目から見ても何事も問題なく見えるその様子に、しかしモモンガは気が付いてしまった。

 ウルベルトの金色の瞳に絶対零度の光が宿り、無表情の奥には蔑みや嘲りの冷笑が浮かんでいるということに……。

 一見正しいことを言っているようなラキュースの言葉も、しかしウルベルトやモモンガからすれば唯の綺麗ごとに過ぎない。

 まず王女ラナーの個人資産についてだが、いくら“個人資産”と言い換えたところで、本を正せばそれは民から取り立てた血税なのだから国民を守るために使うのはある意味当然であるとも言える。またレエブン侯の対応についても、そもそも唯の兵士に悪魔の相手が務まるのかという部分が問題に上げられた。そもそもこの場に冒険者たちを集めたのは、彼らがモンスター専門のスペシャリストであり、普通の兵士だけでは対処が難しいからだ。ならば兵士だけを分散させるよりも、スペシャリストである冒険者たちの元へ力を集結させて少しでも物量を増やした方がまだ利用価値があると言えるのではないだろうか。

 比較的上流階級の存在に対して拒絶反応を持たないモモンガであっても思いつくそれらに、ウルベルトが気が付かないはずがない。また、現実世界(リアル)での富裕層の中でも比較的善良な人格者だったたっち・みーの言葉にすら牙を剥いていたウルベルトが、そんな彼女の言葉に納得するはずもない。

 見ればウルベルトの手は逆側の腕を掴むような形で組まれており、その手は服に深い皺を寄らせるほどに強く握りしめられていた。顔も心なしか強張っているようで、こちらにまで歯を食いしばる軋んだ音が聞こえてくるようである。

 不穏な空気を纏い始めるウルベルトに内心ハラハラしながら、モモンガは改めてチラッと前方に目をやった。

 視線の先では既に話し合いは終わっており、今は各チームの代表者がラナーたちの元へと集まっている。他のメンバーはこの場に待機するように言われ、モモンガはこれ幸いにと大きく足を動かした。こちらに挨拶をするつもりだったのか、歩み寄ってきていたリーダー以外の冒険者たちには気が付いていない振りをして、ナーベラルを後ろに従えて黙々と大きく歩を進める。

 モモンガの足先にいるのは、壁に軽く背を預けるようにして立っているウルベルト・アレイン・オードルことレオナール・グラン・ネーグル。

 目の前まで来て漸くこちらの存在に気が付いたのか、金色の瞳を向けてくるウルベルトにモモンガはズイッと手を差し出した。

 

「失礼ですが、もしやあなたはワーカーチーム“サバト・レガロ”のレオナール・グラン・ネーグル殿では?」

 

 モモンガの言葉に、途端にウルベルトの金色の瞳が驚愕に小さく見開かれる。しかしすぐさま元に戻すと、次にはどこか面白そうに小さく口の端を歪ませた。

 

「……ええ、仰る通りです」

「やはりそうでしたか! お会いできて光栄です。このような場であなたのような方に出会えるとは、心強い限りです!」

「いえいえ、こちらこそ。それに、漆黒の英雄モモン殿に知って頂けているとは光栄です」

 

 互いに言葉を交わし合い、強く握手を交わし合う。

 冒険者たちが不思議そうに遠目にこちらを見つめる中、モモンガは実は先ほどからずっとそわそわとしていたナーベラルを振り返ると、その背に手を添えて小さく前へと押し出した。

 

「紹介が遅くなってしまい申し訳ありません。こっちは私の仲間のナーベです。実はナーベは以前からあなたのファンでして、ずっとあなたに憧れていたのです。宜しければ仲良くしてやって頂けると嬉しいです」

 

「「「っ!?」」」

 

 モモンガの言葉に、途端に周囲から驚愕に息を呑む音が聞こえてくる。

 

 あの“美姫”ナーベが……。

 漆黒の英雄モモンを崇拝し、それ以外の者に対しては例外なく絶対零度の視線しか向けてこないという、あの氷の女神が……!

 漆黒の英雄モモンに次いで絶対の強者である魔法詠唱者(マジックキャスター)の女王が……!!

 漆黒の英雄モモン以外の者に憧れているだとぉぉ……っ!!?

 

 思わず聞き間違いかと自身の耳を疑う冒険者たちに、しかしその瞬間、驚愕の光景が彼らの目に襲い掛かってきた。

 ウルベルトの目の前に押し出されたような形となったナーベラルが、次の瞬間、頬を薔薇色に上気させてキラキラとした目でウルベルトを見上げながらコクンっと可愛らしく頷いたのだ。

 

「「「っっっ!!!!?」」」」

 

 瞬間、声にならない悲鳴が部屋中に響き渡った。

 その過半数はナーベラルの美貌と可愛らしい仕草に心臓を撃ち抜かれてのものだったが、しかしそれが全てでは決してなかった。

 ワーカーチーム“サバト・レガロ”という名前も、レオナール・グラン・ネーグルという名前も、王国王都では耳にしない名前である。そんな存在に、あの(・・)“美姫”ナーベが憧れているという事実。加えて彼女の非常に素直な態度と好意的な様子に、冒険者たちは多くの疑問を浮かべながらも大きな驚愕と衝撃を受けていた。

 しかしモモンガもウルベルトもナーベラルも、彼らの様子などどこ吹く風。彼らが何を思おうと知ったことではないとばかりに、にこやかな笑みを浮かべて親しげに語り合い始めた。互いの伝え聞く武勇伝などを語っては褒め合い、当たり障りのない世間話に花を咲かせる。

 しかし暫く経つと、不意にウルベルトがチラッと遠巻きにしている冒険者たちへと金色の瞳を向けた。思わずビクッと身体を震わせる冒険者たちに、ウルベルトは顔に浮かべている笑みを微かに深めさせる。

 ウルベルトはすぐさま視線をモモンガへと戻すと、次には小首を傾げさせながら軽く手を振るって見せた。

 

「……どうやら、あちらの方々もモモン殿に挨拶をしたいようですね。私としたことが、折角のあなた方の交流の場を邪魔してしまっていたようです。申し訳ありません」

 

 ウルベルトの言葉にモモンガもチラッと見やれば、確かに冒険者たちが未だ遠巻きにこちらを見つめている。若干このままウルベルトと話して過ごそうかなぁ……と考えていたモモンガだったが、しかしこれも必要なことと思い直してウルベルトの言葉に従って他の冒険者たちの相手をすることにした。

 

「邪魔などと、とんでもない。私が先に声をかけたのですから謝る必要はありませんよ。……それと、私のことはどうかモモンと呼び捨てて下さい」

「そうですか? それでは私のこともレオナールとお呼び下さい」

「分かりました。それでは私は彼らと挨拶をしてきますので、その間宜しければナーベの話し相手になってやってください」

「ええ、喜んで」

 

 にこやかに頷いてくるウルベルトにナーベラルを任せ、モモンガは冒険者たちの挨拶にまわる。冒険者たちもウルベルトの存在を気にしながらもこちらに近寄ってきて、自然とモモンガの目の前に一つの列が形成された。ランクとチーム名と自身の名前を口にしながら、次々と握手を交わしていく。入れ代わり立ち代わり挨拶してくる冒険者たちにモモンガは必死に彼らのランクや名前や顔を記憶に刻み付けていった。

 そんなモモンガの後ろではウルベルトとナーベラルが楽しそうに会話を交わしている。今は魔法談義でもしているのか、ウルベルトがあらゆるパターンや戦場での魔法の対処法をナーベラルに語って聞かせている。

 彼らの会話を意識の端で聞きながら、モモンガはナーベラルに対して羨ましく思う気持ちを抑えられなかった。

 ユグドラシルにいた頃……、まだギルドメンバーが誰一人引退していなかったあの頃、モモンガはよくウルベルトと魔法について談笑したり意見を交わし合ったりしていた。しかし今では、折角ウルベルトやペロロンチーノが戻ってきてくれたというのに、魔法について語り合うことも一切していなかったことに思い至る。右も左も分からない世界に突然飛ばされたのだから、そういった余裕がなかったのは仕方がないと言われるかもしれないが、それでも友との語らいが出来ていなかったという事実はモモンガに少なくないショックを与えていた。

 機械的に冒険者たちの相手をしながらも内心で落ち込んでいるモモンガに、しかしウルベルトは全く気が付かない。ナーベラルとの話が盛り上がっているのか、時折笑い声さえ零している。

 しかしある三人の人物の登場によって、彼らの会話は途中で途切れることになった。

 彼らの登場に一番早く気が付いたのは、挨拶の列に並んでいた冒険者たち。

 気が付いた端から次々と道を開け、それによってモモンガたちへと続く道が作られていく。

 三人の人物――“蒼の薔薇”のラキュースとイビルアイと王国戦士長のガゼフは、冒険者たちが開けた道を歩きながら、真っ直ぐにモモンガたちの元へと歩み寄ってきた。

 モモンガが彼らを注視する中、ウルベルトとナーベラルも三人の登場に気が付いて会話を止めて三人へと視線を向ける。

 ラキュースたちはモモンガたちの目の前で立ち止まると、改めて真正面からモモンガたちを見つめてきた。

 

「お話し中に申し訳ない。私はガゼフ・ストロノーフ。彼の有名な漆黒の英雄モモン殿が協力してくれるとは心強い限りだ」

 

 厳めしい顔に男らしい笑みを浮かべながら、ガゼフがモモンガへと右手を差し出してくる。

 

「……いえ、そもそも私がこの場にいるのはレエブン侯に依頼されてのことですので。報酬を頂く以上、全力を尽くしますよ」

 

 モモンガは力強くガゼフの手を握りしめると、兜の奥でマジマジと目の前の厳つい顔を見やった。カルネ村で見た姿と、今目の前にある顔を重ね合わせ、思案するように眼窩の灯りを小さく揺らめかせる。

 しかしそんなモモンガの様子に気が付くはずもなく、ガゼフはモモンガの手から手を離すと、次にはモモンガの背後に立つウルベルトへと目を向けた。顔に浮かべていた笑みを深めさせ、ウルベルトの目の前まで歩み寄っていく。

 無言のまま観察するようにガゼフを見つめているウルベルトに気が付いているのかいないのか、ガゼフは変わらぬ様子でモモンガの時と同じように右手を差し出してきた。

 

「貴殿がレオナール・グラン・ネーグル殿か! 以前カルネ村で、村や私を助けて下さったのが貴殿だと“蒼の薔薇”の方々から聞いた。遅くなってしまったが、改めて感謝を申し上げる」

 

 ガゼフの言葉に、周りで聞き耳を立てていた冒険者たちが大きく騒めく。

 漆黒の英雄モモンだけでなく、“蒼の薔薇”やガゼフ・ストロノーフまでもが知っているという事実。加えてガゼフを救ったという言葉に、冒険者たちは何よりも衝撃を受けていた。

 王国最強と名高い彼を救ったとは、一体どういうことなのか……。

 ザワザワと騒めく冒険者たちに、しかしウルベルトは一切構うことなく、ただワザとらしいまでのにこやかな笑みを浮かべて差し伸ばされたガゼフの大きな手を握り返した。

 

「いえいえ、気にしないで下さい。私もあなたを足げフンッゲフンッ……少々手荒な真似をしてしまいましたからね」

「……? 今何か言いかけただろうか?」

「はははっ! 気のせいですよ!」

 

 不思議そうな表情を浮かべて首を傾げさせるガゼフに、しかしウルベルトは満面の笑みを浮かべて堂々と誤魔化す。一見爽やかに見えるその笑みに、しかし横で見つめるモモンガの目から見れば非常に胡散臭いものだった。先ほどの笑い方も、モモンガからすれば相手を挑発するようなワザとらしいものにしか聞こえない。文字にするなら『はははっ!』ではなく『HAHAHA☆』である。もし相手がガゼフではなく彼と犬猿の仲であったたっち・みーなら、意外と沸点の低い彼のことだ、すぐさま壮絶なPVPが勃発したことだろう。

 内心で思わず大きなため息をつく中、幸いなことにウルベルトの態度に気が付かなかったガゼフは、ウルベルトから手を離した後に改めてモモンガとナーベラルとウルベルトへと視線を向けてきた。

 

「私はこれより持ち場に行かなければならないため、ここで失礼させて頂く。王城に残る身としては心苦しい限りだが、どうかよろしく頼む」

 

 深々と頭を下げてくる様はどこまでも真摯で誠実なもの。

 その姿に何かしら感じたのはモモンガだけではなかったらしい。先ほどまでの表情とは打って変わり、ウルベルトは穏やかな笑みをその顔に浮かばせた。

 

「ご心配には及びません。なんせ、ここには漆黒の英雄モモンがいるのですからね」

 

 ウルベルトの言葉に、すぐさまイビルアイが無言のまま大きく頷いてくる。しかし言われた本人であるモモンガは、ウルベルトの声音にどこか揶揄うような音が宿っていることに気が付いて、思わず兜の奥の骨の顔に小さな苦笑を浮かばせた。それでいて、ウルベルトの投げかけに応えるように、ワザとらしく大きく頷いて胸を張って見せる。

 

「そうですね。それに、この場にはレオナールもいてくれますからね」

 

 モモンガの返しの言葉に、途端にウルベルトは面白そうな笑みを浮かべる。

 まるで悪友の様なモモンガとウルベルトの会話と姿に、彼らの背後ではナーベラルがうっとりとした恍惚の笑みを浮かべていた。

 

「こちらの打ち合わせは一通り終わりましたので、モモンさんとナーベさんもこちらに来て頂けますか? それから、ネーグルさんも一緒に来て下さい」

 

 ラキュースがチラッとナーベラルを見つめ、しかしすぐに視線を外してモモンガとウルベルトに目を向けて促してくる。モモンガはウルベルトと顔を見合わせると、次には遠巻きにこちらを見つめている冒険者たちへと目を向けた。冒険者たちの挨拶がまだ全て終わっていないことを思い出し、どうするべきかと思い悩む。

 未だ挨拶が済んでいない残りの冒険者たちは駆け出しの者が多く、普通に考えれば優先順位は彼らよりもラキュースたちの方が高いだろう。しかしあからさまにラキュースたちを優先して新人の冒険者たちを蔑ろにした場合、それを見た他の冒険者たちは一体どう思うのか……。

 ひどく迷うモモンガに、その様子に気が付いたのかウルベルトが助け舟を出すように声をかけてきた。

 

「……そういえば、まだ挨拶が出来ていない冒険者の方々がいるのでしたね。でしたらナーベに……、…いや……、もし宜しければモモンは彼らと挨拶をしに行ってきて下さい。その間、私とナーベが貴方の代わりにアインドラさんたちのお話を聞いておきましょう」

「……え……? で、ですが……」

 

 ウルベルトの提案に、ラキュースが戸惑ったような表情を浮かべる。

 しかし彼女に最後まで言わせる前に、モモンガは渡りに船とばかりに大きく頷いた。

 

「そうですね。わざわざ並んでくれていたのに挨拶もしないのでは申し訳ない。頼んでも構いませんか?」

「ええ、勿論です。同業者の方々と友好を深めることは、とても大切なことですしね」

「ありがとうございます。ではお願いします。私も彼らとの挨拶が終わり次第、すぐにそちらに向かいます」

 

 まるで示し合わせたかのように言葉を交わし、モモンガとウルベルトは頷き合う。そのままナーベラルを引き連れてラキュースたちを促すウルベルトに、一先ずあちらはウルベルトに任せてモモンガは残りの冒険者たちの対応に戻ることにした。恐る恐る再度こちらに歩み寄ってくる駆け出しの冒険者たちに、親身な態度で挨拶をしていく。

 彼らはどこか興奮した様子ながらも、出来るだけ早く終わるようにてきぱきと挨拶を済ませていってくれた。そのおかげで、あまり時間をかけることなく全員との挨拶が終わる。

 モモンガは兜の奥で小さく息をつくと、早くウルベルトたちと合流すべく、彼らが去っていった別室へと足を向けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 別室に去っていく大きな背を見送った後、残された冒険者たちは全員大きな息を吐き出していた。

 彼らの顔は見るからに興奮しており、ザワザワと部屋が騒がしくなり始める。

 彼らが口にするのは、当然のことながら、漆黒の英雄モモンについて。彼らは一通り彼の冒険者の寛大でいて丁寧な態度や新人冒険者を無下にしなかったおおらかな態度を褒め称えると、興奮したように称賛の声を上げた。

 

 

「――……しかし、あのレオナール・グラン・ネーグルとかいう奴は一体何者なんだろうな……」

 

 一通り冒険者モモンについて語り合った後、ふと一人の冒険者が疑問の声を零す。

 ミスリルのプレートを首に下げた男の呟きに、途端に他の冒険者たちも疑問の表情を浮かべたり首を傾げ合った。

 

「モモン殿は結構前から知っているみたいだったよな……。あの戦士長や“蒼薔薇”の方々も知っていたみたいだし。この場に呼ばれている以上、無名の冒険者とかではないとは思うが……」

「だが、俺は聞いたことがないな……。お前は?」

「俺もないな。ただ、確かモモン殿は冒険者じゃなくてワーカーって言ってただろ。もしかしたら帝国を拠点にしているワーカーなのかもしれない」

「何で帝国のワーカーがこんなところにいるんだ?」

「さあなぁ……。ただ、あの“美姫”が憧れているっていうし、戦士長も救われたって言っていただろう? もしかしたら、かなりの手練れなのかもしれないな」

 

 本人たちはそっちのけで、冒険者たちによる推測と想像は急激に膨らんで加速していく。

 ただ“レオナール・グラン・ネーグルという人物は唯者ではない”という考えだけは、彼らの共通した思いだった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「お待たせしてしまい、申し訳ありません」

 

 一言の謝罪と共に室内へと足を踏み入れる。別室に訪れたモモンガは、こちらを振り返ってくる面々の視線を感じながら、自然な動作でウルベルトとナーベラルの元へと歩み寄っていった。

 この部屋にいるのはモモンガたちを含めて八人。

 王女ラナーと白い全身鎧(フルプレート)を身に纏った少年。後は“蒼の薔薇”のメンバーであるラキュースとイビルアイとティナである。

 彼女たちはこの場で“矢”が担う役割の最終確認を行っていた。

 突撃するタイミングや考えられる不測の事態に対する対処法などなど。中でも彼女たちが最も危惧しているのは、ヤルダバオトの言う“御方”という存在の再来だった。

 

「もしヤルダバオトの元に“御方”と呼ばれる存在がいた場合、流石にモモン様だけでは荷が重いと考えられます。ですのでここは、ラキュースの信頼厚いネーグル様にも矢の役目を担って頂ければと思います」

「……ちょっ、ちょっとラナー……!?」

 

 “ラキュースの信頼厚い”という部分を強調して言ってくるラナーに、途端にラキュースが顔を真っ赤にして抗議するように声を上げる。そんな彼女たちの様子に、モモンガは内心おや……と首を傾げさせた。チラッとウルベルトを見やり、続いてラキュースへと視線を戻す。顔を真っ赤にしたままチラチラとウルベルトを見つめるラキュースの様子に、瞬間、モモンガはまるで全身に電流が走ったような大きな衝撃を受けた。

 ラキュースの姿は正に恋する乙女そのもの。

 そして彼女の熱視線は一直線にウルベルトへと向けられている。

 つまり……、ラキュースはウルベルトに好意を寄せているのではないだろうか……。

 

「……っ……!!」

 

 自身の頭に浮かんだ考えに、モモンガは思わず心の中で絶叫を上げていた。

 

 無課金同盟の同士に……。

 ユグドラシルの頃、バレンタインの時もクリスマスの時も共にあり、互いに手を取り合ってリア充たちに宣戦布告をしながらユグドラシル中を練り歩いていたあの同士に……。

 遂に……、遂に春が来たというのか……っ!!

 

 モモンガは感情抑制が間に合わないほどに動揺しながら、思わず心の中で嘆きの声を上げた。

 漸く春が来た友を祝福する気持ちは勿論ある。彼が望むのならば自分は心から応援するし、協力も惜しまないだろう。

 この気持ちに一切嘘はない。そう……、嘘はないはずだ……。

 だというのに、先ほどから胸に湧き上がってくるこの虚しさや寂しさは一体なんだというのか。置いて行かれた……、裏切られた……と思ってしまう自分が嫌で仕方がない。

 

(……あぁ、大切な友人に訪れた春すらも心から祝福できないなんて……。こんなひどい俺をどうか許して下さい、ウルベルトさん……!!)

 

 湧き上がってくる罪悪感に、ありもしない目から血の涙がこぼれてしまいそうである。

 勝手に衝撃を受けて勝手に打ちひしがれるモモンガに、しかし周りは彼の様子に全く気が付かない。モモンガの傍らでウルベルトが王女ラナーの提案を頷いて承知し、どんどんと作戦内容をまとめていく。

 漸くモモンガが気持ちを持ち直した頃には、既に話し合いと確認は終わりを迎えていた。

 彼女たちが思わず一息つく中、不意に扉からノック音が響いてくる。同時に扉が外側から開かれ、二人の男が室内へと足を踏み入れてきた。

 

「お兄様、それにレエブン侯」

 

 二人の男の登場に、王女が呟くように二人を呼ぶ。

 部屋に入ってきたのは王女ラナーの兄であり第二王子であるザナック・ヴァルレオン・イガナ・ライル・ヴァイセルフと、王国貴族であるエリアス・ブラント・デイル・レエブン侯爵。

 王女に話があるという二人に、自然とこの場の話し合いは終了となった。

 一度王女や王子に対して頭を下げ、モモンガたちは次々と部屋を出ていく。

 悶々とした感情を胸に渦巻かせながら外へと向かうモモンガに、不意にウルベルトが自然な動作でモモンガの横に並んできた。

 

「……さっきデミウルゴスとペロロンチーノに〈伝言(メッセージ)〉を繋いだ。戦闘時に一度離脱して、あいつらと合流するぞ」

 

 視線は前方に向けたまま、モモンガにだけ聞こえる小さな声量でウルベルトが声をかけてくる。

 モモンガはチラッと視線だけでウルベルトを見やると、こちらも周りに気付かれないように小さく一つ頷いた。気持ちを切り替えるように努めながら、必要以上に強く前を見据える。

 

(……さっきの『ウルベルトさんの春』の件は後回しだ。今は目の前のことに集中……。ウルベルトさんには後で気持ちを聞けばいいだろう……。)

 

 必死に自分自身に言い聞かせ、冷静であるように努める。

 誰もが悪魔との死闘に覚悟を決める中、モモンガだけは違う葛藤に悪戦苦闘していた。

 

 


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