義之達が出張教導任務に向かって、早くも二週間が経過した
その間、初音島は平和そのものだった
そんな折、ワルキューレ隊所属の神崎直哉はある任務に就いていた
「本日、あなたがたのご案内をすることになりました。神崎直哉少尉です。よろしくお願いします」
直哉は敬礼しながら、目の前に居る人物達にそう告げた
直哉の目の前に居るのは、残存JEU艦隊所属の人達だ
「おう。俺はヴァレリア・ジアコーザ少尉だ。VGって呼んでくれ」
そう名乗ったのは、かなりノリのいい男性だった
VGと言うのは、あだ名らしい
「あたしは、タリサ・マナンダル。階級は少尉だ。よろしくな!」
そう名乗ったのは、褐色の肌が特徴の小柄な少女だった
「わたしは、ステラ・ブレーメル少尉よ。よろしくね」
そう言いながら握手を求めてきたのは、金髪グラマーな美女だった
「俺は、ユウヤ・ブリッジス少尉だ。好きに呼んでくれ」
そして四人目は、短く切りそろえられた黒髪が特徴の男性だった
そして、最後に
「……私の名前は……篁唯衣。階級は中尉だ……」
途切れ途切れに名乗ったのは、腰辺りまで伸ばした黒髪が特徴の女性だった
先に名乗った四人は、唯衣の態度を不審に思い首を傾げた
四人の知る限り、唯衣はハキハキとした女性で、そのような態度はついぞ見たことがない
だが、直哉は気にしてないようで
「はい、承りました。では、皆さんをご案内しますので、付いて来てください」
そう言って歩いた先には、一台の車が止まっていた
その車に近寄ると、直哉はポケットから小さい黒い物を取り出して、スイッチを押した
すると、車のエンジンが始動してスライドドアが自動で開いた
「皆さん、乗ってください。目的地まで、自分が運転しますので」
直哉が搭乗を促すと、後ろにVGからユウヤまでが乗り、助手席に唯衣が乗った
なお、全員の服装は軍服ではなく私服である
それは、これから向かう先が市街地なのを考慮した結果である
市街地を軍服を着た軍人達が歩いたら、そこにいる民間人は何事かと身構えてしまうだろう
それを防止するために、事前に通達されていたのだ
直哉は全員が乗ったのを確認すると、運転席に座ってからドアを閉めた
そして、シートベルトを装着すると
「それでは、出発しますね」
直哉はそう言うと、静かに車を発進させた
「ほー。お前さん、運転が上手だな」
直哉の運転技量に、VGが感心したように呟いた
「ありがとうございます。教官の指導の賜物でして」
VGの言葉に直哉がそう返すと、今度はタリサが
「なあ、お前も軍人なんだよな? 所属はどこなんだ?」
と問い掛けた
すると、直哉は困った様子で
「申し訳ありません。詳しくは、機密の関係上で教えることは出来ないんです。ですが、自分はMSパイロットです」
と直哉が答えると、次にステラが
「あら、あなたもMSパイロットなのね。実は、私達全員もMSパイロットなのよ」
と言うと、直哉が少し驚いたように
「おや、それは偶然ですね。結構、腕が立つのでは?」
と問い掛けた
「まあ、そうだな。特に、お前の隣に座ってる中尉は強いぞ? なにせ、帝国近衛だ」
「ほう……帝国近衛ですか? 色はなんですか?」
直哉が問い掛けると、唯衣は一瞬口をつぐんで
「……山吹色。機体は龍閃だ」
淡々とした口調で告げた
「ほう……山吹色、しかも龍閃ですか。ということは、高機動型のF型ですね?」
「そうだが……よく知っているな?」
直哉の詳しい説明に、唯衣は問い掛けた
「一応、自分も軍人なんでね。世界各国が採用しているMSのデータは頭に入ってます」
直哉がそう言ったタイミングで、車は橋を渡り始めた
「しっかし、初音島は凄いよな……僅か五十年で、ここまで発展するなんてよ」
とVGが感心したように、呟くと
「特にこの十年で大きく発展しました。初音島は、魔界や神界の技術を積極的に取り入れてますので」
直哉はVGにそう説明した
直哉のこの説明には、訳がある
初音島が魔界・神界の双方と同盟を結んでから、初音島は魔界・神界と技術交流会を積極的に行い、初音島は魔界・神界の技術を、魔界・神界は初音島の技術を積極的に採用した
その結果、初音島はメガフロートの採用に成功
魔界・神界はMSの採用に成功したのだ
まさしく、初音島と魔界・神界の二人三脚だ
そして、目的地に到着したのか車は止まり
「皆さん、着きましたよ」
直哉はそう言いながら、ドアを開けた
そこは、初音島でも一際大きいショッピングモールだった
「ここならば、大抵の物は揃います」
直哉がそう説明した直後
「おっ先ー!」
VGが我先にと、ショッピングモールに向けて駆け出した
「あ、ズリーぞ! VG! ほら、ユウヤも行くぞ!」
「待て、チョビ! 引っ張るな!」
「あらあら……仕方ないわね」
そんなVGの後を追い掛けて、タリサがユウヤの手を引きながら駆け出し、ステラはそんな三人の後を困ったように嘆息しながら追い掛けた
「おやおや……皆さん、元気ですね……しかし、篁中尉は行かないので?」
直哉は四人を見送ると、隣で俯くように立ち尽くしている唯衣に視線を向けた
すると唯衣は、拳を握り締めて
「……いい加減……他人行儀はやめてくれ……直哉」
まるで、懇願するように呟いた
少しすると、直哉は微笑みを消して
「流石に、バレるか……やっぱり」
と言いながら、頭を掻いた
すると、唯衣は憤慨した様子で
「当たり前だ! 10年も経ったから、成長しているのは予想していた。だが! その髪と目の色はなんだ!? 眼帯の下から聞こえてくる駆動音はなんだ!? 答えろ、直哉!」
と、直哉を怒鳴りつけた
すると直哉は、少し驚いた様子で
「驚いたな……コレの静音性は折り紙付きなんだがな……」
と呟くと、視線を上に向けて
「詳しくは言えないが……俺はもう、普通の人間ではなくなったのさ……」
直哉がそう言うと、唯衣は唇を噛み締めて
「……お前をそんな風にしたのは……この国なのか?」
と、直哉に問い掛けた
すると、直哉は首を振って
「いや……初音島の人たちは、むしろ俺を助けてくれて、受け入れてくれたよ」
と言うと、唯衣に顔を向けて
「俺をこんな風にしたのは……」
と、言おうとした時だった
「中尉! なにしてんだ! あいつら、ほっといたら高いモノばっかり買っちまうぞ!!」
と、ユウヤが唯衣を呼んだ
唯衣はため息を吐くと、顔をユウヤの方に向けて
「今行く! それと、階級で呼ぶな!!」
と言うと、一歩前に出て止まり
「今度、話してくれ……」
と言ってから、再び歩き出した
それを直哉は見送ると
「今度か……話すチャンスがあればいいのだが……」
と呟くと、唯衣の後を追いかけた