世界という名の三つの宝石箱   作:ひよこ饅頭

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原作の新刊が出る前に『法国編』を終わらせたかったのに、書き終わらせることができなかった……。
無念……orz
『法国編』は完全オリジナルで原作とは異なる内容にしようと思っているので、法国やエルフ王国等について原作と相違があったとしても書き直す(修正する)予定はありません。
あらかじめご了承ください……(土下座)


第73話 蒔かれる種

 ヘッケランはこれまでにない程に緊張していた。

 目の前には何度となく見たことのある茶色の木の扉。表面には林檎が実った木の枝と、その上で歌っている小鳥の姿が彫られている。

 何とも和やかなその絵は、しかしヘッケランの緊張を少しも和らげてはくれなかった。

 ノックをしようと軽く挙げた拳は小刻みに震え、否が応にもひどく緊張していることを彼自身や周りに知らしめてくる。

 しかしヘッケランは――この場では特に――情けない姿を周りに見せる訳にはいかなかった。

 というのも……――

 

「ここが目的地?」

「そこが目的地?」

 

 背後から幼く可愛らしい少女の声が二つ聞こえてくる。チラッと後ろを振り返ってみればアルシェの両脇によく似た二人の少女が立っており、興味津々といった表情を浮かべてこちらを真っ直ぐに見つめていた。

 大切な仲間の大切な妹たちから向けられる、無垢で純粋な視線。

 一人の男として、“フォーサイト”のリーダーとして、この幼い少女たちの目の前で無様な姿を晒すわけにはいかない……!!

 ヘッケランは一度生唾を大きく呑み込むと、意を決して目の前の扉をノックした。緊張から思った以上に力が入り、普段よりも幾分激しい音が響いて咄嗟に肩が跳ね上がる。後ろに控えるように立っている仲間たちから呆れたようなため息や小さな苦笑の音が聞こえてきて、ヘッケランは思わず小さく首を竦めた。

 

『――……どうぞ』

 

 一拍後、扉の内側から男の声が聞こえてくる。

 入室を促す言葉にヘッケランは一度フゥゥ……と大きく息を吐き出すと、仲間たちをチラッと振り返って彼らの様子を確認してからドアノブに手をかけた。使いこまれた金属のドアノブを操作し、目の前の扉を押し開ける。

 軋む音一つたてずにすべらかに開いた扉と、目の前に広がる室内の光景。

 徐々に視界に映り込んできた室内の様相に、ヘッケランを含む“フォーサイト”のメンバーは全員驚愕に大きく目を見開いた。

 

「ようこそ、“フォーサイト”の皆さん。さぁ、中にお入りください」

 

 少々癖の強い男の声が中に入るよう招いてくる。

 ヘッケランたちはあまりの光景に思わず呆然となり、しかしアルシェの両脇に立っていた双子の少女たちだけは聞き覚えのある声に笑顔を浮かべて、楽しげな笑い声を上げながら駆けるように部屋の中へと飛び込んでいった。

 元気よく駆けまわる少女たちにつられるようにしてヘッケランたちもゆっくりとした足取りで室内に足を踏み入れていく。

 そこは正に予想を超えた信じられない場所だった。

 ここはバハルス帝国帝都にある“歌う林檎”亭というどこにでもあるような普通の庶民的な食堂兼宿屋だ。決して高級な宿屋などではなく、食堂も宿の部屋も質素で素朴でどこまでも普通である。ヘッケランたちも幾度となく利用したことがある宿屋の一室は、しかし今は見たことがない程に豪華で美しい様相に様変わりしていた。

 暗い紫色の毛足の長いカーペットと艶めかしい光沢のある複雑な彫刻がなされた黒木のテーブル。上には白を基調とした黒と銀で美しい紋様や装飾が成されたティーカップが置かれており、中からは芳しい紅茶の香りが漂っている。テーブルの周りには柔らかそうなクッションが敷き詰められた大きな寝椅子(カウチ)や一人掛けのソファーが幾つも置かれており、それぞれの傍らにはシックで気品のあるスタンドライトや小さなテーブルなどが備え付けられていた。

 正にどこかの高級宿屋の一室か貴族の屋敷の一室かと思えるほどの様相に言葉を失う。

 未だ呆然と室内を見回すヘッケランたちを尻目に、部屋中を駆け回っていた少女たちが寝椅子に腰かけている男に勢いよく駆け寄っていった。

 

「こんにちは、ネーグル様! すっごく素敵なお部屋ね!」

「こんにちは、ネーグル様! 前に住んでいたお家みたい!」

「こんにちは、クーデリカさん、ウレイリカさん。お褒め頂き光栄です。……さぁ、“フォーサイト”の皆さんもどうぞ、こちらへ。リーリエ、すまないが彼らの紅茶も用意してくれるかな?」

「はい、畏まりました」

 

 この部屋を借りている“サバト・レガロ”のリーダーであるレオナール・グラン・ネーグルが部屋の隅に控えるように立っている美女を振り返って声をかける。同じチームのメンバーであるはずのその美女は、まるで主人に仕えるメイドのように恭しく頭を下げると、すぐ近くに置いてあったワゴンに歩み寄って作業を始めた。その間にも再度レオナールから座るように促され、そこで漸くヘッケランたちは近くにあった一人掛けのソファーにそれぞれ腰を下ろした。二人の少女も男から離れて姉の元に戻ると、三人で少し大きめの寝椅子に腰を下ろす。

 用意されている寝椅子やソファーはどれも見るからに一級品で、敷き詰められているクッションは程よい柔らかさで手触りもよく、座り心地も信じられないほど良いものだった。

 しかしヘッケランは上等なソファーに感動するよりも先に自身の服の汚れや手垢などが付いてしまわないかヒヤッと背筋に冷たいものを走らせていた。仲間たちも自分と同じ心境なのだろう、恐ろしく座り心地が良いはずなのに、誰もが座り心地が悪そうに顔を引き攣らせて小さく身動ぎを繰り返している。唯一、何の物怖じもせずにはしゃぎ座っているのはクーデリカとウレイリカくらいだ。

 

「“フォーサイト”の皆さま、どうぞ」

「………あ、…ありがとうございます……」

 

 どこまでも無邪気な双子の少女たちを苦笑と共に見つめる中、不意に声をかけられたと同時に目の前のテーブルの上にティーカップが置かれる。

 ティーカップのデザインはレオナールが使っている物と同じ物。中には橘色の液体が湯気と共に小さく揺れており、先ほど鼻腔を擽ったものと同じ芳しい香りが漂ってきた。

 香りからして紅茶であろうその液体は、しかしヘッケランが今まで見てきた物に比べると明らかに色が濃い。

 内心首を傾げながら、ヘッケランは好奇心に突き動かされるように恐る恐るティーカップに手を伸ばした。慎重な手つきでカップを両手で包み込むように持ち、そのまま顔の辺りまで持ち上げる。漂ってくる芳香を一度胸いっぱいに吸い込むと、次にはゆっくりとカップを口につけて液体を口内に流し入れた。

 

「……っ……!!?」

「……うわっ、なにこれ! すっごく美味しい!」

 

 口いっぱいに広がった濃い紅茶の味に思わず目を見開く中、同じタイミングでティーカップに口をつけていたイミーナから驚愕の声が上がる。アルシェやロバーデイクも驚いた表情を浮かべており、無言のままじっと紅茶を見つめていた。

 平民である自分たちだけでなく元貴族であるはずのアルシェでさえ驚愕の表情を浮かべていることは驚きだったが、それよりもこんなに味が濃く上質な紅茶を気軽に振る舞えること自体が信じられなかった。

 自分たちは知らぬ間に王城にでも迷い込んでしまったのだろうか……とあり得ないことを思わず考え込む。

 そんな中、不意にクスクスという小さな笑い声が聞こえてきてヘッケランはハッと我に返った。慌ててそちらに顔を向ければ、レオナールが楽しげな笑みを浮かべてこちらを見つめている。

 笑みの形に柔らかく歪んでいる金色の瞳と目が合った瞬間、一気に羞恥心が湧き上がってきてヘッケランは持っていたティーカップを素早くテーブルのソーサーに戻すとピンッと背筋を伸ばした。

 

「し、失礼しましたっ!!」

「いえいえ、口に合ったのなら何よりです。リーリエ、良かったな」

 

 軽い口調で声をかけるレオナールに、リーリエは無言のまま深々と頭を垂れる。

 二人のやり取りを見つめた後、ヘッケランは一つ大きな咳払いをした後に気を取り直して顔の筋肉を引き締めた。

 

「そ、それで……今日は一体何の御用で俺たちを呼んだんでしょうか?」

「ああ、そうでしたね。何も説明しておらず、失礼しました」

 

 ヘッケランの問いに、レオナールは未だ柔らかな微笑を浮かべながらもスゥ…と背筋を伸ばして姿勢を正す。

 それだけで空気が引き締まったように感じて、ヘッケランは無意識に身体を緊張で強張らせた。

 

「……ああ、そのように緊張なさらずに。別に悪い知らせをしにお呼びしたわけではないのですよ。皆さんをお呼びしたのはフルトさんの件についてです。実は先日パラダイン様と話す機会がありまして、その際にフルトさんのことを相談したのです」

「……っ!! そ、それで……、どうなったんですか!?」

 

 思ってもいなかった言葉に緊張していたことも忘れて知らず大きく身を乗り出す。

 相対するレオナールは変わらず落ち着いた様子で、静かにヘッケランや“フォーサイト”のメンバーを順々に見つめた。

 

「パラダイン様はフルトさんの現状を知って非常に驚かれていました。以前フルトさんが学院に通われていた時に感じていた魔法の才能や可能性について話して下さり、もしそれが未だフルトさんに備わっているのであれば、力添えを行うのも吝かではないとおっしゃって下さいました」

「……えっと……、……それは、つまり……?」

「つまり、全ては今のフルトさんを見て判断するということです。それもあって、皆さんにここまでご足労頂いたのですよ」

 

 軽やかに言ってのけた後ににっこりと笑みを浮かべるレオナールに、ヘッケランだけでなくイミーナとアルシェとロバーデイクの頭上にも幾つもの疑問符が浮かぶ。

 レオナールの言葉の内容は理解できるものの、それで何故自分たちをこの場に呼んだのかが分からなかった。

 ただ単に『話したいことがあるから来てほしい』というのであれば理解できる。ヘッケランとて『いや、こっちを呼びつけるんじゃなくて、そっちが来いよ』などと言うつもりはないし、そう思うことですら“サバト・レガロ”に対してはもはや恐れ多かった。

 ヘッケランが思うのはそういうことではなく、先ほどのレオナールの口振りから、ただ『話したいから呼んだ』という訳ではなく“自分たちがここに来ること自体に意味がある”と言っているように感じたのだ。加えて、ヘッケランたちはレオナールからの手紙を受け取って今日ここに来たのだが、その手紙には『アルシェの妹二人もつれてきてほしい』という旨の文字が綴られていた。これは一体どういう意味で何の目的に繋がるのか……。

 思わず仲間たちと顔を見合わせて首を傾げる中、まるでこちらのタイミングを見計らったかのように不意に扉からノックの音が響いてきた。

 ヘッケランと仲間たちは驚愕と共に扉を振り返り、しかしレオナールは少しも驚いた様子はなくリーリエに扉を開けるように指示を出す。

 リーリエは一度恭しくレオナールに一礼すると、素早い動作で扉の前へと歩み寄っていった。丁寧な動作で扉を開け、外に立っている人物を確認してから中に招き入れる。

 リーリエに従って部屋に入ってきたのは焦げ茶色のフード付きのマントを目深に被った一人の人物。

 背が前のめりに曲がっていることやフードからはみ出している長い髭から、その人物がどうやら老人であることが窺い知れる。

 一体誰なのか……とヘッケランが思わず小さく眉を顰める中、不意にアルシェが驚愕に目を見開いて大きく息を呑んだ。勢いよく寝椅子から立ち上がり、そのまま石にでもなってしまったかのように固まる。水色の瞳は真っ直ぐに老人に向けられ、ゆっくりと開かれた唇は小さく震えていた。

 

「………パ、パラダイン…さま……っ!!」

「「「……っ……!!」」」

 

 アルシェの口から零れ出た名前に、ヘッケランは思わず驚愕の表情を浮かべてソファーから立ち上がる。イミーナやロバーデイクも同じようにソファーから立ち上がり、部屋の空気が一気に張り詰めたものに変わった。

 しかし注視されている本人は落ち着いた様子を崩さず、ゆっくりと両手を上げてフードに手をかけた。

 

「……久しぶりじゃな、アルシェ・イーブ・リイル・フルト」

 

 フードの中から現れたのは深い皺を刻んだ老人の顔。豊かな白い眉毛と髭を持ち、眉毛の下から覗く双眸はどこまでも静かで理知的なものだった。腰が曲がっていることもあって小柄に見えるものの、流石は世界中で名高い逸脱者たる大魔法使いというべきか、漂ってくる迫力は相当なものに感じられる。

 誰もがあまりの急展開に反応できずにいる中、不意にレオナールの柔らかな声が張り詰めていた空気を打ち破った。

 

「ようこそおいで下さいました、パラダイン様。お待ちしておりましたよ」

「………到着が遅くなってしまい、誠に申し訳ない。弟子たちを言い包めるのに少々苦労しましてな」

「御一人で行動するのも大変ですね。どうぞ、こちらにお座りください。リーリエ、紅茶の用意を」

 

 寝椅子から立ち上がってフールーダを迎えるレオナールと、ゆっくりとした足取りでレオナールの元に歩み寄るフールーダ。

 二人のどこか親しげな様子に、二人を見つめるヘッケランは思わず内心で小さく首を傾げた。

 一瞬、この大魔法使いの老人がレオナールに対してどこか畏まるような素振りを見せたような気がしたのだが、見間違いだろうか……。

 ヘッケランの頭の中で『確かに見た!』という声と『唯の気のせいだ』という声が激しく鬩ぎ合って渦を巻く。

 片や帝国の守護者であり逸脱者たる大魔法使いと、片や一介のワーカーでしかない男。

 普通に考えて、たとえ帝国一の人気を誇るワーカーチームのリーダーといえど、それだけでは彼のフールーダ・パラダインがレオナールに対して畏まるとは到底考えられない。

 『やはり唯の気のせいだったのだろうか……』と思いながら、しかしヘッケランはその一方でどこか誇らしいような……少し胸が熱くなるような感覚を覚えていた。

 決して自分たちを卑下するわけではないが、“ワーカー”という職業は世間一般には決して立派なものではなく、誇れるようなものでもない。誰かに尊敬されることもないし、逆にマイナスな視線を向けられることの方が圧倒的に多い。

 にも拘らず、同じワーカーであるはずのレオナールがあの大魔法使いに一定の敬意を向けられているのであれば、それは同じワーカーとしてとても誇らしいものだった。

 

「皆さんもお座りください。このままでは落ち着いて話もできないでしょう」

 

 知らず自身の思考に深く沈んでいたヘッケランは、不意に聞こえてきたレオナールの声にハッと我に返った。見てみればフールーダは既にレオナールの隣に位置する一人掛けのソファーに腰を下ろしており、ヘッケランは慌てて再びソファーに腰かけた。

 とはいえ、ここからどういった対応をするべきなのか分からず、思わず無言のまま途方に暮れる。

 アルシェが現在所属しているチームのリーダーとしてやはり挨拶するべきだろうか……と悶々と考え込む中、不意にフールーダの方が声をかけてきた。

 

「………ネーグル殿から既に事情は聞いておる。……何故学院を突然去ったのかも、何故ワーカーになっているのかも……」

 

 老人の目は真っ直ぐにアルシェだけに向けられている。

 アルシェはそれに気まずそうに顔を俯かせると、両膝に乗せている両手を力なく握りしめた。

 

「……その節は、何も言わずに学院を去ってしまい、申し訳ありませんでした……」

「いや、良い。……確かに数日前までは理由が分からず怒りも覚えていたが、理由を知った今では何も言わずに去ったお主の心情も理解できる」

「……………………」

 

 アルシェにかけられる声はどこまでも静かで優しい。向けられている視線にも一切怒りの色は宿っておらず、ヘッケランは思わず小さくホッと安堵の息をついた。

 アルシェもフールーダの様子に気が付いたのだろう、先ほどまで強い緊張で蒼褪めていた顔色は幾分血の気が戻り、俯けていた顔を恐る恐る上げてフールーダを見やった。

 

「今重要なのは過去の事よりもこれからのことだ。聞けば、両親の借金が原因で今のチームにも居づらくなっているとか……」

 

 フールーダの言葉が途中で切れ、静かな双眸がアルシェからこちらに向けられる。問うようなその視線に、ヘッケランは思わず背筋を伸ばしながら表情を引き締めた。

 フールーダほどの高位の存在と会話などしたことはなく、自然と口内が緊張でひどく乾く。

 ヘッケランは舌がもつれないように気を付けながら、慎重に言葉を選んでこれまでのことをフールーダに説明し始めた。

 アルシェが“フォーサイト”に加入したところから始まり、アルシェの活躍や、彼女が如何にチームの助けになっていたかを話す。また、突然現れた金貸しの存在やアルシェ本人から聞いた事情、フルト家の現状、妹二人の存在とアルシェ本人の決意なども順を追って説明していく。

 フールーダは始終無言のままヘッケランの言葉に耳を傾けていたが、その表情は長い眉毛や髭に大部分が隠れていてなお不機嫌そうに歪んでいるのが見てとれた。

 

「――……と言う訳で、これからについて悩んでいたところにネーグルさんが声をかけて下さり、パラダイン様のお力をお借りできないかという話になった次第なのです」

「……なるほど、どうやら大変な苦労をしてきたようだな」

 

 ヘッケランの説明を聞き終え、フールーダは一度フゥゥ……と大きく息を吐き出す。片手を皺が多く刻まれている額に押し当て、一拍後にその手を離して改めてアルシェに目を向けた。

 暫くの間、何かを探るようにじっと彼女を見つめる。

 アルシェも真っ直ぐにフールーダの目を見返す中、フールーダはもう一度大きなため息にも似た息を吐き出した。

 

「……確かに、お主は優秀な生徒の一人だった。その若さで第三位階まで使いこなせること自体が驚嘆に値する。……しかし、どうやらお主の成長は既に止まりかけているようだ。……恐らく今以上の成長はもはや見込めまい」

「「「……っ……!!」」」

 

 フールーダの言葉に、アルシェ本人だけでなくヘッケランや他の仲間たちも全員が驚愕に息を呑む。ヘッケランはフールーダの言葉が信じられず、何かの聞き間違いではないかとさえ思った。

 アルシェは間違いなく“フォーサイト”の頼もしい仲間であり、替えの効かない重要な主戦力だ。未だ十代で若いということもあり、とてもここが成長の限界であるとは思えなかった。

 勿論何事にも限界というものはあり、それは生まれながらのものであって、たとえどんなに努力したところで越えられない境界線があることも理解している。

 しかしその限界をこんなにも早く迎えることなど本当にあり得るのだろうか……。

 思わず反論するべく口を開きかけ、しかしフールーダが再び声を発する方が早かった。

 

「とはいえ、第三位階の魔法の使い手自体が少ないことは事実。そして、実戦の経験を豊富に持つ者が貴重な存在であることも変わらぬ事実であろう」

「……!」

「加えて、わしはお主の妹たちにも少し興味がある」

「……え……?」

 

 フールーダからの突然の思わぬ言葉に、アルシェは小さな驚愕の声と共に傍らに座る自分の妹たちに目を向けた。ヘッケランも驚愕の表情を浮かべ、仲間たちと共にクーデリカとウレイリカを振り返る。今まで姉の隣で大人しくしていた双子の少女たちは、突然自分たちに向けられた多くの視線に一様にキョトンとした表情を浮かべている。

 不思議そうに小さく首を傾げる双子の少女たちに、フールーダが柔らかな光を瞳に宿らせた。

 

「……未だ長年の感覚による予感でしかないが、……もしかすればその子たちはお主と同等か、或いはそれ以上の才能を持っているかもしれぬ」

「まさか……、……クーデリカとウレイリカが……!?」

「勿論、全ては学ぶ機会と能力を高められる環境があってこそではあるがな」

 

 言葉を重ねるフールーダに、しかしヘッケランは今もなお信じられなかった。アルシェも同じ思いなのだろう、どこか呆然とした様子で自分の幼い妹たちを見つめている。

 しかし、どうやらそう思っているのは自分たちだけのようで、今まで口を閉ざしていたレオナールが徐に口を開いてきた。

 

「なるほど。確かに姉が優秀であるなら、その妹たちも姉と同じ才能を持っている可能性は高いでしょうね」

「そうですな。もし姉と同じように魔法学院に入学させることが出来れば、彼女たちも才能を伸ばし素晴らしい人材となれるやもしれぬ」

「ですが、魔法学院に通わせるには少々幼過ぎるのでは?」

「左様。ですので、もし彼女たちさえ良ければ我が屋敷に受け入れたいと考えているのだが……」

「……!!」

 

 自分たちそっちのけでどんどん進んでいく会話に呆然とし、加えてフールーダの口から突然飛び出てきた言葉に更に度肝を抜かれる。

 思わず『何を言っているのか』と口を開きかけ、しかしフールーダが浮かべている真剣な表情を見てヘッケランは咄嗟に口を閉ざした。

 フールーダの目には真摯な光が宿っており、本気で彼女たちの行く末を案じ、また幼い少女たちに期待を寄せているのが見てとれる。

 大魔法使いのその様子に、ヘッケランはそこで漸く『本当に彼らの言う通りなのかもしれない』と思い至った。

 そもそも冷静に考えてみれば、才能とは生まれながらに持っているものであって、そこに年齢は全く関係ない。あのフールーダ・パラダインがここまで言ってくれているのだ、本当にクーデリカとウレイリカには姉譲りの類稀な才能があるのかもしれなかった。

 それによくよく考えてみれば、これは非常にありがたい話でもある。

 フールーダからの申し出を受ければ、クーデリカとウレイリカは安心して姉と共に住む場所を得ることができるし、アルシェも今まで通り“フォーサイト”の一員として活動することができるようになるだろう。また先ほどのフールーダの口振りから推察するに、クーデリカとウレイリカは早い段階から魔法学院と同程度の教育を受けることができるようになるかもしれない。それは彼女たちの今後のことを思えば、非常に大きなメリットになる。そして何より重要なのは、クーデリカとウレイリカがフールーダの屋敷で暮らすことになれば、彼女たちはフールーダ・パラダインの保護下に入るということを意味する。帝国に暮らす者にとって、これ以上に安全なことはない。

 ヘッケランは内心で一つ頷くと、未だ戸惑った表情を浮かべているアルシェを振り返った。

 

「良いんじゃないか? 俺はパラダイン様の申し出を受けるべきだと思うぞ」

「……ヘッケラン……。……で、でも……」

「パラダイン様の申し出を受ければ、生活できる場所は手に入るし、アルシェだって安心して家を空けることができるだろう? それにクーデリカちゃんとウレイリカちゃんの今後のことを考えれば、教育を受けられるっていうのはすごく重要なことだ」

「……そうですね、確かにヘッケランの言う通りだと思います」

「私もヘッケランと同意見だわ。何より、あのフールーダ・パラダインの御膝元にいられるんだもの。金貸し共も近づけなくなるでしょうしね」

 

 ヘッケランに加勢するように、ロバーデイクとイミーナも賛同の声をかけてくる。

 アルシェはヘッケラン、ロバーデイク、イミーナの順に顔を向けると、次にはこちらの言葉を熟考するように顔を俯かせた。

 未だ迷っているようなその様子に、ヘッケランは思わず仲間たちと顔を見合わせる。

 何故彼女がこんなにも迷うのか内心で首を傾げる中、不意にレオナールが寝椅子から立ち上がってこちらに歩み寄ってきた。

 

「……大切な妹たちの生活に深く関わってくるのです、悩まれるのは当然のことでしょう。しかしフルトさん、一人で悩んでも解決しないことは多々あります。折角この場に当人たちが揃っているのですから、何か気にかかることがあるのであれば口に出してみてはいかがですか?」

 

 レオナールは地面に片膝をついて身を屈め、アルシェの顔を見上げるようにして優しく語りかけてくる。

 その様はまるで幼子に接するようなそれで、しかしそこには深い労りと思いやりに溢れている様に見えて、ヘッケランは自然と胸を熱くさせた。

 アルシェもヘッケランと同じように思ったのか、俯かせていた顔を上げてレオナールを見つめ、次にこちらに顔を向けてくる。

 どこか不安そうに揺れている水色の瞳を向けられ、ヘッケランは安心させるように笑みを浮かべて力強く頷いてみせた。

 

「………パラダイン様のことは、信頼している。すごく有り難い話だとは、私もそう思っている。でも……、本当に良いのか分からない……。パラダイン様に迷惑がかかるかもしれないし……、クーデリカとウレイリカにとって何が一番良いのか自信が持てない。……だから、悩んでいる……」

 

 まるで自身の思いや考えを分析するようにしながら、ゆっくりとアルシェが言葉を紡いでいく。

 それを聞きながら、ヘッケランは思わず小さく眉尻を下げて苦笑を浮かべた。

 全くこの少女は真面目で優し過ぎる……と思わずため息が出そうになる。一番苦しいのは自分であろうに、それでもなお妹たちやパラダインに対してまで心を砕いている様子にいじらしさすら感じた。

 しかしアルシェが思っていることや考えていることは全て不要なものだ。

 ヘッケランは一つ大きな息をつくと、ここはリーダーとしてガツンッと言ってやろうと胸を張った。

 アルシェに向かって口を開きかけ、しかしそれよりも先にイミーナが口を開く方が早かった。

 

「なぁ~に言ってんの! あんたはまだ子供なんだから、そんなことまで心配したり気を遣わなくても良いのっ!」

「……イミーナ……」

「それに、あんたには私たちもついてる! 何も遠慮することなんてないのよ」

 

 膨らみが一切ない絶壁の胸を大きく張りながら言ってのける様は、そこらの男たちよりも余程格好よく男らしい。

 『流石は我らが副リーダーだ……』と少々出鼻を挫かれて内心で半笑いを浮かべる中、アルシェはイミーナの言葉に勇気づけられたのか小さな笑みを浮かべて一つ頷いてきた。改めてフールーダに向き直り、次には深々と頭を下げる。

 

「パラダイン様、是非ともその申し出を受けたいと思います。どうか、宜しくお願いします」

 

 頭を下げたまま申し出を受ける旨を伝えるアルシェに、フールーダもまたゆっくりと大きく頷いた。

 

「こちらこそ宜しく頼もう、アルシェ・イーブ・リイル・フルト。我が屋敷には使用人も弟子も何人かおる。わしが不在の時も、誰かが必ず屋敷にはいるので心配はいらぬだろう。また何かあれば遠慮なく誰かに相談しなさい。勿論、わしに直接言っても構わぬのでな」

「ありがとうございます」

 

 フールーダの優しい言葉に、アルシェは頭を上げながら小さな笑みを浮かべる。

 部屋に和やかな空気が流れる中、不意にパンッパンッとレオナールが軽く手を打ち鳴らした。

 

「話が良い形にまとまったようで何よりです。では折角ですので、このままお茶会でも致しましょうか。クーデリカさんとウレイリカさんはこれからパラダイン様の元でお世話になることですし、親交を深める良い機会となるでしょう」

「そうですな。思えばこれほど幼い教え子を持つのは初めてのこと。……何やら教え子というよりも孫のように感じてしまいそうではあるが……」

「そ、そんな、パラダイン様の孫だなんて! そ、それは流石に恐れ多すぎます!」

 

 “孫”という言葉に反応して、アルシェが恐縮したように身を縮み込ませる。

 それに部屋中に暖かい笑い声が溢れて響く中、一瞬レオナールが何かに反応するように金色の双眸を宙に彷徨わせたことに、この場にいる誰も気が付くことはなかった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 所変わって、ここはリ・エスティーゼ王国にある辺境の村・カルネ村。

 大分復興が進み、活気と穏やかさが戻ってきている村の中で、一人の少女が忙しなく周りを見回しながら村中を駆け回っていた。

 

「エンリ、そんなところで何をしているんだ!?」

 

 不意に声をかけられ、少女……エンリはそちらを振り返る。

 視線の先に片手を高く挙げた男が一人立っており、エンリはそちらに足先を向けて再び駆け出した。

 

「遅くなってしまって、ごめんなさい! ネムを探しているんだけど見当たらなくて……。アインズ様はもういらっしゃってる?」

「いや、まだだ。だが、もうそろそろ来られるはずだ。ネムちゃんならもう村長の家に来ていたぞ」

「えっ!? もう、あの子ったら!」

 

 男の言葉にエンリは驚愕の表情を浮かべ、次には怒りの表情を浮かべる。

 しかしその顔には確かに安堵の色も強く浮かんでおり、エンリは一度大きな息をついて怒らせていた肩をすとんっと落とした。

 

「ほら、早く行こう。……そういえば、ツアレさんの方は大丈夫なのか?」

「ええ。まだ本調子じゃないみたいで、今は眠っているから大丈夫だと思う。“クアエシトール”の人たちには薬草摘みと狩りのお願いをしていて今出てもらっているから、まだもう暫くは戻ってこないと思うし……」

「そうか。何だか仲間外れをしているみたいで気が引けるが、かといって彼らにはまだアインズ様たちの存在を知らせるわけにはいかないからな」

「そうね。……でも、こんな風にアインズ様が突然いらっしゃるなんて初めて。……何かあったのかしら……」

 

 男と共に足早に村長の家に向かいながら、エンリは湧き上がってきた不安に小さく表情を翳らせる。無意識に拳を胸元に当て、小さく顔を俯けて目を伏せた。

 確かに彼らからの突然の接触はこれまでにも何度かあった。しかしその殆どがマーレという闇森妖精(ダークエルフ)の美少女の口から“言伝”という形で齎されていた。時折アインズたち自らがカルネ村に来ることも何度かあったが、その時はいつも仮の姿でカルネ村を訪れていたし、今回のようにわざわざ多くの村人たちを村長の家に集合させるというようなこともなかった。

 今までになかった事態に、何かマズいことでも起きたのかと不安が膨れ上がる。

 最近ペロロンチーノがカルネ村に来てくれていないことも相俟って、エンリはどんどん不安を募らせていった。

 

「……何があったのかは分からないが、きっと大丈夫だ。あの方々は、いつも俺たちのことを気にかけて下さっているだろう?」

「それは私だって分かっているけど……」

「アインズ様方を信じよう。ほら、見えてきた。まずは中に入ろう」

 

 励ましの言葉と共に促され、そこで漸く俯けていた顔を上げる。

 視線の先には目的地である村長の家がすぐそこにあり、エンリは一度大きな息をつくと、胸の内で渦を巻いている不安を誤魔化すように大きく足を踏み出した。

 一度扉の前で足を止めてノックし、自身の名前を名乗ってから扉を押し開ける。

 家の中には既に多くの村の人間が集まっており、その中に妹の姿を見つけてエンリは思わずそちらに駆け寄った。

 

「ネムっ!!」

「あっ、お姉ちゃん!」

「もう、勝手に一人で行ったらダメじゃない! 心配したのよ!?」

「ごめんなさい……。ペロロンチーノ様に会えるかと思って……」

「……………………」

 

 妹の口から零れ出た言葉に、エンリは思わず口を閉ざした。何を言って良いのか言葉が見つからず、無言のまま何度も口を開閉させ、仕舞いには眉を八の字に垂れ下げる。

 ネムがペロロンチーノにひどく懐き、いつもペロロンチーノに会いたいと思っていることをエンリは知っている。エンリ自身も同じくペロロンチーノにまた会いたいとずっと思っているのだ、妹の気持ちは痛いほどに良く分かった。『きっとペロロンチーノ様はとても忙しいのだろう』といつも自身に言い聞かせて納得したように振る舞ってはいるが、それでも心を納得させるのはとても難しい。それが分かっているだけに、自分よりも幼いネムに何を言ってやれば良いのか分からなかった。

 どこか沈んだ重たい空気が二人を包み込む中、しかし幸いなことに第三者の登場がその空気を打ち破った。

 

 

 

「――……ほう、既に集まっているようだな。皆さん、忙しい中お集まりいただき感謝します」

「「……!!」」

 

 突然聞こえてきた声に、エンリやネムだけでなくこの場にいる全ての者が驚きと共にそちらを振り返る。

 視線の先には、久しぶりに見た骸骨姿のアインズがマーレを伴っていつの間にかこの場に出現していた。

 恐ろしい見た目に反して柔らかで穏やかな声音と物腰に、反射的に強張っていた身体からフッと力が抜けていく。続いてエンリたちの顔に浮かんだのは柔らかな笑顔で、エンリたちは失礼にならない程度にアインズに歩み寄ると、それぞれ頭を下げたり声をかけたりした。

 

「アインズ様! またカルネ村に来て頂けて嬉しいです!」

「アインズ様が呼ばれていると聞けば、集まるのは当然のことです!」

「ですが、何かマズいことでもあったのでしょうか……?」

 

 口々に言葉を発する人々に、アインズは無言のままその一つ一つに耳を傾けてくれている。

 そして人々の声が収まってきた頃を見計らったかのように、アインズは一つ頷いて再び骨の顎を少し動かして声を発するような素振りを見せた。

 

「まずは皆さんが我々のことを歓迎してくれていることに感謝します。それから、急な来訪で不安を抱かせてしまったことを深く謝罪します。申し訳ありませんでした」

「い、いえ、そんな! アインズ様が謝られることなんて何もありません!!」

「どうか頭をお上げください!!」

 

 アインズが頭を下げたことで、途端に悲鳴のような声が至る所から上がってくる。

 エンリも声を上げそうになり、しかしその前にアインズが小さな笑い声と共に顔を上げた。

 

「皆さんの広い心に感謝します。それで、今回皆さんをお呼びたてした理由なのですが、どうやら王国の王都で不穏な動きがあると小耳にはさみまして……。もしかしたらこの村が面倒事に巻き込まれる可能性が出てきたため、忠告をしに来たのですよ」

「面倒事? ……それは、一体……?」

「そもそも、何故この村がそのような……?」

 

 アインズの言葉に、誰もが不思議そうな表情を浮かべて首を傾げる。エンリもまた理解が追いつかず、思わず小さく首を傾げた。

 このカルネ村は王国の中で特に端に位置している辺境の村だ。たとえ王国王都で不穏な噂や影があったとしても、こんな辺境の村にまでその影響が及ぶとはとても思えなかった。

 しかしそんな自分たちの考えを余所に、アインズはしっかりと頭を横に振ってきた。

 

「皆さんが仰りたいことも分かりますが、事はそう簡単なことではないのです。実は王都での怪しい動きの根本的な原因は、毎年行われている帝国との争いに、帝国のワーカーである“レオナール・グラン・ネーグル”が参加するという情報が流れたためなのです」

 

 アインズのその言葉に、それだけでエンリは全てを理解した。彼女の脳裏に複数の人物の顔が浮かび上がってくる。

 この村を救ってくれた恩人の一人であり、ワーカーチーム“サバト・レガロ”の“レオナール・グラン・ネーグル”という仮の姿も持っているウルベルト・アレイン・オードル。

 村の外では“レオナール・グラン・ネーグル”の仲間という形でカルネ村にいるマーレ。

 そして“レオナール・グラン・ネーグル”について探りを入れるために最近この村に来たアダマンタイト級冒険者の“蒼の薔薇”たち。

 恐らく王国王都では、カルネ村は“レオナール・グラン・ネーグル”と深い関わりのある村だと認識されているのだろう。

 であれば、先日の“蒼の薔薇”たちのように誰かがまたこの村に来るかもしれない。

 

「――……情報を得るために王都の人間がこの村に来るだけならまだ良いでしょう。しかし場合によっては“レオナール・グラン・ネーグル”を陥れるためにこの村を利用しようと考える者も現れるかもしれません」

 

 アインズの説明に、エンリだけでなくこの場にいる全ての者たちが真剣な表情を浮かべて大きく頷く。その顔には一つとして怯えや戸惑いの色を浮かべているものはなく、ただ強い決意だけを宿らせていた。

 この村は人間に襲撃され、異形であるアインズとペロロンチーノとウルベルトに救われ、今でも何かと手助けをしてもらっている。もはやカルネ村の住人の中で、アインズたちを裏切るようなことを考える者はおらず、また彼らのために戦うことを躊躇う者も誰一人としていなかった。

 勿論、争いを望んでいる訳ではない。アインズたちに迷惑がかからず、自分たちに危害を加えないのであれば、どれだけの人間がこの村を調べに来たとしても構わない。

 しかし少しでもアインズたちに迷惑がかかり、自分たちに危害を加えるのであれば、同じ国の者で同じ人間であろうともはや容赦するつもりはなかった。

 

「アインズ様、俺たちのような者をいつも気遣って下さって、ありがとうございます」

「でも私たちは、アインズ様たちのために戦う覚悟はできています!」

「あれからずっと剣や弓も練習してきたんです! 今度こそ、アインズ様たちのお役に立たせて下さい!」

 

 一つの声を皮切りに、次々と多くの声が上がっていく。

 それらを見つめながら、エンリもまた強い意志を胸に両手を強く握りしめた。

 以前ペロロンチーノから貰い受けた素晴らしい弓のことを思い出す。“女神の慈悲”という名の純白のその弓は、今はエンリの家に大切に仕舞われているが、もしかしたら近々その弓を使う日が来るのかもしれない。

 たとえそうだとしても、決して迷ったりはしない……!

 エンリは無言のまま強く決意すると、自分も他の者たちと同じように数歩アインズの元へ歩み寄った。

 

「アインズ様、私たちは皆さんに命を助けられて、今も多くの支援を頂いています。どうか私たちに皆さんへのご恩を少しでも返させて下さい!」

 

 以前、魔物の大群や正体不明の樹の化け物が村の近辺に出現した時は断られてしまったが、今度こそアインズたちの役に立ちたい。

 その一心で強く言い募れば、アインズはフッと笑い声のような音を骨の口から零れさせた。

 

「皆さんの気持ちを嬉しく思います。では、もし不測の事態に陥った時は皆さんの奮闘に期待するとしましょう。……しかし、くれぐれも無茶だけはしないように。皆さんが死んでしまっては元も子もありませんし、何より皆さんに何かあってはペロロンチーノさんが一番悲しんでしまうでしょうからね」

 

 骨の身体でどうやっているのか、アインズは少し楽しそうに小さな笑い声を零している。

 それに思わず小さく首を傾げる中、不意に今まで大人しくしていたネムが勢いよくアインズの元に駆け寄っていった。

 

「アインズさま! ペロロンチーノさまはどうして来てくれないの……?」

 

 漆黒のローブに縋りつかんばかりに身を乗り出し、必死に頭上の髑髏を見上げながらネムが問いかける。

 少女の悲しみを帯びた大きな声に、この場にいる誰もが口を閉ざして部屋が静まり返った。アインズもまた、無言のままじっと自身を見上げるネムを見下ろしている。

 暫く続く重苦しい静寂の中、エンリが思わず口を開きかけ、しかしその前にアインズが再び動きを見せた。

 徐に腰を曲げて地面に片膝をつき、小さなネムと視線を合わせる。

 アインズは改めてじっとネムを真正面から見つめると、次には眼窩に宿る紅色の灯りを柔らかく揺らめかせた。

 

「ペロロンチーノさんは今、少し遠いところにいるのだ。以前の君たちのように困っている者たちがいて、その者たちを助けようと頑張っているのだよ」

「……じゃあ、その人たちを助け終わったら、また来てくれる?」

「ああ、必ず来るとも。私の方からも、君が会いたがっていることをペロロンチーノさんに伝えよう」

「……! うん、ありがとう!」

 

 アインズの言葉に納得したのか、ネムは満面の笑みを浮かべて大きく頷く。

 アインズは大きな骨の手をネムの小さな頭の上に乗せると、優しく撫でてから立ち上がった。

 その時、不意に何かに気が付いたかのように宙に視線をさ迷わせる。そのまま暫くの間微動だにしないアインズに、エンリは勿論のこと、この場にいる全ての者が怪訝の表情を浮かべてアインズを見つめた。

 暫く時間が止まったかのように誰もが動かず、エンリはだんだんと不安になってくる。

 何かあったのかと思わず口を開きかけ、しかし不意にアインズが何事もなかったかのように再び動き始め、次には視線をこちらに向けてきた。

 

「……突然、失礼しました。私からの用件は以上です。また何かあれば遠慮なくマーレに言ってください。我々にできることがあれば、なるべく対処しましょう」

 

 まるで先ほどまでの行動を誤魔化すかのように、アインズは早口でそこまでを言いきる。

 続いて自身の傍らに控えるように立つマーレを見下ろすと、先ほどのネムの時と同じように優しい声音で命を発した。

 

「マーレ、暫くカルネ村に留まり、来たる王国と帝国の戦争に向けての備えを整えよ」

「は、はい! 畏まりました!」

「しかし、あまりやり過ぎにはならないようにな。ヘタにカルネ村に対して警戒心を持たれても面倒だ」

「か、畏まりました。ご、ご期待に沿えるよう、が、頑張ります!」

 

 木の杖を両手で持って意気込むダークエルフの少女の姿は、その整った容姿とも相まって非常に幼気で可愛らしい。

 ふと『ペロロンチーノもこんな可愛い子が好みなんだろうか……』という考えが頭に浮かび、エンリはハッと我に返ったと同時にすぐさまブンッブンッと頭を振って慌ててその思考を振り払った。一体何を考えているのかと自分で自分が恥ずかしくなる。妙に熱く感じる頬を意識の端に追いやり、エンリは胸の内でドッドッと激しく鳴っている鼓動を落ち着かせようと深呼吸を繰り返した。

 

(……落ち着きなさい、エンリ・エモット。一体何を考えているの……。ペロロンチーノ様はそんなんじゃない…、……そんなんじゃないんだから……! それに今はアインズ様が忠告して下さったことについて考えていかないと……!)

 

 必死に自分自身に言い聞かせ、思考を切り替えようと試みる。

 漸く落ち着き始めた鼓動や顔の熱に思わず内心で安堵しながら、エンリは改めてアインズへと目を向けた。

 アインズは今は村長と何か話をしているようで、どうやらエンリが一人内心でアタフタしている間に色々と有事の際の判断や行動について助言をしているようだった。

 アインズもペロロンチーノもウルベルトも本当に優しい……と改めて思う。

 異形である彼らにとって、人間である自分たちは本来ならば取るに足らない存在であるはずだ。しかしアインズたちはこうやっていつも自分たちに助けの手を差し伸べてくれる。

 エンリは改めて心の中でアインズたちに感謝しながら、必ず彼らの役に立とうと心に誓った。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 薄暗い闇の中で多くの影が蠢き囁いている。

 少ない蝋燭の光はどこか神秘的で、その場の雰囲気を魅惑的なものにも変える。

 リ・エスティーゼ王国王都の地下に最近造られたこの場所は、普段隠されている人間たちの欲望を発散させる新たな隠れ場所となっていた。

 今も闇に暮らす怪しい住人や、名の知れた貴族たちが密やかにこの場所を訪れては各々の欲望を発散させ、或いは秘密の会話を囁き合っている。

 何も知らず欲望に酔い痴れて笑い合う人間たちに、一人の女が影の闇の中からじっとその様子を見つめていた。

 女の名はヒルマ・シュグネウス。

 かつてはその美貌から多くの男を虜にして手駒にし、“八本指”の長の一柱にまで上り詰めた女である。

 しかしそれは今や全てが過去のこと。

 自慢だった美貌は見る影もなくなり、壮絶な過去のトラウマのせいで食事も固形物は喉を通らずすっかり痩せ細ってしまっている。“八本指”自体も全てが“アインズ・ウール・ゴウン”という名の異形たちの組織に支配され、ヒルマもまた彼らの命令に忠実に従う人形に成り果てていた。

 この娯楽施設も全ては“アインズ・ウール・ゴウン”の駒を作るためのものでしかなく、目の前にいる者たちは自分たちの運命にも気づいていない哀れな子羊たちだった。

 数か月前までは誰に対しても一切感じることのなかった哀れみや同情といった感情が、今はこの娯楽施設に来る多くの客たちに対して感じてしまう。中でも一番隅にある最上級の席に座っている人間たちに対しては特に哀れみの感情を禁じ得なかった。

 ヒルマの視線の先に座っているのは、見るからに質の良い服を身に纏っている貴族の一団。

 中でも一人用のソファーに腰かけている恰幅の良い金髪の男は異形たちが現段階で最上級の駒として欲している存在の一人であり、彼が自分たちの釣り糸に引っかかってしまったことにヒルマは安堵すると同時に絶望にも似た感情を湧き上がらせるのだった。

 

(……はぁ、こんな事を考えていても全ては後の祭りね……。あの王子様にはせいぜい自分の不運を呪ってもらうことにしましょう。)

 

 複雑な感情が胸に渦巻いているのを感じ、それに嫌気がさして半ば無理矢理思考を切り替える。

 ヒルマは貴族の一団から視線を外すと、時間を確認してから踵を返した。

 コツ…コツ…とヒールの音を響かせながら暗闇の廊下を一人で突き進む。

 歩を進めれば進めるほど闇が深まっていくような感覚に陥り、まるで闇に呑み込まれてしまいそうな錯覚に襲われてヒルマは思わず小さく全身を震わせた。

 本音を言えばここで立ち止まってしまいたい。いや、立ち止まるのではなく今すぐにでも踵を返して来た道を戻りたかった。

 しかしそんなことが許されるはずもなく、ヒルマは湧き上がってくる恐怖と必死に戦いながら歩を進める足を動かし続けた。

 そして数分後に辿り着いたのは一つの小さな部屋。

 物置のようなみすぼらしいその小部屋は、しかし室内は何もなくガランとしていた。唯一部屋の奥には一つの石像が置かれており、暗闇の中に不気味に浮かび上がっている。

 ヒルマは部屋の中に入ると、扉をしっかり閉めてから石像の前に歩み寄った。

 大体1メートルほどの大きさのその石像は、しゃがみ込んだ醜い悪魔の姿を模っている。

 ヒルマは数秒その石像を睨むように見つめると、次には諦めのため息と共にそっと手を伸ばした。石像の頭にある三つの小さな角の内、真ん中の角を指で押し込む。

 瞬間、石像の双眸が深紅に光り、その数秒後にどこからともなく闇色の楕円形の扉が出現した。

 グルグルと小さく渦を巻いている闇に、それを見ていると無性に激しい吐き気が込み上げてくる。

 しかしヒルマはそれをグッと堪えると、意を決して闇の扉に歩み寄って中へと足を踏み入れた。

 瞬間、視界に映っていた景色が一変する。

 みすぼらしい小部屋から寂れた霊廟の中心へと移動したヒルマは、しかし今更のことに驚くこともなく、ただ迎えが来るのを待ち続けた。

 数分後、美しいメイドがヒルマの迎えに現れ、巨大なログハウスへと案内される。

 そしてログハウスの中にあったのは、こちらも巨大な闇の扉。

 思わず強い吐き気がぶり返したヒルマに、しかし美しいメイドは有無を言わさずにヒルマを強引に闇の扉の中へと押しやった。そのまま引きずられる様にして歩かされ、最終的に辿り着いたのは雄大で豪奢で煌びやかな玉座の間だった。

 高い天井と、そこから吊るされている巨大なシャンデリアと一つとして同じもののない紋章が描かれた旗。最奥にあるのはこの空間に相応しい豪奢な玉座で、しかしその数は一つではなく三つ横に並んでいた。

 

「――……漸く来たようね、ヒルマ・シュグネウス」

 

 玉座のすぐ傍に立っていた美女が淡い微笑と共に声をかけてくる。

 一見慈悲の女神のように見えるこの美女は、しかし本性は悪魔であり、“諸悪の根源”という言葉が正に相応しい存在であることをヒルマは知っている。

 そのためヒルマは一切口を開くことなく、大人しくその場に両膝をついて深々と頭を垂れた。

 

「……遅くなりまして大変申し訳ありません、アルベド様」

「私はあなたたちと違って暇ではないの。もっときっちりと行動してほしいわね」

「はい、申し訳ありません」

 

 『なら、こんなまだるっこしい方法ではなく書類での報告にさせてくれたら良いのに……』と心の中で呟きながら、しかし実際に口に出すほどヒルマは馬鹿ではない。また、アルベドがこんなことを指示する理由もヒルマには分かっていた。

 ヒルマたち“八本指”の幹部たちはアルベドから命じられている数々の指示に対する報告を定期的に行っている。報告方法の殆どは書類によるものだったが、一人だけ書類ではなくわざわざこの場に呼ばれて口頭で報告するように命じられていた。

 何故そんな指示をされているのかというと、それはヒルマたちを縛る鎖を確かなものにするために他ならない。

 ヒルマたち“八本指”の幹部たちにとって、この場所は正にトラウマの場所であり、恐怖の象徴だ。その恐怖の場所に自ら足を運ばされることによって、自分たちの立場と過去の恐怖を再認識させられるのだ。

 口頭で報告する者はローテーションで回り、今回はヒルマの番だった。

 身体の奥から湧き上がってくる恐怖心を必死に押し殺しながら、ただ報告することだけに集中して口を動かす。

 広めた噂の進捗状況とそれに対する人々の反応。

 集まっている駒とその行動と支配状況。

 娯楽施設の客たちから集めた情報の数々。

 次々と報告していく中でもアルベドは無言のまま。

 頭を下げているため表情を窺うこともできず、ヒルマは必至に恐怖心と戦いながら報告を続けていった。

 

「………そう。取り敢えずは全てが順調と言ったところかしら」

「……はい、概ねアルベド様のご意向通りに進んでいるかと……」

「わたくしの意向ではなく、全ては至高なる御方々のご意向よ」

「……はい、申し訳ありません……」

 

 アルベドからの指摘にも大人しく頷いて謝罪する。

 正直に言って“至高の御方々”なる存在に会ったことがないヒルマにとってはどちらも同じことでしかないのだが、反論したとて何も良いことなどありはしない。全てに大人しく従い、さっさとこの場を去るのが一番良いのだ。

 しかしヒルマの願いを余所に、不意に玉座の間の扉が開いて何者かの来訪をヒルマとアルベドに告げた。

 

「……っ……!?」

「……! ……これはペロロンチーノ様、ウルベルト様! ご帰還に気が付かず、申し訳ありません!」

「やぁ、アルベド。ただいま~」

「こちらも事前に連絡をしていなかったからねぇ。何も謝ることはないよ、アルベド」

 

 アルベドの慌てた声の後に聞こえてきたのは、聞いたことのない二人の男の声。

 思わず顔を上げたヒルマは、すぐさま顔を上げたことを後悔した。

 玉座の間に現れたのは黄金の鳥人(バードマン)と山羊頭の化け物。

 何故か山羊頭の化け物からは何も感じ取れないが、しかしバードマンからは窒息してしまうのではないかと思うほどの濃厚な強者の気配が感じ取れた。身に纏っている衣装や鎧も今まで見たことがないほど上質なもので、一目で上位者であることが分かる。

 恐らく彼らこそが、アルベドの言う“至高の御方々”なる存在なのだろう。

 

「エルフたちと法国の件が最終段階に入ったからね。ウルベルトさんたちに声をかけて戻ってきたんだ」

「それでは、モモn……アインズ様も、お戻りになられるということでしょうか?」

「うん? アインズ? ……あれ、そういえばこのおばさんは?」

 

 不意にバードマンから視線を向けられ、一気に全身が恐怖に支配される。アルベドや山羊頭の化け物にも注視され、ヒルマは地獄を覚悟した。

 その時……――

 

「――……ほう、既に二人とも帰ってきていたのか。待たせてしまっていたかな?」

 

 玉座の間に再度響く、扉の開く音と落ちついた男の声。

 振り返ってみればそこには豪奢なローブを身に纏った骸骨がおり、ゆったりとした足取りでこちらに歩み寄ってきていた。

 

「あっ、お帰りなさい、モモぉ―――じゃなくて、ア、アインズさん! 俺たちも今帰ってきたところですよ」

「お帰りなさい、アインズさん。お疲れ様です」

 

 骸骨の突然の登場に、しかしバードマンも山羊頭の化け物も驚いた様子もなく当たり前のように朗らかに挨拶の言葉をかけている。

 骸骨は何故か一度首を傾げ、次にこちらの存在に気が付いて眼窩の灯りを向けてきた。

 バッチリと視線が合い、その瞬間、全身が総毛立って肌が粟立つ。

 目を合わせ続けることができず、ヒルマは恐怖に従って再び深々と頭を下げて額を地面に擦りつけた。

 

「アルベド、その女は?」

「“八本指”のまとめ役の一人であるヒルマ・シュグネウスでございます。……申し訳ありません、至高の御方々の視界を穢すようなことになってしまい……」

「“八本指”? ああ、報告を聞いていたのか。ならば君が謝ることではないよ、アルベド。報告を聞くことはとても大事なことだ。決して疎かにしてはならない」

 

 謝罪を口にしようとしていたのであろうアルベドの言葉を遮り、山羊頭の化け物が朗らかに嗜めるような言葉を口にする。バードマンと骸骨も納得の声を上げ、次には労いの言葉を次々とアルベドへとかけていった。アルベドは自分たちの時とは打って変わり、どこか恐縮したような……それでいてとても嬉しそうな声音で感謝の言葉を発している。

 それは会話だけを聞けば優しい上司と謙虚な部下の心温まる光景を思い浮かべられるものだっただろう。

 しかし実際に目を向けてみれば、そこには禍々しい異形たちが不気味な笑みと共に言葉を交わしている光景が広がっている。

 もう早くこの場を去りたい一心で微動だにせずに身を縮み込ませ続けるヒルマに、異形たちは漸く話題を新しいものに移らせたようだった。

 

「――……それで、報告は全て聞き終わったのか?」

「はい、概ね全ては順調に進んでいるようです」

「そうか、それは上々。ならば彼女にはそろそろお帰り願おうか。これからエルフたちと法国に関して忙しくなりそうだからね」

「そういえば、法国への情報包囲網は上手くいってる?」

「はい、そちらも今のところ問題は一切出ておりません。法国の上層部は何とか救援を得られないかと何度か外部に使者を送ろうとしておりましたが、その全てが排除済みでございます。法国で今何が起こっているのか、全ての情報に関しても外部に漏れた形跡は一切ございません」

「それは何より。このまま最後まで外部に気づかれないようにしなくてはね」

 

 頭上で交わされる異形たちの会話に、ヒルマは地面に額を擦りつけながら大量の冷や汗を溢れさせた。

 異形たちが何を話しているのか、ヒルマには詳しいことまでは分からない。しかし法国に対して何かをしていることだけは理解できた。そして全てが誰も知らないところで成されていることも理解し、その重大さと絶望にヒルマは思わず小さく身震いした。

 自分たち“八本指”は誰も知らぬま間に滅ぼされ、そして誰も知らぬ間に全く違う組織へと作り替えられた。

 それがもし、法国という一つの国にも起こっているのだとしたら……。

 一つの巨大な国が知らぬ間に滅ぼされ、誰も知らぬ間に全く違う国として作り替えられているのだとしたら……。

 それは、どんなに恐ろしいことであろうか……――

 しかしここでどんなに危機感を募らせたところで、ヒルマにできることなど何もない。ただ恐怖と絶望に身を震わせながら、彼の異形たちに忠実な人形を演じるのみ。

 ヒルマは法国に対して哀れみの感情を抱きながら、ただ異形たちに命じられるがままに立ち上がり、この場を去るために踵を返した。

 玉座の間の外では、自分をここまで案内してきたメイドが無表情に立って待っている。

 ヒルマはメイドに促されるがままに歩を進めながら、ただ自分や自分の仲間たちに更なる絶望が降りかからないことだけを心底願っていた。

 

 




今回は敢えてナザリック側以外の人たちの視点で書いてみました!
(本人は気付いてないけど)実はペロロンチーノ様のハーレム計画は結構順調に進んでいたという……。
ペロロンチーノ様の場合、素が変態なので、グイグイ押す作戦より引く作戦の方が勝率が高いような気がします(笑)
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