稟が帰宅して数分後、稟を含めて数人の姿が居間にあった
「楓……生きてたんだな……」
稟は涙を必死に堪えながら、目の前に座っている一人の少女
芙蓉楓を見つめていた
「はい……稟くん……お久しぶりです」
楓も涙を堪えているのだろう、胸元で手を組ながら返答した
稟は数回頭を左右に振ると、視線をズラして
「桜も……一年ぶりだな……」
楓の右隣に座っていた八重桜に、声をかけた
「うん……久しぶりだね。稟くん……」
桜も感動したように、涙を堪えながら返答した
そして、最後に稟は男性に視線を向けた
「幹夫さんも……お久しぶりです」
この男性は楓の父親であり、現在の稟の後見人である
「ああ……一年ぶりだね。稟くん」
「はい……ご心配をおかけしました」
幹夫が返答すると、稟は深々と頭を下げた
稟は戦後のドタバタした時期に訓練校に入ったために、幹夫は稟が訓練生になったことを知らなかったのだ
すると稟は堪えきれなくなったのか、涙を流して楓に抱きついた
「楓……よく……よく、生きてくれた……」
「はい……心配をかけました……稟くん……」
楓も涙を流しながら、稟の背中に手を当てた
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
十数分後、二人は落ち着いたらしく姿勢を正して座っていた
「そういえば、なんで生きてたのなら、連絡をくれなかったんだ?」
「それは」
稟からの問いかけに楓が答えようとした瞬間
「それは」
「俺達が説明しようじゃねーか」
と新しい声が聞こえて、リビングの庭側の窓が開いた
そこに居た二人を見て、稟は固まった
「し、神王陛下に、魔王陛下!?」
その二人は事ある式典などでしか見たことない人物だったからだ
「な、なぜお二方がこんな所に!?」
稟は驚きからか、姿勢を正して二人に問いかけた
すると二人は、靴や下駄を脱いでリビングに上がり
「おいおい稟殿よぉ」
「そんな、よそよそしい言葉使いはやめてくれたまえ」
と稟に微笑んだ
「は? あ、あの……それはどういう意味ですか?」
訳がわからない稟は首を傾げながら、二人に問いかけた
すると二人は目を合わせて
「稟ちゃんはね、私の娘ねネリネちゃんと」
「俺の娘のシアの」
「「婚約者なのさ(なんだよ)」」
二人の言葉を聞いて、稟は固まった
「はあ!? はあ!? はあ!?」
予想外の事態に稟は驚愕した
驚愕で固まっている稟に二人は近づいて
「なるほど……いい目をしてるじゃねえか。ウチのシアをよろしく頼むぜ」
「おいおい、神ちゃん。抜け駆けはよくないよ。稟ちゃん、私のネリネちゃんもよろしく頼むよ」
神王は肩を叩きながら朗らかに、魔王は笑いながら肩に手を置いた
あまりに予想外の事態に稟が固まっていると
「お・と・う・さ・ん!」
鈍い音と共に、神王の頭が横にズレた
「おごっ!?」
神王は悲鳴と共に倒れて、その背後には両手でパイプイスを持っている神族の少女
リシアンサスが居た
「もう! 挨拶に行くって聞いたから、もしかしてって思ったら!」
リシアンサスことシアは憤慨した様子で、倒れている父親を見下ろしていた
「お父様もです。それに楓さんのことを説明してないじゃないですか」
魔王の後ろには娘のネリネが居た
「いやぁ、ごめんねぇ。ついついネリネちゃんを紹介したくなってね」
予想外の事態の連続に稟が処理落ちしかけていると、窓から入ってきた男子、シオンが
「あー……俺が説明しますんで、いいですか?」
と、稟に聞いた
稟はとりあえず正確な情報が欲しかったので、無言で頷いた
それから稟は、シオンから話を聞いた
シオン達が重傷だった楓を保護して、治療を施したこと
稟はシアとネリネの二人と会っていること
そして、その二人が稟に一目惚れしたこと
そして、シアとネリネ。楓の三人は桜が通っている風見総合学園に転校してきたこと
最後に、稟がシアとネリネの二人との婚約者に上げられていることを
「そうだったのか……シオンさんだったか?」
「シオンと呼び捨てで構いませんよ。俺達、近衛隊は稟様を護衛することも任務に含みます」
稟が問いかけると、シオンは片膝を地面に突いて頭を下げた
「俺はそんなに偉いわけじゃないけどな……まあ、それはともかく」
稟はそこで一旦区切って咳払いすると、背筋を伸ばして
「楓を助けてくれて、ありがとうございます」
と、頭を下げた
「り、稟様!? 頭を上げてください!」
頭を下げた稟を見て、シオンが頭を上げるように促した
が、稟は首を振り
「シオンが居なければ、楓は死んでました……だから、言わせてください。ありがとうございます」
稟はそう言いながら再び、シオンに対して頭を下げた
そのことにシオンが困惑していると、楓が近づいて
「シオンくん、諦めたほうがいいですよ」
「芙蓉……」
「稟君は頑固だからね」
楓の説明を継ぐように桜が言うと、シオンはため息を吐いて
「わかりました。その感謝、確かに受け取りました」
と、苦笑混じりに言った
すると、稟は満足そうに頷いた
ちなみに補足だが、神王と魔王の二人はシオンが話してる最中に現れた奥様方に連行された
なんでも、仕事が溜まっているらしい
楓の父親の幹夫は会社から連絡が来て、急遽出勤した
そして、ひとしきり話が終わると稟は視線を窓の外に向けて
「なあ、楓。縄、あるか?」
と、楓に聞いた
「縄ですか? さすがに、無いですね……」
と楓が言うと、シアがどこからともなく縄を取り出して
「縄ならあるっスよー!」
と言いながら、稟に手渡した
手渡された縄を見てから、稟はシアに視線を向けて
「なんで、縄なんて持ってるんだ?」
と問いかけると、シアはフンスと鼻息荒く
「お父さんを捕まえるためっス!」
と断言した
(あら不思議、それだけで納得できた俺が居る……)
稟はなぜ納得できたか不思議に思いながらも、縄の先端を輪っかにしてから庭に出た
そして、一角の生け垣を見ると縄を頭上で回して
「ちょいさ!」
カウボーイよろしく投げた
投げた縄は生け垣の中に入り
「うきゃ!?」
と、声が聞こえた
声が聞こえた直後、稟は思いっきり縄を引っ張りながら
「フィーッシュ!」
と、赤い弓兵風のかけ声を上げた
その結果、生け垣の中から縄に引っ張っられて影が飛び出し
「あ痛っ!」
と、庭に落ちた
稟はその人物に近づいて
「誰だか知らないけど、不躾じゃないの?」
と、倒れてる人物を見下ろした
すると、稟の隣に駆け寄ってきた楓と桜がその人物を見て
「え、生徒会長さん!?」
「瑠璃さん!?」
と声を上げた
「へ?」
桜と楓が知ってることに稟が驚いていると、遅れて来たシオンが
「だから言っただろ、マツリ」
と苦笑いしながら、頭を掻いていた
「あう……」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「すいませんでした!」
数分後、稟は居間で絶賛土下座中だった
「い、いえ! 大丈夫ですので、頭を上げてください!」
そう言ってるのは、先ほど稟が縄で捕獲した人物
風見総合学園高等部生徒会長にして、近衛部隊所属の瑠璃=マツリだった
「頭を上げてくださいよ、稟様。今回はこいつにも非があったんですから」
「そうです! 稟殿が軍の訓練を受けてることは知ってましたから!」
と二人が非を認める発言をするが、稟は頭を上げずに
「とはいえ、楓の恩人の一人になんてことを!」
と、叫んだ
稟が言った恩人の一人と言うのは、楓からの証言で判明したことだ
楓の意識が戻る前、瑠璃の証言により楓が稟の幼なじみとわかり、そのおかげで治療を受けられて腕の再生医療も受けられた
更に意識が戻った後は、初音島に来るまでの間は瑠璃の推薦で神王の家の世話になったということ
それを聞いた稟としては、瑠璃に頭が上がらない思いだった
「本当に大丈夫ですから! それよりも稟殿、よく私に気づけましたね?」
「ああ、それは俺も不思議だった。マツリは近衛部隊でも、一、二を争う隠密の達人なのに、よく気づけましたね?」
瑠璃の言葉に同意してから、シオンは稟に問いかけた
「簡単ですよ。マツリさんは気配を殺しすぎたんです」
「殺しすぎた?」
「どういうことですか?」
稟の言葉にシオンは首を傾げ、瑠璃が問いかけた
「マツリさんの気配は確かに、ありませんでした。だけど、多分、魔法も使ってたんでしょうね。マツリさんの居た場所だけ、不自然に空白が出来てたんです。これは、俺の知り合いの言葉ですが、気配を消すには、周囲に自分の気配を馴染ませることがコツなんだそうです」
「周囲に馴染ませる……」
稟の言葉を聞いて、瑠璃は口元に手を当てて呟いた
ちなみに、稟が言った知り合いというのは同期の鎧衣美琴である
彼女の特技はサバイバル技術であり、特に秀でてるのが隠密術である
実際に彼女と稟は模擬戦をして、稟に気づかれることなく彼女は背後に回り込み稟に勝利している
どうやって隠密術を身につけたのか聞いたら、彼女は遠い目をして
『父さんに色んな所に放り込まれたんだ……』
と言ったので、稟は深くは聞かなかった
そして稟にとって、その美琴に比べたら、マツリは見つけやすかったのだ
「なるほど……魔法に頼り過ぎたってことですか……」
「まあ、そういうことですね」
稟の言葉を理解したシオンが聞くと、稟は頷いた
「そういうことですか……精進します」
「頑張ってください」
稟が励ますと、瑠璃は頬を赤らめながら微笑んだ
そして、シオン達が帰ると稟は荷物を持って立ち上がり
「荷物を部屋に運ぶか……」
と呟いた
それを聞いた楓は立ち上がり
「部屋に案内しますね。稟くん」
と提案した
「頼む……そうだ、桜、楓」
稟が呼ぶと、二人は視線を稟に向けて首を傾げた
すると稟は、深呼吸して
「改めまして……久しぶりだな。これからもよろしくな」
と頭を下げた
すると、楓と桜は微笑んで
「よろしくね、稟君♪」
「よろしくお願いします。稟くん!」
と、笑みを浮かべた