筆が進んで、一日で書き終わった
襲撃事件から二日後
御剣財閥警備部、MS課の食堂
「さて、全員に飲み物は渡ったか?」
義之の言葉を聞いて、食堂に集まっていた全員は頷いた
「そんじゃあ、訓練お疲れ様! かんぱーい!」
「「「「「かんぱーい!」」」」」
義之の音頭に続けて、全員はグラスを高々と掲げた
明日を以て、義之達の派遣期間は終了である
よって、義之達に対しての感謝を込めて、お別れ会が立案されたのだ
西村や月詠も承認したので、MS課の大食堂を貸切にして開催された
机の上には月詠が手配した料理や飲み物が並び、壁や天井には繋げた紙の輪等による装飾が施されている
あれからのことを簡潔に話すと、姫路及び島田の両名は月詠が手配した船により、昨日島から去った
そして、襲撃事件の黒幕は月詠が言っていた野心家の男
竹原が首魁と分かった
竹原は、悠陽のような年若い少女が自分より上に立つことが許せず、かなり前から暗殺を企てていたらしい
今回襲撃に使われたMSも、御剣財閥が回収しレストアした機体の中から程度の良い機体を竹原が極秘裏に書類等を偽装して集めていたらしい
そしてその竹原本人は、詳細を把握した月詠がすぐさま本社の警備部隊を動かして拘束
即座にクビとなって、御剣財閥を追い出されたのだった
このことに関して、悠陽から
『此度は我が配下の陰謀に巻き込んでしまい、申し訳ありません。お詫びとしましては、初音島と提携を結びたいと思います』
と言っていた
詳細は義之も知らないが、どうやら、さくらと話し合ったらしい
そこらへんはさくらや純一に任せるとして、義之は残党が居ないか警戒態勢を敷いた
結果としては、残党は確認されなかったので、今回の事件は幕引きとなったのである
そして、二日後の今日、訓練お疲れ様パーティーが開かれたのである
「しかし、明久くんは料理が上手なんだな」
そう言ったのは、パエリアを一口食べた義之である
なお、訓練が終わったので、呼び方は変わっている
「まあ、数少ない趣味なので……しかし、大佐も上手ですね」
義之の言葉を聞いて、明久は苦笑しながら答えると、持っていた料理を見ながらそう言った
明久が持っているのは、義之が作ったグラタンである
「まあ、素材も良かったしな。流石は御剣財閥」
義之はそう言うと、再び明久が作ったパエリアを口に運んだ
すると、明久の隣に居た優子が
「あたしも料理覚えようかしら……」
と呟き、それを聞いた麻耶が優子の肩に手を置いて
「義之と明久くんが例外なのよ。気にしないで」
と言った
その頃、とある一角では
「……写真、いいですか?」
とムッツリーニが、一夏とシャルロットに問い掛けた
「んぉ? 別にいいけど……」
「僕達でいいの?」
シャルロットが問い掛けると、ムッツリーニは頷いて
「……お二人の姿が俺の心に響いた」
と言うと、デジタルカメラを構えてからシャッターを切った
「……どうぞ」
ムッツリーニは操作してから、画面を二人に見せた
「おお……君、上手いね」
「本当だ」
二人はムッツリーニが撮った写真を見て、軽く驚いていた
写っている二人はとても自然で、なんの気負いすら感じなかった
「……いります?」
「え? いいの?」
ムッツリーニの言葉にシャルロットが驚いていると、ムッツリーニは頷いて
「……思い出に一枚」
と言うと、デジタルカメラにコードを繋げた
「ほいほい」
一夏はポケットから携帯端末を取り出すと、ムッツリーニのデジタルカメラと繋げた
「……送ります」
「了解」
一夏が頷くと、ムッツリーニは送信を開始した
そして、十数秒後
「……完了」
「ん、ありがとう」
ムッツリーニの言葉を聞いて、一夏は端末を操作した
「ん、確かに」
一夏が端末を仕舞うと、シャルロットが取り出して
「僕もいいかな?」
と問い掛けた
「……構いませんよ」
ムッツリーニは頷くと、シャルロットの端末にコードを繋げた
「……送りますよ?」
「お願い」
シャルロットが頷くと、ムッツリーニは再び送信を開始した
そして、十数秒後
「……完了」
「ありがとうね」
シャルロットは頷くと、端末を操作して
「ありがとうね……母さんが死んで以来だから、二年振りかな?」
と言った
シャルロットのその言葉を聞いて、一夏は頭を掻いてから
「今から言うことは、オフレコで頼むな」
と言った
「……わかりました」
ムッツリーニが頷くと、一夏は小声で
「シャルのお母さんはな、二年前のタイタン戦争で亡くなったんだがな、その後にシャルのお父さん……デュノア社の副社長さんがシャルを迎えに来たんだよ」
一夏の説明を聞いて、ムッツリーニは目を見開いた
「……っ! そうか、軍需産業のデュノア社!」
「そう……シャルのお父さんはデュノア社の副社長だったんだがな……」
一夏が言いにくそうにしていると、シャルロットが一歩近づいてきて
「僕のお母さんはね……いわゆる愛人だったんだ」
と言うと、ムッツリーニは目を見開いて固まった
「僕はそれを知らなくって、正妻に見つかったら叩かれたよ……この泥棒猫の娘が! って」
シャルロットの悲しそうな告白を聞いて、ムッツリーニは拳を握り締めた
「で、デュノア社は……まあ、社長だった正妻の金遣いの荒さが原因なんだがな、倒産の危機に陥ったんだ」
デュノア社が倒産になりかけたのは、ムッツリーニも知っている
そこらへんは、御剣財閥の情報で知り得たのだ
「で、その社長は何を考えたのか……シャルを男装させて、初音島に送ったんだよ。技術やデータを盗んでこいってな」
「……外道が!」
一夏の話を聞いて、ムッツリーニは憤りを覚えた
彼もタイタン戦争の折に家族を喪っており、ここに来た頃はまるで人形のようだった
だが、明久が何度も話し掛けてきて、そこから少しずつ立ち直ったらしい
だから実を言うと、ムッツリーニは明久に恩義を感じている
「で、まあ……軍の訓練校に入って俺と同室になったんだがな……そこでトラブルが起きて、俺がシャルが女の子だって知ったんだよ」
「で、一夏がお姉さんにお願いしたんだ。『シャルルを助けてくれ』って」
「……シャルルというのは、男装時の?」
ムッツリーニが問い掛けると、シャルロットは頷いた
「うん。僕の男装時の名前」
「で、千冬姉から大佐に伝わって、そこから大統領であるさくら様に伝わって、なんか知り合いの人と共謀して、表向きはシャルロットは訓練中の事故で死んだ。ってことにしたんだ」
シャルロットに続いて、一夏が説明すると、ムッツリーニは頷いて
「……大統領が動くか……」
と呟いた
「凄いよなぁ……で、シャルロットとして初音島に国民登録して、今は俺と同じ家に住んでる」
「……なるほど」
一通りの説明を聞き終えて、ムッツリーニは少し黙考してからシャルロットに視線を向けて
「……そういえば、EUはユーラシア連合によって併合されたが、お父上は?」
ムッツリーニが問い掛けると、シャルロットは首を振って
「デュノア社諸共、燃えたって聞いた……」
と呟くように言った
「……申し訳ない。聞くべきではなかった」
ムッツリーニがそう言うと、シャルロットは手を振って
「ううん、気にしないでいいよ」
と言った
すると、ムッツリーニがどこからともなく、数枚の写真を取り出して
「……お詫びとして、これを」
と言って、シャルロットに手渡した
「ん? ……わっ!?」
「ん? ……ちょっ!?」
シャルロットが驚いた事を不思議に思い、写真を覗き込んだ一夏も固まった
なぜならば、そこに写っていたのはパイロットスーツに着替えている途中の一夏だったからだ
「おまっ!? 何時の間に!?」
「……たまたま、撮影できた」
一夏がガクガクと揺さぶると、ムッツリーニは明後日の方向を見ながらそう言った
ちなみに真実を述べると、撮影したのはムッツリーニが仕掛けた小型カメラである
ムッツリーニは色んな所に小型カメラを仕掛けており、それが撮影した写真を売買しているのだ
シャルロットに渡したのは、その極一部である
そして、ムッツリーニはなんとか脱出するとすれ違い様にシャルロットの耳元で
「……貴女の恋路、応援してます」
と言うと、脱兎の如く駆け出した
「まて、こら!! あと何枚ある!? 全部出せ!!」
逃げ出したムッツリーニを一夏が追いかけると、シャルロットは写真をポケットにしまい込んで
「ありがとうね……僕、頑張るよ!」
と嬉しそうに言った
こうして、お別れ会兼訓練お疲れ様パーティーは過ぎていったのだった