それはある日、突然起こった
「それじゃあ、今日の予定だが……」
と、隊員の前に立った義之が一日の予定を言おうとした
その時だった
全員の耳に、甲高い警報音が鳴り響いた
そして、全員が視線を上げると同時に
『
という、放送が聞こえた
「第一防衛基準!?」
「どっかの艦が領海に侵入してきたのか!?」
放送を聞いた新人達が浮き足立っていると
「落ち着け新人共!!」
義之の怒声が響き渡り、新人達は視線を義之に向けた
その時にはすでに、麻耶が端末を義之に見せていた
「メインモニターに回せ!」
「ええ!」
義之の指示に従い、麻耶がメインモニターに状況を映し出すと
「総員傾注!」
義之の号令が響き、全員の視線が義之に向けられた
「状況を説明する! 今より数分前に所属不明の艦隊が領海に接近。それに伴い、護衛艦隊と即応MS部隊が展開した。だが、所属不明の艦隊は領海に侵入。それに伴い、我々も出撃する。なにか質問は?」
義之が全員に問い掛けるが、全員は無言で返した
義之はそれを確認すると、頷いて
「それでは、全員三分以内に着替えてMS格納庫に集合せよ! 駆け足!」
「「「「「了解!」」」」」
義之の号令後、全隊員はロッカー目掛けて駆け出した
場所は変わり、MS格納庫
そこでは、整備士達がMS格納庫中を走り回っていた
「ほらほら、ストライカーパックの用意が終わったら、次はベースジャバーよ!!」
「「「「「はい!」」」」」
整備班副班長の虚の指示に従い、整備士達は的確に行動していった
全員の思いは同じだった
小さなミス一つ許されない!
自分達のミスは即、パイロットの死に繋がる
ここ、ワルキューレ隊に居る整備士達は前タイタン戦争でそれを経験していた
見送ったパイロット達が、機体に起きた故障が原因で二度と帰らなかった
その悔しさと後悔はひとしおだった
自分達がキチンと整備できていれば、助かったかもしれない命だった
だからこそ、全員には整備士としての誇りと責任感があった
故に、手は抜けないし、全員でカバーしあう
それを、虚が指示を出しながら見守っていると
「副長! ウィザード隊の整備が終わりました!」
頭上のキャットウォークから、上半身を乗り出して大声を出している照屋匡の姿があった
「それじゃあ、フェニックス隊の手伝いをお願い!」
「了解! よっしゃ、お前ら! 行くぞ!」
「「「「「おぅ!!」」」」」
匡が駆け出すと、その後を十数人の整備士が追い掛けた
虚がそれを確認して、次の指示を出した時だった
虚の隣に、眼鏡を掛けた女性整備士が近寄ってきて
「いったい、どこのバカが領海に入ったのかしらね?」
と、虚に問い掛けた
すると虚は、肩をすくめて
「まだわからないわよ、薫子」
と女性整備士、
そして虚は、腰のポシェットから携帯端末を取り出して操作した
「情報が更新されてる……なにこれ!?」
そして、携帯端末を見た虚の顔が驚愕で固まった
虚の様子を見た薫子は片眉を上げると、携帯端末を覗き込んで、虚と同じように固まった
「JEU艦隊の12隻はいいとして、ユーラシア連合の30って……」
「敗残兵を追うにしては、過剰ね……」
そんな二人の言葉は、整備士達の作業音の中に消えていった
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
四分後、MS格納庫の端にあるブリーフィングルームに義之達は集まっていた
「よし、全員集まったな……情報が更新されたので、説明する。麻耶」
「ええ」
義之の指示に従い、麻耶がPCを操作すると、モニターに海域の俯瞰図と情報が表示された
「では説明する。現在海域に侵入してきたのは、JEUの残存艦隊とそれを追撃してきたユーラシア連合艦隊だ」
接近してきた艦隊を義之が告げると、一部で緊張感が高まった
義之が視線を向けるとそこに居たのは、ラウラ達の元ドイツ軍メンバーだった
義之は心中察しながら、説明を続けた
「なお、JEU艦隊からは亡命したいという宗の連絡があり、初音島政府は人道的立場からこれを受諾。ゆえに、我々の任務はJEU艦隊の保護とユーラシア連合の撃退に変わった」
そこまで言うと、義之は全員を見回して
「なにか質問あるか?」
と問い掛けた
義之の問い掛けに、全員は無言で返した
それを確認すると、義之は頷き
「各員、機体に搭乗しろ! 出撃する!」
「「「「「了解!」」」」」
義之の号令後、全員ブリーフィングルームから飛び出して、自分の機体に向かった
義之はストライクに乗ると、OSを起動させた
お馴染みのスタート画面が映り、膨大な文字列が上にスクロールしていく
そして、GUNDAMの文字が消えると、モニターに外の様子が映った
すると、キャットウォーク上に居た整備士がストライクが起動したのを確認したらしく
『御武運を!』
と言って、ストライクから離れていった
義之は返答代わりとして、ストライクのメインカメラを光らせた
その直後、ストライクを固定していたロックが外れて、キャットウォークも離れた
義之はそれを確認すると、誘導員が振っている旗に従い、ストライクをゆっくりと歩かせた
そして、リニアカタパルトの台にストライクの足を固定すると、シャッターが閉まり、天井が開いた
『ストライカーパックはエールを選択!』
オペレーターを勤めている麻耶の言葉の後、天井からエールストライカーが降りてきて、ストライクに接続された
『リニアカタパルト、システム正常! 進路オールクリアー! ストライク、発進どうぞ! 気をつけてね……』
最後の麻耶の言葉に義之は微笑むと、操縦桿を掴み
「オーライ……オーディン1、桜内義之。ストライク、出るぞ!」
義之の体がGでシートに押し付けられながら、ストライクは蒼空に飛び出した
その後、ストライクに続いてワルキューレ隊のMS隊とベースジャバーが三基のリニアカタパルトを使って次々と蒼空に舞っていく
そして、全機が出撃したのを確認すると
「フォーメーションはストライクを中心に、
『『『『『了解!』』』』』
義之の指示に従い、陣形を整えてワルキューレ隊は戦闘区域へと向かった
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
場所は変わり、戦闘区域
そこでは、初音島の即応MS部隊とユーラシア連合軍のMS部隊が戦闘を繰り広げていた
しかし、ユーラシア連合のMS部隊の方が数多く、初音島のMS部隊は押されていた
『クラッカー1よりHQ! 応援部隊はまだか!? こちらは長く保たない……早くしてくれ!!』
悲鳴混じりに聞いたのは、即応MS部隊のクラッカー小隊を預かる女性
彼女が率いるクラッカー小隊はなんとか、一機も欠けることなく戦えていた
だが、共に出撃した他の小隊では既に被害が出ていた
そのために、再三に渡る応援要請を出していた
『HQよりクラッカー1。現在そちらに向けてワルキューレ隊が急行中。到着まで、後二百秒』
HQからの応答を聞いて、綾瀬は目を見開いた
『ワルキューレ……英雄率いる部隊か! 助かる! クラッカー1より各機! ワルキューレ隊が到着するまで、約三分だ! 何としても保ち堪えろ!』
「ワルキューレが来てくれるんですか!?」
嬉しそうに声を上げたのは、クラッカー小隊に所属している伊隅あきら少尉である
『畜生! 簡単に言ってくれる! だったら、もっと航空支援か支援砲撃を寄越しな!』
綾瀬の言葉に怒鳴り返したのは、クラッカー小隊とは別の小隊の隊長である
『04回り込まれるぞ! 03カバーしろ!』
「了解!」
隊長の指示に従い、あきらはクラッカー4のカバーに向かったが
『ウォォォ!』
「危ない!」
クラッカー4、ヴィルヘルミナ・オルテンシアは一機のウィンダムに狙われていた
あきらは撃とうとしたが、相手のほうが早く
『ぐっ!』
「やめろぉぉ!」
ウィンダムの放ったビームライフルが、ヴィルヘルミナ機の左腕を肩から吹き飛ばした
『くっ……調子に乗るな……っ!? 動かない? 動かない!?』
ヴィルヘルミナ機はすぐさま体勢を整えようとしたが、機体は動かなかった
『どうした!?』
ヴィルヘルミナ機のカバーに、クラッカー2こと、
『駆動系が……駆動系がイかれました!』
『バカ野郎! 早く
初音島はこれを採用することにより、パイロットの生存率が一気に上がっている
ヴィルヘルミナが脱出するのを支援すべく、クラッカー小隊はクラッカー2を囲むように布陣した
『ひ、ヒィっ!?』
「早く、急いで!」
あきらは一機のダガーLを撃破しながら、脱出を催促した
が、ヴィルヘルミナ機の脱出機構が作動する気配はなく
『脱出機構が……さっきの攻撃で、作動しません!』
「そんな!?」
ヴィルヘルミナの報告を聞いて、あきらの動きが僅かに止まった
それにより、敵のウィンダムが一気に接近しながら、ビームサーベルを抜いてクラッカー2に切りかかり
『うぉぉぉ! ッガァァァ!?』
クラッカー2はウィンダムに胴体を斬られて、爆散した
「02!?」
味方が撃破されたことにあきらは動揺して、動きが乱れた
その隙に一機のダガーLがバズーカを構えて、動けないクラッカー4を狙い
『た、助け……ヒッ!?』
クラッカー4はバズーカの直撃により、爆散した
『この野郎ォォォ!』
立て続けに部下が撃墜されて、クラッカー1は激情に任せてスラスターを吹かして突撃した
正面に居た二機のうち、一機をビームライフルで撃ち抜き、もう一機を抜いたビームサーベルで切り捨てた
その直後、クラッカー1の胸部をビームが貫通した
『ガアァァァ!?』
スパークした数瞬後、機体は爆散した
「た、隊長!」
隊長が撃破されて、あきらは反射的に周囲を見回した
気づけば、生き残った機体は自分だけになっていた
しかも、敵はいまだに十機近く残っている
その事態に、あきらの頭は真っ白になり
「あ、う……ウアァァァァ!」
あきらはビームライフルを乱射しながら、叫び声を上げた
その時、コクピット内に警告音が響き、あきらは矢印が示した後ろを見た
そこには、自分に対してビームサーベルを振り下ろそうとしているウィンダムの姿があった
「ひっ!?」
あきらが恐怖で身を固めた、次の瞬間
ビームサーベルを持っていたウィンダムの腕がビームにより撃ち抜かれ、立て続けに頭部と胸部に実弾とビームが当たり、ウィンダムは爆散した
「え……?」
突然の事に、あきらが呆然としていると
『襲うこと、奪うことしか知らないユーラシア連合の野獣共に、守る者達の強さを教えてやれぇぇ!』
という若い男の声が無線越しに聞こえて、その斉唱代わりと言わんばかりに、ビームや実弾が立て続けにユーラシア連合軍の機体に襲いかかった
ビームや実弾が来た方向を見ると、トリコロールが特徴的なガンダム
ストライクを先頭に、六十余りの機体が次々と砲撃を行いながら接近してきていた
それを見たあきらは、ほんの三分前の隊長の言葉を思い出した
「ワルキューレ……部隊……?」
あきらが呆然と呟いていると、その左右をアストレイタイプやガンダムタイプが通過していくがストライクが寄ってきて
『君、無事だな? 生きてるな?』
サブモニターに《サウンドオンリー》と表示が出て、先ほど聞こえた若い男の声があきらに問い掛けてきた
「は、はい!」
『よし、では一旦下がれ』
あきらが返答すると、男がそう言ってきた
「ですが、ここは……」
あきらは生き残った部隊のプライドで、反論した
すると、赤い鋭角的なガンダムタイプが近寄ってきて、肩に手を置いた
すると、接触回線が開き、サブモニターにもう一つ《サウンドオンリー》と表示が出て
『ここは我々、特務部隊が引き受ける。貴様は別部隊の指揮下に入れ、いいな?』
と、女性の声が聞こえた
そして、あきらはその女性の声を聞いて驚いた
「その声は……みちるちゃん!?」
『なっ!? あきら!?』
赤いガンダム、イージスに乗っていた伊隅みちるも驚きの声を上げた
『オーディン2、どういうことだ?』
『はっ! このパイロットは自分の妹の伊隅あきらです!』
男が問い掛けると、みちるは簡潔に答えた
すると、男は舌打ちして
『身内が居ることを考慮すべきだったな……少し待て』
と言って、ストライクからの通信が閉じられた
そのタイミングを見計らって、あきらは口を開いた
「まさか、みちるちゃんがワルキューレ隊に居たなんで……教導団に居たんじゃ……」
と、みちるに問い掛けた
『ワルキューレ隊で名前を公開されてるのは、オーディン1の大佐のみでな。家族にすら、所属していることを教えられないんだ』
と、みちるが教えたタイミングで
『すまん。待たせた』
再び、《サウンドオンリー》と表示が出た
『大佐、どうでした?』
『うむ……君、秘匿回線Bを開け』
「は、はい!」
あきらは男の指示に従い、秘匿回線を開いた
すると、モニターに若い男とみちるの顔が映った
『よし、顔は見えているな?』
「は、はい!」
男からの問い掛けに、あきらは内心でもしかして? と思いながら、返答した
すると、男は頷き
『よし。俺は、ワルキューレ隊隊長を勤める桜内義之大佐だ。伊隅あきら少尉で間違いないな?』
男、英雄と知られている義之に名前を呼ばれて、あきらは緊張しながら
「は、はい! そうであります!」
と返すと、義之は満足そうに頷いて
『では、我が隊にようこそ、伊隅あきら少尉! 君を歓迎する!』
そう義之が言うと、あきらはあまりの事態に目をパチクリとしながら
「それって、つまり……」
と言葉に詰まっていると、義之は笑みを浮かべて
『つまりは、君は今からワルキューレ隊に所属する、ということさ』
と告げた
その義之の言葉にようやく、あきらは理解して
「り、了解しました! 若輩者ですが、よろしくお願いします!」
と、敬礼した
あきらの言葉を聞いて、義之は頷くと
『それじゃあ、少しの間、動かないでくれよ? 麻耶!』
と言いながら、ストライクの手をあきら機の肩に置いた
『了解。あきら少尉、そのままじっとしててね』
という若い女性の声に従い、あきらは機器に触れずにいた
するとメイン・サブ問わずに、モニター一杯に凄い勢いで文字列が表示された
「こ、これは!?」
あきらが驚いていると、義之が
『なに、
と義之が言った直後、モニターは通常に戻った
『さて、暫定的だが、君のコールサインはオーディン6とする。いいな?』
「了解!」
あきらが返答すると、義之は頷き
『さてと……オーディン1よりワルキューレ隊各機に通達! 現時刻を以て、即応MS部隊から伊隅あきら少尉が編入された! なお、現時点でのコールサインは暫定的にオーディン6とする!』
と、指揮官らしい貫禄で告げた
すると、サブモニター一杯に六十名近い顔が映り
『『『『『了解!』』』』』
と、全員の斉唱が響いた
「伊隅あきら少尉です! 皆さん、よろしくお願いします!」
あきらがそう言うと、各々は親指を立てたりして軽く挨拶すると、表示されていた顔は全て消えた
『さて、あきら少尉。機体は大丈夫か?』
義之が問い掛けると、あきらは手早く機体の調子を調べた
「機体のほうは、なんら問題はありません。ですが、ビームライフルがオーバーヒート手前です」
あきらが見ている画面には機体の様子が映し出されており、装備しているビームライフルが真っ赤に染まっていた
どうやら、乱射したのが原因らしい
『ふむ……では、これを使え』
義之はそう言いながら、自機の持っていたビームライフルを差し出した
「ですが! そうしたら大佐の武装が!」
あきらが抗議すると、義之は微笑んで
『大丈夫だ。予備がある』
義之はそう言うと、エールストライカーに懸架されていた予備のライフルを示した
それを確認したあきらは、自機のライフルを腰にマウントすると
「では、お借りします」
義之が差し出したビームライフルを受け取った
それを確認した義之は、予備のライフルを装備して
『オーディン1よりワルキューレ隊全機に通達! フォーメーションはストライクを中心に
と号令を出した
『『『『『了解!』』』』』
全員の斉唱を聞いた義之は、あきらに向けて
『あきら少尉、君は俺の隣を飛べ。遅れるなよ?』
そう言いながら、不敵な笑みを浮かべた
「了解!」
あきらが返すと同時に、部隊の陣形が整った
義之はそれを確認すると
『全機最大戦速! 行くぞ!』
ストライクを最大速度で飛行させた