JEU艦隊保護戦闘から一週間後
義之は統合防衛軍本部の廊下を、麻耶と歩いていた
歩いている理由は、今から数十分前に、純一の秘書官である伊隅やよいに呼ばれたからである
何でも、JEU艦隊のトップ陣が礼を述べたいと言ってきたらしい
当初、純一は別に構わないと言っていたが、度重なる嘆願に折れたらしい
そして、義之と麻耶はドアの前に着くとノックをして
「朝倉元帥。ワルキューレ隊隊長の桜内大佐です」
「同じく、副官の沢井少佐です」
『入れ』
二人が名乗ると、中から入るように促された
二人はドアを開けて入ると、閉めてから
「「失礼します!」」
敬礼した
中には純一を含めて、十数人の男女が居た
「皆さん……彼が、ワルキューレ隊隊長の桜内義之です」
と純一が紹介すると、男女達はざわめいた
「彼がかの守護神か……」
「若いな……」
等々がほとんどである
そして、義之と麻耶は純一に示されたソファーに座ると
「改めまして、自分が初音島統合防衛軍特務部隊隊長の桜内義之大佐です」
「その副官の沢井麻耶少佐です」
と頭を下げながら、自己紹介した
すると、最初に正面中央に座っていた男が
「私は日本帝国征夷大将軍の斑鳩古城だ。あの時は助けてもらい、心より感謝する」
と言いながら、頭を下げた
「いえ、我々は当然のことをしたまでです」
「ですので、頭を上げてください」
義之と麻耶が立て続けに言うと、斑鳩は頭を上げた
「しかし、貴官らの活躍により民と部下が助かったのは事実でな」
そう言ったのは、斑鳩の隣に座っている禿頭に左額から顎まで裂傷跡がある初老の男性だった
如何にも、歴戦の武人という雰囲気を醸している
「失礼ですが、あなたは?」
と義之が聞くと、男性は後頭部をペシリと叩き
「これは失礼した。私は帝国近衛軍大将の紅蓮是唯だ」
と言うと、手を出した
「ああ……貴方が有名な紅蓮大将でしたか。噂は聞いてますよ」
義之は握手しながら、そう返した
それを聞いた紅蓮は顎髭を撫でながら、好々爺然と
「ふむ、恐らくだが……私が変わり者といった所かな?」
と言うと、義之は首を左右に振り
「まさか、あなたが人徳者であると聞いております」
「それは、嬉しいことだ!」
義之の言葉を聞き、紅蓮はカッカッカと笑った
すると、紅蓮とは反対側に座っていた黒髪に右こめかみから顎あたりまで裂傷が走っている男性が
「次は私ですな。私は帝国陸軍技術廠の
「巌谷……もしや、帝国軍名戦闘機、《
岩谷の名前を聞いた義之がそう問いかけると、岩谷は意外そうに
「おや……私のことをご存知だったか」
と言うと、義之は微笑んで
「当たり前ですよ。軍関係であなたのことを知らないのは、よほどのバカか新人くらいです」
と言った
すると、岩谷は苦笑して
「なるほど……それは確かにな」
と呟いた
その呟きを終わりと取ったのか、次に動いたのは浅黒い肌が印象的な男性だった
「私の名前はヴィルフリート・アイヒベルガー。階級は大佐だ」
と、男が端的に名乗ると、義之は数瞬黙考してから
「ああ……貴方がEU七英雄の一人。黒狼王か」
と納得した様子で頷いた
EU七英雄
それは、先のタイタン戦争の時に活躍した七人のパイロットである
その七人はそれぞれ、色を冠した二つ名を与えられている
そして義之は、隣に居る白金色の髪を三つ編みにした美女を見ると
「ということは、あなたが白き后狼ですか?」
と問い掛けた
問い掛けられた女性は一瞬驚くが、すぐに柔らかな笑みを浮かべて
「ええ、その通りです。私はジークリンデ・ファーレンホルスト。階級は少佐です」
と答えた
「噂はかねがね……そして、あなたが赤き音速の薔薇の……」
「ゲルトルート・ララーシュタインである。階級は少佐であーる」
義之が二人の背後の立っている男性に視線を向けると、男性は自慢気に髭をいじりながら名乗った
余談だが、彼ら三人はEUドイツ軍の第44MS大隊の隊長格であり、第44MS大隊は貴族で固められている
その三人に対して、義之と麻耶は改めて頭を下げると、視線を青年に向けて
「そして、あなたは青き一角獣のウェルキン・ギュンター少佐ですね?」
と問い掛けた
問い掛けられた青年、ウェルキン・ギュンターは一瞬驚くが、すぐに持ち直して
「その通りです。よくご存知ですね」
と問い掛けた
すると、義之は微笑んで
「まず、あなたのお父上であるベルゲン・ギュンター将軍が有名ですし、貴方自身も七英雄なんですから」
と答えた
「そうでしたね」
「それで……ベルゲン・ギュンター将軍は……」
義之が問い掛けると、ウェルキンは苦い顔をして首を左右に振って
「父は僕たちを逃がすために、殿となって……」
最後まで言わなかったが、義之は察して悲しそうにして
「そうですか……お悔やみ申し上げます」
と頭を下げた
ベルゲン・ギュンター将軍
彼の名前は、軍の教科書に必ずと言っていいほど乗っている
彼はタイタン戦争の時、MSが発表される前に唯一と言っていいほどに戦線を長期間に渡り維持してきた名将である
彼の活躍が無ければ、EUはより多く、民間に被害を出していただろうと言われているほどだ
そして、義之が更に視線を動かすと、そこには一際小柄な少女が居た
「君が白き薔薇のベルナデット・リビエール少佐であってるかな?」
義之が問いかけると、少女は鷹揚に頷いて
「ええ、間違いないわ。よろしく、英雄さん」
と言って、握手した
なお、余談ではあるが、彼女の本名はもっと長いが、彼女が長ったらしいと言って、軍には今の名前で登録してある
更に言えば、彼女の家系はかつて、フランス革命で平民側に着いた貴族の末裔である
その影響からか、彼女の家の家訓は『力無き者を守るための剣となり、盾となれ』である
そして、彼女はその家訓を守り軍に入隊
そして見事に、七英雄と呼ばれるまでに至ったのである
閑話休題
そして、義之が最後に視線を向けた先には、形こそEU軍共通だが、色が黒く、右胸に7、1、13という数字が当てられた軍服を着た三人が居た
「貴方達のお名前は?」
「自分はJEU軍第422部隊隊長の7です」
そう名乗ったのは、ショートカットで切りそろえられた濃紺の髪が特徴の男だった
義之は彼がナンバーで名乗ったことで、その部隊の正体を知った
(懲罰部隊か……)
彼が率いる部隊は、軍規違反や問題を起こした者、挙げ句の果てには犯罪者などで構成されている部隊なのだ
ゆえに、本名を名乗らずにナンバーで名乗ったのだ
だが、義之はそんな彼を見つめると
「自分は名を聞きました。ナンバーを聞いたわけでは、ありません」
と告げた
すると、男は迷う素振りを見せた
その時だった
「彼らに、名乗る資格など無いんですよ。英雄殿」
という、第三者の声が割り込んできた
義之が声のした方向に目を向けると、そこに居たのは短く切りそろえられた金髪が特徴の二十代後半くらいの男だった
「あなたは?」
義之が問いかけると、男は恭しく頭を下げながら
「これは失礼しました。私はEUイギリス海軍のアービノス・セレスティア准将です」
と名乗った
(セレスティア……確か、イギリスの名門貴族だったな……)
義之は頭の中から必要な情報を引き出すと、アービノスを睨み
「准将殿、私は彼らの名前を聞いたんです。それなのに、ナンバーで名乗るというのは、いささか失礼ではないですかな?」
と義之が問いかけると、アービノスはやれやれと言った様子で首を振り
「彼らは我々JEU軍の恥曝しです。そう言った彼らが、こうした場に来るのもおこがましいというのに、あまつさえ、名乗るなど言語道断です」
と言った
義之はそんなアービノスの目に、ある感情を見いだした
(侮蔑か……なるほど、彼は貴族主義者でなおかつ、権威主義者か)
義之がそう思っていると、アービノスは再び口を開き
「今からでも遅くはありません。彼らを退出させて、我々で」
とそこまで言った、そのタイミングで
「そこまでにしておけ、提督殿」
斑鳩古城が、アービノスを睨みながら地を這うような声を出した
「斑鳩殿……なんですか?」
アービノスが問いかけると、斑鳩は静かに、しかし強く
「彼らは初音島に来るまで、危険を省みず幾度となく獅子奮迅の活躍をしてくれた。彼らの活躍が無ければ、より多くの民が犠牲になっていたかもしれん」
「そうかもしれませんが……」
斑鳩の話を聞いて、アービノスは口ごもった
そこに、斑鳩は更に続けて
「それと、懲罰部隊に行くというのならば、我々もそうだ……祖国を失い、従って付いてきてくれた民に不便と犠牲を強いてしまい、今もこうして初音島に迷惑を掛けて、生き恥を晒している」
「斑鳩殿……」
斑鳩の話を聞いて、アービノスは神妙な表情になった
「それに、今や我々は流浪の身……私は今を以て、懲罰部隊の枷を外したいと思う……皆はどうか?」
斑鳩が問いかけると、主だった人物達は肯定するように頷いた
斑鳩はそれを確認すると、視線を三人に向けて
「そういうわけだ。名乗って構わない」
と告げた
それを聞いた7と名乗った男は頷くと、左右の二人に視線を向けてから
「わかりました……では、改めて……自分はJEU軍第422部隊ネームレス隊隊長のクルト・アーヴィング大尉です」
と名乗り、続いて右側に座っていた赤と銀が入り混じった髪の女が
「自分はリエラ・マルセリス少尉です」
と名乗り、最後に黒髪をポニーテールにした小柄な女が
「……イムカ少尉です」
と名乗った
「よろしくお願いします」
義之が名乗った三人と握手すると、それまで黙っていた純一が手を叩いて
「これで、お互いの自己紹介は終わったな……それでは、これより貴方方のこれからのことを話していこう」
と言うと、JEUの面々は頷いた
JEUの面々が頷いたのを確認すると、純一は現在のJEU軍と民間人の立場から、これからのことを話した
そこから互いに必要なことを調整して、それを書面化
そこに純一と斑鳩の名前を署名すると、今回の話し合いは終わったのだった