世界という名の三つの宝石箱   作:ひよこ饅頭

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今回はいつもより少し(?)短めです。
未だにスランプから抜け切れていない気がする……orz


第77話 滅びの光

 ほの暗い廊下にコツ…コツ…と高い足音が複数響いては消えるを繰り返している。遠くから怒号や叫びなどの喧騒が聞こえてくるが、分厚い壁に阻まれてひどく遠く小さい。

 機械的に足を動かしながら、クローディア・トワ=オリエネンスは未だ状況に頭が付いていけていなかった。

 法国の神都にまで侵攻し、異形の絶対者たちの内の一体が造り出した巨大な塔に招かれ、その数時間後に絶対者たちが突然どこかへ行ってしまい、その数十分後に唐突に漆黒の全身鎧(フルプレート)に身を包んだ女に呼び出され……。

 そして今は何故か神都の中央に聳え立つ教会風の巨大な建造物の中を歩いている。

 長い長い廊下は全体的に薄暗く、光源は時折ある窓から差し込む光だけで廊下の先までは見通せない。

 クローディアと共にこの場にいるのは異形の絶対者の三体と漆黒の全身鎧(フルプレート)の女と闇森妖精(ダークエルフ)の子供と白の悪魔と黄色の服の異形。更に見知らぬフードを被った異形も加わっており、白の悪魔と共に先頭を歩いて道案内をしてくれているようだった。

 一体どこに向かっているのか……、一体何をしようとしているのか……、クローディアは何も教えられておらず見当もつかない。ただ言われるがまま、指示されるがままに足を動かし、廊下の奥へ奥へと進んでいく。

 そして辿り着いたのは巨大な扉の前。

 恐らくこの建物の最奥に位置する場所であろう扉の前まで来ると、ここで漸く白の悪魔がこちらを振り返ってきた。

 

「ニグン、ここが目的の場所かね?」

「はい。恐らくここに国の最高権力者たちがいるかと」

「ふ~ん、それにしては不用心だね。扉の前に何の守りも置かないなんて……」

「通常であれば置いていたのでしょう。しかし国自体が存亡の危機にある今、扉を守るよりも国を守るために出撃させたのであろうと思われます」

 

 鳥人(バードマン)からの間延びした声に、白の悪魔はチラッとフードの異形に目を向けながら言葉を返す。

 悪魔の意味深な視線に、もしかしたら通常はこのフードの異形がこの扉を守っていたのかもしれない。

 しかし何故それを白の悪魔が知っているのか……。

 湧き上がってきた新たな疑問に思わず内心で首を傾げる中、異形たちはさっさと次の行動を開始していた。

 先頭に骸骨の異形が立ち、その両脇をまるで守護するかのように黄色の服の異形と漆黒の全身鎧(フルプレート)の女が立って場を占める。

 挙げられた骨の手は勿論扉をノックすることはせず、そのまま無造作に触れて扉を押し開けた。

 微かな音すら響かせることなく、扉は滑らかな動きで口を開いていく。

 そして目の前に広がったのは広く荘厳で無機質な室内の光景。

 中心には巨大な円形のテーブルと複数の椅子が周りを囲むように置いてあり、その椅子の全てに男女の人間が座っていた。

 何の合図もなしに開いた扉に、人間たちは一様に弾かれたようにこちらを振り返ってくる。多くの皺を刻んでいる顔に驚愕や焦燥の色を浮かべ、誰もが見開いた目でこちらを凝視していた。

 

「失礼するよ、法国の諸君」

 

 まず口を開いたのは山羊頭の異形。

 独特の深みと抑揚を持つその声が合図であったかのように、異形たちは次々と室内へと足を踏み入れていく。

 それは異形たちと行動を共にしているクローディアとて例外ではなく、彼女もまるでつられるようにしてゆっくりと室内へと歩を進めていった。

 

「ふ~ん、彼らがこの国の最高権力者たちか……。意外と若い人もそれなりにいるんだね。年取ったお爺ちゃんばっかりなのかと思ってたよ」

 

 人間たちの近くまで歩み寄りながら、バードマンが軽い調子で言葉を吐き出している。

 どこまでも呑気なその声音に、思わずここが敵地の中心であることを忘れてしまいそうになってしまう。

 思わず緩んだ緊張感に、しかしそれはどうやら相手側も同様であったようだった。

 

「――………なっ、既にここまで侵入を許していたのか!?」

「外の者たちは一体何をしている!!」

「いや、それよりもルシフェル様とあの子は……」

「無礼者!! 異形がこの部屋に足を踏み入れるなどっ!!」

 

 我に返った人間たちが次々と椅子から立ち上がり声を張り上げてくる。浮かべている表情はどれもが憤怒に色づいており、憎悪の瞳をこちらに向けていた。正に怒髪天とはこのことか、十二人いる人間のうち何人かは怒りのためかプルプルと小刻みに拳や全身を震わせている。

 しかしそんな彼らの様子を目にしても異形たちの態度は全くと言って良いほど変わらない。一切緊張した素振りすら見せず、むしろ余裕の表情すら浮かべて喚き散らす人間たちを呑気に眺めていた。

 

「おやおや、そんなに興奮するものではないよ。人間は頭に血が上り過ぎると脳に損傷が出る場合があるらしいからねぇ」

「それって本当なんですかね? すっごく昔のマンガとかには、よくそういった描写がありましたけど」

「本当なのではないか? 興奮すると頭が熱くなったりするし」

 

 人間たちの反応など何のその、異形たちは呑気に言葉を交わしている。

 正に相手を嘗めきっているとしか思えない態度に、法国の人間たちは更に怒りに顔を真っ赤に染め上げた。

 一人の男がこちらに一歩進みだし、何事かを言おうと大きく口を開く。

 しかし男は一言も発することなく、途中で怒りの表情を驚愕の色に変えて大きく目を見開いた。

 

「………ル、…ルシフェル様!? な、何故ルシフェル様が……!!?」

 

 男が呆然とした様子で一心に見つめているのはフードの異形。男が発した言葉に他の人間たちもフードの異形に視線を向け、次々と驚愕に大きく目を見開いていく。

 しかし当のフードの異形は未だ微動だにせず、声すら発することをしない。

 まるで心ここにあらずといった様子に、人間たちもその異常さに気が付いたようだった。

 

「貴様ら、彼の方に一体何をしたぁぁっ!!!」

 

 憤怒の表情を浮かべて怒声を張り上げる男に、ここで漸く呑気な会話を繰り広げていた異形たちが人間たちに目を向ける。驚愕や怒りの表情を浮かべている人間たちとフードの異形を交互に見やり、最後には小さく首を傾げたり肩を竦めたりする。

 骸骨の異形とバードマンがそれぞれ気のない反応を見せる中、山羊頭の化け物だけはニヤリとした笑みを浮かべると、次にはひらひらとクローディアの斜め後ろに向けて軽く右手を振るった。

 見るからに招いていることが分かる動作に、一拍後、クローディアの斜め後ろから小さな影が颯爽とした足取りで通り過ぎていく。

 山羊頭の化け物の傍に歩み寄ったのはダークエルフの子供で、にっこりとした可愛らしい満面の笑みを人間たちに向けた。

 

「これを見れば分かるのではないかな?」

「そ、それは……!!」

「……ケイ・セケコゥク……!?」

「うん? ……ケイセケ……?」

 

 山羊頭の化け物がダークエルフの子供の服を指し示し、それを見た人間たちが一様に驚愕の声を上げる。

 しかしその口から飛び出た言葉にバードマンが不思議そうに首を傾げた。骸骨の異形と山羊頭の化け物も不思議そうな素振りや表情を浮かべると、次には互いに顔を見合わせた。

 

「……えっと……、名前が違うような気がするんだけど……?」

「微妙に似てはいるから、訛ったのではないか? 恐らく文字などではなく口頭で伝えていたのだろう」

「それにしても酷い訛り方だと思いますがね。誰かこのアイテムを詳しく調べようとはしなかったのか?」

「いや~、それはしないでしょ~。彼らからしたら自分たちの神様からもらった代物ですし」

 

 再び始まる異形三体によるのんびりとした会話。

 朗らかな会話と時折漏れる軽い笑い声に、法国の人間たちは怒りも忘れて呆然となっていた。

 どこまでもこちらの常識を覆し、また全てを笑い飛ばすような異形たちの態度に、クローディアは思わずある種の哀れみを法国の人間たちに向けていた。他のシモベの異形たちも誰一人として三体の異形を諌めようとはせず、そのためこの場の収拾が付かなくなっているような気がする。

 一体これからどうなっていくのか……と不安になる中、不意に山羊頭の化け物が顔をそらして斜め上の上空に目を向けた。まるで何かに耳を澄ましているかのような姿に、思わず疑問符が頭上に浮かぶ。不可思議な行動に思わず怪訝の表情を小さく浮かべ、しかしすぐにバードマンも時折同じような行動をしていたことを思い出した。

 あれは確か部下の異形たちから何かしらのコンタクトを受けた時の動作だ。

 クローディアが彼らの行動への予想を導き出したその時、まるでそれを肯定するかのように山羊頭の化け物が上空に向けていた視線を骸骨の異形とバードマンに向けた。

 

「誰かから連絡がありました?」

「ああ、ウチの子から連絡が来た。どうやら完全に神都を制圧できたようだ。こちら側は全員無事。被害も替えが利く最弱モンスターたちのみらしい。現在はエルフたちの被害規模などを確認しつつ、法国の“素材”をナザリックに送る準備をしているそうだ」

「ほう、それは上々。ならばこちらも少し急がなくてはならないかな?」

 

 山羊頭の化け物の言葉を受け、骸骨の異形が一つ頷いたと共に改めて法国の人間たちに眼窩の灯りを向ける。

 瞬間、人間たちがビクッと身体を震わせたのをクローディアははっきりと見た。クローディアも“もし自分が彼らと同じ立場だったら……”と考えると、彼らの反応も納得してしまう。

 しかし彼らはやはり自分とは大きく違っていたのだろう。

 エルフの今後を思い……そして何より異形たちへの恐怖に屈した自分とは違い、彼らはどこまでも誇り高く、そして意志が強かったようだった。

 

「……スレイン法国は人間の存続の最後の砦であり、人間を守護するための重要な国! 決して異形などに膝を屈することはないっ!!」

「異形たちよ、自らの力を過信してのこのことここまで来たことを後悔するがいいっ!!」

「ケイ・セケコゥクもルシフェル様も返してもらうぞっ!!」

 

 気迫がこもった声と共に法国の人間たちが戦闘態勢を取る。

 何人かが魔法の詠唱を始めて幾つもの魔法陣が浮かび上がる中、しかし彼らの反撃を異形たちは決して許しはしなかった。

 クローディアの横を通り過ぎる幾つもの風と、鼓膜を震わせる幾つもの小さな音。視界に映り込んでいたはずなのに全てが全く認知できず、気が付いた時には四体の異形がそれぞれ得物を握って人間全てを拘束、或いは地面に伏せさせていた。

 己の影に不思議な矢を突き立てられて身動きを封じられた者。巨大なバルディッシュによって容赦なく地面に叩きつけられた者。白い両手に首を捕らえられ地面に押さえつけられている者。何をしたのか……黄色の服の異形の周りで意識を失って倒れ込んでいる者。

 一瞬にして制圧されたこの場に、クローディアは背筋に冷たい汗を流した。ドクッドクッと耳のすぐ近くで大きく心臓の鼓動が響き、大きな恐怖が全身を襲った。

 

「ホント、馬鹿だよね~。至高の御方々に歯向かおうとするのを私たちが許すわけないじゃん」

 

 ダークエルフの冷たい声音が響いてクローディアの心臓を打つ。まるで至高の異形三体に歯向かった場合の末路を見せつけられているような気がして、クローディアは知らず強く拳を握りしめた。

 強い恐怖がこの場を支配する中、不意に白の悪魔に地面に押さえつけられている人間の一人が白の悪魔を睨み上げ、次には驚愕に大きく目を見開いた。

 

「……お前は……、……まさか…ルーイン……っ!!?」

 

 怒りを忘れて驚愕に目を見開く人間に、その口から飛び出た名前にクローディアは恐怖を忘れて思わず小さく眉を顰める。

 人の名前のようなそれに疑問符を浮かべる中、男を取り押さえている白の悪魔は小さく目を細めると、次にはゆっくりと小さく口を開いた。

 

「………お久しぶりです、土の神官長様……」

「「「……っ……!!?」」」

 

 悪魔の口から零れ出た声と言葉に、未だ意識ある人間の全員が驚愕に大きく息を呑む。まるで知人のように語りかける白の悪魔に、クローディアも驚愕の表情を浮かべた。これは一体どういうことかと頭が混乱する。

 しかし異形たちだけはどこまでも通常運転だった。

 

「えっ、今更気が付いたの? 遅くない??」

「まぁ、面影はまだあるとはいえ随分と異形化が進んだからな。距離もそれなりに離れていたし、気が付かないのも無理はないのではないか?」

「え~、そうですかね……?」

「人間は何事もちゃんと見ているようで見ていないからな。記憶も自分の都合の良い様に無意識的に改ざんすることが多いというし。そこに意外性も加われば、案外分からないものさ」

「へぇ~、そうなんですか。……それで、ウルベルトさんはどうしてそんなことを知っているんですかね?」

「フフッ、現実世界(リアル)にいた頃に使えそうかと思っていろいろ調べていた時期があってね」

「………うん、何に使おうと考えていたのかは聞かないことにしますね」

 

 またもや始まった世間話のような会話に、クローディアは思わず全身に入っていた力を抜いた。この異形たちと一緒にいると、どうにも緊張してばかりの自分が情けないような気さえしてきてしまう。

 ある意味混沌としている空気の中、今まで注意深く法国の人間たちを見下ろしていた漆黒の全身鎧(フルプレート)の女が三体の異形へ声をかけた。

 

「アインズ様、ペロロンチーノ様、ウルベルト様、この者たちはいかがいたしますか?」

「ああ、情報収集や実験に使うため、一人残らずナザリックに運ぶとしよう。場所は……取り敢えず第五階層のニューロニストの下で良いかな……?」

「そうですね。それで良いんじゃないですか?」

「ただニューロニストや拷問の悪魔(トーチャー)たちのレベルを考えると少し不安が残るな……。念のため、コキュートスの配下の内、高レベルのモノを何体か護衛としてニューロニストの下へ配属した方が良いだろう」

「そうだな。ではそのように手配せよ」

「畏まりました」

 

 骸骨の異形と山羊頭の化け物の言葉に、配下の異形たちは一様に深々と頭を下げる。

 一目で三体の異形に絶対の忠誠を誓っていることが分かる彼らの態度に、法国の人間たちは黙っていられなかったのか再度声を張り上げてきた。

 

「何故だ、ルーイン!? 法国にその身全てを捧げることを誓った六色聖典の一角たる陽光聖典の隊長であり、“グリッド”の洗礼名を戴いた身でありながら、何故貴様は異形となり、法国を滅ぼす一助に加わっているのだっ!!」

 

 必死に抗いながら声を張り上げる男の言葉に、クローディアはまたもや驚愕に大きく目を見開いた。先ほど自分が聞いた言葉が信じられなかった。

 人間が悪魔になる……、それも法国の人間が悪魔になったというのか……。

 それはクローディアにとって、とても信じられない事だった。

 いや、クローディアでなくても、この世界に生きる者であれば誰もが信じられない事だっただろう。

 法国は人間の国であり、人間を至上主義とする宗教国家であり、人間以外の種族を排除しようとする国である。

 その国の人間が……それも異形となっているという事実。

 たとえ本人が目の前にいて、そうとしか思えない会話をしているとしても、とても信じられるようなものではなかった。

 

「……うん? 洗礼名? どういうことかね?」

 

 クローディアが言葉もなく呆然としている中、山羊頭の化け物が小さく首を傾げながら問いかける。

 白の悪魔は自分が押さえ込んでいる人間の男から山羊頭の化け物へ視線を転じると、次には小さな苦笑を浮かべた。

 

「法国の人間は成人を迎えると洗礼名を戴く習わしになっておりまして……。事実、私も洗礼を受けて“グリッド”の名を戴きました」

「へぇ~、流石は宗教色の強い国ならではのしきたりって感じだね」

「……だが、私のシモベが神の洗礼名を受けているというのは些か問題だな」

 

 感心したような声音を発するバードマンとは打って変わり、山羊頭の化け物はどこか不服そうな声音を零す。山羊の顔も小さく眉間に皺を寄せているようで、白の悪魔は一気に顔を強張らせた。

 周囲の異形たちも山羊頭の化け物と同意見なのか、はたまた山羊頭の化け物の感情につられたのか、誰もが不穏な空気を発し始め、この場の空気が一気に張り詰めて強い緊張感が漂う。

 しかし山羊頭の化け物は一つ小さな息を零すと、次にはにっこりとした笑みを浮かべてきた。

 

「よし、それじゃあ、洗礼と洗礼名をやり直すことにしよう。尤も今回君に洗礼と洗礼名を贈るのは六大神の神々ではなく悪魔だがね。折角だ、君の元上司たちにも見届けてもらうとしよう」

 

 まるで『良いことを思いついた!』とばかりに山羊頭の化け物から突拍子のない言葉が飛び出し、この場にいる全員が驚愕の表情を浮かべる。

 それは異形たちも同様で、しかし骸骨の異形とバードマンはすぐに呆れたような素振りや表情を浮かべた。

 

「……うわぁ~、流石はウルベルトさんって言うか何と言うか……」

「良いですよね、アインズ?」

「はぁ~、反対しても聞かないだろう……。仕方がない。しかし手短にするように」

「ええ、勿論ですよ」

 

 山羊頭の化け物からの確認の言葉に、骸骨の異形は諦めたようにため息を吐きながらも許可を与える。

 その姿はまるで何かを強請る子供と、それを呆れながらも許す親のようにも見える。

 しかし相手はどちらも恐ろしい見た目の異形で、どんなに可愛らしく和やかであろう光景も、彼らが相手では只々恐ろしい光景にしか見えなかった。

 

「さて、許可も出たことだし、早速始めるとしようか。パンドラ、すまないがニグンが押さえている人間たちを任せても構わないかね?」

「はいっ! くわぁっしこまりましたぁぁっ!!」

「あー、うん……、ありがとう……。……ゴホンッ、……それではニグン、君はこちらに来たまえ」

 

 テンション高く応じる黄色の服の異形に山羊頭の化け物は一瞬気が削がれたような素振りを見せたものの、しかしすぐさま気を取り直して次は白の悪魔に言葉をかけた。白の悪魔は地面に押さえつけていた人間たちを黄色の服の異形に任せ、山羊頭の化け物が招くに従って部屋の中央付近にまで歩み寄る。山羊頭の化け物も白の悪魔の目の前に歩み寄れば、白の悪魔は片膝をついて深々と頭を垂れた。

 神聖さ漂う厳かな室内の中心に、向かい合うように立つ山羊頭の異形と傅く悪魔。

 ある意味神秘的でありながらもひどくアンバランスな光景に、未だ意識を失っていない法国の人間たちはただ呆然とそれを見つめていた。

 

「……ニグン・グリッド・ルーイン。お前は人間から悪魔となり、このウルベルト・アレイン・オードルの忠実なシモベとなった」

「はい」

「なればこそ、その身に我が恩恵を与え、その印として新たな名を与えよう。……昔我々がいた別の世界に、神の子を裏切った元聖職者が存在した。法国の人間から悪魔へと身を変えたお前には、その名こそが相応しかろう」

 

 山羊頭の化け物はここで一度言葉を切ると、本当に加護を与えるかのように小さく身を屈めて白の悪魔の頭に優しく片手を乗せた。

 

「お前の洗礼名は“タダイ”。この名をもって、お前はこれ以降も我らに絶対の忠誠を誓うか?」

「はい、誓います」

「宜しい! これで法国の元人間であり、陽光聖典の隊長であったニグン・グリッド・ルーインは死んだ! これよりは悪魔の崇拝者たるニグン・タダイ・ルーインとして“アインズ・ウール・ゴウン”のために生きよ!」

「畏まりました! あなた様からの洗礼に心より感謝申し上げます」

 

 頭から山羊頭の化け物の手が離れ、白の悪魔は一度更に深く頭を下げた後に顔を上げる。ゆっくりと立ち上がった後に改めて山羊頭の化け物に向けられた深紅の瞳には強い光が宿っており、それだけで彼が目の前の異形に心からの忠誠を捧げていることが窺い知れた。

 山羊頭の化け物もその強い眼差しに満足したのか、満面の笑みを浮かべて小さく頷いている。

 骸骨の異形もそれを見やると、まるでこの場をまとめるように2、3度骨の両手を軽く打ち鳴らした。

 

「ウルベルトも満足したようだし、そろそろ我々も動くとしよう。アルベド、先ほど伝えた通りにこの人間どもをナザリックに送れ。アウラもアルベドに同行し、この異形も氷結牢獄に送るように」

「畏まりました」

「はい、アインズ様!」

「パンドラズ・アクターとニグンは他の守護者たちに合流し、作業を手伝うように」

「畏まりました」

Wenn es meines Gottes Wille(我が神の望みとあらば)

「クローディアちゃんは一度一緒に拠点に戻ろうか。今後について詳しく相談したいことも幾つかあるし」

「……!! ……は、はいっ!」

 

 不意にバードマンに声をかけられ、クローディアは思わずピンッと勢い良く背筋を伸ばす。

 それでいて容赦なく異形たちによって連行されていく法国の人間たちをチラッと見やると、決して自分たちはこうならないようにしよう……と心の中で硬く決意した。

 

 




これにて『法国編』は終了です!
漸く終わらせることが出来ました~~。
な、長かった……(汗)
ここからは他の小説も執筆再開していこうと思っているので、こちらの小説の執筆速度が遅くなるかと思いますが何卒ご容赦ください(土下座)

因みに、今回の法国での洗礼と洗礼名について、『法国人は成人になると洗礼を受ける』という独自設定にしております。
原作ではどうなっていたか全く覚えていないのですが……(汗)
もし記述等があれば教えて頂ければ幸いです(土下座)
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