世界という名の三つの宝石箱   作:ひよこ饅頭

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第66話 渦巻く計画

 暗闇が世界を支配する刻限。

 今回も多くの異形たちが豪奢な一つの部屋に集っていた。

 ここナザリック地下大墳墓の三柱の主人は勿論のこと、各階層を守護する階層守護者と守護者統括。他にもプレアデスのメンバーやセバス、ニグンもこの場に揃っていた。

 通常であれば、墳墓の主人たちの合図に従って守護者統括が会議の開始の言葉を口にする。

 しかし今回は主人の誰もが開始の合図を送ることなく、驚いた様子でじっとニグンを凝視していた。他のシモベたちも興味深げな視線をニグンに向けている。

 凝視されている本人は気まずそうに小さく身じろいでおり、そんな中、漸く墳墓の主人の一柱である山羊頭の悪魔が小さく口を開いた。

 

「………ニグン、お前……その姿はどうしたんだ……」

 

 ニグンの姿は彼らが最後に見たものから随分と様変わりしているため、ウルベルトが呆然と問いかけたのも無理からぬことだろう。しかしニグンはどう答えていいのか分からないようで、ウロウロと深紅の瞳をさ迷わせながら最後には深々と頭を垂れた。

 

「……法国と戦っていたエルフ軍の支援をするため六色聖典の一つと戦闘を行ったのですが、その最中にこのような姿に変わりました。……恐らく“れべる・あっぷ”と呼ばれる現象ではないかと思うのですが……」

「レベル・アップ……。職業レベルの方じゃなくて種族レベルの方かな? ちょっとこっちに来たまえ」

 

 小さく首を傾げながら、ウルベルトはニグンに近くまで来るようにチョイッチョイッと手で招く。大人しく歩み寄ってくるニグンに、ウルベルトは自身の右側の顔に装着している片仮面“知られざる眼”の力を発動した。

 暫く続く沈黙の静寂。

 誰もが興味深げに見つめる中、不意にウルベルトが納得したような声を小さく零した。

 

「………あ~、そういうことか……」

「何か分かったのか、ウルベルトさん?」

「ええ。どうやら経験値を得たことで、新しい種族レベルが構築されたようですね」

「……新しい種族レベル、でしょうか……?」

 

 この世界の住人であるニグンからしてみれば、ウルベルトの言っている意味が今一理解できないのだろう。困惑した表情を浮かべているニグンに、ウルベルトはにっこりとした笑みを浮かべてみせた。

 

「つまり君は戦闘の経験からワンランク上の悪魔に昇格したという訳だよ。今までの君の種族は“小悪魔(インプ)”だったが、今の君は“聖堕の悪魔”だ」

「へぇ~、随分とレアな種族になりましたね」

「確かにそうだな。実に興味深い」

 

 ウルベルトが口にした種族名に、ペロロンチーノとモモンガがそれぞれ声を上げる。

 それだけニグンが今回修得した種族は、ペロロンチーノの言葉通り随分とレアなものだった。

 まず、“聖堕の悪魔”は“堕天使”と似通った種族ではあるのだが、その種族設定が“堕天使”よりも特殊だった。

 “堕天使”の種族設定は『天使が堕落して悪魔になった』と言うものだが、“聖堕の悪魔”は少し違う。“聖堕の悪魔”の場合は『天使』ではなく『聖職者』。つまり“聖堕の悪魔”は『聖職者が堕落して悪魔になった』という特殊な設定を持った種族だった。

 この種族を修得するためには一度人間種で聖職者の職業を修得しておく必要があり、そこからカルマ値を下げたり特殊なアイテムを使用したりすることで漸く修得できるものだった。そのためわざわざこの種族を修得するプレイヤーは非常に少なく、必然的にレア種族として分類されるようになっていた。

 “聖堕の悪魔”は元々聖職者だったこともあり、悪魔でありながら信仰系の魔法や攻撃手段が可能であり、またある程度の信仰系に対する耐性も備えている。そのため極めればなかなかに強い種族ではあるため、ニグンが“聖堕の悪魔”となったことはナザリックにとっては僥倖であると言えた。

 

「しかし……結構、異形感が増したな。暫くはエルフ王国と法国の方に着手してもらう予定ではあるから時間はあるが……。仕方ない、お前の“レイン”としての装備を少し修正しておこう」

「……も、申し訳ありません」

「いやいや、謝る必要はないよ。お前が強くなることは我々にとっても喜ばしいことなのだからね。引き続き励むと良い」

「ありがとうございます」

 

 ウルベルトの寛大な言葉に、ニグンは一層深々と頭を垂れる。

 ウルベルトはニグンに頭を上げさせて後ろに下がるように手を振ると、次にはペロロンチーノへと顔を向けた。

 

「それにしても、エルフ王国と法国については予定通りに事が運んでいるようだね」

「まぁ、そうですね……。クローディアちゃんもまだ国王代理と言う感じにはなってますけど、エルフ王国の全権は握ったようなものですし。……アウラ、コキュートス、エルフたちや法国の強さはどうだった?」

「はい! エルフたちに関しては、彼らだけで法国の相手をするのはやはり厳しいかと思います。アイテムや装備の貸し出しだけでなく、人材の提供など、こちらからの相当な支援がなければ勝つことは難しいかと思います」

「今回エルフタチガ対峙シタ法国軍ハ、ニグンガ殲滅シタ六色聖典ノ一ツデアル火滅聖典ガ一番強力ダッタヨウデスガ、私ガ見タ限リデハ火滅聖典デモレベルトシテハ20台程度。シカシエルフ軍ニ比ベ、法国ノ場合ハソノレベルニ到達シテイル人材ガエルフタチヨリモ圧倒的ニ多イト見受ケラレマシタ」

「ふむ……、たとえ同じだけの規模の軍であったとしても、その中での高レベルの存在の割合に大きな差があるということか……」

「やり方はまだしも、高レベルの存在を増やそうとしていたエルフの王様の考え自体は間違っていなかったってことですね……」

 

 導き出された一つの事実に、ペロロンチーノが苦々しげな声を絞り出す。恐らく仮面の奥では鳥の顔を大きく顰めていることが容易に想像できる声音だ。

 全身で不満を露わにするペロロンチーノにモモンガは小さく苦笑を零すと、気を取り直すようにニグンに眼窩の灯りを向けた。

 

「六色聖典の残りは確か三つだったな。……残りの部隊について改めて詳しく教えてくれるか?」

「はっ。モモンガ様の仰る通り、六色聖典で未だ残っているのは三つの部隊のみです。その内の二つの風花聖典と水明聖典は主に情報収集や諜報活動に特化した部隊ですので、他の聖典に比べてやや戦力は劣ります。また、もう一つの土盾聖典につきましては防御に特化した部隊ですので、防衛面はそれなりに優れておりますが攻撃面での火力に関してはあまり心配されずとも良いかと」

「なるほど。……六色聖典の他に脅威と成り得る存在がいる可能性も否定はできないのだったな……」

「……はい、申し訳ありません。私も全てを知らされている訳ではなく……。最高神官長しか知らぬ最終兵器などがある可能性は否定できかねます」

「……ふむ……」

 

 申し訳なさそうな表情を浮かべて再び頭を下げるニグンに、モモンガは顎に指を添えて考え込む。

 どのように動くのが最善で、こちらの被害を最小限に済ますことができるのか……。

 無言のまま頭を悩ませるモモンガに、しかし右隣に座る悪魔はあっけらかんとしていた。

 

「そんなに悩む必要はないのでは? あくまでも法国と戦うのはエルフたちなのだし、こちらにまで危険が及ぶ可能性は低い。まぁ、支援をしている以上エルフたちに被害が出ればそれ相応の損害も受けてしまうかもしれないが、逆にその辺りを調整してしまえばどうとでもなる」

「……むっ、それはちょっとひどいんじゃないですかね。エルフたちはあくまでも協力相手な訳ですし、そんな捨て駒みたいに考えるべきじゃないと思います」

「なんだ、またエルフの王女にでも好意を持ったのかね?」

「それは、まぁ、否定はしませんけど、それだけじゃないですよ。……彼女は大切な部下や国民の未来のために自分の父親をその手で殺したんです。俺は……そんな彼女の覚悟に報いてあげたいと思っています」

 

 ペロロンチーノがウルベルトの言い様に反論し、しかしその声音はいつもよりもとても弱々しい。どこか気落ちしているような様子に、モモンガは内心で苦笑を零した。

 恐らくではあるが、ペロロンチーノは自分自身でも今の自分の言葉に何か思うことがあるのかもしれない。迷い、或いは自嘲でもしているのか……そんな雰囲気がペロロンチーノから感じられるような気がした。

 確かにモモンガも先ほどのペロロンチーノの言葉は甘い考えだと思う。ナザリックのことだけを考えるなら、たとえ協力関係を結んでいたとしても、こちらにまで被害が及ぶようであるなら容赦なく切り捨てるべきだ。しかし『協力関係を結んだ以上、捨て駒として考えるのではなく仲間として手を取り合うべきだ』という考えはペロロンチーノが本来持っている優しさからくるものであり、むしろ『そう考えてこそペロロンチーノだ』とも言える。その考えは、決してなくして良いようなものではないようにモモンガは思えた。

 

「……どちらの言い分も正しいと私は思う。……そこでだ、アウラ、お前のシモベの中から失っても問題ないモノたちを選別し、エルフたちの援軍として付けてやれ。コキュートス、後ほどパンドラズ・アクターと相談し、エルフたちに貸し与えても差し支えないアイテムや装備の選別を行え。まずはこのくらいの支援に留め、様子を見ることにしようと思う。……それで構わないか、ペロロンチーノさん、ウルベルトさん?」

「はい、それで構いません。ありがとうございます、モモンガさん」

「私もそれで構いませんよ。私とて、何も積極的に彼らを切り捨てようとは思っていませんし、こちらに被害が出ないのであれば問題ありません」

「よし。それではアウラ、コキュートス、先ほど命じたように動け」

「はい、畏まりました!」

「畏マリマシタ」

 

 モモンガの命令に、アウラとコキュートスが揃って片膝をついて頭を下げる。

 そんな彼らの姿を見つめる中、不意に何事かを思い至ったかのようにペロロンチーノがこちらに顔を向けてきた。

 

「あっ、そうだ。二人にお願いなんですけど、法国の神都に侵攻する際は念のため二人も様子を見に来てくれませんか? 先ほどの話と被るんですけど、他の都市はまだしも、流石に神都にまで侵攻するとなると法国がどういった行動をとってくるか分かりませんし。……先ほども言ったように、俺はできるならエルフたちを捨て駒にはしたくない。法国への対処を長引かせたくもありませんし、こちらで出来ることはしたいんです」

「万が一の時は撤退ではなく、我々がエルフたちを助けるべきだと?」

「勿論、こちらに大きな被害が出るようなら俺も諦めます。でも、そうじゃなくて、エルフたちだと難しくても俺たちであれば対処できるようなレベルであれば、助けてあげるべきだと思うんです」

「……ふむ……」

 

 また先ほどと同じ問答に戻ってしまったことに、モモンガは思わず内心で小さな唸り声を上げた。

 モモンガ個人としてはペロロンチーノの願いは別段聞き入れても問題はないのだが、果たしてウルベルトやナザリックのシモベたちがどう思うか……。

 思わずチラッと窺うように眼窩の灯りを右隣に向ければ、悪魔はその視線に気が付いて可笑しそうにクスクスと笑い声を零してきた。

 

「そんなに心配そうに見ないで下さいよ。別に私は構いませんよ」

「ほ、本当か……?」

「ちょっと、そんなに驚かないで下さいよ。私を何だと思ってるんですか? ナザリックに被害が出ない程度という前提条件が変わらないのであれば、私とて別に反対する理由はありませんよ」

 

 ウルベルトの肯定的な返答に、モモンガとペロロンチーノは思わず小さく安堵の息をつく。

 しかしここで今まで大人しくこちらの会話に耳を傾けていた守護者たちが口々に反対の声を上げてきた。

 

「お、お待ちください! 至高の御方々だけで法国に向かわれるなど、あまりにも危険です!」

「アルベドの言う通りです! どうかお考え直しを!!」

「いやいや、別に俺たちだけで行くわけじゃないから……。他にもシャルティアもアウラもコキュートスもパンドラズ・アクターもいるんだし……」

「それでも、何が起こるか分かりません! 相手は複数の世界級(ワールド)アイテムを所持していた国……、もし御方々の身に何かがあっては!!」

「ぼ、ぼくも……至高の御方々に何かあったら、とっても嫌です……。あ、あの、ですから、その……」

「お前たち、少し落ち着け。別に無闇矢鱈に行動するわけではないぞ? 十分データを取った上でだな……」

「それでも万が一がないとは言い切れません!」

「ペロロンチーノ様におかれましても、そもそも至高の御方自らが戦場にお越しになる必要などございません! どうか現場はアウラたちに任せ、ペロロンチーノ様は安全なナザリックにて御観覧いただけないでしょうか?」

「ペロロンチーノ様、アルベドとデミウルゴスの言う通りでありんす。どうか法国についてはわたくし共にお任せくださいまし」

「私たち、至高の御方々のご期待に応えられるよう、精一杯頑張ります! ですからどうか、ペロロンチーノ様!」

「ドウカ私ドモニ、至高ノ御方々ノオ役ニ立テル機会ヲ……!」

「………ぇ~………」

 

 守護者たちのあまりの勢いと熱量に、流石のペロロンチーノも気圧されて何も反論できなくなる。まるで助けを求めるようにこちらに顔を向けられ、しかしモモンガはこの時ばかりは小さく頭を振った。

 流石にこんな状態の守護者たちを言い包められる自信など自分にはない。

 どうしたものか……と二人が頭を悩ませる中、不意に山羊頭の悪魔が口を開いた。

 

「分かった、お前たちが我々の身を案じてくれていることをとても嬉しく思うよ。そうだな……、お前たちにも実際に自分たちだけで考えたり戦ったりする経験は必要だろう。今回のエルフ王国と法国との件はお前たちに任せて、我々はナザリックで見守ることにしよう」

「ちょっ、ウルベルトさん!?」

「ただし!」

 

 突然のことにペロロンチーノが声を上げ、しかしウルベルトがすぐさまそれを遮るようにペロロンチーノに向けて片手を挙げる。

 咄嗟に黙り込む鳥人(バードマン)には一切目を向けず、悪魔は少々大袈裟に苦悩しているような素振りや表情を浮かべて見せた。

 

「ただし、我々もお前たちが傷つくところは見たくない。また、シャルティアを危険な目に合わせた法国を絶対に許すことはできないのだ。だからお前たちがエルフたちを助け、法国を滅ぼそうと動く中で我々が『危険だ』と判断したその時は、お前たちを助けるために(・・・・・・・・・・・)動くことを赦してほしい」

「そ、そんな! 赦すなどと……!!」

「至高の御方々にそこまで思って頂けることは、我らシモベにとって身に余る栄誉にございます! しかし……、それでは御方々の身に危険が及ぶ可能性はなくなりません……!」

「勿論、我々も十分警戒するとも。だが、お前たちは我々にとってナザリック地下大墳墓と同じくらい大切な存在だ。お前たちは何よりも代え難い我々の宝物なのだよ。ナザリックの宝を守るのも、主人である我々の立派な務めだ」

「嗚呼っ、ウルベルト様……!!」

「なんと……、恐れ多い……っ!!」

 

 ウルベルトの優しい声音と言葉に、途端にこの場の全てのシモベたちが感激したような表情を浮かべる。

 一連の流れを見守りながら、モモンガは内心で『流石ウルベルトさん上手い……! そして怖い……!』と唸り声を上げていた。

 ここでの一番のポイントは、助ける対象がいつの間にかエルフたちから守護者たちに代わっている点だろう。エルフたちはナザリック外の……守護者たちにとっては取るに足りない存在である。そんな彼らを助けるために自分たちの主が危険な目に遭うなど、それがあくまでも可能性だけだったとしても彼らにとっては許し難いことなのだろう。

 しかしその対象が自分たちになれば話はまた違ってくる。

 忠誠を誓っている主人が自分たちのために心を砕いてくれている……。

 それは彼らにとって非常に嬉しいことなのであろうことは、モモンガも理解することができた。

 しかし何より、そんな彼らの心情や価値観などを利用して言い包められるウルベルトが素晴らしくも恐ろしい。加えて、悪魔の口車にまんまとはまってしまっている守護者たちにある種の哀れみを覚えた。モモンガとペロロンチーノの目から見れば胡散臭いことこの上ないウルベルトの笑みも、しかし彼らには全くそう見えてはいないのか、あるモノは恍惚とした表情を浮かべ、あるモノは感極まったように涙ぐんで身を震わせている。

 その様はまさに『胡散臭い極悪宗教の教祖と、それに騙されている可哀想な信者たち』というもの。

 モモンガとペロロンチーノは目の前で繰り広げられている光景に思わずドン引きながら、悪魔の掌で転がされている彼らが何とも可哀想に思えてならなかった。ウルベルトが聞けば『おい、折角言い包めてやったのに、どっちの味方だ』と言われそうな気がするが、胡散臭すぎるウルベルトが悪い……と声を大にして言ってやりたい。

 何はともあれ、守護者たちが納得してくれた様子にモモンガは気を取り直すように一つ大きく咳払いを零した。

 

「ゴホンッ、……えー、それではそのように対処していくことにしよう。ペロロンチーノさんもそれで構わないか?」

「はーい、OKでーす」

 

 モモンガの確認の声に、ペロロンチーノが棒読みでそれに答える。ウルベルトは素知らぬ風ですまし顔をしており、モモンガは内心で苦笑を浮かべながらもう一度咳払いをした後に次の議題に移ることにした。

 次に発言を始めたのはウルベルト。

 ウルベルトの報告内容は主にレイナースの呪いの解除の件や、その後のフールーダとのやり取りが殆どの割合を占めていた。

 

「へぇ、無事に呪いが解けて良かったですね! そのレイナースって子も喜んだだろうな~」

「ああ、涙を流して喜んでいたな。それもあるのだろうが、ウルベルトさんに改めて忠誠を誓っていたし……」

「おおっ、流石ですね。……ウルベルトさん二つ名とか名乗っちゃったらどうです? “スケコマシ”とか」

「おい、貶してんじゃねぇか」

 

 ペロロンチーノの揶揄いに、ウルベルトが『心外だ!』とばかりに山羊の顔を顰めてくる。

 しかし“蒼の薔薇”のラキュースのこともあり、あながちペロロンチーノの言葉も間違いではないのではないかとモモンガは思った。

 複雑な心境そのままにウルベルトに視線を向ければ、ウルベルトがモモンガに向けて不満そうな表情を向けてくる。

 

「なんです? モモンガさんも何か言いたいことでも?」

「い、いや……ゴホンッ、何でもない。……それよりも、報告を続けてくれるか?」

「まったく……。……それで、彼女の呪いを解いた後、一応二人には私が人間でないことは伝えている。また、その後にフールーダといろいろと話す時間があったのだがね。……モモンガさんは一緒にいたから知っていると思うが、フールーダからある提案を受けたのだよ」

 

 どこか呆れたような表情を浮かべながらも報告を続けるウルベルトに、モモンガもそれに耳を傾けながら当時のことを思い出していた。

 レイナースの呪いを解いたウルベルトの力にフールーダは心底感服したようで、ウルベルトが人間ではないことを話した後も、変わらず興奮冷めやらぬ様子だった。改めてウルベルトに忠誠を誓い、ウルベルトの命令通り、帝国皇帝ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスに働きかけて無事に任を果たしたことを嬉々とした様子で報告していた。

 その様はどこか狂信的で、またナザリックのNPCたちの姿もダブって見え、この世界の住人である彼が何故こんなにもウルベルトを崇拝するのかモモンガには今一よく理解できなかった。

 しかし内心首を傾げるモモンガの存在など知る由もない老魔法使いは、ウルベルトに真の狙いを無邪気に問いかけ、そして『世界征服だ』と何でもない事のように教えたウルベルトに対してとんでもない提案を持ちかけてきたのだ。

 それは帝国を使っての“アインズ・ウール・ゴウン”の世界進出。

 勿論フールーダには未だこちらの詳しい情報は何も教えておらず、“アインズ・ウール・ゴウン”という存在自体知らないのだが、彼が提案した内容はつまりはそういうことだ。何らかの方法で帝国に“アインズ・ウール・ゴウン”の存在を感づかせ、手を出させることで逆にこちらが喰らいつき、帝国を踏み台にして一気に世界に進出する。

 世界を征服するためにはまずその姿を表舞台に出し、土台となる国を作る必要がある。ウルベルトのためであれば帝国を利用しても構わないと言うフールーダに、モモンガは心底驚いたものだった。

 何故そこまで……と再び疑問が頭をもたげ、何かの罠なのではないかという疑念すら湧き上がってくる。ウルベルトもモモンガと同じことを思ったのか、その時はウルベルトは答えを保留にしてフールーダを下がらせていた。

 しかし今この時、ウルベルトの話を聞いたシモベたちは誰もが嬉々とした表情を浮かべて身を乗り出してきた。

 

「それは素晴らしい! 流石はウルベルト様、鮮やかな人心掌握のお手並みでございます!」

「これでまた御方々の願いである世界征服に一歩近づきますね!」

「す、すごいです、ウルベルト様!」

 

 キラッキラした表情を浮かべている彼らの様子が目に眩しく思えて仕方がない。

 思わず気圧されるモモンガたちを余所に、シモベたち……中でもデミウルゴスが嬉々とした声を上げて更に話しを盛り上げていた。

 

「まさにこれは好機であると言えます! 実際、リ・エスティーゼ王国よりもバハルス帝国の方が手に入れる価値や魅力は十分に高いと愚考いたします。ウルベルト様、モモンガ様、ペロロンチーノ様、ここはフールーダ・パラダインやレイナース・ロックブルズを使い、一気に帝国を手中に収めるべきかと」

「……そ、そうだな。……だが、フールーダの提案してきた話にはまだ穴が多すぎる。何もそう急がなくても良いのではないか? 何かと準備なども必要になることだし……」

「何を仰られます! ウルベルト様はこの流れを全て予想されていた……いえ、こうなるように動いていらっしゃったのでしょう」

 

(えーーーっ!! そんなわけないんだがっ!!?)

 

 自信満々に言ってのける悪魔に対し、応じる山羊悪魔は見るからにそんな悲鳴を内心で叫んでいるような表情を浮かべる。

 久しぶりに見た余裕の欠片もないウルベルトの様子に、しかしモモンガは面白がるよりもむしろ心配と不安と同情の視線をウルベルトに向けていた。悪魔からの崇拝と勘違いを一心に受けている様が哀れでならない。しかしそうは思うものの、こちらに矛先を向けてほしくはなく、モモンガは心の中で深々とウルベルトに合掌した。

 

「それはどういうこと、デミウルゴス?」

 

 モモンガとペロロンチーノが静かに見守る中、不意に疑問符を頭上に浮かべているアウラが不思議そうな表情を浮かべてデミウルゴスに問いかける。悪魔は彼女に顔を向けると、その顔に浮かべている笑みを更に深いものに変えた。

 

「つまりだね、今回のフールーダ・パラダインからの提案は、そもそもが全てウルベルト様のご計画通りだということだよ。フールーダ・パラダインが提案した計画を実行した場合、ナザリックの存在に感づいた帝国は、まずは探りを入れようとするだろう。だが帝国の皇帝も馬鹿ではない。ナザリックに万が一厄介な存在がいることも想定して、たとえ手を出して返り討ちにあったとしても自分たちにまでナザリックの手が届かぬように蜥蜴の尻尾を用意して使うだろう。そうだね……、たとえば不要な貴族を操ってナザリックを調べさせるように誘導する。そしてその貴族は自分の損害が少なく済むように私兵ではなく金で雇った駒……つまりワーカーを使おうとするだろう。ウルベルト様は全てこうなるようにワーカーの“レオナール・グラン・ネーグル”という存在を創り出してワーカーたちを操れる立場を確立し、フールーダ・パラダインとレイナース・ロックブルズを支配下に置いて全ての流れを掌握されていたのだよ」

「「「おぉぉっ!!!」」」

 

 デミウルゴスの説明に、他のシモベたちが全員感嘆の声を上げる。全員が尊敬と崇拝の眼差しをウルベルトに向ける中、向けられている本人は柔らかな微笑を浮かべることもせず、仮面に隠れていない左側の金色の目を死なせていた。一切光を宿していない死んだ魚のような目に、モモンガは思わず内心で『ウルベルトさーーーんっ!!!』と叫び声を上げる。

 内心大慌てでいる中、しかしウルベルトは何とか金色の目に光を戻すと、次にはぎこちない動きながらも何度も小さく頷いた。

 

「………あ、…ああ……、うん……、流石はデミウルゴスだ。よく気が付いたな、偉いぞ」

「ありがとうございますっ!!」

 

 創造主に褒められ、デミウルゴスの銀色の尾が激しくブンッブンッと横に振られる。

 その間に幾らか回復したのか、ウルベルトは一つ大きな息を吐き出してから気を取り直すように椅子に座り直した。

 

「だが、実はその計画は停止、或いは少し変更しようかと思っているのだよ。……少なくとも、ワーカーたちは巻き込まないようにしようかと考えている」

 

 ウルベルトの言葉に、途端にこの場にいる全てのシモベたちが驚愕の表情を浮かべる。次には困惑の雰囲気を醸し出し始める彼らに、ウルベルトは何かを言われる前にサッと片手を軽く挙げた。

 

「理由は主に二つある。一つは、現在エルフ王国と法国に対して大々的に着手している最中であるため、他の案件にまで着手しては失敗する危険性が出てくるため。二つ目は、折角築き上げたワーカーたちとのコネクションを簡単に使い捨てるのは勿体ないため。……少なくとも、ワーカーたちにはもっと違う使い道を検討したいと考えているのだよ」

 

 人差し指と中指を順々に立てながら、ウルベルトが言い聞かせるような口調で説明していく。その声音は若干引き攣っており、どうやらシモベたちから……特にデミウルゴスやアルベドからの鋭すぎるツッコミに怯えているようだった。ペロロンチーノもそれに気が付いたのか、こちらに身を寄せてきてこっそりとモモンガのローブの左袖を両手で握り締めてくる。顔を寄せて小声で『だ、大丈夫ですかね……』と呟いてくるのに、モモンガも緊張した面持ちでペロロンチーノと一緒に固唾を呑んでウルベルトとシモベたちの会話に注視した。

 

「……ウルベルト様は、敢えて帝国を未だ放置し、エルフと法国の方に注力すべきとお考えなのですね……」

「ま、まぁ、そうだな……」

「ワーカーたちにも既に違う使い道を……? ではまさか、あの件も全て……? 黄金の姫からの話はまだ……、しかし御方々であれば既に想定して……。……モモンガ様とペロロンチーノ様の行動も……、……ではあの行動にも意味が………」

 

 アルベドが確認するような言葉をウルベルトに発する傍らで、デミウルゴスが妙な独り言を零しているのが恐ろしくて仕方がない。自分やペロロンチーノの名前も出てきたような気がして、逃げ出したい衝動にかられる。

 一体何を考えているのかと戦々恐々とする中、不意にデミウルゴスが嬉々とした笑みを浮かべたことにモモンガは心の中で『ひぃぃぃいいぃっ!!』と悲鳴を上げていた。左の裾を未だ掴んでいるペロロンチーノの手の力が強くなったことや、ウルベルトの肩が微かに跳ねるように震えたのが見てとれ、二人も自分と同じ心境なのだと確信する。

 『止めてくれ! 何も言わないでくれ!』と心の中で叫ぶ中、しかし悲しいことに悪魔は嬉々としてその願いを聞き遂げることはなかった。

 

「……嗚呼っ、何と言う……、……まさか既にここまで考えていらっしゃったとは……! 流石は至高の御方々、敬服いたしました!!」

「「「……?」」」

 

 デミウルゴスが何を言っているのか全く意味が分からず、思わず内心で幾つもの疑問符を浮かべる。

 しかし詳しく聞くのは心底恐ろしい。

 無意識に逃げ場を探して思考をこねくり回す中、まるで自分たちの心境を代弁するかのように大きく首を傾げているアウラとシャルティアとマーレが口々に悪魔に声をかけた。

 

「ちょっと、どういうこと? 私にも教えてよ!」

「そうでありんす! 私たちにも教えるでありんす!」

「ぼ、僕も知りたいです……」

 

 自分たちだけがモモンガたちの思惑に思い至れていないことに悔しさを感じているのだろう。口々に不満を口にする彼女たちに、デミウルゴスが伺いを立てるようにこちらに顔を向けてきた。

 

「……ウルベルト様、モモンガ様、ペロロンチーノ様」

「ああ、構わないよ。お前が気が付いたことを彼女たちにも教えてあげなさい」

 

 名を呼ばれた理由を察し、最後まで言われる前にウルベルトが許可を与える。

 デミウルゴスは一度深々と一礼すると、次にはアウラたちに向き直って『至高の御方々の計画』とやらを説明し始めた。

 耳触りの良い声が紡ぐのは壮大でいて複雑な計画。

 悪魔の話が進むにつれ、シモベたちの表情は明るく輝きだし、しかしモモンガたちの方はダラダラと冷や汗を流し始めた。モモンガに関しては冷や汗を出す皮膚や毛穴はないのだが、しかし心境的にはまさにそれと同じである。それだけデミウルゴスの話す計画の内容は複雑に絡み合い練り上げられているものだった。

 デミウルゴスの語る計画は、以前ウルベルトがこの場で話していた一つの計画や、今回の会議で報告しようとしていたらしい王女ラナーから提案されたという計画の内容も含まれた複雑なもの。

 しかし、だからこそ濃密な内容に、モモンガもウルベルトもペロロンチーノも圧倒されて言葉もなかった。

 

 

 

「――……という計画なのだよ。つまり、ウルベルト様がワーカーとして多くのコネクションを築かれたのも、モモンガ様がカルネ村と“レオナール・グラン・ネーグル”との繋がりを“蒼の薔薇”に伝えたのも、ペロロンチーノ様のご配慮で王国の王都を悪魔の軍勢に襲撃させ魔王とその上の“御方”を大々的に登場させたのも、……そして御方々が長いこと敢えて別々に行動されていたのも、全てはこの計画のためだったのだよ。御方々はこの世界に転移されて冒険者やワーカーや森の支配者として動かれようとしていたあの時から、既にこうなるよう全てを想定されて動かれていたんだ!」

「「「おぉぉっ!!!」」」

 

(((そんなわけないだろっ!!!)))

 

 デミウルゴスの自信満々な発言と他のシモベたちからの感嘆の声に、モモンガとウルベルトとペロロンチーノはほぼ同時に心の中で全く同じ言葉を悲鳴のように発した。

 一体その確信と自信はどこからくるのか。

 満面の笑みを浮かべてこちらを振り返ってくる悪魔に、こちらは否定の言葉も言えずにただ呆然と頷くことしかできなかった。

 

「………あ、……ああ…、……さ、流石はデミウルゴスだ……。よく気が付いたな……」

「ありがとうございますっ!!」

「……ま、まぁ、そんなわけだから……。もう少し大人しくしていようか……」

「エルフと法国の件もあるしな……。……慎重にいこうな、慎重に……」

「畏まりました」

 

 若干震える声音でそれぞれ言葉を口にし、これ以上彼らが暴走しないように弱々しく釘を刺す。正直何処まで効力があるのか甚だ不安でしかないのだが、取り敢えず釘自体は刺せたことにモモンガたちは一度力なくため息にも似た息を吐き出した。

 未だ会議はそれほど進んでいないというのに、いつも以上に疲れを感じるのは気のせいなのだろうか……。

 どこか気が遠くなるような感覚に襲われながら、しかしモモンガは気力を振り絞って態勢を立て直した。

 

「……あー、それで……、他に報告はないか、ウルベルトさん……?」

「えーっと……、……ああ、そうだ。フールーダに世界級(ワールド)アイテムについて何か心当たりがないか聞いてみたのだが、一つ有力な情報を得ることが出来たのだよ」

 

 モモンガの声かけに、少しぼーっとしていたウルベルトも何とか気を取り直して次の話題に移る。

 彼の口から出てきた情報はレイナースの呪いを解いた後に出た話の一つであり、モモンガも聞いているものだった。

 法国の漆黒聖典が世界級(ワールド)アイテムを所持していたことから、モモンガたちは世界級(ワールド)アイテムの情報を事ある毎に探していたのだが、ここに来てフールーダから思い当たるアイテムとして一つの情報を得ることが出来た。

 フールーダが口にしたアイテムは“無銘なる呪文書(ネームレス・スペルブック)”。

 世界に一つしかない秘宝であり、この世の全ての魔法が記されているらしい。元々八欲王が所有していたアイテムであるらしく、今も彼らの拠点だったエリュエンティウという都市にあるとかないとか……。

 

「今でも難攻不落の場所であるため、誰かがそのアイテムを横取りする可能性は低いだろうが、それでもいつかは攻略する必要があるとは思いますよ」

 

 ウルベルトの説明に、モモンガもペロロンチーノも無言のまま考え込む。

 確かに世界級(ワールド)アイテムだと思われる物がある以上、それをいつまでも放っておくわけにはいかないだろう。

 しかし八欲王の伝説やエリュエンティウの情報を聞いた限りでは、現状嫌な予感しかしなかった。

 

「………う~ん、……それって、もしかしなくてもアースガルズの天空城じゃないですかね……? そうなると……、八欲王って“キn」

「すまないペロロンチーノさんそれ以上は言わないでくれるか胃が痛くなる……!」

「あ、はい、すみません……」

 

 モモンガの怒涛の勢いにペロロンチーノが謝罪の言葉と共にすぐさま頭を下げる。額に片手を当てて重いため息を吐き出すモモンガに、しかし右隣の山羊頭の悪魔は軽く首を傾げながらそれを見つめていた。

 

「そんなに神経質にならなくても良いのでは? 少なくとも八欲王は既に全員死んでいるはずですし、となれば残っているのはNPCのみ。情報不足のまま突っ込むのは危険ですが、少しずつでも情報を集めて準備をしていけば攻略は十分可能だと思いますが」

「いやいやプレイヤーがいなくてもNPCだけでも十分危険ですよルベドみたいな奴がいたらどうするんですかお願いですからもう少し慎重になって下さい!!」

「……おう、いつになく凄いな……」

 

 ふざけているのか何なのか、ウルベルトの緊張感のない態度に頭痛すらしてくるような気がする。

 しかし釘はきちんと刺す必要があるため、モモンガは気力を振り絞ってウルベルトに眼窩の灯りを真っ直ぐ向けた。

 

「とにかく、現状はエリュエンティウは様子見だ。探りでも手を出さないように! 良いな、ウルベルトさん!」

「は~い。分かりましたよ、モモンガさん」

 

 強い声音で言い聞かせるモモンガに、ウルベルトはひょいっと肩を竦めながらも一つ頷いてくる。

 モモンガは小さく安堵の息をつくと、さっさと次に話を進めてしまおうと改めて口を開いた。

 

「……さて、ウルベルトさんからの報告は以上で終わりか?」

「そうですね……。取り敢えずは終わりだと思いますよ」

「宜しい。では次は私が報告するとしよう」

 

 ウルベルトの返答に一つ頷き、次はモモンガから近況報告を行う。

 とはいえ、モモンガが報告する内容はペロロンチーノやウルベルトほど濃いものではなかった。モモンガの主な報告内容は“蒼の薔薇”と“朱の雫”について。とはいえ取り立てて重要な情報も大きく進んだ案件もなく、先ほどのペロロンチーノやウルベルトと違い、報告は手短に終わりを見せた。

 

「へぇ~、“朱の雫”ってパワードスーツを持ってたんですか! 一体どこから入手したんですかね?」

「出所は不明だが、今後はその辺りも探りを入れていくべきだろうな」

「取り敢えず“蒼の薔薇”と“朱の雫”については私とモモンガさんとで探りを入れてみることにしたから、ペロロンチーノさんはエルフと法国の方に集中して下さい」

「ふ~ん。まぁ、“蒼の薔薇”はともかく“朱の雫”については別に興味ないですし、お二人にお任せしますね」

 

 ウルベルトの言葉にペロロンチーノはあっさりと承諾の言葉と共に頷いてくる。

 今回も何とか何事もなく会議が終わりそうな雰囲気に、モモンガは思わず内心で安堵の息をついた。

 これで報告すべきことは大体は終わっているはずだ。

 モモンガは一度ウルベルトとペロロンチーノの様子を窺うと、何も発言するような素振りがないことを確認してから次に守護者たちに目を向けた。

 

「これで大体は全員報告が終わったように思うが……、他に誰か報告したいモノはいるか?」

 

 この場にいる全員に対して確認の言葉をかける。しかし言葉を発するモノはおらず、モモンガは一つ頷くとすぐ側で控えるアルベドへと視線を移した。アルベドは心得たように一度深く一礼し、次には顔を上げて室内を見渡す。この場にいる全てのシモベたちが浮かべている表情を確認すると、アルベドは満足したような笑みを一瞬浮かべた後に真っ直ぐな背筋を更に伸ばした。

 

「それでは、この度の定例報告会議は終了いたします。解散!」

 

 守護者統括の涼やかでいて張りのある声に、この場にいる全てのシモベが片膝をついて深々と頭を下げた。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「――……それで、何用だ、アルベド?」

 

 定例報告会議が終了して一刻ほど後。先触れに来たメイドが下がって数分後、私室を訪ねてきたアルベドに、モモンガは内心ひどく緊張しながらも彼女を室内へと招き入れていた。

 幾つもある部屋の内、執務を行う部屋に通し、重厚な椅子に腰かけながら目の前まで歩み寄ってきた女淫魔(サキュバス)を見やる。

 モモンガとしては何故彼女が定例報告会議の後に自分の元を訪ねてきたのか理由が分からず、まさかまた何か問題が発生したのかと気が気でなかった。

 しかしそんなこちらの心配などには気が付く様子もなく、アルベドはモモンガの目の前で片膝をつくと、胸に右手を添えて深々と頭を垂れてきた。

 

「わざわざお時間を頂きまして感謝いたします、モモンガ様」

「いや、構わん。それほど重要な話があるのだろう」

 

 言外に早く話すように促してやれば、アルベドは顔を上げて立ち上がると真っ直ぐにこちらを見つめてきた。

 

「先日、モモンガ様が仰られていたチームでの戦闘経験についてなのですが……――」

 

 そんな前置きと共にアルベドが話し始めた内容は、モモンガも初耳の情報だった。

 アルベドの報告によると、リ・エスティーゼ王国とバハルス帝国の間にあるアゼルリシア山脈にドワーフの国があるらしく、更にその奥には霜の竜(フロスト・ドラゴン)霜の巨人(フロスト・ジャイアント)やクアゴアという亜人たちの生息域があるらしい。フロスト・ドラゴンとフロスト・ジャイアントは互いにアゼルリシア山脈での覇権を争っており、クアゴアとドワーフの国も何かと争いが絶えない。しかしそんな中でも、最近特にクアゴアとドワーフの国との争いが活発になってきているらしい。

 

「――……現状は未だそれほど大きな影響は出ていないようですが、恐らく近いうちにドワーフたちは劣勢に陥るかと思われます」

「ふむ……、つまりそれらの状況を先日言っていたチーム戦に利用できないか、ということか……」

「流石はモモンガ様! 仰る通りでございます!!」

 

 モモンガの相槌のような言葉に、途端にアルベドが嬉々とした表情を浮かべて身を乗り出してくる。しかし正直に言って、モモンガはアルベドが何を言いたいのか全く見当もつかなかった。先ほど言った言葉など、空気を読んだだけの唯のでまかせだ。チームでの実戦経験とクアゴアとドワーフたちとの争いがどう繋がるのか訳が分からない。

 思わず内心でウルベルトとペロロンチーノに助けの声を上げる中、しかしそれに気が付かないアルベドは興奮したものから冷静な微笑へと表情を変えて前のめりになっていた体勢も元に戻した。

 

「ですが、先ほどの定例報告会議にて法国への侵略時に守護者でのチーム戦ができる可能性が出てまいりましたので、こちらはもう少しお時間を頂き、より良い舞台になるよう整えていこうかと考えております」

「そ、そうか……。まぁ、それほど急ぎの案件ではないからな。より良い舞台にできるのであれば、時間をかけても構わない」

「ありがとうございます! また都度ご報告させて頂き、ご相談させて頂ければと思います」

「……分かった……」

 

 正直に言えば、全力で遠慮したい。報告だけならまだしも、相談なんてしないでほしい。相談するにしても、その時はせめてウルベルトやペロロンチーノも傍にいてもらいたい。

 しかしそんなことが言えるはずもなく、モモンガはグッと本音を呑み込んで一つ頷くにとどめた。それでいて、内心では『どうしてウルベルトさんとペロロンチーノさんには後から報告する形にしたんだろう……』と激しい後悔に襲われる。

 モモンガは過去の自分を恨めしく思いながら、より詳しく報告しようと言葉を並べ始めたアルベドに内心で深々とため息を吐くのだった。

 

 




今回、八欲王のギルド名の最初の文字などが出てきましたが、当小説でのオリジナルの捏造設定になりますので、いつもの如く原作で出て来ましたら修正する予定です。
また、現在小説についてアンケートを実施しておりますので、是非お協力を宜しくお願い致します(深々)
【アンケートURL】
https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSc0nsJ22OH1wiYwuElqckvij8RMCBxC9Ucby430RKJkqFeI2A/viewform?usp=sf_link

*今回の捏造ポイント
・“聖堕の悪魔”;
『聖職者が堕落して悪魔になった』種族。修得しているプレイヤーが少ないため、必然的にレア種族に分類された。悪魔でありながら信仰系の攻撃手段を持っており、ある一定の信仰系に対する耐性も備えている。
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